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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
湾岸露天 古代海水の湯
95/206

第86話 大いなる海の恵み

 『異世界混浴物語』書籍版 第3巻の発売日が発表されました!

 12月25日発売予定です!


 サブタイトルがWEB版と異なり「混迷の岩盤浴」となっています。

 その理由については活動報告の方をご覧ください。

 神殿までの道は安全らしいので、水着の上に防具は無しで、念のために武器だけを持っていく事にする。

「おぉぅ、ビキニアーマー……」

「アーマーじゃないわよ」

 クレナもロニも、水着だけの腰にベルトを巻いて剣を差している姿だから、そう見えてしまっても仕方がない。

 かくいう俺も水着で、手には水中の敵にも対処しやすいようハデス・ポリスで手に入れた槍を持っているので、魚を捕まえて「とったどー!」とか言いたい気分だ。

「いいなぁ、可愛い水着……」

「ポリスに戻ったら買いに行こうな」

 クレナ達を羨ましそうに見る雪菜の頭を撫でる。すると水に濡れないためにとおんぶをせがんできた。飛べば済むはずだが、それは言わないお約束である。これぐらい可愛いお願いじゃないか。俺がすぐさま承諾したのは言うまでもない。

 水の女神の祝福も大事だが、早く腰を落ち着けてゆっくり話す時間を作りたいものだ。

 それから腰まで海に入るルートを通って白イルカに案内されたのは、岸壁にポッカリと口を開けた洞窟だった。中に入ってみると奥が広くなっており、上から光が差し込んでいて明るくなっている。

 しかし、祭壇らしきものが見えない。総本山じゃなければこんなものなのだろうか。

 クレナ達もきょろきょろと周りを見回しながら、期待外れと言いたげな顔をしている。

 これは大地の女神の祝福と同じように、水の方も総本山に行く必要がありそうだな。

「後でいいから水の女神信仰の総本山の場所を教えてもらえないだろうか」

「はい? 総本山って何ですか?」

 白イルカは首を傾げて予想外の言葉を口にした。

 総本山が何であるかを説明してみると、白イルカは笑いながら「それなら、ここも総本山ですよ」と教えてくれた。

 こんな何も無い洞窟が総本山だというのか。いや、ここ「も」とはどういう事なのか。

 右、左、上、そして最後に下を見てはたと気付いた。

「まさか……海か!?」

「はい、海は水の女神様とつながっております」

 そうか、特定の土地ではなく海。海全体が水の女神信仰の総本山なのか。

 その理屈でいうと陸の全てが大地の女神の総本山となりそうだが、そうなっていないのは他の女神がいるからだろうか。

 彼女のおおらかそうな性格を考えるに、あっさり分けちゃった可能性も考えられる。

 話を聞いていた雪菜が、白イルカに問い掛ける。

「それなら、どうしてわざわざ洞窟を神殿にしてるの? 海岸でもいいじゃない」

「それなりに時間が掛かるものですから、周りの迷惑にならない方がいいでしょう?」

 対する白イルカの返事は身も蓋も無いものだった。いや、場所を選ばないからこそ、周囲を気遣う余裕があるのかも知れない。

「……私達が見ていても?」

「特に問題はありませんよ」

 リウムちゃんが尋ねたところ特に問題は無いそうなので、クレナ達も儀式が終わるまで付き合ってくれる事になった。

 皆に見守られる中、錫杖を掲げた白イルカが厳かな声で祝詞を唱えて儀式が始まった。

 そういえば祝福の儀式を受けるのは三度目だが、この祝詞っていまだに意味が分からなかったりする。どうも光の女神の祝福でも翻訳できない類の言葉らしい。

 儀式中は、ただ腰を下ろして聞いているだけなので結構退屈だ。特に今回は水中の岩に座っているので、腰の辺りに当たる波しぶきが気になって仕方がない。

 というか、下半身が冷える。上から日光が入っているとはいえ洞窟の中、砂浜近くと比べると水温はかなり低く感じられる。終わったらすぐにお風呂に入りたい。

 チラリとクレナ達を見ると、彼女達も海面から突き出た四角い岩に腰掛けていた。ずっと海の中にいると身体が冷えるからその方がいい。

 という訳で、海水の冷たさにしばらく耐え続けたところで祝福の儀式は終わった。

 その後、白イルカに水の神官魔法の教本は無いかと尋ねてみたが、残念ながら彼等は本を作るという文化そのものが無かった。

 『精霊召喚』ならば応用でできるはずなので、後は夢の中に水の女神様が出てきてくれるのを待つしかなさそうだ。

「というか、足が冷たい! 早く陸に戻ろう!」

「ハハハ、人間には厳しかったかも知れませんね」

「ネプトゥヌスで水の女神信仰が廃れたのって、このせいじゃないのか?」

「礼拝するだけなら、近くまで来て船上からでも大丈夫ですよ」

「ああ、だから漁師達が……」

 なるほど、信徒がいても神官がいないはずだ。

 そして、こんなにネプトゥヌス・ポリスに近い島なのに、何故今まで『不死鳥』の隠れ家が見つからなかったのかも理解できた。ギルマンとの諍いに発展しかねないため、下手に触れるのを避けていたのだろう。

 色々と納得がいったところで集落に帰還。宴はまだ始まっていないようなので、先にお風呂で身体を温めさせてもらう事にする。


 扉を開いて『無限バスルーム』に入ると、中の様子が変わっていた。

「あれ? お兄ちゃん、この中……変わってない?」

 ここに入るのは二度目の雪菜でも気付けるぐらいに建物が少し遠く、そして建物自体も大きくなっているように見える。また『無限バスルーム』内の空間が広くなったようだ。

「……やっぱり部屋が増えてる」

 女神姉妹の順番から、新しい部屋は扉から見て建物の右側手前にできると予測していたらしいリウムちゃんは、真っ先に調べに行って新しい部屋ができている事に気付いた。

 また、炎の祭壇の対角線上となる右手前の隅が、大きな池になっている。

 近付いてみると、炎の祭壇みたいな柱は無いが、水辺にテーブル状の石があり、その表面に魔法陣が刻まれていた。俺のギフトなので、触れてみると自然と使い方が分かる。

「これは召喚装置だ」

「召喚? 何か召喚できるの?」

「ああ、これを使うとな……近くの水場にいる魚介類を、池の中に召喚できるんだ!」

「…………」

 そこで黙るな、クレナ。声を張り上げた俺が恥ずかしいじゃないか。

 海の魚でも川の魚でも生きられる丁度良い塩加減なんだぞ、この池の水は。

 しかも、『無限バスルーム』を閉じた時に魚が残っていた場合、自動で中の魚を送り返してくれる便利機能付きだ。

「……それだけ?」

 クレナのツっこみに、俺は視線を逸らした。スマン、召喚した後は自力で捕まえないとダメなんだ。

「いや、召喚魔法って間違いなく女神の領分ですよ?」

 フォローありがとう、ラクティ。

 その隣でリウムちゃんがこくこくとうなずいていた。水晶術師である彼女は、俺にも分からない「召喚装置」の凄さが分かるのかも知れない。

 うん、今は試さなくてもギルマン達が用意してくれる海の幸があるから後にしようか。

 振り返ると、そこには新しくできた部屋がある。池が大きい分部屋は小さめだが、これも水の女神の祝福で生み出されたギフトだ。

 こちらも勝手口があるので扉を開けてみると、予想外のものが目に飛び込んできた。

「あれ、こっちもキッチンですか?」

 蛇口が二つ付いた流し台。しかしコンロなどは無いので、キッチンではないだろう。

 他には壁の棚に手網や釣り竿など、外の池で使えそうな道具がいくつか並べてあった。

 まずロニが近付き、しっぽをフリフリしながら流し台を調べ始める。

「普通のジャグチーですね。あ、操作パネルがありませんよ」

 どうやらここには水温などを操作するパネルが無いようだ。ここから出てくるのは一定の温度のみという事か。

 そしてロニが蛇口をひねると、これまた予想外なものが出てきた。

「ちょっ、その水何!? ロニ、離れなさい!」

 なんと蛇口から色の付いた水が出てきたのだ。

 鮮やかな橙色の水にクレナが驚きの声をあげ、ロニが機敏な動きで飛び退く。

 しかし、俺と雪菜は、呆然としながら流し台に近付いた。顔を近付けてみると甘い匂いが鼻をくすぐる。蛇口に手を触れてみると、それが何であるかが全て判った。

「大丈夫だ、雪菜」

「そ、そうなの? それじゃちょっとだけ……」

 雪菜が指を近付け、ペロリとひとなめして声を上げる。

「お兄ちゃん、これって……オレンジジュースだよ!」

 そう、蛇口から流れていたのは果汁百パーセントの新鮮なオレンジジュースなのだ。

「だ、大丈夫なの……?」

「大丈夫、大丈夫、ちゃんと飲めるものだから。美味しいぞ」

 クレナとロニが恐る恐る近付いてきたので、安全なものである事を教えてあげる。

 もちろん、ちゃんと飲めるし、俺のMPで作られたものだが、栄養価も本物と同じだ。

 まぁ、水しか出てこないと思っていた蛇口からこれが出てきたら驚くよな、やっぱり。

「こっちは何……?」

 リウムちゃんがもう一つの蛇口をひねった。すると今度は琥珀色の液体が蛇口から流れ始める。こちらもどこか懐かしい匂いだ。

 そちらの蛇口にも触れてみると、それが何であるかが判る。

「……うどんだしだな、これ」

 どこか懐かしい素朴な味である。

「えっと、こちらの海の味覚である『ウドンダシ』の方が水のお姉様の本道で、オレンジジュースの方は大地のお姉様の影響が入ってるかと……」

 いや、詳しい説明はいいんだ、ラクティ。

 それにしてもお風呂、キッチンときて、次はオレンジジュースとうどんだしか。何なんだろう、俺のギフトって。

 いやいや、ここで諦めてはいけない。俺は『無限バスルーム』でトラノオ族の集落を救い、魔将を倒したじゃないか。どんなギフトだって使い方次第だ。

 気を取り直して前向きに考えてみよう。

「ほら、オレンジジュースの方は普通に飲めるぞ。コップを持ってくるんだ」

「分かった……」

 興味津々だったらしいリウムちゃんが駆けだしていった。

「こっちのうどんだしは、料理に使えるはずだ」

「そうなんですか? それじゃお鍋持ってきますね」

「ああ、俺も知ってる範囲で教えるから頼む」

 うどんだしだって、料理に使えるじゃないか。

 うどんをすぐに用意するのは難しいので、鍋か煮物にでも使ってもらおう。具材は限られるが、おでんみたいなものも作れるかも知れない。

「懐かしいな~。楽しみだね、お兄ちゃん!」

 嬉しそうに笑う雪菜。きっと春乃さんも懐かしがってくれるに違いない。

 どんな能力でも使いようである。せっかく授かったギフトだ、これからの生活を豊かにするために使わせてもらうとしよう。

 という訳で、水の女神から授かったギフトは、オレンジジュースとうどんだしが出る蛇口でした。

 ちなみに、ポ○ジュースが出る蛇口は愛媛県の松山空港に、うどんだしが出る蛇口は香川県の高松空港に実在します。

 ○ンジュースの方は定期的に設置されるもので、常にある訳ではないようですが。



 水の祭壇の方は「お座○釣り○」みたいなものです。

 淡水魚と海水魚が一緒に暮らせる水というのも実在し、こちらは「好適環境水」と言います。

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[一言] もうリゾートホテル並ですねw
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