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俺はラブコメがしたいッ!  作者: 珍王まじろ
二年生編・夏休み
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偶然×再会

 陽子さんのお願いで演劇の手伝いに行ったり、まひろと一緒に夏休みの宿題をしたり、まひろの頼みで妹のまひるちゃんと海へ行ったりと、夏休みが始まってから今日でまだ八日目だと言うのに、俺にしてはかなり濃密な日々を過ごしているように思える。

 しかしそんなイベントはゲームや漫画じゃないんだから、そうそう続くものではない。


「ふあ~」


 チュンチュンと雀のさえずりが外から聞こえてくる朝のリビング。そのさえずりに混じって部屋に響く欠伸あくび声。

 リビングにあるソファーにドンッと勢い良く座って目の前のテーブル上にあるテレビリモコンへと手を伸ばし、テレビのスイッチを入れて何となくあちこちとチャンネルを変えていく。

 そして一通りチャンネルを一周させた後、適当なところでチャンネルボタンから指を離して映し出された映像に目を向けた。

 テレビ画面の左上には9時26分と表示が出ていて、スピーカーからはグルメレポートをしている女性レポーターの明るい声が聞こえてきている。


「美味そうだな……」


 グルメレポーターはラーメン屋に来ているようで、そこで出されているとんこつラーメンを美味しそうに食べている。

 それにしても、こういうグルメ系番組って本当に目の毒だと思う。ご飯を食べた後でさえ、こういうものを見ると美味しそうに見えて食べたくなってくるから。

 俺はその映像をぼーっと見つめつつ、何となくラーメンを食べたいなーと考えていた。もはや完全にテレビの映像に洗脳されているなと思いつつ、俺は部屋へと戻って着替えを始める。


「杏子ー。一緒にラーメンでも食べに行かないかー?」


 着替えを終えた俺は、ついでだから杏子も連れて行こうと部屋の前でそう問いかけた。しかし何度扉をノックして呼びかけても、中から杏子の返答は無い。

 少し心配になった俺は、そっと扉を開けて中を覗き見た。


「あれま」


 中には毛布もかけずにぐっすりとベッドで眠っている杏子の姿があった。しかも、三泊四日の勉強合宿から帰って来た時のままの服装で。

 そういえば昨日は帰って来た時間も結構遅かったし、出迎えた時も相当疲れた顔をしていた。


「しょうがないな」


 無理やり起こすのも可哀想だったので、そのまま寝かせて一人でラーメン屋へと向かう事を決め、寝ている杏子の横にある毛布を手に取ってそれをそっと身体に被せてから部屋を出た。


「――くあーっ! やっぱり暑いな!」


 外は眩しく輝く太陽がギラギラと地上を照らしていて、既に路地からは陽炎が立ちのぼっている。

 そんな様子を見た俺は、まだ家から出て五分と経っていないというのに、もう涼しいエアコンがある我が家へと帰りたくなっていた。

 しかし、ここで帰っても冷蔵庫にろくな食べ物は入っていない。ここは根性を出してラーメン屋へと向かうしかないだろう。

 そして照りつける太陽の熱線に疲弊しながらも、駅前にあるラーメン屋へと辿り着いた俺は、エアコンが適度に効いた店内で熱々のとんこつラーメンに舌鼓を打った。


「――あー、美味かったなー」


 思わず声に出してしまうくらいにラーメンが美味かった。やっぱりとんこつラーメンは細麺ストレートの固麺だよなと、個人的な好みを自分の心の中で呟き、パンパンに膨れたお腹をさすりながら店を出る。

 さすがに替え玉四杯は食べ過ぎだったかもしれないけど、美味しくいただいたのだから良しとしよう。

 とりあえずお腹いっぱいで満足した俺は、そのまま家に帰って怠惰たいだな一日を過ごそうと考えていた。


「あの、もしかして、鳴沢龍之介くんじゃないですか?」


 ゆったりと歩きながら帰路を進み始めていた俺の背後から、唐突に声がかけられた。その声に身体を横にひねり、声がした方向へと顔を向ける。

 そこには薄いブラウンに軽いウエーブのかかったヘアスタイルの、アイドル級に可愛らしい女子が立っていた。

 身長は俺が見た限り、155センチ程と言ったところだろうか。ジーパン風のホットパンツに、白のキャミソールが良く似合っている。

 しかしその顔はとても可愛らしいが、微笑んでいるその表情はどこかぎこちなさを感じさせた。


「あの……すみませんが、どちら様ですか?」


 俺の名前を知っているという事は、以前に会った事がある可能性は高い。

 しかし、俺にはちょっと見覚えがなかった。だから失礼だとは思いつつもそう尋ね返した。


「そっか、分からないよね。こうして話すのは小学校三年生の時以来だもん」


 その子はそう言って苦笑いを浮かべた。その表情にちょっとしたうれいの様なものを感じる。

 それにしても、小学校三年生の時と言えば随分と昔の事だけど、こんなに可愛らしい女子の知り合いなんて居ただろうか。

 記憶を辿ってはみるものの、目の前にいる女子と似た様な子にはどうしても行き着かなかった。


「ごめんなさい、ちゃんと覚えてなくて。失礼ついでと言ったら何ですけど、お名前を聞いてもいいですか?」


 俺がそう尋ねると、その女子は少し躊躇ちゅうちょする様にこちらをチラチラと見ながら、申し訳なさそうに小さく名前を口にした。


「あ、あの……私、朝陽瑠奈あさひるなです」

「えっ!? も、もしかして……るーちゃん?」

「うん……」


 その言葉に小さく頷くと、彼女はそのまま顔を伏せてしまった。

 彼女のそんな反応を見て、俺も不自然なまでに視線を横にらしてしまう。まさしくこういった状況の事を、気まずいと言うのだろう。

 るーちゃんこと朝陽瑠奈。彼女は俺が小学校三年生の時に告白した事がある女子だ。

 俺にとって一番仲が良く、一番付き合いの長い女子と言えば間違い無く茜だけど、あの時は俺も周囲の変化とか色々な事があったせいで茜を避けたりしていた。

 だから小学校三年生からあの告白をするまでの期間だけで言うのなら、今目の前に居る朝陽瑠奈が一番仲良くしていた女子だと思う。もしも俺が彼女に告白をしなかったら、茜と同様にずっと仲良くできていたかもしれない女子だ。

 しかし俺は彼女に告白をし、それは見事に失敗した。それだけで終わっていたならまだ良かったのかもしれないけど、どこからその話しが流れたのか、数日後にはその噂がクラス中へと知れ渡った事で俺は酷いはずかしめを受けた。

 噂では彼女が意図的に俺が告白をしたと言う話を流したとの事だったけど、その噂には今でも疑問を感じている。

 まあ何にしても、あの出来事は俺の中で五指に入る程のトラウマになったのは間違い無い。

 それにあの時は彼女と茜がひと悶着を起こしたから更に気まずくなってしまい、俺はそれから一言も彼女と言葉を交わす事は無かった。

 そしてそのまま四年生になり、しばらく経ったある日、俺は彼女が転校した事を知った。そんな彼女と約七年ぶりに、何の前触れも無く再会。

 俺と彼女は陽炎が立ち上る駅前でお互いに視線を逸らしたまま、気まずい雰囲気の中で立ち尽くしていた。

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