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なにも知らずに
文字も言葉も分からないままであったなら
世の中に絶望することもなかったのだろう
幸せか不幸か分からないままであったなら
無意識に絶望することもなかったのだろう
一人の人間が居なくなろうが気にしないし
少なくとも自分という人間がいなくなれば
秋の夜は嫌なほど首筋に涼しさが滞留する
ブランコを漕いでもあの名月には行けない
バス停の明かりもおぼろげに見える夜道を
はだしで歩きながら捨てられた煙草を踏む
文字も言葉も分からないままであったなら
なにを思うでもなく考えるでもなく生きる




