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俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
三年生編・last☆stage後半
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幼き日の約束×霞の中の記憶

 じいちゃんたちの住む田舎へと来てから早くも1週間が経った。こちらへ来た日に友達になったみっちゃんとは、あれから毎日公園で待ち合わせをして遊んでいた。

 初日に遊んだ沢で水遊びをしたり、見知らぬ場所を冒険したり、たまたま見つけた駄菓子屋でお菓子を買って一緒に食べたりと、とても楽しい日々を送っている。

 そして8日目の朝を迎えた今日。俺は緊張の面持ちでいつもの公園のベンチに座り、みっちゃんがやって来るのを待っていた。なぜ知り合ってから8日も経っているのに今更緊張しているのかと言うと、昨日別れる前に『明日は家でゲームでもしない?』と誘っていたから。

 その時は別に意識して誘ったわけじゃなかったけど、家に帰ってからふと“茜以外の女の子を家に誘うのって初めてだな”――と思った瞬間、なんだかとても気恥ずかしくなっていまい、そのままずっと緊張しっぱなしと言うわけだ。

 茜の家に行く時も、茜が俺の家に来る時も緊張なんてしたこともなかったのに、なんでその相手がみっちゃんに変わっただけでこんなに緊張してしまうのだろうかと、俺自身がとても不思議に思っていた。

 まあ簡単に言えばあの頃は異性というものを意識し始めた時だったから、とても可愛らしいみっちゃんに対してある種の恋心的なときめきを感じていたのかもしれない。

 出会って1週間程度で恋心と言うのもどうかとは思うけど、世の中には一目惚れという言葉もあるのだから、1週間で恋心を抱いたっておかしくはないだろう。


「龍之介くん!」


 目まぐるしく色々なことをベンチに座って考えていると、明るく可愛らしい声で名前が呼ばれるのが聞こえてはっとする。


「み、みっちゃん! おはよう!」


 緊張していた原因の相手が現れ、思わず上ずった声が出てしまう。我ながら情けないものだ。


「おはよう、龍之介くん。ふあ~」


 挨拶を返してきたみっちゃんが途端に大きな欠伸を出したかと思うと、じわっとにじむように出てきた涙を手で拭ってから眠そうに目を擦った。


「眠いの?」

「うん、ちょっとだけ。龍之介くんの家に行くのが楽しみでちょっと眠れなかったから」

「僕も――あ、いや、そうなんだね」


 目を擦ったあとで小さな笑みを浮かべて可愛らしくそう言うみっちゃんに釣られ、思わず『僕もみっちゃんが来るのが楽しみで眠れなかったんだ』――などと言ってしまいそうだったけど、なんとかそれを止めることができた。別に言ったっていいんだろうけど、やっぱりそれは恥ずかしい。

 そんな気持ち一つを考えても、やはりこの時の俺はみっちゃんに対して恋心を抱いていたんだろうなと思える。


「じゃあ行こうか」

「うん!」


 嬉しそうに返事をすると、みっちゃんがスッと右手を差し出してきた。

 少し躊躇ちゅうちょしながらも差し出された右手をそっと握り、みっちゃんの顔を見ないようにしながら一歩先を歩き始める――。




 じいちゃんたちの家でゲームをやり始めてから約1時間。ゲームをするのが初めてだというみっちゃんのために、比較的簡単なシューティングゲームで一緒に遊んでいた。


「ああー、またやられちゃった……」


 おおよそ数十回目になる撃墜で口をとがらせるみっちゃん。

 同時プレイで進んで行くシューティングゲームだからある程度のフォローはできるけど、それでも敵の弾幕を避けるのは本人だからそこはどうしようもない。まあ俺が操る自機がバリアーをまとっている時はかばってあげることもできるけど、それにも限界はある。


「でもだいぶ慣れてきたみたいだね。どんどん上手になってきてるよ」

「本当? このまま続けたら龍之介くんみたいに上手になるかな?」

「うん。僕が上手になるように特訓してあげるから大丈夫だよ! 僕は毎日ハードモードで鍛えてたからね!」

「はーどもーど?」

「簡単に言うと凄く難しいってことだよ。今みっちゃんとしているモードはイージーモードで、一番簡単なんだ」

「へえー、そんなのがあるんだね。それじゃあ私も龍之介くんと一緒にはーどもーどができるように頑張るね」

「うん!」


 それから俺が実家へと帰るまでの間、みっちゃんとはずっとゲーム三昧の日々を送った。その毎日は本当に楽しく、俺は辛いことや寂しいことなんかをすべて忘れて遊んでいた。

 そしていよいよ実家へと帰る日、俺は寂しく思いながらも公園で待っているみっちゃんに会いに行った。


「――みっちゃん、今日までありがとうね。凄く楽しかったよ……」

「うん……私も凄く楽しかった」


 そう言うと少しの沈黙が辺りを包んだ。お互いにそれ以上の言葉がないと言った感じだった。


「またこっちに来たら一緒に遊ぼうよ、みっちゃん」

「うん……そうだね……」


 にこっと微笑みながらも、みっちゃんはどこか寂しそうに見えた。

 その寂しそうな微笑みの意味するものは分からなかったけど、この時の俺はまたみっちゃんに会えると思っていた。


「そうだみっちゃん、もうすぐ誕生日だって言ってたでしょ? これ、僕からのプレゼントだよ」


 俺は手に持っている可愛らしいピンク色の包み紙をみっちゃんの前へと差し出した。本当なら誕生日ケーキも買ってあげられたらいいんだろうけど、小学生のお小遣い程度でそこまでするのはとても厳しい。


「いいの?」

「もちろん! みっちゃんのために買ったんだからさ!」

「開けていいかな?」

「うん、いいよ。でも大した物じゃないからあまり期待しないでね」


 謙遜けんそんでもなんでもないのだけど、みっちゃんはそれでも嬉しそうな微笑を浮かべたまま丁寧にゆっくりと包み紙を開いていく。


「――わー、可愛い~。本当に貰ってもいいの?」


 包み紙の中にある猫のイラストが描かれた白いハンカチを取り出すと、みっちゃんはその表情をもっとほころばせてながら明るい声を上げる。

 最後に沢へ遊びに行った時、みっちゃんは持っていたハンカチをどこかで落としてなくしてしまっていたようだったから、プレゼントにはちょうどいいと思っていた。


「うん。僕のお小遣いじゃそれくらいしかプレゼントできないけどね」

「ううん、とっても嬉しい。ありがとう、龍之介くん。ずっと大事にするね」


 プレゼントしたハンカチを大事そうに両手で抱き包むみっちゃん。値段的には500円くらいの物だけど、ここまで喜んでもらえるととても嬉しい。


「……じゃあみっちゃん、僕はそろそろ行かないといけないから」

「そっか……」


 今までの嬉しそうな表情から一転、みっちゃんは凄く寂しそうに顔を俯かせた。

 そんなみっちゃんを見ていると、俺も暗く気分が沈んでくる。


「――じゃあ行くね。今日までありがとう」

「うん……ねえ龍之介くん。もしまた私と会うことがあったら、一緒にゲームで遊んでくれる?」

「もちろん!」

「ありがとう、じゃあ私も頑張ってゲームが上手になるね。それでね……もし再会した時に龍之介くんにゲームで勝てたら、私とずっと一緒に居てくれないかな……」

「ずっと一緒に?」

「うん……ダメかな?」

「ううん、そんなことないよ。みっちゃんと遊ぶのは楽しいし、約束するよ」

「本当に?」

「うん!」


 こうして俺はみっちゃんと約束を交わした。子供の頃にはよくある、内容や意味を深くは考えたりしていない他愛ない約束だ。

 そしてみっちゃんとそんな約束を交わしたあと、俺は母さんと合流してから実家へと戻った。

 そういえばあのあとみっちゃんになにかを言われ、それに対して一言なにかを答えたような覚えがあるけど……その部分はかすみがかかったようになっていてどうしても思い出せなかった。


× × × ×


「――ちゃん! お兄ちゃんてばっ!」

「えっ?」


 ちょっと昔のことを思い出すのに集中していたからだろう。隣から聞こえてきた杏子の呼び声に思わずはっとしてしまった。


「どうした?」

「『どうした?』じゃないよお兄ちゃん。急にぼーっとしちゃって。どうしたのか聞きたいのは私の方だよ」

「そうだったか? 悪い悪い――あっ……」


 杏子に対して平謝りをしながら何気なく前方を見た時、視界に白のワンピースを着た髪の長い人物の姿が映り、心臓がトクン――と跳ねたのが分かった。

 そしてその姿を見た俺は、自然とその人のもとへ向けて走り始めていた。

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