ボール遊びと、課題と、消しゴム拾い
幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。それは学校でも変わらないようで……。
「犬飼〜、昨日の見たよ! くるみちゃんとデートしたんだって? しかも一緒にボール遊びまでしちゃって!」
「いいなー、うちのはボール遊び好きじゃないから、投げてもキョトンってするだけなんだよね」
「ああ、犬スタ見てくれたんだ? さんきゅー。うちのくるみ可愛いだろ」
昨日アップしたのは公園のドッグランでボール遊びをする動画である。
紗雪と一緒に散歩をしに行った公園で、取ってこーい! の遊びをしたのだ。くるみは遊んだり走り回るのが好きなのでボール遊びも大好きだ。
犬を飼っていない人にとって犬とボール遊びをするのは新鮮だったようで、昨日の紗雪は頬をほんのりと赤く染めて嬉しそうに何度もくるみと遊んでいた。
そのときに、俺とくるみがボール遊びをしている姿を紗雪に動画に撮ってもらったのだ。
「動画もいいよな。投げられたボールを取ってくるのにお尻がぷりぷりしてて、見てるだけで癒されるわ」
「着眼点が変態のそれでは」
「うちのくるみに変態は近づかないでくれます?」
「今ここにくるみちゃんいないだろ!」
時間は昼休み。
こうして俺が犬好き仲間と共に盛り上がっていると、机の前で制服姿の紗雪が立ち止まった。課題を集めて回っているらしい。いつもいつもご苦労様なことだ。
昨日の話題ということもあり、気になってこちらに来たという可能性もなくはないが……。
「皆さん、課題を集めてるので出してください。このあと提出しに行きます」
「おー、いつもありがとなイインチョー」
「よくそんな面倒なことやれるなー。さんきゅー」
「当然のことですよ。成績にも影響なくはないですし」
仲間の言葉にはクールに返す紗雪だが、視線はこちらを向いたままだ。この表情は……うーん、どう考えても誉められ待ち。
「皆がやりたがらないことをやってくれてるのはすごいよ、紗雪。いつもありがとう」
「と、とと、当然のことですから!」
笑いかけると紗雪は顔を真っ赤にして腕に積み上がっている課題をギュッと抱きしめるような動作をした。しかし途中でハッとして力を緩める。持っているのは自分のノートだけじゃないからなぁ。えらい、えらい。
「ッチ、リア充め。祝ってやる」
「盛大にな!」
「そこは呪うじゃないのか」
横で生暖かい目をして笑ってくる友人達はさておいて、彼女が健気に頑張っていることだし、手伝いでもしようかな。
「紗雪、手伝う……あっ」
男女でノートを分けて持っていったほうが先生も楽だろう。そう思っての提案だったが、立ち上がったときに膝が当たり、机の上に置きっぱなしだった消しゴムが床に落ちていった。
床に一度当たって、あらぬ方向にテーンッと飛んでいく消しゴムに、手を伸ばすものの取り逃がす。視線で思わず追うと、机の上にドサリと積み上げたノートを置く音がして、次の瞬間には紗雪が消しゴムを追いかけて行った。
跳ねて変なところにいった消しゴムを手に、紗雪が戻ってくる。
「はい、犬飼君」
これ以上ないくらいのドヤ顔だった。
消しゴムの追いかけっぷりは素早くて、しかもちょっと姿勢を低くして向かったものだから、頭の中にくるみがボールを追いかける光景がよぎったくらいだ。
こいつ……さては、またくるみと張り合ってるな?
気がついた俺は、そんなところが好きだなあと思いつつ消しゴムを受け取る。
「ありがとう、紗雪。よしよし、えらいぞ」
「はぇ……?」
あっ、普通に頭を撫でてしまった。
途端に紗雪は顔を真っ赤にしてほっぺたを両手で抑える。
「あ、あー……えっと、紗雪、課題集めるの手伝うよ。男子の分をこっちに寄越してくれ」
「え? あ、うん! あ、ありがとうございます……」
照れている彼女から目を逸らして誤魔化しつつ、当初提案するつもりだったことを言って、さっさと課題を集めることにしたのだった。
「かーーーー、ノロケかよ。砂糖吐きそう」
「自販機にブラックコーヒーでも買いに行く?」
「んじゃ、じゃんけんで負けたほうが行くってことで」
「そーしようか」
友人達がそんなことを言いながらじゃんけんをはじめる。
……なんか、ごめん。




