夏祭りと、待ち合わせと、浴衣
幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。
今日は夏祭りの日である。
結局くるみも連れてくることになったので、俺は簡単な甚平とお散歩グッズ完備だ。紗雪と決めたのは、お互いどちらかがくるみのリードを持って神社の外に待機し、片方が屋台を巡って食べ物を買って帰ってくるという形だ。
金魚掬いや射的。色々と食べ物以外にも祭りの楽しみはあるが、紗雪は「くるみちゃんと一緒がいいです」と柔らかく微笑んで首を振った。食べ物だけでいいらしい。
それに、俺もいるから……と。嬉しいことを言ってくれる。
くるみを連れて神社の近くで待っていると、いろんな人が通り過ぎて祭りに参加していくのを見送ることになる。俺はそれを腕を組んだ状態で目で追いながら、紗雪が到着するのを待った。
とーぜん、彼氏として俺は待ち合わせよりも早い時間に来ている。くるみのトイレは事前の散歩で先に済ませてあるし、ある程度の時間は祭りに水を差すようなことにはならないはずだ。
待ち合わせ場所にお互いが来たら、もっと目立たない場所まで移動するつもりもある。
ちなみにくるみ用のおやつもいくつか持ってきているので、二人だけで食べて飲んで楽しむなんてことはない。三人一緒じゃないと意味ないからな。
「くぉん」
それから、今回の祭りは最後のほうに花火も打ち上がるというベタなやつだから、神社から少し離れた人気のない穴場ってやつでひっそりと二人と一匹で花火を見るつもりだ。
事前に下調べしてある。ただし、本当に二人きりになれるとは限らない。穴場を求めるカップルなんて掃いて捨てるほどいるからな……自分達もそれに該当すると思うと、複雑だが。
「犬飼くーーーん!」
「お、五分早い」
俺が待ち合わせ場所に来たのは待ち合わせ時間の十五分前である。
紗雪も五分早く着いたので、お互いに早めに来たことになる。女の子は浴衣の着付けもあるだろうから、もっと遅くなると思っていたが……あいつも真面目だな。
「可愛いな」
「あっ、ほ、本当ですか? えへへ……嬉しいです」
ショートの黒髪に髪飾りをつけて、赤縁メガネなのはいつもと変わらず。白を基調にした浴衣には赤い牡丹の花が咲き乱れ、色鮮やかだ。下駄をカラコロと音を立てて駆けてくるのも、小さな巾着をぎゅっと握って持ち歩いているのも、なにもかもが可愛い。
この祭りの会場にいる誰よりも、紗雪が一番可愛いだろうという自信があった。
……彼氏バカかもしれないが。
「それじゃあ、いったん裏に行こうか」
「はい! 私がくるみちゃんを預かっておけばいいんですよね」
「そうそう。なに食べたい?」
そんなことを言いながら、俺達は移動するのだった。
明日の更新で盛大にお祭りの話を書いて完結にしておこうと思います。
頑張れば季節ネタで延々と続けられそうなので、またいつかひっそりと再開するときが来るかもしれません。
そのときはまた、よろしくお願いします。




