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俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
三年生編・last☆stage前半
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歓喜×妹

「くあーっ! やっと終わったー」


 制作研究部の第2回ミーティングから2日後の夜。

 ようやく茜と杏子が提出した資料を読み終えた俺は、椅子から立ち上がってベットに身を投げ出し、大きく身体を伸ばしながらその疲れを追い払っていた。

 茜と杏子が持って来た原案資料は驚くほど詳細にその内容が書かれていて、かなり読み応えがあった。

 それはもう、世界観からキャラクターの設定、関係性に至るまで事細かに書かれていて、どこにもケチのつけようがないほどに。

 しかも茜と杏子が提出した資料の世界観やキャラクターの関係性が結構似ていて、その二つを単純に組み合わせても、物語として成立させるのが難しくなさそうだったということに更に驚いた。別に茜と杏子が示し合わせて原案を作ったわけじゃないだろうけど、これには本当にビックリだ。

 そんな事実にプラスして、俺には一つ気になる点があった。

 それは茜や杏子だけではなく、まひろや愛紗、るーちゃんに至るまでの全員の原案に、どこかで見たことがあるような――いや、正確に言うとこんなことを体験した――というイベント内容が書かれていたことだ。

 もしも予想が外れていなければ、その内容のほとんどに俺は関係している。

 つまりこれを簡単に言うと、みんな現実で体験したことを脚色して書いているということだ。

 物語を作る上で、現実にあったことを参考にするのは至極正しいやり方だろう。それは小説なんかでもそうだし、テレビドラマやアニメなんかでもそうだと思う。

 いくらフィクションのゲーム作品とは言っても、それなりのリアリティも織り交ぜないと、プレイヤーの共感は得られない。

 展開される非現実の中に適度なリアリティを織り交ぜることが、プレイヤーに共感と精神浄化カタルシスを感じさせたりもするからだ。

 しかも俺たちが制作するのはファンタジー作品などではなく、恋愛シュミレーションゲームなのだから、そのへんはよりリアリティも追求したいところだしな。


「鳴沢くーん、晩御飯できたよー」

「あっ、はーい。すぐに行くね」

「りょうかーい」


 部屋の扉がコンコンと軽快に叩かれたあとに聞こえた桐生さんの言葉に答えると、パタパタとスリッパの音が遠ざかって行くのが聞こえた。

 俺はもう一度大きくベッドの上で伸びをしてから身体を起こし、ベッドの下へと足を下ろしてから、桐生さんに美月さん、そして杏子が待つリビングへと向かった――。




 一階へと下りてから洗面所で手を洗い、木製テーブルの席へ座ると、そのテーブルの上には杏子と美月さん、そして桐生さんが合作した美味しそうな料理の数々が並べられていた。


「「「「いただきます」」」」


 俺が席へと着いたことによりリビングには全員が揃い、いよいよ今日の晩御飯タイムが始まった。

 テーブルの上には和食洋食問わず、色とりどりの鮮やかで美味しそうな料理があるので、どれから箸を伸ばそうかと迷ってしまう。


「――そういえばお兄ちゃん、資料は全部読み終わったの?」

「ん? ああ、なんとか晩御飯前には読み終わったよ。内容がガチ過ぎて読み疲れたけどな」

「確かに茜さんと杏子ちゃんの資料の内容量は凄かったですからね」


 食事を進めていた箸を止め、美月さんが俺の言葉にそんな感想を口にする。

 何事にも天才肌な才能を見せる美月さんをして凄かったと言わしめる茜と杏子の資料は、本当に凄い分量と内容だったからな。


「本当にあれだけの物をよく書いたもんだよ」

「えへへ、凄いでしょ」


 別に褒めたわけではなかったのだが、杏子はなんとも嬉しそうな表情を浮かべている。

 人の発言をネガティブに捉えず、どこまでもポジティブに、良い方向に考えるのは杏子の美点とも言える特徴だと思う。

 これは非常に良いことではあるけど、時にそのポジティブさが邪魔をして、注意をしてもそれをなかなか理解してもらえないこともある。美点は時に欠点にもなり得るということだ。


「確かに凄かったけどさ。でもまあ、もう少しみんなが読む時のことを考えてほしかったかな。あんなに大量だと、読破するのに時間がかかってしょうがないし」

「えー!? でも、みんなあれくらいは書いてくると思ってたんだもん」


 俺が口にした言葉に今度はむくれた表情を浮かべ、そんなことを言う杏子。

 気持は分からなくもないけど、俺としてはみんながあれくらいの分量の資料を用意してくると考えていた杏子の思考が怖い。


「まあまあ、龍之介さん。確かに凄い分量ではありましたけど、あれだけ詳しく書いてきてくれたのはありがたいですよ。具体的な世界観やキャラクター設定があるのは助かりますから」


 美月さんが杏子のフォローと言わんばかりにそう言ったが、確かに作品を作るには、より詳しく綿密な内容の練り込みは欠かせないだろう。

 それを考えると、茜や杏子のようなタイプは作品作りにおいて非常に重要なのかもしれない。


「確かに美月さんの言うとおりではあるだろうね。と言うわけで杏子、これからも張り切って頑張ってくれ」

「うん! お兄ちゃんがそう言うなら私頑張る!」


 ふて腐れたような表情から一転、満面の笑顔を見せる杏子。本当にこういったところは扱いやすくて助かる。


「鳴沢くんは本当に杏子ちゃんと仲がいいね」

「そう? 普通だと思うけどなあ」

「そんなことないよ? 鳴沢くん。今の自分が置かれている環境が、他の人にとっての普通ってことはないんだから」

「どういうこと?」

「簡単に言うと、一般的に兄と妹がここまで仲が良いってことは珍しいってことだよ」


 俺は一般的な兄妹の関係性というのを詳しく知っているわけではない。もちろんテレビやらネットやらで見聞きする程度のことは知っているけど、むしろ俺には、テレビやネットに溢れている内容の方が信じられない気分ではあるのだ。

 だからと言ってそんな情報のすべてが嘘だとは思わないし、事実仲の良くない兄妹は居るとは思う。

 それでも俺は、兄妹ってのは本当は仲が良いものだと思っている内の1人だ。


「俺と杏子ってそんなに仲良く見える?」

「見える見える! まるで私とお兄ちゃんみたいだもん」


 そういえば桐生さんは、歳の離れたお兄さんが居るって言ってたな。

 それにしても、俺と杏子の仲の良さを自分とそのお兄さんで例えるとは、桐生さんはどんだけお兄さんが好きなんだ。


「確かに明日香さんとお兄さんは、とっても仲がいいですよね」

「えっ? 美月さんは桐生さんのお兄さんに会ったことがあるの?」

「はい。明日香さんとお友達になってから、何度かお会いしたことはありましたけど、本当に龍之介さんと杏子ちゃんみたいに仲が良くて羨ましいくらいでした」

「ねっ? 私の言ったとおりでしょ?」


 えっへん――と言った感じの誇らしげな表情を見せたあと、桐生さんはにこやかな笑顔を見せる。


「やったねお兄ちゃん! 私たちとっても仲良しに見えてるんだって!」


 桐生さんと美月さんの言葉に歓喜の声を上げたのは、他でもない杏子だった。

 まあ杏子ならこんな感じの反応をするとは思っていたけど、あまりにも予想どおり過ぎて面白みがない。


「まあ実感はないけど、仲が悪いって言われるよりはいいな」

「もう、お兄ちゃんは照れ屋さんだなあー。もっと素直に喜べばいいのに」


 隣の席から右肘で俺を小突いてくる杏子。

 杏子は本気で俺が照れてると思っているのだろうけど、現実は非情なもので、俺は杏子が見せている感情ほど喜んでいるわけではない。

 もちろん嬉しくないのかと言われれば嘘になる。

 だけど杏子との関係はこれが普通だと思っている俺にとって、仲良く見えると言われるのはちょっと違和感があった。特別仲良くしようとしていたわけでもないし、特別そんなことを考えていたわけでもないからだ。


「別に照れてねえよ。まあ、俺にとっては今の杏子との関係が普通だから、特別仲が良いとかの感覚が分からないんだよ」

「……お兄ちゃん! 私のこのおかずあげる!」

「えっ? あ、ああ、ありがとう」

「これもお兄ちゃん好きだったよね!」

「お、おう……」


 突然嬉しそうにしながら、俺の分のおかずが乗ったお皿に次々と好物の品を入れ始める杏子。

 いったいなにが起こったのかは分からないけど、とりあえずご機嫌がいいらしい。


「いやー、鳴沢くんは天然のジゴロだねえ」


 感心するようにそう言う桐生さんの顔が、ニヤニヤとにやけているのが不気味だ。そして天然ジゴロと言う言葉にも疑問を感じる。

 現実世界において、妹を攻略しようなんて兄貴が居るわけがないからだ。そんなことをしようとなんて思うのは、二次元に居る非常に可愛らしい妹たちだけだろうから。

 そんなことを思いながら、ご機嫌な様子で俺のおかず皿に食べ物を乗せてくる杏子を、俺はどうしたものかと苦笑いで見つめていた。

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