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俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
三年生編・last☆stage後半
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妹の気持ち×兄の気持ち

「今日はどうだ?」

「うーん……今日はよく分かんなかったけど、駅前通にそれっぽい人が居た気がする」

「そっか」


 妹の杏子に腕を組まれながら学園への通学路を歩く中、俺は辺りを警戒しつつそんなことをいつものように尋ねる。すると杏子も同じく辺りを警戒するようにしながらこそこそっとそんなことを口にした。

 こんなやり取りや行動をし始めてからはや4日目。なぜ俺が杏子に腕を組まれながら歩いているのかと言うと、4日前に杏子からされた『恋人になってほしい』――と言う頼み事が原因でこうなっているわけだ。

 もちろん杏子の言っている『恋人になってほしい』というのは本気の言葉ではなく、正確に言えば“俺に恋人のフリをして欲しい”――と言うことになるわけだが……しかしまあなんと言うか、正直俺はこの行動に対して結構な疑問を抱いている。

 それはなぜかと言えば、こうして妹に腕を組まれて恋人の真似事をすることになった原因でもある出来事に関係しているわけだが、それをもし他人に分かりやすく簡潔に伝えるとしたら、妹がストーカーにあっているからと言うのが分かりやすい理由だろう。

 しかしストーカーという言葉を使うほど直接的な被害を杏子が受けたわけではないし、そういった意味では被害というものは一切受けていないことになる。まあ端的に言うなら学園祭の時に他校の男子生徒に一目惚れをされた杏子が、その男子生徒に言い寄られて困っている――だからその相手を諦めさせるためにこのような恋人の真似事をしてその相手に見せつけている――と言う訳だ。

 その男子生徒は通学途中にある最寄駅前で登校と下校の時間に杏子を待って話しかけ、猛烈なアプローチをかけていたらしい。

 杏子はその男子生徒に対してしっかりとお断りをしたらしいのだけど、それでも諦めずに言い寄って来た相手と何度目かのやり取りをしていた最中、その相手から『恋人とか居ないんだよね?』――と言われた杏子が、苦し紛れに『つい最近好きな人とつき合い始めた』――と言ったことがこのような恋人の真似事を始めざるを得なかった理由になる。

 この件に関しての相談を杏子からされた時、俺は最も素早く解決する手段として『俺からその男子生徒にちゃんと言ってやろうか?』と提案したわけが、それは杏子の『お兄ちゃんが暴走したら嫌だから』と言う理由で却下されてしまった。

 もちろん俺はその相手に対してなにか危害を加えるつもりでそういう提案をしたわけじゃない。ただ二度と俺の大事な妹である杏子を困らせないように、最大級の威嚇と威圧を与えておくだけのつもりだったんだ。しかしまあ、当事者である杏子がNGを出した以上は仕方がないけど、俺は今でもその提案が確実で手早く解決できた方法だと思っている。

 ちなみに俺が妹との恋人の真似事を引き受けた最大の理由は、『お兄ちゃんが引き受けてくれないなら、他の男子に頼むんだからねっ!』と言われたことが原因だ。

 こう言ってはなんだが、他の男子に恋人の真似事を頼むのは新たな火種を生む可能性もある。杏子はこれでかなり可愛い方だし、真似事とは言え恋人のフリをしていたら、今度はその相手が杏子に対して恋愛感情を抱いてしまいかねないからそれでは意味がない。

 そしてなにより、杏子をどこの誰とも知らない馬の骨に任せるなんぞできるわけがないっ! 以上の理由から兄である俺がしっかりと解決まで導こうと決めたわけだ。

 ちなみに腕を組んで歩くのはその男子生徒が見ていると思われる駅前から少し進んだ辺りまでの区間だけだ。それ以上ははっきり言って腕組をする意味はない訳だが、杏子は『別に学園まで腕組しててもいいじゃない』――と、毎回腕組を解除する度に拗ねたようにそんなことを言うから困ってしまう。


「――それじゃあまた放課後にな」

「うん。ありがとね、お兄ちゃん」

「――腕を組んで登校なんて、杏子ちゃんとは本当に仲良くやってるみたいだね」


 学園の下駄箱の前で杏子と別れてから上履きがある靴箱へと向かい靴を履き替えていると、後ろからちょっとした悪戯心を含んだような感じの明るいるーちゃんの声音が聞こえてきた。

 これまでの4日間で茜やまひろ、美月さんや桐生さん、愛紗やるーちゃんに見つからないと思われる時間を選んで登校してたんだけど、どうやらついに見つかってしまったらしい。

 本当なら誰にも心配をかけたくないから誰にも知られたくはないんだが、目的の男子生徒だけに俺たちの姿を見せ、他の人たちにはまったく姿を見せずに学園へと向かうのは土台不可能な話。

 だけどせめて制作研究部に所属しているみんなにだけは、解決するまで知られたくはなかった。


「最近世間では妹と腕を組んで登下校をするのが流行ってるっていうから、その流れに俺たちも乗っかってみたんだよ」

「えっ!? そんなのが今流行ってるの? そんなの全然聞いたことないんだけどなあ……」


 これでもかと言うくらいに分かりやすい嘘をついたつもりだったけど、るーちゃんはこちらが思ってもみなかったような反応を返してきた。

 しかしまあ、昔からこういった素直な部分があるのは垣間見ていたので、こういうありえそうにない話でも信じてしまいそうな感じなのがるーちゃんなんだよなーと、思わず笑みを浮かべてしまう。


「あーっ、今の話嘘でしょ」

「えっ? どうして?」

「だってたっくん笑ってたし、嘘をついてる時の表情をしてたもん」


 どうやら俺がるーちゃんの素直な部分を知っているのと同じように、るーちゃんも俺のことは分かっているらしい。

 それにしても、俺が嘘をついている時ってどんな表情をしているんだろうか……今後の人生のためにも、あとでるーちゃんにそのへんのことをじっくり聞いておかないとな。


「ごめんごめん、今の話は確かに嘘だよ。実は今ちょっとした事情があって杏子とあんなことをしてるんだ」

「事情って……なにか深刻なこと?」


 俺のついた嘘について糾弾するわけでもなく、るーちゃんは凄く心配そうな表情を浮かべながら恐る恐ると言った感じでそう尋ねてくる。

 変に嘘をつくよりはいいと思って素直に話したけど、正直るーちゃんがこんな感じの反応を見せるだろうことは予想できていた。いや……この場合正確に言えばるーちゃんがどうとか言うより、相手が例え茜だろうと愛紗だろうと、制作研究部のメンバーなら同じような反応をしていただろうと言うべきだろうか。


「いやまあ、なんと言っていいやら……」


 とりわけ内緒にしておくような内容ではないのかもしれないけど、それでも素直にその内容を話していいものかは考えてしまう。

 なぜなら素直に今の状況を説明すれば、ほぼ間違いなくるーちゃんは協力をすると申し出てくるだろうし、そうなれば要らぬ厄介ごとにるーちゃんを巻き込んでしまう可能性だって出てくるわけだ。それははっきり言って本意ではないし、そんなことになっては非常に困る。

 だけどそうは思いながらも、俺はるーちゃんに事の顛末てんまつを話してみようかと考えていた。

 もしも今目の前に居る相手がるーちゃん以外の誰かだったら、俺はきっとこんなことを考えることはなかっただろう。そう思うほどにるーちゃんには話して意見を聞いてみたいと思う要素があるのだ。


「もしも話しにくいことだったら私も無理に聞いたりはしないけど……」

「いや、ちょうどいい機会だからちょっと相談に乗ってくれないかな? それと他のみんなにはこのことを内緒にしてほしいんだけどいい?」

「う、うんっ! たっくんがそう言うなら私は誰にもなにも言わないから、安心して相談して!」


 その言葉を聞いたるーちゃんはほんの数秒前まで見せていた心配そうな表情から一転、溢れんばかりの笑顔を見せながら俺との距離を勢い良くグイッと縮めて来た。

 そんなるーちゃんの勢いに、思わず身体を仰け反らしてしまいそうになる。


「あ、ありがとう、るーちゃん。それじゃあ教室に荷物を置いたら誰も居ない所で軽く内容を話したいんだけどいいかな?」

「う、うん……私は大丈夫だよ……」


 ほんのりと上気したように顔が紅くなっているるーちゃん。そんなるーちゃんの様子を見てどうかしたのだろうかと思いつつも、考えたところでそれが分かるわけもないので、今は気にしないでおこうと思いながらるーちゃんと一緒に教室へと向かった。

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