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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
湾岸露天 古代海水の湯
96/206

第87話 妹風呂

 おかげさまで、WEBアンケートに答えてくださった方のための『あとがきのアトガキ』も完成し、3巻の書籍化作業は無事に終わりました。


 『異世界混浴物語3 混迷の岩盤浴』 12月25日発売です!


 特典情報については、オーバーラップ公式サイトで公開され次第、活動報告の方でもお知らせしますので、もう少しお待ちください。

 既にいくつかはお店のサイトの方で公開されているようですが、そちらはTwitterの方でフォローしていますので、よろしければそちらをご覧ください。

 気を取り直して、次はお風呂場へと移動する。俺のギフトは、こちらがメインである。

 これがメインでいいのかという疑問は、戦いの疲れと一緒に洗い流してしまおう。

「……うん、まぁ、予想してた」

「お兄ちゃん、どうかしたの?」

 服を脱いで入浴の準備を整えた俺やクレナ達は、新しくなったお風呂場を目の当たりにしたところで目を丸くして立ち尽くした。初めて見る雪菜だけが平然としている。

「ものすごく……広くなってない……?」

 そう、広いのだ。湯浴み着姿だったが、思わず建物を飛び出して確認に走ったところ、お風呂場がある方だけ中の空間も一緒に広くなっている事が分かった。

 池を見ている時はそちらにばかり注目していて、空間そのものの広さが変わっている事に気付けなかった。

 戻って改めて確認すると、壁や天井、洗い場の床まで総檜風呂となっていた。

 湯船は一回りも二回りも大きくなっており、長方形の長い辺が洗い場に面している。当然、洗い場もそれに合わせて広くなり、蛇口やシャワーの数も増えていた。

 また湯船は真ん中あたりで手すり付きの柵によって区切られており、奥の方は一段深くなっている。本気で泳げそうだ。

「えっと、もう入っても大丈夫? この子達、我慢できなさそうなんだけど」

 クレナの声に振り返ると、リウムちゃん、ラクティ、それにロニまでが目を輝かせている。普段は抑え役に回るロニでさえも、この広い湯船の魅力には抗えないらしい。

 これは早く入れてあげた方が良さそうだ。

「ああ、いいぞ。でも、この手すりから先は深くなってるから気を付けてくれ」

 そう言うと、三人は我先にと掛け湯をしてから湯船に飛び込んだ。

 海で遊ぶかのようにお湯を掛けあって遊ぶ三人に視線を送りつつ、俺は雪菜に近付いていく。側にはクレナが寄り添うように立っている。

 もしかして彼女も遊びたいが、雪菜の事を気にして自重してくれているのだろうか。

「ありがとう、クレナ」

「いいのよ。トウヤの妹なら、私にとっても妹みたいなものだから」

 そういうクレナの頬は少し紅潮していた。嬉しい事を言ってくれているが、雪菜の方は頬を膨らませているぞ。俺が言うのも何だが、お兄ちゃんっ子なんだよな。

 案の定、雪菜はクレナから離れて俺に抱きつき、そしてクレナに視線を向けた。きっとべっと小さく舌を出しているだろう。俺からは見えないが、大体分かる。

 意表を突かれたクレナは呆気にとられていたが、すぐに彼女も頬を膨らませた。

 気遣ってくれている相手に取る態度ではないので、ここは兄として雪菜の頭を軽く小突いておく。

 すぐに抗議するように俺の方を見てきたが、じっと見つめ返すとちょっとスネたような顔になり、それからしゅんとした顔になって、クレナにペコリと頭を下げた。

「よし、いい子だ。クレナもすまないな」

「あ、うん、いいのよ。お兄ちゃんが取られると思ったのね」

 クレナがそう言うと、雪菜はぷいっとそっぽを向いてしまった。魔族に生まれ変わってもこういうところは変わらないんだなと、兄としては嬉しかったりする。


 まずはお湯につかって疲れを癒やそう。もちろん掛け湯をしてからだ。ロニ達にそうするよう言っているのは俺だからな。自分がそれを破る訳にはいかない。

 雪菜に掛け湯をしてやると、背中の濡れた髪がきらめく。銀髪の二人を並べてみると本当に姉妹みたいだ。

 そして二人で並んで湯につかる。クレナは気を遣ってくれたのかロニ達の方に行った。

 それにしても広々としたお風呂はものすごい開放感だ。身体をくっつけなければ二人で入れなかった頃とは雲泥の差だ。いや、あれはあれで良かったけど。

「すごいね。このお風呂、お兄ちゃんが出したんでしょ?」

 雪菜が身体を寄せてきて、俺の肩に頭を預けてきた。

 こうしていると、雪菜がまだ生きていた頃を思い出すな。そういえば、当時住んでいたマンションの浴室が、最初の『無限バスルーム』と同じぐらいだった気がする。

 そうだ、そうだった。あの頃の思い出と共に妹が死んでいた事実を思い出してしまう。

 雪菜は生まれつき病弱な子だった。両親は共働きで忙しく、小学四年生の頃から俺が面倒をみるようになっていた。

 俺が頭を洗うのが上手いのもそのためだ。最初から上手だった訳ではなく、雪菜に少しでも喜んでもらえるよう色々と試行錯誤をしたものだ。

 思えばあの頃はずっと雪菜中心の生活だった。でも、それが苦という事は無かったな。むしろ楽しい思い出だ、雪菜と過ごした日々は。

 今にして思えば、俺が『無限バスルーム』なんてギフトを授かったのも、この思い出があったからこそなのかも知れない。

 もっとも、両親にとっては楽しいばかりでなかった事は分かっている。実際、夫婦喧嘩を目撃した事は数えきれない程ある。当時は雪菜に知られないように必死だった。

「お兄ちゃん……?」

 いかん、顔に出ていたか。この事は、雪菜に知られる訳にはいかない。

 雪菜は生まれ変わったんだ。病弱ではない、元気な身体で。魔族になっているのは些細な事だ。それを言ったら、俺だって魔族になりかけてるしな。炎と大地の祝福が止めてくれているけど。

 元気な妹がそこにいる。それが俺にとっては大事だ。もっと雪菜の話を聞こう。

「なぁ、雪菜。こっちに召喚されてから何があったか、聞かせてくれないか?」

「え、うん。召喚されてからまだ一年も経ってないけど……」

 雪菜の見た目は、あの頃とほとんど変わっていない。『五大魔将』の事を考えると見た目通りの年齢ではないかも知れないと思っていたが、「年上の妹」になった訳ではなさそうなのでほっと一安心である。

 しかし、それでも一年程の誤差があるな。『闇の勇者召喚』による転生は、その辺の融通が利く魔法なのか。それともこちらの世界と俺達の世界の時間の流れが同期しているという前提がそもそも間違っているのだろうか。

 闇の女神であるラクティに尋ねてみたが、彼女もよく分からないとか。この件については、そういうものだと納得するしかなさそうだ。

「私を召喚したのは、あの『不死鳥』なの。ユピテルって国が光の勇者を召喚しようとしてるって分かったから、それに対抗するためだって言ってた」

「それで雪菜を……」

 だとすれば俺は、ユピテルの聖王家にも『不死鳥』にも感謝すべきかも知れない。おかげでこうして雪菜と再び会えたのだから。

「それからはずっと訓練を受けさせられてたの」

「辛くなかったか?」

「ぜんぜんっ! だって、こんなに自由に身体が動くんだよ?」

 雪菜はざばっと立ち上がり、元気よく両手を大きく広げてみせた。あの頃の事を思うと感動すら覚える光景だ。

「そうか、良かったな……」

 そう言って両手を広げると、雪菜が飛び込んでくる。

 もう二度と離さない。そんな思いと共に華奢な身体を強く抱きしめた。


 しかし、雪菜は魔族達の中で一年近く生きてきたのか。

 『潮騒の乙女』亭に来た時はバルサミナと一緒だったが、あれは何だったのだろうか。

「あのバルサミナという魔族とは、どういう関係だったんだ?」

「最近、あの人の部下になったの」

 そんなに長い付き合いという訳でもないのか。

 そういえば勇者コスモスは、無事に彼女を説得できたのだろうか。

「なんでも、前の部下が『空白地帯』ってところで倒されたんだって。だから私をって」

 それって、もしかして……いや、気のせいだろう。

「でも、しばらくは出掛けては負けて帰ってくるバルサミナの愚痴を聞いてばっかりだったなぁ……」

 何度もコスモスを襲撃しては負けて帰ったと聞いている。その事について雪菜に愚痴っていたのか。

「それでね、一緒に出掛けたのは、お兄ちゃんに会ったあの時が初めてだったの」

 なるほど、それでコスモスを襲撃しようとして、間違えて俺の所に来たと。

 普通にコスモスの所に行った場合、コスモスはバルサミナの相手をするだろうから、雪菜は親衛隊を相手にしなければならなかった可能性が高い。

 そうなれば雪菜はどうなっていたか。ある意味俺達兄妹の恩人だな、バルサミナ。

「……ねぇ、お兄ちゃん」

「ん? なんだ」

「私、魔族になっちゃったけど……一緒にいてくれるよね?」

「当たり前だろ」

 迷う事なく即答した。

 雪菜は気にしているようだが、魔族に転生したからどうだと言うのだ。

 むしろまだ一年も経っていないからか、中身は何も変わっていないと感じられた。

 雪菜は俺の可愛い妹、その事実は何ら変わる事は無いのだ。

「そっか……♪」

 その答えを聞くと、雪菜は嬉しそうに俺の胸に頬をすり寄せてくる。

 そこに小さな手が伸びてきた。いつの間にかクレナ達四人が近付いてきていて、リウムちゃんが雪菜の頭を撫でている。

「私達も……いっしょ」

 そう言って空いた手で親指を立てるリウムちゃん。微妙にドヤ顔である。

 そして彼女達の方を見た雪菜は、きょとんとしていた。

「えっ、でも……」

「もしかして魔族な事気にしてる? さっきは自己紹介してなかったけど、私はクレナ。人間と魔族の間に生まれた半魔族よ」

 笑顔で差し出された手を、戸惑いつつも取る雪菜。

「私はロニ、リュカオンですよ~」

「……リウム、人間」

「えっと、雪菜……魔族、です」

 お互いに自己紹介しあう面々を、俺は満足気に頷きながら見ていた。この調子なら、雪菜は俺だけでなくパーティに受け容れられそうだ。

 クレナ達の性格から考えて心配はしていなかったが、こうして手を取り合っている姿を見ると一安心である。

 後でルリトラ達にも紹介せねばならないが、こちらもあまり心配はしていなかった。

 最後にクレナの背に隠れていたラクティが、ロニに促されて雪菜の前に立つ。

「あ、あの、私はラクティ。闇の女神です、すいません」

 そして、いきなり謝りだす。もしかして『闇の勇者召喚』の事を言っているのか。あれは術者の問題であってラクティのせいではないだろうに。

「……めがみ?」

「あ、ラクティでいいですよ。トウヤさん達もそう呼んでますから」

 やけにフレンドリーな女神の姿に、雪菜もしばし呆気にとられる。

 やがて理解したのか、雪菜はずいっとラクティの顔を覗き込んで口を開いた。

「ラクティ! 私もギフト欲しい!」

「…………はい?」

「お兄ちゃんばっかりずるいよ~! 私もほら! 『無限(アンリミテッド)コンビニ』とか、『無限(アンリミテッド)ショッピングモール』とか~!」

 いくらなんでも『無限ショッピングモール』は便利過ぎるだろう。できるなら俺も欲しいぐらいだけど。

「いえ、ギフトがもらえるのは光のお姉様の方だけで、私の方は……」

「サービス足りないよ、ラクティ!」

「さぁびす!?」

 いや、サービスの問題じゃないだろ、雪菜。その妙なノリに、ラクティもテンションが上がってくる。

「お姉様の方は生きてる人だから新しい力が。私の方は死んでる人だから新しい身体をあげるんです~! 死んでるのにギフトだけもらっても仕方ないじゃないですか~!」

「……なるほどっ!」

 雪菜は納得した様子で手を打った。というか、俺も初めて知った。女神の祝福と一緒にギフトがもらえるのって、そういう理由だったのか。

「じゃあ、今からちょうだい!」

「無理ですよ~! ギフトは異世界から召喚された人のもので、ユキナさんは転生した時点でこっちの人ですから~!」

 雪菜、あまりわがまま言うんじゃない。実際『無限バスルーム』は便利だから、欲しくなる気持ちも理解できるが。

 俺としては分けてあげられるものなら分けてあげたいが、そういう訳にもいかない。

 とにかくここは、なだめて止めた方が良さそうだ。俺は湯をかき分けて雪菜の方に近付いていった。

 実は『無限ショッピングモール』というのは、初期設定における冬夜のギフトだったりします。

 あまりにも強力過ぎるという事で、自重して止めました。


 ちなみに『無限バスルーム』は、その時点では春乃のギフトだったり。



 それと、雪菜の話にある『空白地帯』で倒された部下というのは、書籍版1巻に登場する魔族の事です。

 この時点ではもう話の本筋に関わる事ではありませんので、WEB版では本当に気のせいという事になりますね。

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