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旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~  作者: 魯恒凛


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68.これからはちゃんと

「え……?」


 見上げたルートヴィヒ様は手の甲で口元を隠し、もごもごと口にした。耳先が赤く色づいている。


「その……自分でも口下手だと思うし、うまく伝えられなくてもどかしいけど……。これを読んだら、君のことをずっと好きだったって信じてもらえるかと思って」

「……読んでいいの?」

「ああ。君に書いたものだから、君のものだ」


 無造作に入れられた古びた封筒の数々。その中のひとつを手に取り、開いてみた。



――クラリスへ


お元気ですか。まだ、ぼくのこと、思い出せないのかな。


ごめんなさい。 ぼくのルクラを助けてくれたから、クラリスはつかまって、傷ついて、思い出までなくしてしまった。ほんとうにごめんなさい。


だけど、あのとき言ってくれた言葉、忘れてません。

「るぅ、りっぱな騎士になったら、結婚してくれる?」って。

あのとき、どきどきして、うまく返事できなかったけど、心の中では、ちゃんと――次はぼくが君に言うから、って言ったんだ。


クラリスが笑ってくれるなら、ぼく、どんな訓練だってがんばれる。ルクラも、空を飛ぶのがどんどん上手くなってます。きっと、君が喜ぶ顔が見たくて、がんばってるんだと思う。


君が、ぼくを忘れてしまっていてもかまわない。だけどいつか、また「るぅ」って笑ってほしい。

だから、また君に好きになってもらえるように、がんばる。 君に見合う人になるまで、絶対あきらめないよ。


それまでに、ちゃんとがんばって言えるようになるから。

「ずっと、君が好きだったよ」って。


――ルートヴィヒ



 幼い子どもの拙い文字。だけど丁寧に一文字一文字を書いてくれたことが伝わってくる。書き損じては何度も書き直す、ルートヴィヒ少年の姿が頭に浮かんだ。視界が滲んでしまう。


「えっと……クラリスが今手にしているのは、多分九歳くらいの頃のかな。だいたい毎月一通書いていたから、けっこうな量があるんだけど……その、全部読んで欲しいって言っているわけじゃなくて、十数年君を想ってきたことの証明になればと思って――」

「……全部読ませてもらうわ。ありがとう、……るぅ」

「クラリス……」


 私たちはそれから、伝えられなかった想いや思い出を語り合った。


「ヴェルナール家はクラリスが誘拐されたのはレーンクヴィスト家のせいではないし、むしろうちの警備がゆるゆるだったのだから、気にしないで欲しいとおっしゃってくれて……」

「そうだったの……それは確かにそうだしね」

「だけど、婚約の打診を君が十歳になる頃からずっとし続けたんだが、一向に許可はもらえなかったし、面会も断られて」

「……え? 私は十八歳になる直前に持ち込まれたのかと……」

 

 苦笑いをするルートヴィヒ様。まさか、あの私の家族がそんなに何度もお断りを……!?

 

 驚いた。「引きこもりの娘をもらってくれる家があるといいなぁ」なんて、何度か冗談交じりにからかわれていたのに。打診、来てたんだ……。

 

「義父上はクラリスが記憶を取り戻すかもしれないと思っていたのかも。その時、婚約を受けたいか受けたくないか君に判断を委ねたかったんだろう。レーンクヴィスト家とはもう関わりたくないって言うかもしれなかったし」


 そう、だったのかな。どこか抜けているうちの家族たちが、思っていた以上に私のことを考えてくれていたことに驚く。ずっと、高熱で記憶を失ったと言っていたのに……。

 知らないところで、傷ついた私の心を守っていてくれたのかと思うとぐっときた。

 

 それに、ルートヴィヒ様も……。


「あなたも本当にずっと私のことを……」

「ああ。もうずっと前から……世の中に女性はクラリスしか存在していない」

「そんな大げさな……」


 生真面目というか、真っすぐというか……。


 急に恥ずかしくなって次の手紙を取ろうと箱に手を伸ばす。かさりと広げた次の手紙は、十代前半くらいのものだろうか。文字を追う私の横顔を、隣に座りじっと見つめてくる彼。


 そんなに見つめないで欲しい、と抗議するつもりで顔を向けると、思った以上に距離が近くて思わず呼吸が止まった。


 お互いに言葉を失い、視線が甘く絡み合う。

 ルートヴィヒ様がふと顔を寄せ、耳元でささやいた。


「……上手く言えるかわからないけど、ちゃんと、クラリスが愛されてるってわかるようにする。……これからは、ちゃんと声に出す。ちゃんと伝えるよ。毎日、君が恥ずかしくなるくらいに」

「……へ?」

「これからは遠慮しない。手、つないだら離さないし……」


 私の手を撫でると、ルートヴィヒ様は指を絡めてきた。こ、これは恋人つなぎでは……! 熱のこもった真剣な瞳が、目を離すことを許してくれない。


「……キスも、一度じゃ終われないかも」


 ルートヴィヒ様の美しい顔が近づいてくる。彼の柔らかな唇が私の下唇をちゅっと優しく啄んだ。

 

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