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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
激動の海底温泉
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第89話 激動の海底温泉 フロローグ

新年あけましておめでとうございます。

『異世界混浴物語』を、今年もよろしくお願いいたします。


『異世界混浴物語3 混迷の岩盤浴』発売中です。


   フロローグ



「ハルノハ アズカッテイル タスケタクバ ミズノミヤコマデ クルガイイ」


 夢の中で見た女神の拙い文字。翌朝目覚めた俺は、すぐさま助けに行こうと潜水艦『グラン・ノーチラス号』に乗り込もうとした。

「トウヤ様、落ち着いてください!」

 しかし、その前にルリトラに羽交い締めにされ止められてしまった。夢の内容を知らないのだから無理もない。

 だから皆にも説明しなければならないのだが、その時の俺は焦りからまともに話せる状態ではなかった。

 そこで代わりに説明してくれたのはラクティ。闇の女神である彼女は、一緒に同じ夢を見ていたのだ。

「……という訳で、ハルノさん達が水のお姉様のお家にいるそうなんです」

「確か、風の女神のところに向かってるって手紙には書いてたでしょ? それがどうして水の女神のところに……」

 しかし、話を聞いた皆は首を傾げるばかりだった。

「ねぇ、その水の都と風の神殿って近くにあるの?」

「ユキナ殿、申し訳ありません。風の神殿の場所については……。しかし、水の都はこの龍尾半島と鉤爪半島に囲まれた内海にありますので、両者が近いという事はないかと」

 水の都の場所は、水の女神に仕える神官・白イルカのおかげで分かった。

 風の神殿の場所は、春乃さんの手紙で既に分かっている。あちらの情報源は、風の女神の命を受けて春乃さんを探していたというキュクロプスの少女・プラエらしい。

 彼女の説明では正確な場所が分からなかったそうだが、それでも風の神殿がこの大陸の西端辺りにあるという事は分かった。

 大陸の南と西、まかり間違っても近くとは言えない距離だ。

 そして先日の手紙のやり取りで、彼女達が大陸西方を旅していた事は分かっている。

「つまり、ハルノ様達一行は大陸の西から南へ飛んできたんですか?」

「……それは水晶術でも難しい」

 ロニとリウムちゃんも難しい顔をして首をかしげている。車も飛行機も無いこの世界では、短時間でその距離を移動する事は難しい、いや、不可能なのだろう。

 白イルカも、水の神官魔法にもそういうものは無いと言っている。

「つまり、何か尋常じゃない事が春乃さん一行に起きたって事だ」

 そうやって状況を分析している間に、俺の方の準備が終わった。

 ガシャンと金属音を鳴らしつつ、皆の前に立つ。

「お兄……ちゃん……?」

 雪菜が呆然とした顔で俺を呼んだ。その視線は俺の手に向けられている。そこにあるのは漆黒のグレートソード『ソトバの剣』だ。

 この時の俺は、春乃さんの事で頭がいっぱいになっていたのだろう。水の女神の神殿にいる彼女を何としてでも救わねばならないという一心だった。

「とにかく! 何が何でも春乃さんを助けるんだ! 魔王だろうと女神だろうと邪魔をするなら……ッ!!」

「落ち着きなさいよ、別に今すぐ戦わなくちゃならないって事でもないでしょう?」

 クレナがポコン、と俺の頭をはたいた。


「ですから、水のお姉様が誘拐したとか、そういう話じゃないと思います! 夢の中でも……あ、いや、あれでは伝わりにくかったかも知れませんけど!」

 ラクティ・オン・ステージ。正座した俺を前に、ラクティが仁王立ちで水の女神は悪い女神じゃないと訴えてくる。

 俺はソトバの剣をルリトラに預けて、おとなしく聞いていた。

 正座中の膝の上は、重し代わりか雪菜が頭を乗せて膝枕にしている。更に背中にもリウムちゃんがのしかかっているが、こういう重しなら大歓迎である。

 それはともかく水の女神が見せたあのメッセージ、ラクティによると慣れないカタカナで書いたからあんな風になってしまっただけで、本当はもっと違う事というか多くの内容を伝えようとしていたらしい。

「ならば、その内容は?」

「すいません、そこまでは……あそこはあくまでトウヤさんの夢なので、私達同士での意志疎通がしにくいんです。水のお姉様は、ただでさえ無口なので……」

 ルリトラの問い掛けに、ラクティはしゅんとなって答えた。

 海をテリトリーとする水の女神の信者は、ほとんどが喋らないので言葉はあまり必要ないのかも知れない。

 なお、あの空間でも一番饒舌になれるのは光の女神だそうだ。特に妹にお説教する時は全開状態になるらしい。

 それはともかく、元々口数が少ない水の女神から何とか情報を引き出したところによると、春乃さんだけでなくセーラさん達パーティ全員が水の都にいて、今のところは皆無事なのだそうだ。

「今のところ?」

「その、詳しい事は分かりませんでしたが、ハルノさん達は魔王軍に狙われているとか、追われているとか……」

「よし、ソトバの剣の出番だな」

「だから、それは実際に戦うときにまでとっておきなさいって」

 ルリトラに預けた剣を受け取ろうと手を伸ばす俺の頭を、クレナが再びポコンと叩いてツっこみを入れた。

「という訳で、水の都の詳しい場所を教えてもらえませんか?」

「……まぁ、水の女神様と戦うという訳ではないなら」

「ああいうメッセージになった事情は分かりましたし、大丈夫ですよ」

 こちらもラクティを泣かせたくないし、好き好んで敵対するつもりはない。

「というかだ、俺は光の女神の祝福のおかげでこの世界の文字なら何でも読めるんだぞ? どうして水の女神は、わざわざ慣れてないカタカナで書いたんだ?」

「…………あ」


 白イルカから詳しい場所を聞き出した俺達は、すぐに遠出の準備をするためにネプトゥヌスに向けて出航した。

 その日の晩再び夢の中に現れた水の女神は、表情の変化には乏しかったが、頬を真っ赤に染めつつフリップを投げてきた。

 確かにこの女神は、悪い女神じゃないのかも知れない。

という訳で、新エピソード『激動の海底温泉』スタートです。


【追記】

「フロローグ」は誤字ではありません。

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