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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
湾岸露天 古代海水の湯
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第85話 波打ち際のイルカ御殿

2巻が発売して1月ほどですが、既に3巻の書籍化作業が始まっています。


3巻は冬頃発売になる予定です。

続報はこちらや活動報告などでお知らせしますので、たまにチェックしてみてください。

「お、おい! あれ見ろよ!」

 クレナ達と話していると、突然マークが驚きの声を上げた。

 彼が指差す先にあるのは崩れ落ちた『不死鳥』の身体。倒れた後も噴き出していた黒い炎が消え、全体が塵となって崩れている。

「な、何が起きてるんだ……?」

 呆然と様子を窺っていると、ラクティが謎の現象の正体について教えてくれた。

「これは、限界が来たんだと思います」

「限界?」

「先程の黒い炎……あれは、命を燃やして力を高める魔法なんです。もちろんずっと使えるようなものじゃなくて、限界を超えると……」

 そう言ってラクティがチラリと『不死鳥』に視線を向けたので、俺も釣られて見てみると、砕いた頭蓋骨も塵になって消えていた。

「文字通り燃え尽きたって事か……」

「ちょっと待てよ、不死身じゃにゃいのかよ!?」

 マークが割って入ってきて声をあげる。確かにその通りだ。不死身なのに燃え尽きてしまったぞ、こいつ。

 しかし、この疑問には雪菜が答えてくれた。

「しばらくすると復活するよ。私、何度か見た事あるもん」

「復活するから、自滅する魔法でも気兼ねなく使えるという事か……」

 そう呟くルリトラも呆れた様子だ。気持ちはよく分かる。

 塵になる前に袋詰にして海にでも捨てるべきだったかと考えていると、ふと視界の隅に『不死鳥』が使っていた二振りの剣が見えた。どちらも柄頭にドクロがあしらわれた悪趣味なデザインの剣だ。

 どんな謂れのある剣かは分からないが、あれを回収しておけば、『不死鳥』が復活しても先程までの強さは発揮できないかも知れない。

 そう思って一歩踏み出した時、予想外の人物が飛び込んできた。

「させないッ!」

 それはなんと、コスモス達と戦っているはずのバルサミナだった。

 バルサミナは翼を大きく羽ばたかせて俺達の頭上を飛び越すと、そのまま『不死鳥』の剣を手に取り、飛び去ってしまう。

「なんだと……?」

 突然の事に攻撃を仕掛ける事ができず、小さくなっていくバルサミナの後ろ姿を皆で見送る事しかできなかった。

「お~い!」

 しばらく呆然としていると、向こうからコスモス、リコット、フォーリィの三人が走ってきた。王女の姿は無い。親衛隊と共に砂浜に残っているのだろうか。

「やぁ、冬夜クン! バルサミナがこっちに来なかったかい?」

「あ、ああ、さっき来たぞ。ここのボスの剣を持って、向こうに飛んで逃げた」

「ありがとーぅ! あ、そっちのお嬢さんはうまくいったのかい? おめでとう! じゃあ、僕はこれで!」

 まくし立てるようにそう言うと、コスモス達は慌ただしく走り去ってしまった。

 その後ろ姿に雪菜が声を掛ける。

「そっちに洞窟があるよー! そこがアジトの入り口だからねー!」

「ありがとーぅ! 僕は諦めないよ! 絶対にバルサミナを……おぅふっ!?」

 コスモスが振り返り大きく手を振る。ただし、足は止めずにバック走しながらだったので途中で転んでしまう。

 しかしコスモスは何事もなかったかのように飛び起きると、もう一度俺達に向かって手を振って、三人で走り去って行った。

 そうか、コスモスの方はバルサミナを説得できなかったのか。向こうは雪菜と違って仲間になる気があるかどうか微妙だし、仕方がないのかも知れない。

「アジトか……あいつら、三人だけで大丈夫かな?」

「『不死鳥』がいない間なら問題ないと思うよ。バルサミナは逃げるかも知れないけど」

 アジトと言っても、大した規模ではなく、俺達を迎撃するためにほとんどのモンスターが出てきていて、今はガラ空きなのだとか。

「では、コスモスの後を追う必要も無さそうですな」

 コスモス達が走り去った方向を見ながらルリトラが言う。

「バルサミナの事もあるし、俺達は邪魔しない方がいいだろう」

 こちらは妹の救出という目的は既に達成しているし、更に魔将も撃退している。これ以上は欲張らず、アジトを落とすのはコスモスに譲った方が良いだろう。

「ねぇ、ユキナ? ちょっと聞きたいんだけど」

「何?」

 あとひとつ、確認しておかなければならない事があるが、それについてはクレナが確認してくれた。

「あなただったらバルサミナを説得できる?」

 そう、それだ。もし可能だったら、コスモスを手伝う事も考えなければならない。

「え、ムリムリ。えっと、上官? 命令に逆らえなかったから一緒にいたけど、別に仲良しとかじゃなかったし」

 しかし雪菜は、あっさりと否定した。

 考えてみれば、温泉で会った時からバルサミナに逆らえない感じだったからな。逃げ出す事を考えていた雪菜にとっては目の上のこぶみたいな感じだったのかも知れない。

 そういう事ならば俺達が後を追っても、コスモスの助けにはならないだろう。このままアジトの事は彼等に任せてしまった方がいい。


 という訳で、これからどうするべきかと考えていると、白イルカが話し掛けてきた。

「えっと、どうします? よろしければ、我々の集落に招待したいのですが……」

 柔らかな物腰だ。悪い人には見えないが、そもそもイルカの人相など区別ができない。

 雪菜が連れて来ていたようなので、まずはそちらに話を聞いてみる事にする。

「雪菜、彼等は何者なんだ?」

「この島に住んでいる……えっと、ギルマンだっけ? この人達も『不死鳥』は敵だったみたいだから、こっそり協力してたの」

「なるほど、それで……」

 つまり雪菜は元々、いつまでも『不死鳥』の下に甘んじているつもりは無かったという事か。俺と再会する以前から、水面下で準備を進めていたらしい。

 バルサミナはコスモスに足止めしてもらい、ギルマン達と協力して『不死鳥』を無力化して、その隙に白イルカに解呪してもらうというのが元々の計画だったそうだ。

 なるほど、雪菜もちゃんと自由になる方法を探していたんだな。

 だが、その方法ではあの闇が噴き出す魔法で身動きが取れなくなり、そのまま命を落としていた可能性が高い。実行に移す前に再会できて本当に良かった。

 それはともかく、以前から協力関係にあったのならば信用しても大丈夫だろう。

 クレナの方にも視線を向けると、彼女も同じ結論に達したようでコクリと頷いた。

「分かった。案内してくれ」

「では、こちらへ」

 そう言って俺達を先導する白イルカ。隻眼ギルマン達が俺達を取り囲んでの移動だ。

 護送してくれているのだろうが、武装している俺達を警戒しているというのもあるんだろうな。当然の反応だと思うので触れないでおく。

 そのまま俺達一行は海辺にあるというギルマン達の集落へと案内された。内心「やっぱり『魔力喰い』って怖いのかなぁ」とか考えながら。


 そして到着したギルマンの集落は、海岸の奥まった入江にいくつもの小屋が浮かべられた水上集落だった。周囲は森に囲まれていて、島の外からは見えにくそうな立地だ。

 集落に近付くと武装していないギルマン達が出迎えてくれた。武装しているのが男性、していないのが女性かと思ったが、見た目からは男女の区別はつかない。

 声が渋いから男性だと思っていたが、実は女性だったらどうしよう、隻眼ギルマン。

 後で雪菜に確認してみたところ、男性だと分かって一安心である。ギルマンは大人になると声で性別が分かるそうだ。無論、中には分かりにくい人もいるそうだが。

「みんな、『不死鳥』もアジトのモンスターも倒したよ! アジトには他の勇者が乗り込んでるから、もう大丈夫っ!!」

 雪菜がそう言うと、出迎えのギルマン達から歓声が上がる。

 彼等にとっても『不死鳥』のアジトが邪魔だった事が、その反応からも見て取れる。雪菜とギルマンが協力していたのは、その辺りにも理由があったのか。

「そういう事情なら、私達も行った方が良かったかしら? アジト」

「いや、大丈夫だろ。リコットも行ってたし」

 コスモスだけだったら不安だが、真面目なリコットも一緒なのだから、魔族のアジトを放置するような事は無いはずだ。

 周りを見回してみると、波打ち際に小屋が並んでいる。

 彼等ギルマンは生活の大半を海中で過ごすそうだが、それでも眠る時は屋根のある陸上で寝るらしい。モンスターも棲息する海なので、その方が安全なのだそうだ。

 岸の砂浜に大きな葉を使って作られた南国情緒溢れるパラソルがある。その下にはベンチとゴザ。雪菜が集落に来た時は、そこを使っていたとの事だ。

「ここに泊まっていたんですか?」

「泊まった事無いよ。そんなに長い間アジトを抜け出せなかったし」

 問い掛けるロニに、雪菜は黒い羽をパタパタさせながら答えた。

 こんな壁も無い所でと思ったが、休憩ぐらいしかしていなかったのか。雪菜も苦労していたんだな。

 今夜は集落を上げてお祝いをするそうだ。海の中までは参加できないが、ここで海の幸をご相伴に与るとしよう。


 ここに着くまでにギルマン達から聞いたのだが、この島の事はネプトゥヌスの漁師達の間でも知られているが、光の神殿が水の神殿をネプトゥヌスから追い出した過去があるため、秘密にしているらしい。

 もしかしたら、クレナ達の聞き込みでもこの島の情報を得られなかったのは、俺が表向きは光の神殿に属する勇者という事になっているのも影響しているのかも知れない。

 困ったな、白イルカから水の女神の神殿について聞きたかったのだが、警戒されて話してもらえないかも知れない。

 どう話を切り出したものかと考えていると、白イルカが声を掛けてきた。

「トウヤ殿、ご案内したいところがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「案内? どこだ?」

「……水の女神様の神殿です」

 なんと、向こうから話を振ってきたのだ。

 都合が良いが、逆に都合が良過ぎる気がして訝しげな顔になってしまう。

 チラリと雪菜の方に視線を向けると、ブンブンと手と首を振って否定してきた。雪菜も知らないようだ。

「……それ、トウヤに教えていいものなの? トウヤって、光の女神の神殿の勇者よ?」

「構いません。これは水の女神様の神託によるものですから」

 クレナも確認のために問い掛けたが、白イルカは目を細めて受け流した。

 女神の神託か、これは水の女神がサポートしてくれたと考えるべきか。

「俺の目的は、水の女神の祝福を授かる事なんだが……儀式をやってもらえると考えていいのかな?」

 そう問い掛けると、白イルカはコクリと頷いた。

「……分かった、案内してくれ。神殿はこの集落の中にあるのか?」

「集落の外ですが、人間でも泳がず行ける場所ですよ」

 そう言うと白イルカは、踵を返して海の中へと入っていく。

「ちょっと待て、泳がずに行けるんじゃないのか?」

「え? ええ、そうですよ。ちゃんと足は付くはずです」

「……そうか」

 これは水着にでも着替えた方が良さそうだ。

「すまない、準備するからちょっと待ってくれ」

 そう言って白イルカを引き止めると、俺は『無限バスルーム』の扉を開いた。

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