風呂と、くるみと、ドライヤー
幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。
そして、現在は俺の家にお泊まり会の真っ最中である。
俺の死因が『萌え』になる日はすぐそこに近づいているかもしれない。
「犬飼君、お風呂いただきました〜! って、部屋の真ん中でなにしてるんですか?」
部屋で一人、あぐらをかいて瞑想していたときのことだ。
扉が開いて紗雪がひょこっと顔を出してきた。隣の部屋を貸しているので、そっちに帰ってくれればそれでよかったのに……振り返ると、パジャマ姿で肩にバスタオルをかけ、風呂上がりで湿った髪をそこにおろしている紗雪がいた。
風呂上がり。
そのシチュエーション。
正直心臓に悪いので早めに自分の泊まる部屋に帰ってほしい。
「瞑想してた」
「ふーん、瞑想…………えっ、瞑想?」
二度見されるように二度聞きされた。
首を傾げる仕草に、風呂上がりで頬のほてった顔。たまらなく可愛いけれど、今はちょっとやめてほしい。可愛い故に、俺の命日が今日になりかねない。
頑張って目を逸らして視界から外すと、紗雪がどことなく不満そうに息を漏らした。
「わふん!」
俺が目を逸らし、紗雪がガン見してくる。
そんな状態でいると、俺の部屋で寝ていたくるみが起き出して紗雪のほうへととんでった。
「きゃっ、くるみちゃーん! 今ちょっと濡れ濡れだからダメですよ〜」
変な言いかたをするのはやめなさい。
「あっ、そうだ!」
すっかり懐いたくるみを、これまた慣れたように転がしてお腹を撫でている紗雪がこちらを見る。やめろ、見ないでくれ。俺はまだ死にたくない。
「前に言いましたよね! くるみちゃん、犬飼君にシャンプーしてもらったらドライヤーで毛を乾かしてもらってるんですよね! 私にもやってほしいです!」
どうやら俺の命日は今日に決まったらしい。
「……いや」
「やるの? やらないの? どうします?」
最後の抵抗で嫌だと言おうとしたら、畳み掛けてくるように紗雪が俺の顔を覗き込む。ちょっ、いつのまにこんな近くに来たんだ!?
「やらせていただきます」
だが、俺の口は己の欲望に忠実だった。
明日が来るかどうかとは俺の忍耐にかかっている。
命日になりませんように……いやマジで。




