46.拷…尋問を(ルートヴィヒSide)
どうしてこんなことに……?
というか、何が起こっていたんだ?
――私はこの家で死にかけたこともあります。ご存じありませんでしたか?
クラリスの安全を誰よりも願っていたはずなのに、我がレーンクヴィストの屋敷内で命を脅かす事態が起きていたなんて。
カヤはなんて言ってた?
――わたくしっ! メイド長のオパールとやらに聞き捨てならないことを言われたのですが? ……我が主ルートヴィヒ様は王女殿下と結ばれるべき。根暗な奥様をようやく実家が迎えに来たのか、と嘲笑いやがったのですが――
バンっと勢いよく扉を開けた執務室では、マルセロがいた。
「あれ? 今日は奥様と過ごすから仕事はしな――」
「マルセロッ!!! 今すぐ手の空いている私兵を全員連れて来い! 牢の準備をしてから使用人を一人ずつここへ呼べ!」
俺の剣幕にきょとんとしたマルセロだったが、「……承知いたしました」とすぐに出て行った。
*
殺気を放ちながら嘘は許さないと言えば、使用人の誰もが自らの行動を素直に口にした。彼らの言い分は一貫したものだった。
俺とソフィアが恋仲にも関わらず、クラリスが横やりを入れて結婚したから許せない。
悲劇のカップルを添い遂げさせるために、クラリスに嫌がらせをしていたのだと。
一体何の話だ……!?
「ソフィア王女と俺は恋仲でもなんでもない!」
「で、ですが、人気の劇もお二人がモチーフになってますし、小説だって……」
「ルートヴィヒ様と王女様はとても仲がいいと誰もが知っています。だけど、奥様とは口も利かないし……」
ああ、そんな……。
劇? 小説? 王女と騎士団長の物語だろう? なんであれのモデルが俺になるんだ!? 銀髪の美しい王女と赤髪の団長の恋物語だなんてどう見ても俺じゃなく……! くそっ!
ソフィアと特別な仲だと誤解されたのは……。
「あぁ……これは俺の失態だ」
第二魔獣騎士団にソフィアが入ることになった時、俺たちは本当に困った。
国王は腫れ物のように扱うなというが、王女をどうしていいのか接し方を考えあぐね……。だけど、気高く扱いにくいと決めつけていたソフィアは王女と思えないほどフランクだった。
距離感の近さに最初は団員たちの方が恐れ多くて困惑していたが、ソフィアなりに打ち解けようとしているとのだと思い、いつしか受け入れるようになっていた。
男性騎士に飛びついたり腕を取るくらい、性別関係なく騎士仲間であればおかしなことではないと――。
「だけど、俺だけにしていたわけじゃないのに…………いや、俺の脇が甘かったんだ」
まさか、そのせいで誤解を生み、クラリスに実害が及んでいただなんて。せめて、クラリスと婚約した後は接触を控えて欲しいと言うべきだった。
俺がもっともっとクラリスのことをよく観察して気にして話しかけていれば……。
後悔してもしきれないが、今さら悔やんでも過去には戻れない。
それにしても……。
「……なぜ今まで俺の耳に入らなかった? 意図的に報告をさせなかったのか? マルセロ。おまえは知っていたのか?」
「屋敷内のことは何も。街の噂は耳にしてましたが、気にも留めていませんでした。すみません」
「執事。おまえは?」
問い詰めれば、俺がクラリスを想う気持ちは知っていたが、使用人をコントロールできなかったらしい。執事が聞いて呆れる。
「で、ですが、オパールに逆らえる者はこの屋敷におりませんでした……」
「なぜだ? ただのメイド長のオパールになぜ皆が従うんだ?」
使用人たちが揃いも揃って口にしたオパールの存在。メイド長だけあって、その影響力は屋敷の隅々まで及んでおり、クラリスの品質保持費まで使い込んでいたことがわかった。
暴挙の数々に女といえど殴り殺してしまうんじゃないかとマルセロが心配し、今は地下牢へぶち込んである。あいつは最後に拷……尋問をするつもりだ。
ギリッと歯を噛み締めた俺に、執事が恐々と口にした。
「恐れながら……オパールは王家から遣わされた王女様の元侍女です。我々使用人では逆らえませんでした」




