散歩と、体力と、影法師
幼馴染の譲羽紗雪は、なぜか俺の飼い犬に張り合おうとしてくる。
「い、犬飼君。ちょっと、ちょっとだけ休憩していいですか?」
「ん? 分かった」
ゆっくりと歩いていた足を止める。
待ち合わせをして、紗雪が可愛らしいチョーカーをつけた私服でやってきたはじめてのデート中である。
はじめてのデートが犬の散歩に同行するだけってのもどうかと思うが、紗雪のほうから指定してきたデートスタイルだからな。くるみはまだまだ歩き足りないようだが……ときおりこうして、紗雪からストップが入る。
これで何度目かの休憩になる。くるみのリードを紗雪に預けて、自販機で冷たいお茶を買った。彼女はいつも大体お茶か水を飲んでいるので、ジュースよりはお茶のほうがいいだろう。
「疲れちゃったか?」
「ええ、だいぶ……その、こんなにたくさん歩くことってあんまりなくて」
「そっか、まあ犬は体力あるからなぁ……」
「あの、いつも、どのくらい散歩するんですか?」
「んーと、いつもは大体5キロくらい歩いて帰ってるかな。隣町まで走って一緒に行ったり、林の中に入って走り回ったり、街中歩いてウィンドウショッピングしたりしながらね」
「……今どれくらい散歩してます?」
「半分くらいかな」
紗雪が露骨に「絶望してます」っていう顔になった。
歩いて今、2キロとちょっとくらいなので、あとはゆっくりと別の道を通りながら帰るだけなのだが……できる委員長タイプの紗雪には、歩きとはいえ長時間の運動は結構堪えたみたいだ。
「折り返して帰るだけなら、近道もあるし、このまま散歩コースを全部回るよりは楽だよ。そっちで帰る?」
「犬って運動量すごいんですね。さすがにここまでとは想像していませんでした」
これは紗雪とのデートなのだから、紗雪が疲れてしまったなら彼女を優先にして帰るつもりではある。しかし、まだ彼女はお茶を飲んでいる最中だ。落ち着くまで話題を続けたほうが良さそうだ。
「そうだね、特にコーギーは元が牧羊犬だからか、体力があるんだよ。だから、一日に必要な運動量もそれなりってところかな」
「こんなにちっちゃいのにすごいですね。散歩がいっぱい必要なのはゴールデンレトリバーとか、大型犬だけだと思っていました」
「紗雪とのデートなんだから、紗雪が疲れたならもう帰ろうか?」
このまま帰ろうか? その提案に、紗雪は静かに首を振った。
「くるみちゃんには負けていられませんね。私も勉強ばかりで運動はあまりできないですし、このままではいけないと思っていたところです。体力をつけたいので、犬飼君にはお付き合いいただいてもいいですか?」
「そっか。分かった、協力するよ」
足元のくるみを紗雪が撫でる。
くるみのお散歩コースを完遂するつもりのようだ。
これは、張り合っているのもあるが、多分くるみのためでもあるだろう。
それを「自分のためだから」と言って、俺に提案してくるんだから……可愛くてしょうがないよね。
「休憩とりながら、ゆっくり行こうか」
「はい! おともしますよ!」
時間は夕暮れ時。
自分達の影に視線を向けると、三つの影が仲良く寄り添っているように見えた。




