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コラボノストア   作者: 鈴藤美咲
加純様、ご来店です。
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テスちゃんとクリスタさんとカナコ〈6〉

 テスは、わたしをたくさん助けてくれた。

 テスがいてくれたから、わたしが暮らす世界でお父さんとお母さんに会えた。


 今度は、わたしがテスを助ける番。テスがクリスタの処に帰る為の関門を探すこと。


 この身体が絶対に役に立つ。だって、わたしは……。


 世界と世界の融合(コラボレーション)を誘発させた張本人だからーー。



 ◇=◇=◇=◇=◇



 印象は、インテリジェント。身なりから考えられるのは、軍事関係者。


「おまえさん、仮装行列の時期を間違えたのかい?」


 初対面の相手を“軍人”だと決めつけるには証拠が足りない。街で軍服姿の通行人は見かけるが、通勤と帰宅の時間帯が殆どだった。


 今日は日曜日だが、街で催し物があるとは聞かされていない。

 目の前にいる男は、先程の騒ぎを傍観していた。


 クリスタ・ロードウェイは、タクト=ハインの反応を試すかのように、口を突いたのであった。


「酷い言い方ですよ。でも、疑われるのも仕方ない」

 タクト=ハインは被るベレー帽をくしゃりと掴み潰す。


「気に障ったかねぇ?」

「当然です」


「タクト=ハイン。あたしには、悔しがってる暇なんてないのさ」

 クリスタ・ロードウェイは捨てたモップを拾い、くるりと翳す。


「解っています」


「すまないね」

 タクト=ハインの覇気がない反応に、クリスタ・ロードウェイは口重となる。


「僕は、引き続き奴を追います。そして、クリスタさん。あなたのお友達が見つかることをお祈りします」

 タクト=ハインは「すう」と、息を吸い込む。


「お待ちよ、タクト=ハイン。おまえさんだけじゃ返り討ちを喰らうのがオチだろうさ」

「危険な考えはお止めください。あなたに何かあったら、誰が悲しむのかをわかられているのですか?」


「ならば、言い方を変えようじゃないか。おまえさんに引っ付いていけば、テスを追う手掛かりが見つかるだろう」


「乗り合わせはお断りしていますが、あなたの熱意に免じて特別に致します」


 タクト=ハインは、クリスタ・ロードウェイが握るモップを差し出すようにと促していた。


「こいつをどうするつもりだい?」

「そのまま握られていて。はい、楽にされてください」


 タクト=ハインの掌から蒼い光が輝いていた。クリスタ・ロードウェイはふと、考える。


 この光がテスへと導いてくれるーー。


「あたしの親友もおまえさんと同じく特殊な能力を持っている」

「クリスタさん、あなたは“力”を持たれてない。モップで僕が発動させる“力”の衝撃を抑えます。家電製品でいえばアース線の役目のようなものです」


非能力者(ノーマル)への能力行使は禁止されてンじゃないのかい?」

「僕が暮らしている世界では聞いたことないですね」


 クリスタ・ロードウェイは怪訝なさまとなった。しかし、タクト=ハインが言うことは虚言ではない。


「未知の世界がある。おまえさんは其所からやって来た?」

「百聞は一見にしかず。クリスタさん、僕が暮らす世界にご案内します」


 ーー蒼よ、世界と世界を繋げる関門へと道を標せ……。


 クリスタ・ロードウェイは、タクト=ハインが解き放つ“蒼の光”を身に包む。そしてタクト=ハインと共に空へと舞い上がり、見える光景に息をのむ。


 螺旋状で彩り豊かな光の帯、頬に掠める粒子。

 雲を突き抜け、見えるのはーー。


「ようこそ【ヒノサククニ】へ……。」


 タクト=ハインの“蒼の光”を身に包むクリスタ・ロードウェイは、夜明け前の大地へと下降していたーー。



 ♡=♡=♡=♡=♡



 カナコは、気持ちよく眠っていた。

 すうすうと、小さな寝息があたしの頬に吹いていた。


 あたしとカナコは一緒に寝ていた。

 ふかふかの布団は、とても心地好かった。でも、あたしはちっとも眠れなかった。


 眠れないと言うより、起きてしまうが当てはまる。だって、折角夢見心地になっているのにどかどかと、奇妙な風景が目蓋の裏に表れていたの。


 見た目は、細面のイケメン。でも、眼鏡の奥の瞳が氷のように冷たい。そして、もうひとりいた。カナコが恋している(あたしがカナコの心を読んでしまった)大人の男の人。ふたりは、睨み合っていた。


 恐い……。続きを見るなんて、出来なかった。

 起き上がろうとしても、傍にいるカナコを起こすのが可哀想だから、あたしは布団の中で震えるをした。


「テリーザ・モーリン・ブロン。そなたの中で、何が起きたのか。話せる範囲で構わないから、私にうち明かして欲しい」


 アルマさんが、あたしの額を優しく撫でていた。


「夜明け前なのに、起こしてしまってごめんなさい」

「そなたは浮かされていたのだ。それに比べて、カナコは……。」


「カナコがぐっすりと寝付けているのは良いことです」

 あたしは、寝返りを打って布団からはみ出たカナコに、布団を被せ直した。


「して、悪夢の内容は?」

「男の人がふたり、今にも闘いそうな雰囲気でした」


 アルマさんは考え込んでしまった。


「あの」と、あたしはおずおずと、アルマさんに訊ねる。


「テリーザ・モーリン・ブロン、外に出るぞ。勿論、ぐーすかと眠ってるカナコも連れてだ」


 あたしは、アルマさんから服を借りた。借りるつもりだったの。紅い軍服とセピア色のハーフブーツを「着ないから、そなたに譲る」と、アルマさんの気前の良さに甘えてしまった。


 ちゅう、ぷちゅうぅうう……。


 カナコはまだ、寝ていた。あたしの掌の上でころころと、寝返りをしている仕草が可笑しくて、微笑ましい。


「テリーザ・モーリン・ブロン、空を見上げるのだ」


 あたしは「はい」と、アルマさんに受け答えをした。


 うっすらと、空が紫色に染まっている。

 もうすぐ陽が昇る。あたしは、輝きが眩しい星を見つけて、じっと目を凝らした。


 流れ星? とは違う。だって、すっと地上に堕ちるような流れ方をしていない。


 ほええ、此方に向かって墜ちて来ている~っ!

 ああんっ! もう、こんなに近くに迫っている~っ!!


「アルマさん、隕石ですよ~っ! 逃げましょうっ!!」

「狼狽えるな、テリーザ・モーリン・ブロン。我々は道標だ。あの“光”を、無事に着地させなければならない」


 カナコ。起きなくて良いけれど、たまには起きて~っ!


 あたしの焦りはアルマさんには通じない。ぴょこぴょこと足踏みしているあたしの掌の上で、ぽんぽんと跳ねているカナコの爆睡っぷりが羨ましい。


 ーーアルマさん、其所にいるのはアルマさんですね?


 ほええ? 男の人の声が、頭の真上から聞こえている。しかも、アルマさんを呼んでいる。


「世話を焼かせやがって。さっさと降りてこい」

 アルマさんの全身が、紅い光で輝いていた。


 ちゅ? ちゅう~っ!!


 あ、カナコがやっと起きた。そして、カナコはすぐに空を見上げた。


 カナコが見上げる“蒼の光”は、カナコの想い色。


 胸の奥がきゅんと、高鳴った。

 カナコの恋心の色がこんなに鮮やかで綺麗だと、あたしの心はふるふると震えてた。


『暁の風よ“紅の光”と共に、タクト=ハインに風を吹き込んで……。』


 カナコの“暁の風”とアルマさんの“紅の光”に導かれた“蒼の光”が、舞い降りてきたーー。

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