体育と、熱中症と、看病
幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。
本日、俺は体育の時間に熱中症になってしまい、保健室に来ていた。
保健室の先生は仕事があるらしく、俺を保健室のベッドに寝かせてもろもろの処置をしてからはいったん席を外している。
だるくて、頭がぼーっとしていて、しかし眠ることもできなくて……そんなときだった。
「犬飼君、起きていますか?」
「紗雪?」
閉められたカーテンの向こう側で紗雪の声が聞こえて、返事をする。
すると、ゆっくりとカーテンが開けられて心配そうな彼女の顔がひょこっとこちらを覗いた。
「聞きましたよ。サッカーの途中で熱中症になっちゃっって。ちゃんと水は飲んでいましたか? 塩飴は?」
「文字通り、熱中してて、熱中症になった。飴は……用意されてたっけ」
「先生が熱中症対策で用意してましたよ。気づいてなかったんですか? もう……でも、冗談を言う元気はあるみたいですね。ちょっと安心しました。じゃあ私は……犬飼君?」
俺を安静にさせておきたいからだろう。帰ろうとした紗雪の腕を思わず掴んで引き留める。
「俺がいないの、気づいたのは、さっき?」
なんとなく、寂しくなってしまったのだろうか。弱って人恋しくなったのかもしれない。そうとしか考えられない。
「……こっちはバドミントンだったんですけど、終わって帰ってきたら犬飼君がいなかったんです。すぐに気づいたので、こうしてお昼休みに会いに来てるんです」
「そんなに早く気づいたんだ」
「当たり前じゃないですか。いつも目で追って……あ、今のなしです。なし!」
慌てて顔を覆う彼女に、少しだけ元気が出て笑う。
くるみと添い寝するときはぬくもりを求めてくっつくが……今は。
「紗雪、手、額に当ててほしい。五分だけでいいから、ここにいてほしい。そしたら、眠れる気がする。俺、くるみとか、人の気配がないと眠れないんだ」
「そ、そうですか。分かりました。それなら犬飼君がゆっくり眠れるように、しばらくそばにいますね。早退の連絡はしますか?」
「一時間くらい……寝たら、多分大丈夫」
「分かりました。先生にはそう言っておきますね」
「うん」
額に乗せられた紗雪の手が冷たくて心地良い。
「ありがとう、助かる……」
「もちろん、いくらでも助けますよ」
優しい声に目を閉じる。
「えへへ、犬飼君が頼ってくれた」
彼女の喜ぶ声を最後に、いつのまにか俺は眠りに落ちていた。




