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俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
二年生編・ラストエピソード
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偽りの終わり×ありのままの始まり

 17年間を生きてきた中で、一番考えて悩んでいたかもしれない。

 春休みの間はずっと、まひろとまひるちゃんのことを考えていたような気さえする。

 二年生の修了式の日以降、俺はまひろにもまひるちゃんにも会っていない。

 そして今日、短かった春休みも終わり、俺はいよいよ花嵐恋からんこえ学園の最上級生としての一歩を踏み出そうとしていた。


「えーっと、俺のクラスはと――」


 いつもどおりに花嵐恋学園へと向かった俺は、クラス分けが書かれた掲示板のある場所へと来ている。

 最初に来た時にはたくさんの生徒で賑わいを見せていて、まともにクラス分けを見ることができなかったけど、ようやく掲示板を見ている生徒の数も減り、じっくりと掲示板を見ることができるようになった。

 俺はAクラスからEクラスまでの振り分けがされた掲示板の内容を、Aクラスからじっくりと見ていく。


「――おっ、あったあった」


 自分のクラスを探し始めて早々、Bクラスに名前を見つけた俺は続けて同じクラスに誰が居るのかの確認を始めた。


 ――茜に美月さん、るーちゃんに秋野さん、おっ、今年は真柴も同じクラスか――げっ! 渡とは三年連続一緒かよ……腐れ縁てのは続くもんなんだな。


 そんな事を思いながら、見知った名前を探していく。


「――ないな」


 Bクラスの最後までを見終わった俺は、肝心な人物の名前がないことに落胆の溜息を吐いた。その名前は涼風まひろ。

 小学校二年生から今までの間、まひろとは別のクラスになった事は一度もない。

 奇跡的とさえ思える巡り合わせだが、俺はいつの間にかそれが当たり前の様にすら思っていた。そんなまひろの名前が同じクラスにない。それだけの事が俺には結構ショックだった。

 しかし、こればっかりはどうしようもない事なのは分かる。むしろ今までが異常だったと言えるくらいなんだから。

 俺はふうっと息を短く吐いた後、まひろがどのクラスになったのかを探し始めた。

 しかし、最後のEクラスまでを見終わっても、俺は涼風まひろの名前を見つける事はできなかった。


「……どういう事だ?」


 どこかで名前を見落としたのかと思った俺は、再びAクラスから順にまひろの名前を探し始めた。


 ――無い、無い、無いっ! なんでまひろの名前がどこにもないんだっ!?


 何度掲示板を往復して見ても、そこに涼風まひろの名前は無い。

 そして学園にホームルーム開始5分前を告げるチャイムが鳴り響いたのを聞いた俺は、とりあえず急いで自分が所属するBクラスへと向かった。


「あっ、龍ちゃん遅かったね」

「ああ、ちょっと色々あったからさ」


 茜への挨拶もまともにする事なく、いそいそと自分の席へと向かう。俺は溢れ出そうな動揺を隠そうと必死だった。

 さっきは単純に名前を見落としてしまっただけなんだと、そう言い聞かせていた。


「今年は龍ちゃん、まひろ君とクラスが離れちゃったね。今までで初めてじゃない?」

「まひろがどのクラスになったか見たのか!?」


 席に着いて鞄を机の横にある引っ掛け部分に掛けた後、そう話してきた茜に思わず前のめりになってそう聞いてしまった。


「う、ううん。でも、Bクラスには名前が無かったし、別のクラスのどこかになったのは確かだと思うけど」

「そ、そうだよな……」


 茜の言葉で同じクラスじゃないのは確定した。


 ――まひろとは別のクラスになってしまっただけなんだよ。うん、そうだ。クラスが別になってしまった――ただそれだけの事さ……。


 心の中でそう言いながら、自分の中にある妙な焦りを押さえ込もうとする。

 しかし、俺の中にある焦りや嫌な予感は一向に静まる気配を見せない。それと言うのもあの修了式の日、水族館で会って最後に言われた言葉が気になって仕方なかったからだ。

 静まらない気持ちを感じつつも必死に押さえ込んでいると、いつの間にか担任の先生が来てホームルームが始まろうとしていた。

 今年の担任も去年に続いて鷲崎わしざき先生のようだ。


「皆さん、おはようございます。さっそくホームルームを始めたいと思いますが、その前に保健の宮下先生から大切なお話があります」


 鷲崎先生はそう言うと教壇から横へと移動し、入って来た宮下先生に教壇をゆずる。


「三年生最初のホームルームにお邪魔をしてすまない。今日はみんなに大切な話があってこの場をお借りした」


 クラスのみんなに向かってそう言ったあと、宮下先生は軽く鷲崎先生とみんなに頭を下げてから続きの話を再開した。


「このクラスには二年生の時にCクラスだった者が多いと思う。そしてその時に一緒だったクラスメイトの涼風まひろだが、先日、花嵐恋学園を退学した」

「えっ!? まひろ君が!?」


 宮下先生の言葉に真っ先に反応したのは茜だった。

 そして驚きの声を上げた茜と同様、クラスメイトにも衝撃が走っていた。去年同じクラスに居た仲間はもちろん、そうじゃない人もさすがに驚いた表情を浮かべている。

 まひろは花嫁選抜コンテストの事もあってか、多くの人にその存在を認知されていたからだと思う。


「どういう事なんですか!? 宮下先生!」


 茜が大きな声を発して驚きを見せた後、俺は少し遅れて席から立ち上がり、宮下先生に対して大きな声でそう尋ねた。


「落ち着きたまえ、鳴沢。まだ話の途中だ」


 焦りを見せる俺に対し、宮下先生は至って冷静にそう言い放った。


「すみません……」


 妙な迫力を感じさせる宮下先生の物言いに、俺はすごすごと椅子へ座りなおした。


「あー、みんな驚いたかもしれないが、これも“彼女の決断”だ。そしてもう一つ、君達に伝える事がある」


 ――こんなにショッキングな事を聞かされたってのに、これ以上何を伝えるってんだ……。


 宮下先生はそう言うと教壇から離れ、教室の出入口の方へと向かって行く。

 そして出入口前でピタッと止まると、静かに扉を開いてから俺達の方を向いて一言こう言った。


「みんなと新しくクラスメイトになる人物を紹介する」

「あっ……」


 宮下先生の言葉の後に姿を見せた人物を見て、俺は思わず声が出た。

 見覚えのある美しい金髪に青い瞳をした女の子が、真新しい制服のスカートをひらめかせながら教室内へと入って来たからだ。

 その女の子は緊張の面持ちで教室へ入ると、ゆっくりと歩いて教壇へと立った。

 そしてまるで心を落ち着けるかの様にして息を吸って吐いてを繰り返した後、彼女は俺達クラスメイトを見据えて口を開いた。


「皆さん初めまして、私は涼風まひろと言います。これからよろしくお願いします!」


 そう言って彼女は大きく頭を下げる。

 そして教室内が驚きの沈黙に包まれる中、俺は複雑な思いは未だにあったけど、同時に激しく強い喜びと嬉しさを感じていた。





二年生編~fin~

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