膝と、からかいと、はじめての……
幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。最近は毎日家に来ると、俺を弄んでから帰るのだ。
「あの、紗雪……この状態はいかがなものかと」
「なにがいけないんですか?」
紗雪はくるみを膝の上に乗せて可愛がっている。それはいい、それはいいんだ。しかし、それは俺の膝の上で……だ。
座っている俺の膝の上にスカートの紗雪が乗り、さらにその膝の上に飼い犬のコーギー……くるみを乗せて可愛がっている。
いけないわけじゃないけど、勘弁してほしい。
というか、この状態だと役得感よりも足が痺れていく感覚のほうが恐ろしくてまったく嬉しくない。彼女が膝の上に乗るなんて素敵なシチュエーションだとは思うが、軟弱な俺ではこの幸福は三分も持たないのだ。
「やばいから……紗雪、どいてくれ」
「おやおやー? どこがやばいんですかぁー?」
紗雪はそう言うと、わざとらしく色っぽい表情を作って顔を近づけてくる。あの、そういうやばいじゃなくて! 悪いけど足が痺れてやばいんだってば!
そういうからかいをしてくるのはなんか嬉しいけど! それと! これとは! 別なんだよ!
「ま、待って紗雪。今動かないで」
「犬飼君ったらぁ……ふふふ、苦しそう……か、彼女だもんね、私。ほういうこと、したい? くるみちゃんとでは絶対にできない、こと」
お前それ言ってて恥ずかしくならないの? なんて口が裂けても言えない。言葉攻めでもしているつもりか? いや、本当やばいって。足がっ、足がっ。
「ちょっ、だからどいてくれって。やばい」
「え〜?」
紗雪が身をよじるたびに痺れた足が刺激されて涙目になってくる。いつも泣き虫な紗雪に、逆に泣かされることになるなんて……。
「そんなに私が好きですか?」
それは当たり前!
でも、今は一刻も早くどいてほしい。このままでは、足が痺れて泣き出した彼氏とかいう不名誉な称号がついてしまう!
あ、そうだ。これなら紗雪も素直にどくだろ。
「ふふふふ〜いい眺め……っぴ!?」
ただでさえ近い顔に、ぐいっとこちらからも近づけて頬に軽く触れるように唇を落とす。それだけでみるみるうちに顔を真っ赤にした彼女は、くるみを抱きかかえてぴゃっと飛び上がりながら逃げていった。
危機をようやく脱してため息を吐く。
……よく考えれば、頬にしたとはいえこれ、ファーストキスでは。
「……」
「……」
くるみだけは俺達の間を行ったり来たりして楽しそうにしていたが、このあとはお互いに気まずい時間を過ごしたのだった




