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俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
二年生編・二学期後半&冬休み
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妹×妹

 今日は12月25日、クリスマス。毎年絶対に訪れる、人によって良くも悪くも特別な日。


「お兄ちゃん、そろそろ起きて下さい」

「う~ん、あと5分……」

「またですか? もう5回目ですよ?」

「これで最後にするから……」

「その言葉は3回目です。朝御飯もできまてますから、起きて下さい」


 そんな言葉が聞こえたかと思うと、布団の中にスッと温かみを帯びた柔らかななにかが入って来て、俺の背中と胸部を支えた。するとそのまま俺の上半身はゆっくりとその温かななにかに支えられて起こされた。


「あと5分くらい寝かせてくれよ、杏子……」

「もう、まだ寝ぼけてるんですか?」

「えっ?」


 起こされたことで少し不機嫌にそう言いながら目をこする。

 それにしても、杏子にしてはやたらに優しい起こし方だなと思って横を振り向くと、そこには杏子がいつも使っている猫のイラストが描かれた黄色のエプロンを身にまとい、少し困ったような表情を浮かべているまひるちゃんの姿があった。


「えっ!? な、なんでまひるちゃんがここに!?」

「やっぱりまだ寝ぼけてますね? 昨日お兄ちゃんが泊めてくれたんじゃないですか」

「俺が? まひるちゃんを家に泊めた?」

「はい。『夜も遅くて危ないから』――って言って、お兄ちゃんが泊まって行くように言ってくれたんですよ? 覚えてませんか?」


 まひるちゃんにそう言われ、俺は昨日のことを思い返してみた。

 そういえば昨日の夜、るーちゃんが帰ってしばらくしてからまひるちゃんがやって来たんだっけか。

 それで『こんな遅くにどうしたの?』って聞いたら、お母さんと喧嘩になったとかでリビングで色々と話を聞いている内に終電の時間が来て、それで危ないから泊まって行けばいいって言ったんだっけ……。


「――いや、覚えてる。確かに俺がそう言った」

「良かったです、ちゃんと覚えてくれてて。それじゃあ私はリビングに戻りますから、着替えたらすぐに下りて来て下さいね」


 まひるちゃんはにこっと笑顔でそう言うと、クルッと半回転して後ろを向いてから、なんだか楽しそうに部屋を出て行った。


「はあっ……もったいないことしたな」


 俺はと言えば、幼な妻のような格好のまひるちゃんに優しく起こされていたというのに、それに気づかずグダグダと寝入っていたことに後悔しながら大きな溜息を吐き出してから着替えを始めた――。




「待たせてごめんね」

「いえ、大丈夫です。それより、台所と冷蔵庫の中身を勝手に使ってごめんなさい」

「いやいや、謝ることないよ。むしろこんなにしっかりとした朝食を作ってくれたんだから、ありがたいくらいだよ」

「本当ですか? 良かった……」


 まひるちゃんは心底ほっとしたような感じで小さく息を漏らした。

 きっと泊めてくれたお礼とかで気を遣ってくれたんだと思うけど、逆に気を遣わせてしまったことに申し訳なさを感じてしまう。

 でもまあ、それはそれとして、こうして朝食を用意してくれたのは本当にありがたい。いつも朝食の準備はかったるくて面倒だからな。冬場は特に。


「それじゃあ、冷めない内にいただこうかな。いただきます!」


 俺は早速湯気が立ちのぼる味噌汁が入った椀へと手を伸ばし、口元へと近づけてからゆっくりと中の汁をすすり上げる。

 ほど良い感じのいりこの出汁だしと、味噌の豊かな風味が鼻と喉を通り抜け、冷えた身体を温めていく。

 なんだかこの味噌汁の味、前に花嫁選抜コンテストでまひろが作ってくれた味噌汁と似ている感じがする。

 そういえばまひろはお母さんに料理を習ったとか言ってたから、まひるちゃんも同じようにお母さんに料理を習っていたのかもしれない。だとすれば、まひろとまひるちゃんの料理が似たような感じになるのにも納得がいく。


「どうですか?」

「うん、凄く美味しいよ。いい塩梅あんばいだし、濃さもちょうどいいし」

「良かった」


 まひるちゃんは俺の言葉に小さく微笑むと、『いただきます』と言って手を合わせてから味噌汁の入ったお椀を持ってそれに口をつけた。

 それから一時の間、俺はまひるちゃんと穏やかに会話をしながら朝食を楽しんだ。


× × × ×


「やっぱり人が多いね」

「そうですね。やっぱりカップルが多いのはクリスマスだからでしょうか?」

「そうだろうねえ……」


 まひるちゃんの言葉を聞いてから、俺は苦々しい表情で周りに居るカップルたちを見る。

 朝食を済ませてから片づけをしたあと、俺はまひるちゃんと一緒に買い物をするために一駅先にある大型デパートへと訪れていた。

 それにしても、普段からこんな感じなのかもしれないけど、クリスマスということと、その浮ついた雰囲気のせいか、異様にカップルが多いように感じてしまう。

 毎年のごとく忌々《いまいま》しいことだが、今回はまひるちゃんが一緒なので目を瞑っておくとする。


「お兄ちゃん、まずはどこから見て回りましょうか?」

「うーん、プレゼントはどんな系統にする予定なの?」

「そうですね……私としては可愛い小物をプレゼントにしようかと思ってるんですけど」

「小物か、だとしたら――四階と五階のフロアを見て回ればいいかな」

「そうみたいですね。それじゃあ早速行きましょう」


 各階の案内板を見てから、俺はまひるちゃんと一緒にエスカレーターへと乗って目的のフロアへと向かった――。




「わあー、可愛い物がたくさんありますね」

「さすが小物専門店が多いフロアだね」


 四階フロアへと来た俺たちは、まずどの店に入ろうかと通路を歩きながら話していた。周りは専門フロアらしく、インテリア小物を取り扱う店からファンシーな小物を扱う店まで、多種多様なお店が立ち並んでいる。

 お店が取り扱う商品のラインナップにもよるけど、ファンシーな女の子向け商品を扱うお店は、男1人で入るにはハードルが高い。

 実際にその系統の商品を取り扱っているお店の中は、女性客ばかりで賑わっているからだ。


「お兄ちゃん、あのお店に行ってみませんか?」


 まひるちゃんが指差すお店に視線を向けると、今まで見て来た店の中で一番男が入りにくそうなファンシーな雰囲気の店を指差していた。


「あ、あの店に入るの? ちょっと恥ずかしいんだけど……」

「えっ? なんでですか?」

「いや、あのいかにも女の子向けですよ――って雰囲気がね」

「そうなんですか?」


 俺がまひるちゃんの提案に難色を示すと、まひるちゃんは瞳を閉じてから口元に手をあて、そのままなにかを考え込むかのように黙ってしまった。


「どうしたの?」

「――おにーいちゃん!」

「わわっ!?」


 俺がそう問いかけた途端、まひるちゃんは突然俺の左腕を両手で抱き包んできた。そんな突拍子もないまひるちゃんの行動に、俺は相当に焦ってしまった。

 まひろとは違ってわりと大胆なところがあるまひるちゃんには、時々こうしてビックリさせられることがある。


「これならお店に入っても恥ずかしくありませんよね?」

「ど、どういうこと?」

「だって、女の子以外ではカップルしかいませんし、だからこうしていれば、お兄ちゃんも恥ずかしくありませんよね?」


 名案だと言わんばかりに、頭を何度も縦に振ってそう言うまひるちゃん。

 確かに案としては正しいのかもしれないけど、こうして抱きつかれている俺がただ事ではない精神状況になってしまうとは思わないのだろうか……。とは言え、今日はまひるちゃんのお願いを聞いてこうしてデパートへと来たわけだから、そのまひるちゃんのお願いを聞かないと言うわけにはいかないだろう。


「分かった。それじゃあ店に入ろう」

「ありがとう、お兄ちゃん」


 満面の笑顔を浮かべながらお礼を言うまひるちゃん。その笑顔はどこまでも可愛らしく魅了的だ。

 まひるちゃんの両手に左腕を包まれたまま店内へ入ると、そのあまりにファンシーな雰囲気に思わず圧倒されてしまう。こんな場所、絶対に1人では入れないと確信しつつ、貴重なファンシーショップ体験をそれなりに楽しむ。

 そして10分ほど店内を見て回ったあと、まひるちゃんはお母さん用のプレゼントを買ってから店を出た。


「――あれ? お兄ちゃん?」

「おう杏子、どうしたんだこんな所で?」

「それはこっちのセリフだよ」


 ちょうど店を出た所で、偶然にも店の前を通りかかった杏子と遭遇した。

 そして杏子は俺の腕を抱き包んでいるまひるちゃんを見ながら、もの凄く怪訝そうな表情を浮かべて再び口を開いた。


「まひろさん? いや、でもスカート履いてるし、お兄ちゃんの腕を抱き包んでるし……誰?」


 抱き包まれている腕をじっと見ながら、いかにも不機嫌と言った感じの表情を見せる杏子。


「あの……私、涼風まひるって言います。今日は“お兄ちゃん”に買い物につき合ってもらってたんです」

「お兄ちゃん?」


 まひるちゃんが再び言葉を発すると、今度は敵意にも似た雰囲気を見せ始める我が妹。

 今思うと、杏子とまひるちゃんの本当の意味での初対面は、色々な意味で最悪だったと言えるのかもしれない。

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