夏と、待ち合わせと、イメチェン
幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。
それはもはや日常の一コマだ。
じーわ、じーわとセミが鳴いている。伴侶を探して必死なことだ。あまりに鳴き声が大きいものだから、ちょっと苦手である。というか、結構嫌いだ。不快感あるし……まあ、夏だなって気分にはなるが。
「まだ、か」
体育で熱中症になったりすることもあったが、夏休みに入ってますます気をつけないとと思う。プールの授業もあったが……散々からかわれたりしたから、そっちはノーコメントで。
照りつける陽が暑い。
けど、俺は氷の入ったアイスティーをたしなみながらじっとひとつ所で留まっている。店先のテラス席。待ち合わせの場所だ。
よく冷えたアイスティーも十五分もすれば氷が溶けていくもので、注文したバニラアイスも早めに食べてしまわなければ溶けきってしまう。
あいつはまだ来ない。
「タピオカ、好きだっけ」
あとちょっとで着くよと連絡があってからしばらく……待ちぼうけを食らっている俺は、ぬるくなったアイスティーと帽子を席とテーブルの上に残してカウンターへ向かう。
こんなに暑いテラス席に来ようとする人なんてあんまりいないと思うが、念のため席取りはしておかないとな……と。
店内に入ると、途端に冷たい空気が肌を撫でる。
そもそも扉自体が冷たくなっていた。外と中でのギャップがありすぎて、一瞬クシャミをしそうになる。危ない危ない。
「さむっ」
でも、さすがにクーラーがききすぎだと思う。これじゃあ温度差がありすぎて凍えそうだ。
「ご注文は?」
「アイス抹茶ラテ、タピオカ入りのやつ二つ」
「はい、お値段は……」
値段を聞きながらしながらふと外を見ると、遠くからこちらに小走りで向かってくる幼馴染の姿が見えた。
「これで」
「ちょうどですね」
慌てて小銭をトレイに置いて、注文した品を受け取る。
どうやら、かなりタイミングがよかったらしい。
あわあわと二つの抹茶ラテを手に持ちながら、外のテラス席に出る。
今度はむわっと息苦しい空気に迎え入れられた。全然嬉しくない。
「犬飼くーーーん!!」
でも、外からテラス席に入ってくる幼馴染に迎え入れられるのは嬉しい。
「ちょうどよかった。はい、暑かっただろ」
「今も暑いままですけどね!」
パタパタと手で自身をあおぎながら、紗雪が微笑んだ。
そして抹茶ラテを受け取って目を輝かせる。
「タピオカ!」
この、目の前の女子高生の中からは、いまだにタピオカブームが去らないらしい。喜んでくれたので、俺も笑って席に座る。帽子をテーブルからどかし、反対側の椅子に座った彼女がラテのストローに口をつける。
ごくりと動く喉元に思わず目を奪われていたと気がついて、慌てて視線を逸らす。彼女の肩の辺りで切り揃えられた綺麗な髪は、見事な『胡桃色』になっていた。
「似合うよ」
「えへへ、ありがとうございます。このあと、くるみちゃんとご一緒に写真を撮ってもいいですか?」
「もちろん」
デートってやつには、暑さ寒さが関係ない。
「俺らはこれからデートだもんな」
「? ……そうですね?」
突然なにを当たり前のことを言い出すんだ、みたいな目で紗雪が見てくる。
言えるはずないだろ。
さっきまで不快に感じていたはずのセミの鳴き声に、ちょっとした優越感を覚えた……なんて。
「なんでもない」
「そうですか?」
「うん」
セミはいつまでも鳴いている……。




