64.認めざるを得ない(ルートヴィヒSide)
王族が住む宮殿へと続く扉の前には、カサンドラとジャックが立っていた。鬼気迫る俺とアロルド、ここにいるはずのないソフィアの姿を目にし、彼らは一瞬で状況を理解した様子。
項垂れる彼らの話から予想される状況として、クラリスは拉致されたと認めざるを得ない。
違法商団が未だに魔力詰まりを治したことがあるクラリスを狙っているのか、魔獣狩りの天敵である第二魔獣騎士団の団長である俺を脅迫するために妻を狙ったか……。俺はぐっと拳を握り締めた。
「だけどまだ王城内に監禁されているかもしれない……! 一刻も早く探し出さないと!」
パーティーを中止させ大捜索をするのだと口にした俺をアロルドが引き留めた。
「ルートヴィヒ、落ち着け。内通者がいる今、クラリスの安全のためにも下手に騒ぎだてない方がいい」
「っ……!」
悔しいが、アロルドの言う通りだ。俺たちが拉致に気づいたことを察知されたら、クラリスが口封じされる可能性もある。くそっ……!
パーティーを恙なく進行させながら敵の目を欺き、クラリスの行方を追わなければ。
第三魔獣騎士団の団長にも密かに協力を依頼し、水面下での捜索が始まった。会場の外では魔獣騎士達が不審者の確保に急ぐ。事前に把握していた内通者リストに従い、この機会に一斉捕縛が静かに始まった。
牢屋の前に椅子を置き、俺は彼らの到着を待ちわびた。
騎士に連れられ、文官やメイドの制服に身を包んだ彼らは、俺の姿を見るなり命乞いを始める始末だ。密猟者への制裁が俺の騎士団だけ壮絶なことを、あちらサイドから耳にしているのだろう。
「場合によっては拷問を行い、情報を吐かせても良い」と、特別に二人の団長から許可を取り付けていたが、手を下すまでもなく。
芋づる式に出てきた新たな内通者の名に、目の前が真っ暗になった。
「うぅっ、オパールさんに弱みを握られていて……」
「オパールだと……? あいつ、王宮で働いているのか!?」
クラリスが王女に返してくれというから、ソフィアに処罰を頼んだのに?
あいつ、まさか温情をかけて……!
捕まえた罪人たちからの供述により、クラリスは荷馬車に乗せられ裏門から出て行ったことが判明した。
「……アロルド団長、もう止めないでください」
「ルートヴィヒ。やみくもに探していたららちが明かない。せめて場所をもう少し絞り込んでから」
その時、ひとりの騎士が駆け込んで来た。
「アロルド団長、ルートヴィヒ団長! 魔獣たちが異常に騒いでいて収拾がつかないんです! 魔獣舎へ来てもらえませんか?」
顔を見合わせ、急いで向かった魔獣舎では、グリフォンたちが咆哮を上げていた。王城内でこんなに感情を露にする姿は見たことがない。怒り狂うルクラに近づいた。ああ、ルクラはクラリスの身に起こったことを知っているのだと瞬時に理解した。
「……ルクラ、もしもクラリスの居場所を知っているなら連れて行ってくれないか?」
「ガァァァッ!」
「団長! 俺たちも連れて行ってください!」
第二魔獣騎士団の部下たちが、パートナーであるグリフォンたちと俺を見つめて頷いた。……ありがたい。
「……っ、感謝する」
装備をつけ、魔獣舎から飛び立とうとした時、アロルドとソフィアがやってきた。
「ルートヴィヒ! こっちは任せておけ! うちのお世話係を頼んだぞ!」
「はい、……必ず連れ戻します!」
「子ドラゴンも連れて行ってくれないか? 邪魔はしないように言い聞かせてある!」
じっと見下ろした先、懇願を瞳に浮かべる水色のドラゴン。俺はこくりと頷いた。
「……ドラちゃん、行くぞ」
「ギャァッ……!」
「アロルド団長、オパールを絶対捕まえてください」
「ああ!」
「行くぞ!」という俺の掛け声でグリフォンたちは地上を蹴り上げ、空高くへと舞い上がると山へ向かって飛び立ったのだ。
*
「待って! 私も行くわ!」
魔獣舎に残された自分のパートナーに駆けようとうとしたソフィアだったが、アロルドの一喝でその足がぴたりと止まった。
「おまえは残れ!」
「……なぜですか。私だって第二魔獣騎士団の一員です! それとも、……まだ私のことを怒っているんですか?」
アロルドは踵を返すと大ホールへ向かって歩き出した。ソフィアが慌ててその背中を追う。
「……王宮にはおまえしか立ち入れない場所があるだろう? 俺たちは残って内通者を捕まえるぞ。内部に協力者がいるはずだ」
「は、はいっ……!」
アロルドは各騎士団の幹部たちを内密に集め指示をした。
「いいか。第三魔獣騎士団は異変を悟られないよう、パーティー会場の警備と警戒を頼む。招待客を一人も帰すな! 第一はソフィア殿下と王城内で内部協力者及び違法商団の関係者を余すところなく捕まえろ!」




