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やたらとペットの犬(※ コーギー)に張り合ってデレてくる幼馴染の紗雪さん  作者: 時雨オオカミ
『彼女な幼馴染がペットの犬に張り合ってくるんですけど!』

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過去と、勘違いと、余計なお節介

 幼馴染の譲羽(ゆずりは)紗雪(さゆき)は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。


 そんな彼女だが、前は飼い犬のくるみの話を擬人化して自慢する俺に『彼女がいる』と思い込んでいた。


 それは、犬好きの仲間内でやる『飼い犬を擬人化した表現で、犬という単語を出さずに自慢するゲーム』を偶然聞いてしまったところから始まった勘違いであり……俺達がこうして付き合うことになったきっかけでもあった。


 急にスキンシップが多くなったり、弁当を作って来たり、さりげなく『くるみ』について探りを入れて来たりと、当時の俺はどうして彼女が変な勘違いをしていることに気づかなかったのか、不思議なほどに紗雪はアプローチしてきていた。


 結局は俺に彼女なんていないし、なんなら紗雪と両片想いしていたことが発覚したので結果オーライということになったが、彼女がダメ元で告白してこなかったら、きっと一生俺達はすれ違ったままだったと思う。


 それこそ、紗雪の諦めがよくて、次の恋でも探し始めるだけで破綻するような……そんな曖昧で不安定だった幼馴染との恋。


 彼女の諦めが悪かったおかげで、鈍い俺でもどうにか気づくことができた。気づけなかったらと思うとゾッとするくらいだ。


 ある日のこと。


「いやいやでもさぁ、それ紗雪。もし犬飼に本当に彼女がいたらどうしてたんだろーね? だって、彼女がいるって思ってんのに粉かけにいくとか、浮気とか寝取り狙ってるようなもんじゃね?」

「え」


 急に俺達が接近し、そして付き合い出したために『きっかけ』というものを気にする人は当然出てくる。


 この日、紗雪は委員会で遅くなるというから教室で終わるのを待っていたときだった。いわゆるクラスの中心的な存在のギャル系女子から付き合ったきっかけを聞かれて、面白おかしく話した後の言葉だった。


「……そうかな? 紗雪にそんな発想なかったと思うけど」


 紗雪というやつは頭の良さは確かだが、天然気味のボケ属性なので、実はあまり深く考えて行動しているわけではない。それは俺がよく知っている。でも、ギャル子……相澤さんの言葉にはちょっとだけチクリと心が痛んだ。


 俺が紗雪を疑うことはない。心が痛んだのは、彼女が周りからそう思われているんじゃないか? そうだったら嫌だ。どうしようと思ったからだ。


 誰だってそんな風に思われていたら、嫌だろう。なるべく紗雪の耳に入らないようにしておきたいから、俺ははっきりと相澤さんに「紗雪はそういうことをする子じゃないよ」と答えておく。


「でも、状況的にはそうじゃん? そこんとこ、犬飼はどーなわけ?」

「だから、俺はあいつのこと疑うことはないって」


 犬といちいち張り合うような子が、そんな狡猾なことを考えて実行するような一面があったらギャップどころの話ではない。というか、だからあいつは賢そうに見えてても、ただのポンコツ女子だっての。


「あーしが紗雪に聞いておこーか?」

「それは絶対やめろ」


 そんな疑いを持たれていること自体、紗雪には知ってほしくない。しかも俺が不安に思って相談したとかならともかく、相澤は完全に面白がって俺達の仲を引き裂いてやろうって感じの嫌な笑いかたしてるし。

 面倒な奴に絡まれちまった。こういうときの対処法は……っと。


「いや、それにしても寝取りとか、そんな発想まるでなかったからびっくりしたよ。相澤さんって想像力豊かなんだね」

「は?」

「普通に勘違いして、ちょっとすれ違って、若干抜けてる紗雪が猪突猛進気味に焦って告白してきたってエピソード。犬を彼女ができたと勘違いしてたとか、ただの笑い話として話してるのにまさかそんなこと言われるとは」


 二人の間でも笑い話になっているのだから、他人に話すのは構わない。でも、あいつの犬耳でも見えて来そうな無邪気な笑顔を曇らせるようなことはさせたくなかった。


 紗雪にはくるみと張り合ってバカやってるくらいでいてほしい。


「相澤さんはドラマの見過ぎじゃないの?」

「あんたね、こっちは心配してやってんだろ!?」

「すっげー笑いながら言われて、こっちは心配されてるとは微塵も感じなかったんだけど。まあ、とにかくあいつとの仲なら問題ないから。あ、もしかして学校でくっついてるの……うざかった? なら、ごめん」


 両手を合わせて謝る動作。


「相澤ー、その辺でやめとけ! そのままだと自己紹介乙になるぞ!」


 半笑いで相澤さんを呼ぶ男子の声が教室の外から聞こえてくる。


「だって」

「うっざ」


 相澤さんは不愉快そうにしながらカバンを持って外に出て行った。

 一難は去った……けど、下手に紗雪になんか言われたら嫌だなぁ。


 今度、犬型の防犯ブザーでも渡しておくかな。

 考えていると、廊下から紗雪が駆け込んでくる。


「廊下はー?」

「は、走らない! ごめんなさい!」


 ピタッと止まってから、競歩みたいな勢いで早歩きしてくる紗雪に笑いかける。委員会の教室から走って来たんだろうか? いつもなら息が切れているところが、今は特にそんなことはない。くるみとの長距離散歩が効いて体力がついてきたのかもしれないな。


「え、えっと、そのごめんなさい。委員会が長引いてしまって! お待たせしました!」

「んいや、大丈夫だよ。本読みながら待ってるし。じゃ、帰ろっか」

「はい!」


 机の上に出していた小説をカバンにしまい、紗雪と一緒に歩き出す。


「そうだ、今度紗雪に犬型の防犯ブザーあげるよ」

「なぜ!? 私、そんなに危なっかしく見えますか!?」

「俺が心配だから、かな。クラスメイトでも、同じ学校のやつでも、変な絡まれかたしたら使えばいいし。もちろん不審者にも。ま、だいたい俺が一緒についてるから大丈夫だと思うけど」

「え? 不審者情報とか出てましたっけ……? どうしていきなり」

「んー……少しくらい独占欲出しても許してくれるだろ?」


 ちょっと考えてから言うと、紗雪はぼふんと顔を赤くして俯いてしまった。

 上手いこと例の話についてや、相澤さんから言われたことを伏せて、防犯に(つと)めることにする。


 紗雪には余計なこと考えず幸せでいてもらいたいからな。


「帰り道になんか買い食いでもする?」

「あ、それなら駅前にクレープのお店がありますよ!」

「そっか、ならお腹空いてるしそれにしよっか。どの辺?」

「えっと……せ、説明が」

「ケータイのマップで教えて」

「分かりました!」


 相澤に言われたことは気に入らないけれど、とりあえず紗雪にはどうして俺を諦めずにアプローチしてくれたのかってことは聞いてみようかな。


 純粋に、当時どんな風に『想って』くれたのか、気になるから。

 あのとき俺は勘違いに気づいて、身を引こうとする紗雪を必死で引き留めたものだけれど……果たして、あの決死の『告白』までにどんな葛藤があったのやら。


 駅への道すがら聞いてみようと、そう思った。

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