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俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
二年生編・夏休み
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懐かしい×笑顔

 お昼にはまだ早い時間帯、俺は駅前にある行きつけのファミレスへと来ていた。

 座った目の前の席には、俺が小学校三年生の時に告白をして振られた相手である、るーちゃんこと朝陽瑠奈あさひるなが居る。

 どうしてこんな事になっているのかと言うと、彼女の方から『少しお話できないかな?』と誘われたからこういう状況になっている訳だけど、普通なら断るよな。多分。

 しかし俺がそう思うのは、単純に彼女から振られた過去があるからかもしれない。だって普通に昔馴染みと再会しただけなら、何の気兼ねも無くその誘いに乗ればいいだけだから。

 でもそれを躊躇ちゅうちょしたという事は、俺は未だにあの出来事を気にしているという事なんだろう。


「あ、あの……元気にしてた? たっくん」

「えっ? あ、ああ、うん。それなりに元気にやってたよ。るーちゃんは? 転校したのを聞いた時にはビックリしたけど」


 ちなみに『たっくん』とは俺のあだ名で、龍之介の龍の字を、るーちゃんが『たつ』と読み間違えたところからきている。


「ごめんなさい。家の事情で急に引越しが決まって、お別れも言えなかったの」

「そうだったんだ」

「それにほら、あの時はその……色々あったから話もし辛かったし……」


 そう言って再び顔を俯かせる彼女。

 彼女の言うあの時とは、俺が告白後にクラスではずかしめを受けた時の事を言っているんだろう。

 それにしても、家の事情で引っ越したというのは聞いていたけど、あまりに急な事で当時は驚いたもんだ。

 だけど当時の彼女の家庭事情をかんがみれば、それも分からなくはない。

 彼女の家は母子家庭なのだが、母親の恋人がコロコロと変わるという、小さな子供にとってはあまり良いとは言えない環境に居た。

 でも別に育児放棄ネグレクトをされていたとか、虐待をされていたとかは無い。それは当時の彼女がそう言っていたのだから間違い無いだろう。

 ただ、母親が相手に夢中になるあまり、寂しい思いをしていた事はあったそうだが。

 まあ、そんな環境が相まってか、俺が彼女と初めて面識を持った時の印象はそれほど良くはなかった。

 何と言うか、出会った頃の彼女は男に対して酷い嫌悪感のようなものを持っていたから、男子に対しての態度はかなり冷たかったのを覚えている。

 それでも彼女は当時の同学年の中で群を抜いて可愛い子と言われていたから、当然、そんな彼女に対して好意を抱く男子はかなり多かった。


「そっか……。でもまあ、るーちゃんも元気だったみたいだし、良かったよ」

「まだ私の事をるーちゃんって呼んでくれるんだね」

「えっ? あ、ああ、ごめんね、つい昔の癖でさ。久々に会ったのに、馴れ馴れしかったよね」

「ううん! そうじゃないの!」


 彼女は俺の言葉に対し、勢い良くそれを否定してきた。


「あっ、ごめんね。私の事は昔みたいに呼んで。ううん、そう呼んでほしいの。お願い……」

「……うん、分かったよ。それじゃあ昔みたいに、るーちゃんて呼ばせてもらうね」

「ありがとう、たっくん。あっ、私は鳴沢くんって呼んだ方がいいかな?」


 少し上目遣いで覗き込む様にそう聞いてきた。

 昔から可愛い子だったけど、この歳になると可愛さに色気が入ってくるから更に強烈に感じる。


「ううん。俺の事も昔みたいにあだ名で呼んでよ」

「それじゃあ、昔みたいにたっくんで」


 俺はるーちゃんに向かってウンウンと頷いた。

 それを見たるーちゃんは、にこっと微笑んで紅茶が入ったティーカップを手に持つ。


「ところで、今日はどうしてここに?」


 るーちゃんが手に持ったティーカップを口につけた後、俺は気になっていた事を尋ねる。

 当時の話では結構遠くの地に引っ越したと聞いていたから、そんな彼女が何でこの街に居るのかが気になっていた。


「えっと……ちょっと用事があって」


 何か言いにくい事なのか、るーちゃんは言葉を選ぶようにしながらそう答えた。


「そっか。まあ、俺に出来る事があれば言ってよ」


 社交辞令――と言われたらそれまでだけど、とりあえず無難な返答だと思う。


「ありがとう。昔から優しいよね、たっくんは」

「そうかな?」

「うん、優しいよ。だから私も…………」


 るーちゃんは言葉を止めて黙り込んだ。

 こういうところを見ていると、当時るーちゃんと仲良くなり始めた頃の事を思い出してくる。


「……ところで、たっくんは今どの高校に通ってるの?」


 視線をらしていたるーちゃんが、突然そんな事を聞いてきた。

 当時から唐突に今まで話していた事と違う話をしてきたりする事があったけど、成長した今でもそのあたりは変わってないみたいだ。

 俺は少し懐かしい気分で微笑んだ後、るーちゃんの問いかけに答えた。


「今は花嵐恋からんこえ学園に通ってるよ」

「花嵐恋学園て、カップル率が七割を越えるっていう噂があるところだよね?」

「そうそう」

「ふーん、そうなんだね」


 小さく何度も頷くるーちゃんを見ながら、さすがは全国でも名の知れた学園なだけはあるなと、素直にそう思った。

 そこからるーちゃんは何かを考え込む様にして黙り込んでしまう。

 俺はあえて何も言わず、静かにコーヒーを飲みながらその様子を見ていた。


「――うん。そうしよう……」


 約五分程が経った頃、るーちゃんは小さくそう呟いた。いったい何を思いついたんだろうか。


「たっくん、一つお願いがあるんだけど、いいかな?」

「えっ? まあ、俺が出来る事ならいいけど」

「ありがとう! それじゃあ行こう!」

「えっ!? ちょ、ちょっと!?」


 その問いかけに頷きながら答えると、るーちゃんは嬉しそうにして立ち上がり、俺の手を握って引っ張るようにしながら店の外へと連れ出そうとした。


「ちょ、ちょっとるーちゃん!? 俺の言ってる事聞いてる?」


 握ったその手を更にギュッと握り締めながら、俺を引っ張って行くのを止めないるーちゃん。

 そういえば、当時もこういう強引なところがあったような気がする。


「たっくん! 早く早く!」


 楽しそうに手を引っ張って行くるーちゃんを見ながら、まあいっかと、少し諦めにも似た感覚と懐かしさを感じながらファミレスを後にした。

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