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俺と信道と圭ちゃん③

俺の隣に座り込んだ南つばさは、黄昏つつただ真っ直ぐとどこかを見ている。


「あんたに少しだけ興味が湧いたの」

「生憎だがねぇよ、お前と一緒だ」

「ふーん」

「つか朝のあれで分かったろ。俺と真夏が付き合ってないって」

「そうね」




怪しいとか何か言ってくるかと思いきや存外、南つばさは俺が付き合ってない事を素直に認めた。やや調子が狂う中、俺は言う。



「言いたい事が済んだなら戻れよ」

「……ねぇあんた、夏休み暇?」

「はぁ?」

「どこか遊びでも行かない? 暇なのよ私。宿題も一日あれば終わっちゃうし」



南つばさは両手で頬杖を付いて、俺と目を合わさないまま退屈そうに呟く。



「なんでいきなりそんな話になるんだ……」

「正直楽なのよ、あんたが一番」

「遊ぶなら圭の奴を誘ってやれ」

「勿論、遊ぶわよ。ただ毎日ってわけにはいかないでしょ」

「俺と遊んでたら圭が嫌がるんじゃないのか」

「何か必死ねあんた。事前にちゃんと言うし、圭ちゃんはそんなのじゃ怒らないわよ。それにあんたと圭ちゃんが付き合ったら、私もそんな事しないわ」

「まぁ確かに……」

「ただ遊ぶだけよ。あんたなら分かるでしょ、他意はないわ」





などと、退屈そうに南つばさは言葉を返す。分かんねえなこいつマジで。なんでわざわざ俺と遊びたいんだよ。こちとら圭の姿の時に腐る程お前と遊んでんのによ……。とはいえ、こいつが誘ってくるってのはおそらく本気なんだよなぁ……。そういう勘違いされる冗談なんて絶対こいつは言わないだろうし。断るのもそれはそれで気が引ける。




「まぁ……バイトがない日なら」

「案外素直ね。蒼井」

「お前がガチで誘ってきたんだろうが」

「だったら断れないって? お人好しねー、圭ちゃんと似てる」

「俺はお前と違うからな」

「あはは、じゃあこれ私のメアド」



南つばさはメモ帳の切れ端を渡してきた為、俺は受け取る。なんだ、前もって準備してきたのか。しかし、アドレスとはかえって助かったな。SNSや携帯の番号よりかはこっちの方が都合が良さそうだ。





「分かってると思うけど私の連絡先、誰にも教えないでよね」

「教えねぇよ」

「まぁ、万が一流出しても良いように、SNSじゃなくてメアドにしておいたんだけど」

「俺もこっちの方が都合が良い」

「なんでよ」

「お前とSNSで繋がってたら外野が面倒臭そうだし」

「あはは! 分かってるわね」




南つばさは朗らかな様子で笑っている。圭の格好している時にも思っていたが、こいつは思いの外よく笑う奴だ。





「じゃあ今夜にでも、メール送ってきなさいよ」

「今夜かは分からん」

「今日中にメール送らなかったら、明日から廊下ですれ違うたびに、あんたに笑顔で手を振ってやる」

「それはマジでやめろ」

「なら送ることね」

「分かったよ」




そんな事されたら、こいつの事が好きな連中に後ろから目を付けられて刺されること確定だ……。例えば信道とか、あと信道とか、それに信道とか。





★☆★☆★☆★





授業が終わった。外はまだまだ日が高い。なんだかすげぇ長かったな今日は……。俺が早々に帰ろうとすると、信道が言う。



「恭二……一緒に帰ろうぜ」

「お、おう……」




やっぱりか……。正直かなり面倒くさいが、付き合わざるを得ないだろう。信道からしたら色々と青天の霹靂だろうしな……。そして俺たちは二人で教室を抜け、下駄箱へと向かう。




「久しぶりだな、二人で帰るの」

「お前がいつもバイトだっつって先帰るからだろ」

「そういやそうだったな」

「あぁ」

「悪いな、今日。色々と聞いちまって」

「……別に気にしてねぇよ」





意外だった、てっきりまた詰められると思っていたが。俺はなんだか小っ恥ずかしくて信道の顔を見れない。




「いやまぁ、色々と冷静に考えたらさ……圭ちゃんがお前に惚れてる事もむしろ親友として誇るべきかなって思ったわけよ。たとえそれが俺の好きになった相手でもさ」

「……」

「恭二の良い所は親友の俺が一番分かってるしな」

「信道……」

「圭ちゃんの事、ちゃんと大切にしてあげろよ」




昇降口に着いた俺たちは下駄箱で靴を履き替えつつ、




「いや、だから付き合わねぇって……」

「は、まじかよ。あっちは恭二にゾッコンだそ」

「何回も言ってるけど、圭はただの友達だっつの」

「かぁー! 草食系だなぁ恭二は!」

「恋愛感情のない相手と付き合う事が肉食なのか」

「あんな可愛い子と付き合えるチャンスなんて、もう二度とないかも知れねぇぞ。恭二」





そして俺たちは外履に履き替え揃って校舎を出ようとした矢先、





「ちょっと川島!」

「げ! 玉井ちゃん……」





色付き始めた日差しを浴びながら、面前にひとりの華奢な少女が立ちはだかり信道に、



「日直の仕事!」

「あ……え……えっと……」

「またさぼろうとしてるんでしょ! 今日は絶対に逃がさないからね」





はは……いつも通り甲高い声だなぁ……。俺は呆れつつ彼女を見る。みんなの模範となるようなきっちりとした制服の着こなし。正義感の強さが滲み出た大きな瞳。ヘアピンでサイドに留めた前髪。セミロングヘアの両サイドを太く、それでいてゆるく結った三つ編。そう、我らが3組の学級委員、玉井ゆい。てかこいつの三つ編み、結構似合ってるな。




「ま……待ってよ玉井ちゃん……。俺、今日バイトなんだって」



嘘つけ……。超嘘ついてるよこいつ。信道の嘘を密告しようとも思ったが、それも面倒な選択だと思い、俺は何も口を出さないことにする。すると玉井は怒った表情と共に拳を握り締め、その拳を地面に向け強く伸ばしつつ、




「日直の日はバイト入るの遅らせるって前に言ってた!」

「その予定だったんだけど、バイト仲間の親が倒れちゃったらしくて、急遽その代わりなんだって」

「そ……そうなの……?」




信道の嘘に、玉井の顔から怒りが抜けていく。その小さな背も相まって自然と上目遣いになりながら信道の事を心配そうに見つめている。相変わらずの性根の良さだな……。そう、我らが3組の学級委員は良い奴でしかもわりと純粋で騙されやすい所がある為、良い意味でクラスメイトに舐められているのだ。

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