カットと、約束と、外見の変化
幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。
「犬飼君」
今日もほら、休み時間に話しかけてくる。当たり前になった日常だ。
「どうした?」
「あ、あの、昨日アップしてたくるみちゃんの画像見て気づいたんですけど……毛、カットしたんですか?」
「おお、そうだよ。あんなに微妙な変化なのによく分かったな」
「ほ、ほぼ毎日見てますし……私もくるみちゃんのことは好きですから」
「そっかー、ありがとな。そう言ってもらえると嬉しいよ」
休日にくるみを連れてシャンプーと毛のカットをしてきたのだ。元からコーギーはそこまで毛が伸びない犬なので、そんなにカットする必要はないが、毛の生え替わりの時期などは軽く整えてもらったほうがいいと思って連れて行っている。
トイプードルとかならカットの仕上がりにも種類が複数あって面白いんだろうが、くるみは短く整えるだけだ。
綺麗なお姉さんにシャンプーで洗ってもらっている様子を、ガラス越しに店の外から見ることができるのだが、その場面を覗くとすごく気持ち良さそうにしている。家でやるときよりも、やはりプロの人の洗いかたが上手いからだろう。
「犬も、毛のカットをする場所があるんですね。あまりそういうのは詳しくなくて、その」
「動物の美容師さんのことは『トリマー』って言うんだぜ。今度一緒に行ってみるか? 送り迎えするだけだけど」
「は、はい! ぜひに!」
興味があるようでなにより。
紗雪も、くるみの微妙な毛の変化に気がつくほど大切に思ってくれているらしい。最近はくるみと絡むことも増えて、ますますもふったり、おっぴろげられたお腹のもふもふに顔を埋めたり……端的に言えば、動物の沼にハマったような行動が増えているため、気に入ってくれているとは思っていた。
だが、まさかこんなに微妙な変化も分かるくらいだとは……。
ますます、くるみには長生きしてもらわないとな。俺達二人の…………には、くるみにも見てもらいたいし。って、気が早いか。
「じゃ、約束な」
「ええ、約束です!」
周囲からの「ケッ、リア充が」みたいな視線が不思議と気にならない。
俺と紗雪、二人でゆびきりげんまんをして笑いあった。
◇
「おはようございます、犬飼君!」
「おっ、紗雪前髪切った?」
「……っ!! 分かりますか!!」
めっちゃ嬉しそうである。
こいつのことだから、くるみのカットの話をしたら自分もしてくると思っていた。案の定、分かりやすい奴め。
予想こそしていたが、ちゃんと外見の変化には気づくことができた。
案外分かるもんだなあ。それだけ、こいつの顔を何度も見ていると言うことなのかもしれない。
「まーた張り合っちゃって。くるみみたいに俺がシャンプーしてやろうか?」
「そ、それはさすがに恥ずかしすぎるので無理ですぅ!!」
「ごめんごめん」
「ま、マニキュア塗るの手伝ってくれたら許します!」
「はいはい、仰せのままに〜」
分かりやすくて素直なのは美徳だが……。
紗雪、詐欺にあったりしないだろうか。俺はその辺、すごく心配だよ。




