夏休み前に髪染めの相談と、ひまわりのような笑顔
幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。
それはもはや日常の一コマだ。
「犬飼君、犬飼君」
「なんだ?」
今日も黒髪ショートの幼馴染がこちらにやってくる。
俺を見かけるとすぐに嬉しそうにして駆け寄ってくる辺り、とても犬っぽい。なんというか、わんこ属性? 本人には絶対に言わないけれど、なんだか微笑ましいので好きだ。
今日もいつも通り、なにかくるみと張り合おうというのだろう。
今度はなんだ? 毎度のことなので楽しみになってから俺がいるのだ。どれだけバリエーション豊かに、犬に対して張り合ってくるかっていうのが……。
そうして彼女の言葉を待っていると。
「私、髪染めようと思います」
「ぅえっ!?」
驚きすぎて変な声が出た。
「イインチョの紗雪が!?」
「言っておきますけど、私委員会には属してますが別に委員長ではありませんからね?」
「いや、イインチョ呼びはイメージ……じゃなくって、え、本気で言ってる?」
「私は本気ですよ! 長期休みになりますからね、ちょうどいい機会にやってみようかと!」
「へ、へえ……」
確かにそろそろ夏休みになる。
しかし……意外だ。なんだかんだ真面目だから、そういうのは絶対にやらないタイプだと思っていた。
「私だって多少はイメチェンしてみようと思ったりもします。それに」
「それに?」
「くるみちゃんの、ふわふわの茶色い毛並み……可愛くていいじゃないですか……あんな風にくりくりのふわふわな髪にしてみたいなって……」
「そうか」
「そうしたら! 犬飼君にも、もっと撫でてもらえると思いまして! くるみちゃんみたいに!!」
って、結局張り合ってるだけかい!!
「あー、そんじゃ、こうしよう。イメチェンしたら、真っ先に俺に見せること。一番は俺で。いいかな?」
「そ、それは……美容院で髪を染めてもらうとき、美容師さんは女性を指定しないといけないやつですか……? 私、予約の電話口で細かい注文する勇気が……!」
細か! そこまではちょっと考えてなかったな。
紗雪はぐるぐると手を回しながら「どうしよう」と呟いている。いや、無理するなよ?
意外と人見知りするやつだし、無駄に緊張してしまうよりは安心させてやったほうがいいだろう。別に美容師の性別は気にしてないし……そこまで嫉妬深くないよ。
「あー、そこは別にいいや」
「へ?」
「要するに、髪を染めたあとは一緒にご飯でも食べようってことだよ。言わせんな恥ずかしい」
本当は、髪を染めたあと家に来て欲しいって意味だったが、こいつのことだから「お家に行くまでパーカーかなにかで隠さないといけませんか!?」みたいなことを言ってきそうだ。先回りをして変なことを言わないよう封じておく。
「髪、染めてもいいんですか……?」
「ん、夏休みの間だけだろ?」
「は、はい」
しゅんとした表情で紗雪がこちらをうかがう。
もしかして嫌われるとか、真面目なやつなのに染めるなんて変だとか、そんなことを言われるとでも思っていたのだろうか。
そんなこと、あるはずないのに。
「なら問題ないだろ。オシャレだよオシャレ。休みの間くらいパーッと楽しんだっていいだろ。学校の先生は見てないんだし」
俺が言えば、紗雪はみるみるうちに花が咲いたように笑顔になり「はい!」と元気よく返事をした。
……夏休みか。どこか、デートにでも誘おうか。
ひまわり畑とかどうだろう。彼女の笑顔を見たら、そう思った。




