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俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
番外エピソード・涼風まひろ/まひる編
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存在×認識

 楽しみにしていた龍之介くんとのお母さんの誕生日プレゼント探し。

 朝早くに起きて準備を始めていた私は、途中で激しい眠気に襲われてそのまま意識を失ってしまった。そして次に目が覚めた時にはベッドの上に居て、窓の外に視線を移すと見える風景は夜のとばりに包まれていた。


「えっ!? もう夜!?」


 それを見た私の心は一瞬にして激しい焦りと動揺に包まれ、急いで上半身をベッドから起こした。

 だってその光景が意味するものは、私が龍之介くんとの約束をすっぽかしてしまった――ということだから。

 よりにもよって龍之介くんと約束をした日にこんなことになるなんて――と、私は今にも泣きだしてしまいそうだった。

 けれど私が不意に机の上に視線を向けた時、プレゼント用の包装がされた箱が置かれてあることに気づいた。その箱は確かに私が眠気に襲われる前まではなかった物。


「あれは……確か夢の中で龍之介くんと選んだ物と同じだ……」


 不思議なことに、なぜかその箱には見覚えがあった。

 そう、私は夢を見ていた。龍之介くんといつもよりも楽しく会話をしながら、今までの内で一番嬉しい1日を過ごした夢を。


「あれ? なんで私、このワンピースを着てるんだろう……」


 見覚えのあるプレゼントの箱を見つめたあと、私は自分のよそおいを見て更に驚いた。買った時に一度だけこの部屋で身につけた白のワンピースを着ていたからだ。

 でもあれは、あくまでも夢であって現実ではない。

 そのはずなのに、こうして夢の中で見た物が机の上にあって、夢の中で着ていたワンピースを現実の自分がこうして着ている。それはどこまでも不思議で、どこまでもおかしな出来事。

 私はそっとベッドから下り立ち、机の方へと向かう。


「これって……」


 机の上にあったプレゼント。それを目の当りにした時、私はそのプレゼントの下にえられるようにして置かれていた何枚かのルーズリーフに気がついた。

 それを手に取って見てみると、そこには私とは少し違う筆跡で文字が書かれていて、そこにはなんとも不可思議でおかしなことが書かれていた。


「――だ、誰がこんな物を書いたの……?」


 口にしたことへの答えは既にルーズリーフに書かれていた。その内容を要約するとこうなる。

 それは、“まひろお姉ちゃんの代わりに、龍之介さんとプレゼント選びに行きました。まひろお姉ちゃんの買ったワンピースを、龍之介さんが褒めてくれました”――など、私が夢の中で体験した出来事とほぼ同じような内容が書かれていた。

 だけどそれを信じられなかった私は、思わずそんなことを口にしてしまった。だって私には、“妹なんて居ない”んだから。

 けれど書かれていた内容のすべてが嘘だとも思えなかった私は、何度もその手紙を見返していた。

 私の知らない誰かが、私の知らない内になにかをしていたというのは単純に不気味で怖いと思う。

 だけど手紙の内容はとても細かく書かれていて、その端々には私を気遣う言葉や、申し訳なく思う気持ちがつづられていた。そんな内容の手紙には、一片の悪意すらも見えない。

 それに私自身、最近自分に異変が起きていることには気づいている。あの突然やってくるようになった激しい眠気もその一つ。

 そしてなにより、手紙に書かれていた“もう1人の私”――という一文が、私の中にあった考えられる可能性の一つをより確かなものへと変えていたのもあった。

 可能性――“もう1人の私”という言葉の意味が示すもの。その答えはきっと、“多重人格”。

 仮にこの予想が正解だとすれば、色々と辻褄つじつまの合うことは多い。

 考え方としてはかなり突飛とっぴでおかしいかもしれないけれど、私が長年抱えているストレスや望みを考えると、私の中にそれを実現しよう、体現しようとする別の自分が現れてもおかしくはないと思えてしまう。

 そう自然に考えてしまえるほどに、私は今までの自分に対する後悔を抱えているから。


「――うん……」


 しばらくして私は意を決して椅子に座り、机の引き出しから同じルーズリーフを何枚か取り出してから、自分の中に居るらしいもう1人の自分、“涼風まひる”へ向けての手紙を残すことにした。

 現実にこうしてお母さんへのプレゼントが机の上にある以上、私が見ていた夢は夢ではなく、涼風まひるという私の中に生まれた妹が、勇気が出ない私に変わって私の望みを体現してくれたということ。

 信じられないような出来事ではあるけど、現実はここにある。それならその現実から目を背けることはできない。

 この現実に目を背けるということは、また自分へ対して嘘をつくということだから。それだけはもうしたくなかった。もうこれ以上、自分に嘘をつきたくなかった。

 強くそう思った私は机の上にあるペン立てから1本のペンを取り、そこに今の自分の思いを書きつづった。

 自分の中に居るもう1人の自分とは言っても、それもやはり自分であることには変わりない。言うならこれは、自分へとてた手紙のようなものかもしれない。


「ふふっ」


 そんなことがなんとなくおかしかった私は、小さく微笑みながら私の中に居るという妹、涼風まひる宛の手紙を書き綴る。

 こうして突然その存在を知った妹の涼風まひると私の、奇妙な共同生活とやり取りが始まった。

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