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俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
三年生編・last☆stage後半
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雨の日×洗濯物

 時が経つのは早いもので、既に高校生になってから三度目の6月へと突入していた。

 去年の6月は花嫁選抜コンテストがあったりして忙しく感じていた月だったけど、今年はどうやらそんな突発的イベントはなさそうだ。まあ、あんな突発的イベントが毎回のようにあるわけはないんだけどな。

 しかしそんなことは百も承知しているのだけど、心のどこかで去年のような楽しいイベントでも起きないものかと思っていたのも事実。

 そろそろ梅雨入りでもするのかな――と言ったような穏やかな雨が降る昼下がりの風景が部屋の開いている窓の外に見えるのを眺めつつそんなことを思い、本棚から無作為に1冊の漫画を取り出してからベッドへと大きく寝そべる。

 雨は嫌いじゃない。もちろん時と場合にはよるけど、それでも穏やかに降る雨音や雨の匂いを感じると心落ち着くものがある。

 そんな雨音と匂いを感じつつ、手に取った漫画を開いてゆっくりと内容を読み進めていく。

 何度となく読んだ本も改めて見直すと新しい発見があったり、初めて見た時とは違った解釈で物語を見れたりして面白い。本当に物語というのは読み進める者の知識や心情次第で色々と変化を見せる。言ってみればそれが物語を見ていく上での楽しみとも言えるのだろう。

 今こうして読み開いている漫画でさえ、きっと10年後には違った見方になっているんだと思う。そう思うとまたそれが楽しみに思えてくるから不思議だ。

 そんな少し心地良い気分に浸っていると、階段を上り廊下をパタパタとスリッパを履いて歩く音が近づいて来る。その足音を聞いて嫌な予感がしたけど、歩いて来る人物に気づかれないように二階のこの部屋から逃れる術はない。


「お兄ちゃーん。また洗濯物が全然乾いてなくて次の洗濯物ができないよー」


 近づいて来た足音が部屋の前でピタリと止まると、我が妹の困ったと言った感じの声音が聞こえてきた。

 なんとなくそんなことかな――と予想はしていたけど、こういった時の予感だけは大いに外れてほしいもんだ。


「はあっ……分かったよ。ちょっくらコインランドリーに行って乾かしてくるから、乾いてない洗濯物をカゴに入れておいてくれ」

「うん、分かったよ。それじゃあお願いするねー」

「はいよ~」


 再びパタパタとスリッパの音を立てながら一階へと下りて行く杏子。その足音が聞こえなくなってしばらくしてから身体を起こし、ベッドから下りて部屋着から外行きの服へと着替えを始める。

 まだ梅雨入りしたわけでもないというのに、ここ数日はずっと雨が降り続いていた。

 2日程度なら大した影響もないのだけど、さすがに雨が数日も続くとその影響は様々な部分に及んでくる。こと一般家庭において長雨は洗濯物に甚大な影響を及ぼすから困ったものだ。これから本格的に梅雨入りすることを思うと、この先のお洗濯物事情に頭が痛くなってくる。

 まるで一般家庭の主婦のような悩みを思いながら着替えを済ませたあと、杏子が用意していた洗濯物カゴに大きなビニールを被せてから自宅を出た。

 大きな幅の広い傘を差しながらコインランドリーへと向かう途中、チラリと空を仰ぎ見た。空には大きく厚い雨雲が広がり、その上にある太陽の光をこれでもかと言うくらいに遮っている。


「こりゃあ明日も雨だな……」


 見上げた空から視線を戻したあと、自然にそんな言葉が口から漏れ出た。

 雨は嫌いじゃないけど、少しくらいは晴れ間が見たいものだと感じているのも事実だ。あまり雨が長引くと、俺のコインランドリーへの出張が増えていくばかりだからな――。




「ありゃー、さすがに人が多いな」


 コインランドリーへ着くと中には洗濯物を洗い終わるのを待っている人、洗濯物が乾くのを待っている人がたくさん居た。

 さすがにこの長雨だとコインランドリーを利用する人も増えるのは当たり前かと思いつつ、乾燥機の空いている場所はないかと探し始める。

 しかしどの乾燥機も使用されているようで、中では大量の洗濯物がクルクルと回っていた。


「はあっ、これはしばらく待つしかないな……」


 諦めの溜息を漏らしつつ、空いている椅子の横にカゴを置いてから座り、乾燥機が空くのをじっと待つことにした。

 連日の雨模様のせいだろうけど、みんなそれぞれに持って来ている洗濯物の量は多い。それが証拠に乾燥機が止まって中の洗濯物を取り出しても新たに別の洗濯物を入れる人がとても多く、乾燥機が空くのはまだしばらくかかりそうだったからだ。


「――ほおー、最近はこんなことも出来るようになってきてるのか……すげえな」


 椅子に座って暇つぶしにスマホでニュースサイトを見ていると、一つの話題がとても目を引いてその内容を読んでいた。その内容とは、“VRバーチャルリアリティで二次元嫁の胸を揉める”――という見出しの内容だった。

 これが一般に流通するようになれば、二次元世界を愛して止まない人々はきっと歓喜の雄叫びを上げることだろう。もちろんその中には俺という存在も含まれているわけだから、早いところそのVRを実現して欲しいもんだ。

 それにしても、こういう記事を見ていると世の技術の発展というのは実に目覚しいものだと感じる。

 そういえば中学生時代の友達が、『科学は戦争により進化し、技術はエロによって昇華するんだよ』――と言っていたのを思い出したが、今思うとその言葉が至言のように感じてしまう。


「あれっ? 龍之介くん?」

「へっ?」


 横を通り過ぎようとした人物から名前を呼ばれて思わずその方向へ顔を上げると、そこにはカゴいっぱいに洗濯物を詰め込んだ陽子さんの姿があった。


「あれっ、陽子さんがなんでこんな所に?」

「ほら、連日こんな天気だから下宿先のみんなの洗濯物が乾かなくて困ってて、それでみんなで手分けしてコインランドリーを回ってるの。その方が効率がいいから」


 たくさんの洗濯物が詰め込まれたカゴを俺が持って来ていたカゴの隣に置くと、陽子さんは空いている椅子を引き寄せてから人1人分ほどの間を空けて座った。

 それにしても凄い洗濯物の量だけど、下宿先に居る人の数はそんなに多いのだろうか。


「ねえ陽子さん、下宿先ってどれくらいの人が住んでるの?」

「下宿先に住んでいる人の数? えーっと――」


 俺がした質問に対し、陽子さんは両手の指を一つ一つ折りながら人数の確認を始めた。

 以前に陽子さんから“二階建てのアパート”だという話は聞いていたのでそんなに住居人数は多くはないと思うけど、それにしたって手分けしなければいけないほどの洗濯物の量が出ると言うのはそれなりに疑問に感じる。

 まあ陽子さんを含めた他のみんなが洗濯物を何日分も溜めていたということなら話は別だが……。女子に対してある種の幻想を抱いている俺としては、そんなことが理由だとは思いたくない。


「――私を含めて住居者は16人かな」

「へえ、案外人数が居るんだね」

「私の住むアパートは一階と二階で4部屋あって、1部屋に2人でルームシェアをしてるの」

「ああー、なるほどね。それならその洗濯物の量も納得だよ。そんだけ人数が居たら2日分でも大変だろうからね」

「あっ、ううん、この洗濯物は1日分なの」

「えっ!? 1日でそんな量の洗濯物がでるの?」


 これはちょっと驚いた。人数的には理解できる分量の洗濯物だと思っていたけど、まさかそれが1日分の量だとは思ってもいなかった。


「うん。演劇の練習をしてると凄く汗をかいちゃうから、みんなタオルや着替えを何着か持って来てるの。だから1日にでる洗濯物も凄い量になっちゃうんだよね」

「あー、そういうことなんだ。納得したよ」


 去年の夏休みにほんの少しの間だけ陽子さんのお願いで桜花おうか高校総合演劇科の手伝いに行ったけど、あの熱が入った練習を見ていると確かに着替えがいくつあっても足りないように思える。


「おかげで洗剤とかの料金が凄くかかっちゃって困ってるんだよね」

「ははっ、確かにこれは凄くお金がかかりそうだよね」


 こうして乾燥機が空くまでの間、俺は陽子さんと他愛ない会話を交わしていた。

 なんてことはない日常のワンシーンだけど、この時の俺はまさかあとであんなことが起こるなんて思ってもいなかった。

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