帰宅と、通話と、二人のいない日
幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。
が、今日は一人での帰宅だ。
家にはくるみもいない。紗雪のご要望通り貸し出している最中である。
くるみの散歩も頑張ってやってくれると言っていたし、心配はいらないはず。
暇になってしまったし、俺はお菓子作りの練習でもしようかな。
「……」
……っは!?
スマホの画面ばっかり見ていて、体が微塵も動かなかった。これではいけない。紗雪に食べてもらうためにクッキーのひとつでも焼けるようにならないと。この前はフルーツポンチで喜んでくれたから、もっと複雑なものも作れるようにならないとな。
………………くるみ、元気にやってるかな。
毎日紗雪が押しかけてきて一緒にくるみを可愛がっているからか、部屋の中が広く感じる。なにか俺がやっていると、すぐにやってきて構えとばかりに頭をごつごつぶつけてくるくるみの姿がないだけで、ものすごく寂しく感じてしまう。
……だめだな。二人といるのが当たり前になっていて、すごく寂しく感じる。
気力をなくしてベッドに座ったままでいると、ブブッとスマホが音を立ててすぐに確認する。
CHAINの通知だ。しかも紗雪から。
『そろそろ寂しくなる頃だと思いますので写真を送りますね!』
写真は、紗雪とくるみの顔が映った自撮りだった。
しかも二人とも雑誌のモデルさんみたいに綺麗に撮れている。自撮りでここまで綺麗に撮れていることにびっくりしつつも、自分の頬が緩むのを感じた。
見事に寂しいのがバレてら。
『寂しいから今度は紗雪が泊まりに来なよ』
白状しつつ、こう言ったらきっと慌てるんだろうなと思う返答を送る。
しばらくして……と言っても数分だけど、返信が来た。
『びっくりしてケータイ落としちゃってました』
『お邪魔していいなら行きます!!』
二個連続の通知に笑う。
やっぱり慌ててたんだ。
『いつでもおいで』
優しい文面になるよう心がけてメッセージを送る。
『行かせていただきますぅ』
画面越しにきっと真っ赤になっているだろう紗雪を想像すると、さっきまでなにをしようと迷ったり、寂しく思っていた気持ちが霧散していた。
『声聞かせてよ』
『あい』
CHAINでの通話を始める。
向こう側からは、引きつったような緊張した声と、ひと声だけ明るく吠えたくるみの声が聞こえてきた。
「紗雪、大丈夫ー?」
「だ、大丈夫です」
「紗雪の慌てん坊なところ好きだよ」
「わわ、私は犬飼君のその、ちょっと意地悪だったり、からかってくるところ……その、好きです」
「そっかそっか」
今日は家には来てくれなかったけれど、電話だけで幸せになることができた。
俺も、くるみに張り合う紗雪のこと、あんまり笑えないな。だって、一日離れただけでこんなに寂しいんだから。
その日は軽く電話で話し合っただけだけれど、彼女との仲はもっと深まった気がする。明日ももっといい日になりますように。




