第84話 科学忍法……?
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操る魔法、HPを奪う魔法、MPを奪う魔法、魔法を封じる魔法、視力を奪う魔法、動きを止める魔法、かゆくなる魔法。
よくもまぁ、これだけの魔法を掛けたものだ。というか、何だかゆくなる魔法って。ある意味恐ろしい魔法だが。
それにしてもあのフード、これだけの魔法を掛けていたにも拘らず、真っ先に使ったのが命に関わるアレか。
裏切り者を許さない苛烈な性格をしているのか、それとも単に短絡的な性格なのか。どちらにせよ攻撃的である事は間違いなさそうだな。
外に出てこれらの魔法を発動されたらまずい。俺は一つ一つ念入りに解呪していった。
特に抵抗も無く、解呪自体はそれ程難しくない。
全て解呪したところで、雪菜にフードについて尋ねる。休ませてやりたいが、外では戦闘が続いているので、もう少し我慢してもらうしかない。
飛び出す前に、少し情報を集めておこう。
「雪菜、あのフードは一体何者なんだ?」
俺が問い掛けると、雪菜は俺の膝の上に移動してきた。
ああ、昔はよくこうやっていたな。懐かしい気分になる。
「私を召喚したヤツで……みんなに『不死鳥』って呼ばれてた」
「『不死鳥』?」
地味なフード付きのローブ姿は、どう見ても鳥には見えなかったが、どこが『不死鳥』だというのか。
「あいつ不死身だって話よ。確かめた事は無いけど」
さらっととんでもない事を言う雪菜。不死身だから『不死鳥』か。
未確認なのは仕方がない。これまでは、掛けられていた魔法のせいで安易に反抗する事もできなかったのだろう。今回も周到に準備していたと思われる。
「でも、『不死鳥』なんて魔将がいるとは聞いた事がないが……」
キンギョから得た情報の中に『不死鳥』の名前は無かった。歴史書などでも、この事は確認している。
チラリとラクティの方を見ると、彼女は自信無さげな様子でおずおずと話し始めた。
「もしかしたら……元・魔将の人かも知れません」
「……なにそれ?」
怪訝そうな顔でそう問い返すと、ラクティは途端にあわあわし始めた。責めている訳じゃないから、落ち着いて答えてくれ。
「そのっ、ああいう二つ名って、将軍に就任する時に付くものなんです」
魔将としての箔付けか。確かにありそうな話だ。
「だから、二つ名があって、魔将として伝わってないって事は、一度魔将になった後、何か理由があって辞めた人じゃないかと……」
「魔将って、どういう理由で辞めるんだ……?」
まったく見当がつかない。そもそも辞められるものなのか、魔将は。
色々と魔法が使えるヤツみたいだし、戦闘向けではなかったのか。
その理由を推測していると、膝の上の雪菜が話し掛けてきた。
「お兄ちゃん……私、その理由知ってるかも」
「何?」
「あいつの部下が言ってた。『不死鳥』って、戦争したら絶対に負けるって有名だったんだって。でも、不死身だから本人はいつの間にか復活してるとか……」
「……ああ、辞めたじゃなくてクビか」
戦えば必ず敗れる百戦百敗将軍。しかも、戦死して終わる事も無い。なんてはた迷惑な『不死鳥』だ。質が悪いにもほどがある。
「それなら楽勝……か?」
「でも、本人は闇の勇者で強いから、誰も逆らえないって言ってたよ」
「闇の勇者?」
「魔王と一緒に召喚されたんだって。これは本人が自慢してた」
チラリと視線を向けると、ラクティは落ち着きのない様子であぅあぅ言っていた。召喚したのはキンギョだから、彼女が知らなくても無理はないか。
「…………つまりアレか。あいつは、『炎の魔神』とか五大魔将と同格って事か」
強さなども同格かどうかは分からないが、なめて掛かれる相手ではなさそうだ。どこまで質が悪いんだ。
相手は不死身で、指揮官としてはアレだが、本人は強い。今得られる情報はこれぐらいか。これは急いで戦線に復帰した方が良さそうだな。
『無限バスルーム』の扉を開き、まずは扉を開けて周囲の状況を確認する。
モンスター軍団は既に片付けられているようだ。
ギルマンの方にも被害があったらしく、白イルカが魔法で治療している。
クレナ達は大丈夫かと探してみると、クレナ、ロニ、マークの三人が集まっているのが見えた。リウムちゃんが、その上を『飛翔盤』で旋回している。
そしてルリトラは、隻眼イルカ――もとい隻眼ギルマンと一緒に『不死鳥』と激闘を繰り広げていた。
鋭い風切り音をたてて繰り出されるグレイブの連撃。対する『不死鳥』は、全身から黒い炎を噴き出し、大小の曲刀二振りを手に斬撃を繰り出してそれを迎え撃っている。あれは太刀と脇差のつもりだろうか。
隻眼ギルマンは、地面を滑りながら時に槍を繰り出し、時に槍を投擲しながら戦っていた。カゴは既に背負っておらず、周りのギルマン達から槍を受け取りながらの戦いだ。
あの『不死鳥』、魔法だけじゃないのか。ルリトラ達にも負けてないぞ。いや、むしろ押され気味じゃないか、あれは。
なるほど、これだけハイレベルな戦いを繰り広げられると割って入るのが難しいな。クレナ達も見ているしかないのか。
だが、それよりもひとつ気になる事がある。
激しく剣戟が鳴り響く中、俺は呆れ気味の声でラクティと雪菜に話し掛けた。
「フードが無くなってるな」
「お姉さまの炎で燃やしましたから」
「代わりに黒く燃えてるね」
「おそらく、先程のユキナさんと同じ闇の精霊力ではないかと」
「顔が見えているな」
「ガイコツですね」
「私も初めて見た。あんな顔してたんだ……」
「あいつ、どういう魔族なんだ?」
「正しくは『ネクロアーク』というモンスターです。アンデッド達の王ですよ。魔法を極めたモンスターって聞いてたんですけど……」
自信無さげなラクティ。目の前でその魔法を極めたモンスターが二刀流で大立ち回りを演じているのだから無理も無い。これが『五大魔将』の格だというのか。
それにしても『不死者の君主』か――
「どこが『不死鳥』だ! それだったら『不死王』とか名乗れよッ!!」
「『王』とか名乗らせてくれる訳ないでしょ! 魔王がいるんだから!!」
――思わず大声でツっこんだら、『不死鳥』は鍔迫り合いをしていたルリトラを蹴り飛ばして、こちらに反論してきた。まさか返事がくるとは。
ルリトラは咄嗟に脚甲で蹴りを防いでいたが、弾き飛ばされて距離が空いてしまい、グレイブを構えて攻撃を仕掛けるタイミングを図っている。
隻眼ギルマンも、一旦攻撃の手を止めて様子見をしているようだ。
さて、困った。
先程の戦いを見た感じ、真正面から戦っても俺では勝てそうにない。
当然といえば当然か。何せ相手は戦国の世を生きてきたプロの武士なのだ、平和な時代を生きてきた元・高校生とは根本的に違う。
ルリトラ達が目まぐるしく動き回る乱戦状態では、魔法で援護するのも難しい。
こうなったら何かしらの方法で隙を作るか。
そういえばあのツっこみ返し、ノリが良いというか、反論せずにはいられなかった感じだったな。ここを何とか狙えないものか。
どうしようかと考えていると、雪菜が俺の腕にしがみついてきた。
「お兄ちゃん……」
「どうした?」
顔を見てみると、涙目になっている。突然の事に、隣のラクティがあたふたしていた。
俺はその顔を見て、そっと銀色になってしまった髪を撫でてやる。
「良かったな、雪菜……」
「うん……」
「……あんな風にならなくて」
「うん……!」
兄妹でひしっと抱き合った。周りのギルマン達がズッコケているが気にしない。
「魔族になると言っても、アレは無いよなぁ」
「だよね~」
「貴様らアァァァッ!!」
そして二人して笑ってみせると、『不死鳥』が大声を張り上げた。
「今だ、『精霊召喚』ッ!」
だが、それはこちらの待ち望んでいたアクションだ。雪菜を抱きしめたまま腕一本を突き出し、カウンター気味に光の精霊を放つ。それを『不死鳥』の眼前で炸裂させて目くらましとするのだ。
そして怯んでいる隙に、踏み出した足元から大地の精霊を召喚して足を捕らえる。黒くなるまで圧縮したそれは、そう易々とは壊せないだろう。
「なっ!? ムッ……ユキナか! 丁度いい。こいつらを倒せ……!」
虚ろな眼窩でこちらを睨みつけた『不死鳥』が、雪菜の存在に気付いた。
おそらく雪菜を操って同士討ちをさせるつもりなのだろう。『不死鳥』は小刀の切っ先を雪菜に向ける――が、何も起こらない。
まぁ、そうするよな。この状況では。
「なっ!? バ、バカな!?」
「ああ、そうだな。バカはお前だ」
「何だと!? 許さんッ!!」
ここで更に煽ると、今度は大刀を振りかざしてくる。
「セイヤァッ!!」
だが次の瞬間、背後に肉迫していたルリトラによって『不死鳥』の首が宙を舞った。
こっちにばかり意識を向けていたら、そうなるよな。時間にして数秒だろうが、ルリトラにはそれで十分だ。『不死鳥』越しに見る、彼の飛び掛かる姿は大迫力だったぞ。
残った身体は、そのまま力を失って崩れ落ちる。
「うぉのれ、誰だ!? 誰が私の首を刎ねた!? 貴様か、トカゲ!!」
が、首だけで喚きだした。流石不死身だな。
喋る事ができるようなので、まだ魔法が使えるかも知れない。まだ黒い炎を噴き出す頭蓋骨を、グレイブの石突きで叩き壊してもらった。
『不死鳥』のツっこみ返し、ノリがいいと言ってしまえばそれまでだが、見方を変えれば言い返さずにはいられなかった、冷静さに欠けるという事だ。おそらく戦では必ず負けるというのも、その辺が関わっているのだろう。
そこで雪菜は、『不死鳥』を挑発して意識をこちらに向ける事を考え、俺がそれを察して乗った結果が先程の小芝居だ。
「あなた達、えげつない事考えるわね……中で打ち合わせしてたの?」
クレナとロニが近付いて来て、そんな事を問い掛けてきた。
先程ズッコケずにいたのは、俺達の策を理解していたからだろう。代わりに呆れた顔をしていたが。
「そんな訳ないだろ。心配して急いで出てきたんだぞ」
「それじゃさっきのは……」
「雪菜の考えている事なら、あれぐらい分かるさ」
その答えを聞いて、雪菜が再び飛びついてきた。今度は嬉しそうな笑顔を浮かべて。
うむ、これぞ兄妹愛。
こら、クレナ。また呆れた顔になるんじゃない。
『不死鳥』の正体についてですが、分かる人には分かると思いますが、本編で名前を出す事はありません。
という訳で、分かった人は「ああ、あいつか」と、こっそり楽しんでくださいw
追伸
2巻をお買い上げくださった皆様、本当にありがとうございました。
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答えてくださった方は、裏話満載の『アトガキのあとがき』がご覧になれます。
本編で『五大魔将』達の名前が出せなくなった理由についても触れていますよw




