ひぐらしと、風鈴と、まどろみ
幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。
空一面がオレンジ色の夕焼けとなっていて、外でひぐらしが鳴いている。
軒先からは、風鈴の涼やかな音が聞こえてきている。風鈴が鳴るということは、つまり風がそこを通過していったということ。
「このあたりは涼しい……な」
応える声はない。
仰向けになったまま隣を見ると、クッションを枕にして紗雪が体を丸めて眠っていた。その近くには同じように体を丸めて眠るくるみの姿もある。
二人ともまったく同じ格好ですうすうと寝ているものだから、思わず笑って体を起こす。スマホ、スマホはっと。
テーブルの上に手を伸ばして、自分のスマホを取ってから二人の格好を撮影し始める。何枚か写真を撮って、一番可愛く、そして綺麗に撮れたものを彼女にも送信してあげるのだ。またアルバムを作るとか言っていたことだしな。
「にしても、寝てる格好まで一緒なのは笑う」
無意識のうちなのか? それとも一人と一匹が似たもの同士なだけなのか? 真横を向いてぴぃぴぃ鼻音をたてながらくるみが寝ているのに対して、紗雪は同じ格好ですぅすぅと小さく寝息をたてている。さすがにくるみほど派手に鼻は鳴らしていないが、寝ている姿だけならそっくりだ。
「ふつー、飼い主の俺とシンクロするもんじゃないんですかね、くるみさん」
「ぷぅ」
タイミングよくくるみの鼻が鳴った。鼻息で返事をしたみたいだ。
ま、いいか。最近は紗雪とくるみの仲の良さは増しているし、どうせ家族になるのである。紗雪もくるみの飼い主みたいなもんだ。
チリーンと風鈴が鳴って、涼しい風が頬を撫でる。
窓を開けて網戸にしてある部屋の中は、夕方になるとほどよく涼しくなってひと眠りをするにはいい場所だ。窓際なんて特にそう。紗雪達の気持ちは分かる。
「今度の夏祭り……一緒に行くときはなに着ていくかな」
もうすぐ夏祭りがある。もちろん二人で行く約束はしているけれど、俺は服装に悩んでいた。普段は夏祭りに行くとしてもただの私服で行くから、あまり悩んだことはなかったけど……甚平とか、着てきたほうがいいのかなぁ。紗雪は浴衣用意してるみたいだし。
「あとは、くるみをどうするか……」
夏祭りはそこそこ混雑するし、神社の中に食べ物の店が出るので犬を連れて行くのは気が引ける。しかし、どうせ行くなら三人一緒がいいと考える自分もいて……。
「あとで、二人で決めるか」
隣俺の隣で無防備に、そして気持ちよさそうに寝ている紗雪の頬に手を伸ばす。耳のあたりにさらりと流れた黒髪をゆるく撫でると、彼女は眠ったまま頬を擦り寄せてきた。こうして見ると、こいつも犬みたいだ……なんて思ってしまう。
「もう少し寝かせておいてやるかぁ」
風鈴の音を聞きながら、俺はくありと、あくびをするのだった。




