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お嬢様、もう無理です!これ以上は破産します!! ~諸々ゴクリ、飲みこんで~  作者: 六花きい


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5/5

5. 諸々ゴクリ、飲みこんで(5/5)


「なので、俺が買わせてもらった」

「――え?」

「聞こえなかったか? 俺が、お前を買った」


 その言葉に、ナタリーは信じられない思いでルドルフを見つめた。


「弟とセットで買ってやる。俺は成金平民だからな、強欲なんだ」

「……ッ!!」


 弟と、一緒にいられる――?


 せり上がる涙で景色が歪む。


 いつ二階から降りてきたのだろうか。

 扉の隙間から固唾を呑んで見守っていたロイが、室内に飛び込んできた。


「ごめんなさい! 僕が昨日しゃべっちゃったの!!」


 泣き出した姉の姿に驚いたロイは、ナタリーに飛びついた。


「ごめんなさい! ごめんなさいッ!!」

「……いいのよ。謝らなければならないのは、むしろ私のほうだわ」


 こぼれ落ちる涙を拭いて居住まいを正し、ナタリーはルドルフへと向き直った。


「お皿の件、大変申し訳ございませんでした。申し開きのしようもございません」

「もう終わったことだ。俺は気にしていない」


 頬杖を突きながら自分を見つめるその表情は、困ったような、少し申し訳無さそうな……ナタリーの知っている優しい彼のもの。


「……ッ。自分達だけでは何もできませんでした。お役に立てるよう、精一杯仕えさせていただきます」

「ん? 仕える!?」

「はい、買われた身ですので……」


 何を驚いているのか、目を大きく見開いたルドルフの肩に、先ほどの大きな衛兵がポンと手を置いた。


「兄さん、こんな若い子に何をさせる気?」

「お、おねえぢゃ、がんばっ……て………」


 ザックからは咎めるような眼差し、ロイからは応援するような眼差しを送られる。


 溜息をついてルドルフが順番に睨むと、怖かったのか、「ふ、ふぎっ」と小さく叫んでロイが泣き出してしまった。


「あーあ、こんな小さな子に」

「俺のせいか!? なんなんだまったく……まぁいい。成人するまでの後見も、ついでに俺が付いてやる」

「ありがとうございます……ッ!!」


 堰を切ったように泣き出したナタリーへ、同じく涙でグシャグシャのロイが、庇うようにギュッと抱き着いた。


「せいぜい姉さんを守ってやれ。お前達の保護者になったからには、厳しくいかせてもらう。貴族様であっても、容赦はしない」


 照れ隠しなのか、威張り始めたルドルフ。


 もはや敬語を使う気も無いらしい。


「あんなことを言ってますが、弟四人を甘やかしまくっていますので、大丈夫ですよ」

「まぁ、そんなに御兄弟がいらっしゃるのですね!」

「ちなみに俺は次男です。……あれ? そういえば身売り分のお金を建て替えたのは俺だから、ナタリー様に色々してもらえるのは俺ってこと?」


 何かに気付いたようにザックが首を傾げ、まじまじと無遠慮にナタリーの顔を覗きこんだ。


「そういえば、すごい可愛い……! はじめまして、ザックです。王都で衛兵をしていますが、そこそこお金持ちです!!」


 元気に自己紹介をされるが、ナタリーはこの状況でどう答えたらよいか分からない。


「ダメだ」

「珍しく兄さんが肩入れすると思ったら……そういうこと」


 揶揄うザックをギリリと怖い顔で睨みつけ、ルドルフは肩に置かれた手を払った。


「チッ、余計なことを。分かったらさっさと支度をしろ。すぐに出発だ」


 慌てて荷物を取りに、二階へ上がるナタリーとロイを見送りながら、ザックはルドルフに小声で耳打ちした。


「伯父とやらが、両親の馬車に細工をした話は?」

「その件を表に出す気はない。これ以上、傷付く必要もない……俺達は、何も知らなかった」

「では、揉み消す方向で」


 地獄の沙汰も、金次第。

 そうしてナタリーとロイは、ルドルフ宅へと引き取られたのである。



 ***



 あの後、ルドルフが住んでいた家だと手狭なため、広い庭のある屋敷へと引っ越した。


「なんでお前までついてくるんだ……」

「いや、色々心配で」


 面白がってついてきた次男のザックに肩車をされ、以前のように元気を取り戻したロイが、嬉しそうにはしゃいでいる。


 暇を出した執事まで雇い入れてくれた時には、ナタリーは感激のあまりルドルフに抱き着きそうになってしまった。


 そして今、ナタリーは学校にも通わせてもらい、毎日の出来事をルドルフに報告するのが日課となっている。


「で、どうだ? その、学校に気になる令息とかはいたりしないのか?」


 もごもごと言い淀むルドルフがおかしくて、ナタリーはプッと吹き出すと、小さく手招きをした。


「ん? どうした?」


 不思議そうに身体をかがめたその耳元へ、そっとささやく。


「……ルドルフ様より素敵な方はいらっしゃいません」


 途端にカッと顔を赤らめ、目を泳がせる御主人様……ルドルフ。


「それ、わざとでしょ?」


 ザックが笑いを堪えながらナタリーに歩み寄り、問い掛けると、以前の姿が嘘のように晴れやかな笑顔で「さぁどうでしょう」とうそぶいた。


「おい、お前ら近いぞ」


 二人の距離にムッとして、離れろと威張り散らすルドルフに、どっと笑いが起こる。


「兄さん、うるさい男は嫌われますよ。……それでは皆さん、準備はよろしいですか?」


 今日は、ルドルフの二十四歳の誕生日――の、前祝い。


 誕生日パーティーを一週間後に控え、ただ集まってワイワイしたいだけのザックが乾杯の音頭を取る。


 その場にいた者は皆笑顔で、手元のグラスを高々と掲げ――、そして。




 諸々ゴクリ、飲み込んだ。





最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

本作は、ゆきや紺子様(https://mypage.syosetu.com/1608052/)にタイトルをいただきました。

⇒『お嬢様もう無理です、これ以上は破産します』


※ブクマや★★★★★で応援いただますと嬉しいです(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*


※3月は毎日何かを更新予定なので、また目に留めていただけるよう頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 両親の馬車に細工云々はナタリーが知ること無いようにもみ消すと?  最大の証拠(伯父)は牢で【病死】してしまうというワケね。
[一言] とても素敵なお話で何度も読み返しました。 ナタリーお姉ちゃんの頑張りに涙が出ました。 ルドルフさんが素敵な人で良かった(^-^)
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