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姉貴!①

「え待って……? 女の子? 今、鍵開けて入って来ましたよね?」

「…………」



どうしよう……。思いっきり入って来るの見られた……。もうこの際、カミングアウトするか……? いやそれはさすがに無理か……。姉貴だし……。なんか……軽いノリで親父にバラしそうだし……。




「えーっと……恭二の彼女……?」

「……」




姉貴は部屋着のTシャツと短パン姿で、菜月と似たその長い黒髪を振るって俺を見ている。どうする……って言っても不自然じゃない言い訳としてはこれの他ないか……。思いっきり鍵開けて入ってくるの見られたしな……。




「そ……そうです……」




俺がうなづくとその瞬間、姉貴はその大きな目を輝かせて、



「まじ!? 私! 蒼井咲! 恭二のお姉ちゃんです! よろしくね!」



姉貴が俺の手を取ってブンブンと握手をしてくる。うわ……なんか酒臭いな……。やっぱり酔っ払ってんのか……。だりぃ……。




「ほらほら! 中入って! 恭二なら多分そのうち帰って来るからさ!」




俺は姉貴に手を引かれ、リビングへと通される。




「何飲むー? ジュース?」

「いえ……なんでも……大丈夫です……」




テーブルの上には、空いた缶ビールが3つ。それに、スーパーにあるパックのお刺身にお惣菜と、家飲み感満載である。つか、やだな……これが本当に彼氏の姉だとしたら……。昼から飲んでる時点でちょっとアレだし……。いや本当にってのもおかしいか……。目の前にいるのは俺の姉貴なのだから……。




「はい、お茶」

「ありがとう……ございます……」

「へへ……」



姉貴は少しおぼつかない手付きでグラスを差し出してくれた。俺は別荘帰りの旅行バックを床に置き、そっとテーブルに座る。姉貴もどこか上機嫌な様子で対面に座ると、ビールを仰ぐ。するとダルダルのtシャツから案外大きな胸の形が浮き出でいるのが目に入った。




「かぁー! うめぇ」

「…………」




缶を置くと、姉貴は頬杖を付いて俺を見る。その大きな瞳と低い鼻筋は俺たち兄妹の特徴だろうか。



「可愛い」

「いえ……」

「そっかぁ……恭二、こういうのが好みなんだな」

「ど……どうなんですかね……」




姉貴は舐めるような視線で俺を見てくる。うぜぇ……。普通弟の彼女って聞いてこんな露骨にジロジロ見るか……? なるべく嫌われないように努めるのが家族としての道理じゃねぇのかよ……。なんて事を思っていると、姉貴は箸を手に取り、刺身を一切れ口に入れた。よく見ると頬もほんのりと赤く目も座っている。分からないがもうだいぶ酔ってるのかも知れない。




「名前は!?」

「圭です……」

「圭ちゃんか、何歳なの?」

「17です……」

「あー恭二とタメなんだ」




姉貴はニヤニヤとした笑みを浮かべている。何が面白いんだよ……。いや、でも楽しいかそりゃ……。姉貴からしたらあんな女っ気皆無だった弟にいきなり彼女が出来たんだからな。




「菜月にはもう会ったの?」

「まぁ……はい……一応お会いしました……」

「あの子お兄大好きっ子だから、圭ちゃんに嫉妬するかもだけど、仲良くしてあげてね」

「はい……」



別に嫉妬なんてしねぇだろあいつ……。仮にもし、俺に本当に彼女が出来たとしてもよ……。




「あれ、てかちょっと待って」

「……」

「圭ちゃんってさ」



姉貴はじろじろと人の顔を眺めて、



「あの圭ちゃん?」

「えっと……」

「JKに人気のさ」




さすがにバレるか……。姉貴ならもしかしてバレないかと思ったのだが……。半端な知名度に自分が嫌になる。




「そうです……」

「まじ!?」

「はい……」

「そんな子がなんで恭二と!?」

「あはは……」




変に説明するのも変だろうし俺は苦笑いをしてやり過ごすしかない。姉貴はテンションが上がってビールを勢い良く飲んでいく。その振るった髪の毛からほのかにシャンプーの匂いが漂ってくる。




「私もフォローしてるんだよ圭ちゃん!」

「あ、そうなんですね……」

「そそ、私実はライターの仕事してて、女性誌の記事とかも結構書いたりしてるから」

「え……凄い……」

「JKの流行りを追うのも仕事の一つってね」




妙に誇らしげに胸を張って見せる。京都で適当に暮らしてるとは聞いたが、そんな事やってたんだな姉貴。




「圭ちゃんと話してるとお酒が美味しい」

「あはは……良かったです」




なんかおっさんみてぇな事言ってんな姉貴……。そして、とろんとした瞳を俺に向けて、




「でも合鍵まで渡すのは、お姉さん違うと思うなー」

「す……すみません……」



本当は合鍵でも何でもねぇんだけどな……。俺が持ってんだからさ……。




「お互いまだ10代なんだからちゃんと節度あるお付き合いをしないとね!」

「そうですよね……」

「そうそう、そんな一人暮らしの大学生カップルみたいな事はまだ圭ちゃんはしちゃダメよ」

「すみません……」

「まぁ私から恭二にも言っておくけど」




いや、そんな事俺だって分かってるわ……。諭し終えると、姉貴は頬杖を付きながら少し黄昏れた様子で、




「けど……恭二も案外やるわねー。まさかあの圭ちゃんと付き合っちゃうなんて」

「……」

「あの圭ちゃんに合鍵渡して、家に呼んでおくなんて」

「いや……その……」

「ぶっきらぼうな朴念仁だと思ってたのに……」




ひでぇ言い方だなおい……。まぁぶっきらぼうなのは否定出来ないけど……。そして姉貴はビール缶を掴んで、




「男の子って急に大人になるのよねー」

「咲さんの知ってる蒼井君と……違いますか?」

「うーん……。いやどうだろ……」




姉貴はビールを一口飲んだ後、



「私が見ないようにしてただけだったのかもね」

「見ない……ですか」

「いくつになろうと恭二はずっと、私の弟だからね」




そう言って姉貴は少しだけほくそ笑んだ。その大きな瞳とまつ毛が揺れる。そして姉貴が伸びをした瞬間。インターホンが鳴った。




「お、きたきた」

「え……?」




荷物か? 姉貴はそっと立ち上がり、玄関の方へと向かう。




「久しぶりじゃーん!」

「ねー、1年ぶり?」




聞き馴染みのある声。廊下から足音が近づいて来る。そして再度、姉貴が目の前に現れたと思ったら、




「そうだ、ほら見て真夏。恭二の彼女」

「あ、圭ちゃん」




目の前には、私服姿の真夏がいたーー

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