香りと、風呂と、先延ばし
幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。
「あの、犬飼君……その、犬を吸うのも……やっぱりするんですか」
そして今日も性懲りも無く、紗雪は俺の家へやってきたのだった。こいつ本当に懲りないな。俺のことをなんだと思ってるんだ。
「するよ?」
躊躇いなく答えると、紗雪はほっぺたに両手を当てて顔を赤くした。なんでだよ。自分がされる想像でもしたのだろうか?
猫を吸う人間が世の中にいるように、もちろん犬を吸う人間も存在する。特に洗い立てのくるみをタオルで拭いてあげながらぎゅーっと抱きしめると、すごくいい匂いがするのだ。
自分の飼っている子の匂いが嫌いな飼い主なんて存在するのだろうか?
そんな親バカ思考を展開しつつ、このあと起こることを予想する。うん、どう考えてもいつものように張り合ってくるんだろうな、紗雪は。
「あ、あのあのあの……わ、私はどうでしょう?」
「洗い立ての匂いを吸えって?」
「へ? あ、洗い立て……? こ、これからお風呂に入って、君のシャンプーを使って君色の匂いに染まって来いって言うんですかぁ!?」
「いやそこまでは言ってないじゃん」
「あっ」
自爆した紗雪は、さすがにそれをするのは難易度が高いと思ったのか首を振る。まあ、そりゃそうだ。まだ付き合いたてだし……そんなの早いでしょ。
「えと、えっと、どうしよう……! きょ、今日のところはっ、引き分けということにしておいてあげます! く、くるみちゃんっ! 次は絶対に追いついてみせますからね!」
「あ、おい、ちょっと?」
喧嘩を売られたくるみはというと、意味が分かっておらず首を傾げてただただ紗雪に甘えに行く。しかし、その魅惑のもふもふに触れるという誘惑へ抗った彼女は、そのままカバンを持って帰宅していってしまったのだった。
見事な捨て台詞だったよ……。
でもあれってさ、そのうち実行するってことだよね?
俺、『そのとき』がきたら心臓止まっちゃうのでは?
俺が紗雪に萌え殺されて、その日が命日になるのも遠い未来じゃない気がする……。
急募: 萌えに強くなるよう、心臓を鍛える方法。




