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俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
番外エピソード・朝陽瑠奈編
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切ない想い×強い想い

 校舎裏に呼び出されて怪我をした翌日。私は病院に行って足の怪我を診てもらってから学校へと登校した。

 学校へ着くとちょうど1時間目の授業が終わったばかりのようで、廊下にはたくさんの生徒が居て楽しそうに友達と話をしている姿が目に入った。


「あっ……」


 そんな中、自分のクラスの廊下前で相沢さんと昨日の3人の女子と遭遇した。私は顔を俯かせながら、未だ痛みが残る左足を少し引きずるようにして横を通り過ぎて行く。

 そして4人の横を通り過ぎると、後ろから『自業自得だよね』という言葉が聞こえ、それと共に4人のクスクスと笑う声が聞こえてきた。

 私は悔しい気持ちを抑え込むようにして唇をギュッと強く閉じ、顔を伏せたまま教室に入ってから机の上に背負っていたランドセルを置く。


「おはよう、朝陽さん。包帯してるみたいだけど、足の具合は大丈夫なの?」


 椅子に座ってランドセルの中にある教科書やノートを机の中に入れていると、空いていた隣の席に鳴沢くんが戻って来てから小さく声をかけてきた。


「お、おはよう。ちゃんと診てもらったから大丈夫…………」

「そっか、あんまり無理しないようにね」

「うん」


 短くそう返事をすると、鳴沢くんは頬杖ほおづえをついてから窓の外をぼーっと眺め始める。

 そのあまりにもあっさりとした引き際に、私は少しだけ拍子抜けした。なぜかと言うと、前に大きな怪我をした時、私は放っておいて欲しいのに、男子から『なんで怪我をしたの?』――などと言った感じで原因の質問攻めを受けたことがあったから。

 だから今回の件も鳴沢くんから怪我をした原因の追求を受けると、私は当然のようにそう思っていた。でも放課後になって帰るまでの間、他の男子から理由を聞かれることはあっても、鳴沢くんから理由を聞かれることは一切なかった。

 それでもこの時の私は“たまたま聞かれなかっただけ”だと思い、その内に今までの男子と同じように鳴沢くんもしつこく原因を聞いてくるだろうと考えていた。けれど2日が経っても3日が経っても、鳴沢くんは怪我の原因について聞いてくることはなく、ただ怪我の具合だけを心配そうに聞いてくるくらい。

 私は怪我をした理由を鳴沢くんが聞いてこないことが不思議だった。だって助けてもらったあの時も、現れたタイミングを考えれば相沢さんたちの姿を見ていないはずはないし、あんな場所で足に怪我をすると言うのも不自然に思うのが普通だと思うから。

 それでも鳴沢くんは私になにも聞いてこなかった。そんなことがあったからかもしれないけど、私はいつの間にか鳴沢くんのことを気にかけてしまうようになっていた。

 私が足に怪我をしてから1週間、あれから私は鳴沢くんという人物を観察するようになった。それは単純に興味だったのかもしれない。

 でも、鳴沢くんは今まで私に接して来た男子とは少し違うのかもしれない――と、そんな風に感じていたのも事実。

 そしてそんな鳴沢くんの変化に気づいたのは、彼の観察を始めてから4日ほどが経った頃のことだった。鳴沢くんは授業中にぼーっと外を眺めている時間が増え、休み時間も誰と遊ぶわけでもなく、机の中から取り出したノートになにかを書き込んではしきりに悩んでいるような様子を見せるようになっていた。

 なにをノートに書き込んでいるのか気にはなったけど、その内容を見せてと言えるほど親しいわけでもないのでそれはできない。

 私はそんなもどかしさを感じつつも、なにをそんなに鳴沢くんを気にしてるんだろう――と、ふうっと短く大きな息を吐いて思考を冷静に戻す。

 しかしそれでも私の鳴沢くんへの興味はなくならず、それからも暇さえあれば彼を観察する日々が続いた――。




 鳴沢くんを観察する日々が始まってから2週間ほどが経った頃、私はまた現実の悪夢の中にいた。


「な、なんの用なの? こんな所まで連れて来て……」


 放課後の帰り道、私は相沢さんたちのグループに捕まって人気の少ない公園へと連れて来られていた。その人数は相沢さんを含めて7人。

 私は公園の片隅にあるトイレ裏の物陰に連れ込まれ、そこで7人に囲まれながら理不尽な責めを受けていた。


「――本当に何様のつもりなの? なんとか言いなさいよ」

「…………」


 何度目かになる同じ質問。私は恐怖のあまり口を開くこともできなくなっていた。

 実は先日にまた男子から告白を受け、私はそれを断った。そしてどうやらそのことが相沢さんたちの誰かに伝わったらしく、そのことで私はこうして責められている。

 それにしても、彼女たちの言うことはよく分からない。話を聞く限りは私がその告白を断ったことを責めているように聞こえるのだけど、『告白を受け入れれば良かったの?』――と恐る恐る尋ねると、『なに言ってんの? あんたなんかには勿体ないわよ』――と言われてしまった。

 こうなってくると、彼女たちがなに対してこんなに怒っているのかがさっぱり分からなくなる。告白の断り方だって以前のことがあるから、多少言葉を選んでから返答しているのに。


「黙ってないでなんとか言いなさいよっ!」

「えっ? 誰か居るの?」


 相沢さんが大きな声を出して私にそう言ってきた数秒後、聞き覚えのある声がトイレの開いた窓の内側から聞こえてきた。それを聞いた相沢さんたちは、逃げるようにその場を離れて行く。

 私は相沢さんたちが居なくなったことで身体の力が抜けてしまい、その場に力なく座り込んだ。


「あれ、朝陽さん? どうしたのこんな所で」


 地面にへたり込んでいた私のもとへやって来たのは鳴沢くんだった。


「大丈夫? 立てる?」


 鳴沢くんは心配そうな表情で私に手を差し伸べてくる。震える手で鳴沢くんの手を軽く握ると、彼は力強くその手を握ってから優しく私を立たせてくれた。

 私はようやく本当の意味で恐怖から解放されて安堵する。


「ありがとう……鳴沢くん」


 そして恐怖から解放されたのと同時に、私の瞳からは涙が溢れ出す。

 涙声でお礼を言う私を見た鳴沢くんは近くのベンチまで私を誘導してそのベンチに座らせると、持っていたポケットティッシュを差し出し、それからしばらくの間、鳴沢くんはなにも言わずに私の側でじっと待っていてくれた。


「――落ち着いた?」

「うん」

「そっか、良かった。じゃあ帰ろうか」

「ねえ、なんでなにも聞かないの?」


 ベンチから立ち上がった鳴沢くんに、私は思わずそんな質問を投げかけてしまった。

 その言葉に驚いたような表情を見せる鳴沢くんを見て、私はなんて馬鹿なことを聞いてしまったんだろうと後悔しつつも、彼はこの質問に対してどんな返答をするのだろうかと気になっていた。


「……誰にでも話したくないことはあるもんでしょ?」


 ほんの少しの沈黙のあと、鳴沢くんは苦笑いを浮かべながらそう言った。そしてその一言を聞いた時、私はなんとなく鳴沢くんが理由を聞いてこなかった理由が分かった気がした。

 鳴沢くんはきっと、なんで私が怪我をしたのか、なんでこんな場所にへたり込んでいたのか、なんとなく理由は分かっていたんだと思う。それでも彼はその理由を確かめようとしなかった。それは多分、私のことを気遣ってくれたから。


「ごめんなさい……変なことを聞いて」

「ううん、気にしないでいいよ。さあ、帰ろう」

「う、うん」


 にこやかな笑顔を浮かべる鳴沢くんが前へ進むのを見ながら、私はそれに続くようにして公園を出る。

 そんな彼を後ろから見ながら、私は今まで感じたことがないような気持ちの高揚を感じていた。


× × × ×


「たっくん、一緒に帰らない?」

「いいよ。日直の仕事を終わらせて行くから、るーちゃんは下駄箱で待ってて」

「うん、分かった」


 公園での出来事から約3ヶ月くらいが経った。

 あの日以来、私は少しずつだけどたっくんと話をするようになり、今では私の中で一番の友達になった。

 ちなみにたっくんていう呼び名は、龍之介りゅうのすけという名前を私が“たつのすけ”と読み間違えたのが切っ掛けで呼ぶようになったあだ名だ。理由はちょっと恥ずかしいけど、私だけが使える呼び名だと思うとなんとなく嬉しく感じる。


「そっか、妹さんとは上手くいきそうなんだね」

「うん。色々とあったけど、杏子とは仲良くやっていけそうだよ」


 学校からの帰り道、たっくんは妹さんのことで悩んでいた件が解決したことを伝えてくれた。たっくんの中の悩みが一つ解決して良かったと思う。

 あれから私たちは色々なことを話すようになった。内容は勉強の話とか昨日見たテレビの話とか、本当に他愛のないこと。そして最近ではお互いの悩みなんかもこうして話すようになり、私は軽くだけど家庭事情なんかも話したし、女子からのイジメを受けているという話もした。

 たっくんは私の話を真剣に聞いてくれたし、必要以上に私の心の中に踏み込んでは来なかった。

 私にはそれがとても嬉しく、そんな彼の存在がいつの間にか支えになっていた。

 そしてそんなたっくんへの想いが恋心へと変わるのに、そんなに時間はかからなかった。


「――また明日ね、るーちゃん」

「うん、また明日ね。たっくん」


 いつもの別れ道で別れ、自宅へと向かって行くたっくんの後姿をじっと見る。

 私はたっくんへの高揚する想いを持ちつつも、その想いを口に出すことはできないでいた。なぜなら最近は男子に告白される回数が増え、それを断る度に今度はあらぬ噂が女子たちの間で流れているのを知ったから。

 その噂とは、私に告白してきた男子のことを私が面白半分に周りに言いふらしている――という内容。

 最初こそ気にしないようにしていたけれど、段々と周りの私を見る目が変化してきていることに気づき、肩身の狭い思いをしていた。

 そしてその噂は加速度的に広まったようで、徐々に男子からも私は避けられるようになった。

 本当ならそんな噂は違うと言いたいところだけど、私は噂の流れを止めることにはある種の諦めを感じていた。多分私がどんなに噂はデタラメだと主張しても、みんなはきっと信じてくれないと思ったから。

 でもそんな諦めを感じてはいたけど、それでもたっくんにだけは誤解されたくなかった。たっくんにだけは嫌われたくなかった。私はそんな不安をいだきながらも、たっくんとの何気ない日常を大切に過ごしていた。

 たっくんは私についての噂を知っているのか知らないのか分からないけど――ううん……多分噂の広まり具合を考えると、少しは耳に入っていると思う。それでもたっくんは今までと変わらず私と接してくれている。それが本当に嬉しい。

 色々と不安なこともあったけど、この時の私はたっくんだけとは今の関係が続いて行くんだと、そう信じて疑わなかった。

 そして、たっくんと知り合ってから初めての夏休みを目前に控えたある日の事、私は人生で最大の悪夢に直面していた。


「やーい! 龍之介のフラレ虫ー!」

「「「アハハハハハハッ!」」」


 教室内に響く男子たちのたっくんを追い詰める言葉。私はその光景を前にして、血の気が引いた思いでいた。そしてなぜ、たっくんが私に告白してきたことをみんなが知っているんだろうと不思議に思った。

 つい先日、私はたっくんから好きだと告白された。とても嬉しかった。涙が出そうなほど嬉しかった。でも私はその告白を断った……。

 私へのイジメ行為が徐々に酷くなってきていたことを考えると、その告白を受け入れたらたっくんにもそのとばっちりがくるかもしれない――と、そう考えたから。

 本当ならちゃんとそのあたりの説明をするべきだったのかもしれないけど、私はその考えをたっくんに伝えることなく、『友達でいよう』――とだけ伝えた。たっくんに心配をかけたくはなかったからだ。

 そんな私に対し、たっくんは笑顔で『うん、るーちゃんがそう望むならそうするよ』――と言ってくれた。

 私はそれが嬉しかった。告白を断ればたっくんとの関係も崩れてしまうと覚悟していたけど、そんなことは全然なかった。

 本心を告げることができなかった酷い私に、たっくんは友達でいてくれると言ってくれた。だから私はその言葉に再び希望を持つことができた。今は自分の本当の気持ちを言えないけど、いつかきっと、たっくんに好きだと自分の口から言える日が来ると思っていたから。

 でも、その希望はもろくも打ち崩されてしまった……。


「あーあ、鳴沢くんかわいそ~」


 目の前で行われている行為を止めることもできず、絶望に満ちた心でたっくんの心が砕かれていく様を見ていることしかできなかった私の耳に、ふとそんな言葉が聞こえて横を振り向く。


「あ、相沢……さん?」

「本当に朝陽さんて酷いよね。あんなに仲良くしていた鳴沢くんの一生懸命な告白を断っちゃうんだから」

「えっ?」

「鳴沢くん言ってたじゃない。『俺はるーちゃんが本当に優しい子だって知ってる! だからそんなるーちゃんが好きなんだ!』って」


 そう言ってクスクスと笑う相沢さん。そんな相沢さんの言葉と態度を見聞きした私は、この状況が起こったのは相沢さんが原因なんだと理解した。


「……なんで? なんでこんな酷いことをするの?」

「酷い? 酷いのは告白を断った朝陽さんじゃないの? それとも本当は鳴沢くんのことが好きなの? だったらそう言えばいいじゃない。あー、でももし鳴沢くんとつき合ったりしたら、これまで朝陽さんに告白してきた男子たちに鳴沢くんが嫉妬されてイジメられちゃうかもね」


 底意地の悪い笑みを浮かべながら、相沢さんはそんなことを言う。


「で、どうなの? 鳴沢くんが好きなの?」


 相沢さんは弱った私をいたぶるようにしてそんな言葉を投げかけてくる。

 本当なら好きだと言いたい……でもそれを言うと、たっくんをもっと酷い目に遭わせてしまうかもしれない。そう思うと本心を口にすることはできなかった。


「そ、そんなことない…………私は鳴沢くんのこと、なんとも思ってないから……」


 心にもないことを口にしながら、瞳から涙が零れそうになるのを我慢する。ここで泣いてしまうと、本心を口にしてしまいそうだから。たっくんをこれ以上酷い目に遭わせないためにも、私は泣くわけにはいかない。


「そう。じゃあその証拠に、“龍之介くんかっこ悪~い。あれで私のことが好きだなんて”――って言ってみてよ。そしたら朝陽さんの言葉を信じてあげる」

「な、なんでそんなことを!?」

「言えないの? やっぱり鳴沢くんのことが好きなのね?」

「…………」


 その言葉に私は沈黙した。おそらくこれが相沢さんの用意した罠だということは分かる。

 私がその言葉を口にすれば、きっとそのままたっくんに伝わってしまうだろうし、そうなればきっと、私とたっくんは友達でもいられなくなってしまう。

 でもここで私がそう言わなければ、たっくんはもっと深く傷つけてしまうことになるかもしれない。だったらいっそのこと、私が悪者になることでたっくんが少しでも傷つかないようにするのがベストだと思えた。“酷い女の子にもてあそばれただけ”――周りがそう思ってくれれば、きっとたっくんへの被害も最小限で終わる筈だから。


「どうしたの朝陽さん? ほら、早く言いなさいよ」


 私はすべてが終わる悔しさと悲しさに唇を噛みつつ、ゆっくりと口を開いた。


「りゅ、龍之介くん、かっこ悪い。あれで私のことが好きだなんて――」


 その言葉を呟いた次の瞬間、頬に強い衝撃と痛みが走った。衝撃を受けて横を向いてしまった顔を正面に戻すと、そこには1人の女の子が立って居た。


「な、なにをするの!?」


 私は言いたくもない言葉を言わざるを得なかった苛立ちと、なんでこんな仕打ちを見知らぬ子から受けないといけないのかが理解できず、つい声を荒げて立ち上がってしまった。


「謝って」

「えっ?」

「謝って……龍ちゃんに謝ってよ!」


 その女の子は泣いていた。そして私は彼女の言葉で気づいた。この子がたっくんの言っていた“幼馴染”だということに。

 彼女は表情を歪ませ、まるで自分のことのように悔しそうにしながら泣いていた。そんな彼女を前に私はなにも言うことができず、ただ沈黙するしかなかった。

 そしてこの出来事のあと、すぐに駆けつけた先生によって職員室へと呼ばれた私は、本当のことを話さずに嘘をつきとおした。大好きなたっくんを守るために――。




 夏休み前にあったあの最悪の出来事から月日は流れ、私は四年生へと進級し、たっくんともクラスは別れていた。

 でも、私はそれで良かったと思っている。あの出来事以降、たっくんとは一言も口を聞いていないし、今更話す事なんてできないから。


「あっ、仲良くやってるみたい……」


 ようやく春めいた暖かい風が吹き抜ける様になってきた学校の帰り道、遠くの方でたっくんと幼馴染の水沢さんが楽しそうに話ながら歩いているのが見えた。

 あの出来事が起こる前、幼馴染とギクシャクしているという話をたっくんから聞いていた私は、その光景を見てほっとしていた。


「あれっ……?」


 その光景を見てほっとしたはずなのに、私の瞳からは涙が零れていた。

 本当は私もたっくんの隣に居たかった。ああしてたっくんと仲良く笑顔で話をしていたかった。でも、もうそれは叶わない。そう思うと無性に悲しくて悔しくて仕方がなかった。

 私は2人の姿を見ないように顔を俯かせ、再びトボトボと帰路を歩き始める。

 そして家に帰ってからお母さんが帰宅した時、急な引越しの話を聞かされた。

 最初はその話に驚きもしたし戸惑いもしたけど、でもちょうどいい機会だとも思った。もうあの学校に私の居場所はないし、たっくんに合わせる顔もない。それならいっそのこと、新しい場所でやり直すのもありだと思えたから。

 そして私は真実を話すこともなく、苦い思い出と共に逃げるように学校を転校した。


× × × ×


「朝陽さん、待たせてごめん」


 その声に思い出の世界から戻って来ると、手紙を出したのであろうクラスメイトの男子がこちらへとやって来た。


「ううん、別に大丈夫だよ。それで、用事ってなにかな?」

「それはその……俺、朝陽さんのことが好きなんだ。良かったらつき合って下さい!」


 少しだけ躊躇ちゅうちょするような素振りを見せながらも、ストレートに告白をする。


「ごめんなさい。私には好きな人が居るの」

「そっか……残念だけど仕方ないね」

「ごめんね、宮里くん」


 私はもう一度頭を下げて謝ったあと、踵を返して教室への道を戻り始めた。


「ねえ、朝陽さん。朝陽さんの好きな人って、どんな人なの?」


 後ろから聞こえてきた宮里くんの声に足を止めて振り返り、私は満面の笑みを浮かべて口を開いた。


「私のことをずっと気にかけてくれて、ずっと優しくしてくれた男の子だよ」


 そう言ったあとで再び踵を返し、私は教室へと歩き始める。もう諦めた筈なのに、ずっと忘れることができない想い人のことを想いながら。

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