表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界混浴物語  作者: 日々花長春
湾岸露天 古代海水の湯
91/206

第82話 もんすたあ さぷらいずど ゆう

二巻の書籍化作業は終わりました。


『異世界混浴物語2 熱情の砂風呂』は、8月25日発売です。


活動報告の方でも色々とお知らせしておりますので、そちらもご確認ください。

 グラン・ノーチラス号が海に出ると、操舵輪があるデッキから透明なカバー越しに海中の光景が見えた。

 視界一杯に広がる目に沁みるような鮮やかなブルー。上を見上げてみると、海面の波に合わせて太陽の光がきらめいて見える。

 腰にぶら下げたラクティとリウムちゃんが呆けた顔をしてその光景に見入っている。周りを見てみると、クレナとロニ、クリッサ、そしてルリトラも同様だった。

 そうか、ラクティ達は海中の光景なんて初めて見るのか。

 パルドー、シャコバ、マークの三人は、テスト航行で散々見ているため平然としてる。そんな彼等も初めて海に出た時は感動したそうだ。

 俺も同じく平然としている側だ。テレビなどで何度も見ているぶん、彼女達のように新鮮な感動を感じられないのがちょっと寂しかった。

 しかし、こればかりは仕方がない。見飽きる事なくはしゃいでる面々をデッキに残し、俺はシャコバと共に『無限バスルーム』内に戻って、今の内にオークションの成果を見せてもらう事にする。

 シャコバがオークションで落札したのは基本的に「かさばらず、換金性の高い物」だ。主に美術品や貴金属、そして骨董品などで、手頃なサイズの装飾品などが多い。

 傷物や壊れた物も安く落札してきていたが、それは自分で修理するつもりなのだとか。

 パルドーも自分で使うつもりで鉱石などを落札してきていたので、どちらも職人らしい買い物だといえるかも知れない。

「武器・防具は無かったのか?」

「今使ってるのより弱い物にゃら」

 ああ、それは要らないな。

 その代わり装飾品の中には魔法の掛かった護符(アミュレット)などもあるようだ。

「この辺とか明らかに呪われてるけどにゃ」

「オイ」

「トウヤのギフトで解呪できるんでしょ?」

 確かに俺の『無限バスルーム』なら、悪い魔法の類なら文字通り洗い流せる。シャコバもそれを狙っていたようだ。

 いや洗うよりもタライに水を張って漬け込んでおこう。お寿司のヅケみたいに。

 呪われている分かなり安価で取り引きされていたらしいが、解呪すれば普通の装飾品。これは結構おいしい金策なんじゃないだろうか。

「こういう呪いの(しにゃ)ってほとんど売れ残るらしいから、取っといて欲しいって支配人に頼んできたにゃ」

「ナイス、シャコバ」

 お互いにサムズアップ。シャコバって派手好きで金遣いが荒い印象があるが、実は職人気質のパルドーよりしっかりした経済感覚をしていて頼もしい。

 がめついと言うなかれ。この危険な世界を旅するには強さが重要だが、それと同じぐらいに旅費――お金が大事なのも紛れもない現実なのだ。

 俺はリーダーとしてパーティの皆を養っていかなければならない。

 雪菜を助ければ、家族が更に一人増えるのだから尚更である。

 いずれは春乃さん達とも合流するのだ。この辺りはしっかりしておかねばならないだろう。そういう意味では、シャコバは有難いサポーターだった。



 それから海面上のコスモス達の船に付かず離れずで付いていく事約半日、俺達一行はバルサミナがコスモスを呼び出した島まで後僅かという所まで辿り着いていた。

 潜望鏡を海面に覗かせて見ると、想像していたよりも大きいと感じる島の姿が見える。

 決闘という言葉から、かの有名な巌流島をイメージしていたが、ここから見えるのは中央に大きな山がそびえ立つ、緑豊かな普通の島である。

「魔族の拠点……という感じではありませんな」

 交代して潜望鏡を覗き込んでいたルリトラが言う。

 彼の言う通りだ。おどろおどろしい雰囲気が無いというのもあるが、それらしき建物の影は見えない。

 フランチェリス王女は、この呼び出しは罠で、島には大勢の敵が待ち構えているのではないかと疑っていた。

 これは俺も同意見だ。バルサミナは、戦力を分散させるためにコスモスだけを呼び出したと思われるが、分散させてもなお親衛隊がついているコスモスの方が戦力は上なのだ。

 それを逆転させるには、この島にモンスター軍団でも用意しておくしかない。

 ここで考えられるのは二つのパターン。最初から全軍引き連れて姿を現すか、一部を伏せて隠しているか。

 最初は互角かそれ以下の戦力を見せて、残りを周囲に伏せるという方法を俺達は考えた。島は木々が生い茂っており、伏兵を隠すには持ってこいだ。

 問題はバルサミナがそれを思いつくかどうか。

 彼女の頭は、何度も襲撃されている王女が「もし、そんな真っ当な手段をとってきたならば、黒幕の存在を確信する」と断言するレベルである。


「ム……おりました、女魔族です」

「見せてくれ」

 ルリトラと交代し潜望鏡を覗き込むと、広い砂浜にバルサミナの姿があった。

 その周りに雪菜の姿は無く、代わりに親衛隊と同じぐらいのモンスター達、そしてもう一人黒いフード付きのマントに身を包んだ人影があった。

 雪菜ではないな。顔は見えないが、背が高過ぎる。

 二人は何やら言い争っているようにみえる。

「……まずいな」

「何がです?」

「スピードを上げて島に近付くんだ。早く上陸できる場所を探すぞ!」

「見てください! コスモスさんの船がスピードを上げました!」

 俺が指示を飛ばすのと同時に、ロニが上を指さして声を上げた。

 釣られて見上げると、先程よりもコスモス達の船が離れている。

「やっぱりか! 急げ!」

「やっぱりって何よ!?」

 潜望鏡で見えるという事は、上の船からも望遠鏡で見える。つまり、バルサミナと謎のフードが言い争う姿が船上のコスモスにも見えていたという事だ。

「バルサミナが、別の魔族と言い争っている。あれ見たら突っ込むだろ、コスモスなら」

「……なるほど」

 代わって潜望鏡を覗いたクレナは、呆れつつも納得した声をもらした。

 というか、あそこで言い争っているのがバルサミナではなく雪菜だったら、俺だって吶喊していただろう。だからこそ分かったのだ、コスモスの行動が。

 フードの正体も気になるが、それ以上に大事なのは、砂浜に雪菜がいないという事だ。今はコスモス達に遅れないよう早く上陸できる場所を探そう。

「あのフード……魔族かしら?」

 潜望鏡から顔を離したクレナが、戸惑い気味の表情で口を開いた。

 確かにあのフード、バルサミナに従うだけのモンスターには見えないな。他にいなければ雪菜がモンスター軍団を率いると思っていたが、これは分からなくなってきたぞ。

「ルリトラ、クレナと交代。監視を頼む」

 とにかく今は、一刻も早く雪菜を探さねばならない。一番目のいいルリトラに潜望鏡を任せて、上陸の準備をしよう。


 それから少し島を回ったところで、砂浜からは陰になっている場所を発見。

 潜水艦は浅い海には入れないため、一旦浮上しボートに乗って上陸した。

 上陸組は、俺、ルリトラ、クレナ、ロニ、リウムちゃん、ラクティ、マークの七人。

 ラクティは戦えないが、雪菜の魔法を解く際にサポートしてくれるらしい。絶対に俺の側から離れないようにと言ってある。

 マークは当初留守番してもらうつもりだったが、自ら上陸を希望してきた。クリッサに対して格好付けたいのだろう。

 ルリトラと組ませると、上手い具合に彼の死角をカバーしてくれるので、そのまま参加してもらう事にした。

 そしてパルドー、シャコバ、クリッサの三人は、潜水艦を放置していく訳にはいかないので留守番だ。

 俺がいない間は当然『無限バスルーム』を使えないので、水と食料を用意しておくのを忘れない。

 この間にコスモス達も小舟を使って上陸し、バルサミナ達との戦闘に突入している。

 バルサミナ側も上陸前に叩こうとしたそうだが、空から攻撃しようとしたものはコスモスの『無限弾丸』で、海中から攻撃しようとしたものはリコットの槍で返り討ちにされたようだ。

 気になるのは、コスモス達が上陸する直前に謎のフードが身を翻して行方をくらませてしまった事だ。ルリトラは潜望鏡でそれを追っていたそうだが、岸壁に視界を遮られ、見えなくなってしまったらしい。

 そいつの動きも気になる。急いで敵の伏兵を探すとしよう。

 現在位置は、砂浜の東にある岸壁の陰。砂浜は海に面した北側以外は全て森に囲まれている。こちらの方が少し高くなっており、こちらからは砂浜の様子を見渡す事ができた。

 砂浜の戦いはコスモスの方が優勢のようだ。伏兵の奇襲を防ぐ事ができれば、あちらは問題ないだろう。

 先行して探索するのはロニ。レッドリザードの革で作られた赤いアーマーは少々派手だが、パーティの中で最も隠密行動に長けている。

 地面に四つん這いになって鼻をくんくんとさせる姿はまるで犬だが、リュカオンなのだから仕方がない。

 ちょんと突き出したお尻でしっぽが揺れているが、探索の邪魔はできないので、男三人揃って視線を逸らしておいた。

「……たくさんのモンスターが移動してるみたいですね」

「さっきまでここにいたって事か?」

「いえ、ここを通っただけのようです」

 コスモス達が見える場所を通っているにも関わらず、砂浜に行かずに別の場所に移動しているモンスターの集団、どこかに集結していると考えるべきか。

「多分、伏兵はその先だな。追跡できるか?」

「もちろんです!」

 ロニは自信満々な様子で立ち上がり、俺達を先導しはじめる。

 隠密行動に向かない鎧の俺達は、できるだけ音を立てないように気を付けながら彼女の背中を追った。

 なお、リウムちゃんは『飛翔盤』に乗っているので足音の心配は無い。木にぶつからないように気を付けろよ。


「……音、あんまり気にする必要なかったな」

 その事に気付いたのは、砂浜を回り込んで北側の森に移動し、モンスターの集団を発見した時だった。

「さ、騒がしいですね」

 俺の背に隠れたラクティが、おずおずと顔を覗かせながら呟く。

 しかし、その声もモンスター達には届いていないだろう。何故ならモンスター達は騒がしくざわめいており、更にその中心では例のフードが大声を出しているのだから。

 砂浜から行方をくらませたフード、ここにいたのか。

 茂みに隠れて様子をうかがっていると、フードはモンスターの輪の中に立ち、早足でぐるぐると歩き回っている。明らかにイライラしているな。


「なんで!? なんでこーなんの!? 手出すなって言ったじゃん! 戦力足りないから手出すなって言ったじゃん!!」


 その声からは焦った様子がありありと伝わってくる。

 内容から察すると、あのフードがバルサミナを止めていた事になるが、あれがバルサミナの上司という事になるのだろうか。

 モンスターの数はこちらの方が多い。こちらの方が本隊の可能性もある。


「戦力揃えて待ち構えるのはいいよ! でも、なんで秘密のアジトに呼び出しちゃうの!?」


 思わず噴き出しかけて、口を押さえる。回りを見るとラクティとリウムちゃん以外の全員が口を押さえていた。特にクレナはツボにはまったらしく、白い頬を真っ赤にして涙目で笑いを堪えている。

 そうか、この島は魔族のアジトだったのか。しかも、今までバレていない秘密の。

 何を企んでいたかは知らないが、ここでネプトゥヌスをうかがっていたのだろう。

 バルサミナは、その場所をコスモスに教えて呼び出した。おそらくは、戦力が足りないと言われたから、アジトの戦力を使ってコスモスを迎え撃つために。

 その結果、コスモスだけでなく俺達まで呼び寄せ、この島の事もバレてしまった。

 うん、バカだ。せめて別の場所にモンスター達を移動させて、そこに呼び出さないと。

 そんな事を考えていると、隣に来たクレナが、ずいっと顔を近付けてきた。そして頬寄せる体勢になり、ひそひそ声で話し掛けてくる。

「妙ね。バルサミナの独断だったら、伏兵とかしないって話じゃなかった?」

「そもそもコスモスだけ呼び出すとか考えなさそうだな」

「確かに妙ですな。黒幕がいると考えていましたが、あのフードの様子を見た感じ、入れ知恵した訳ではなさそうですし……」

 ルリトラも首を傾げている。

 確かに、バルサミナの独断にしても、黒幕が入れ知恵したにしても中途半端。まさか、入れ知恵されたが、全部理解できなかったみたいなオチでもあるのだろうか。

「他にも偉いヤツがいるんじゃね?」

「同意……ここはアジトみたいだし」

 マークとリウムちゃんの意見にも一理ある。いわゆる「幹部」は、バルサミナと雪菜だけかと思っていたが、現にあのフードがいる。先入観は捨て、他にもいる可能性を考えた方が良さそうだ。

 問題は、肝心の雪菜がどこにいるかだが、考えられるのは「秘密のアジト」だろうか。


「ええい、仕方ない! こうなったら出し惜しみは無しだ! お前達、あいつらを片付けて奴等の口を封じるぞッ!!」


 気付くと向こうでフードが手を振り上げて檄を飛ばしていた。ここの伏兵でコスモス達に奇襲を仕掛ける気のようだ。

 タイミングとしては遅い気もするが、この数で横殴りされたらコスモス達も危ないかも知れない。考えるのは後にして、まずはこいつらを片付けよう。

「あいつらが砂浜に向かって動き出した直後に横殴りするぞ」

 茂みの中で声を潜めてそういうと、皆は無言で頷く。

「クレナ、ラクティを頼む」

「分かったわ」

 前衛タイプのロニと組んでいると分かりにくいが、クレナの本領は後衛を守りながらの魔法攻撃だ。「自衛できる魔法使い」と言い換えてもいい。

 彼女に任せれば、ラクティも大丈夫だろう。

 そのまま息を潜める事一分足らず、モンスター達を盛り上げるだけ盛り上げたフードがすっと手を上げた。

「突撃ーーーッ!!」

 その言葉と同時にモンスター達が雄叫びを上げ、動き出す。そう、モンスター達の意識が全て前方だけに集中している。

 この瞬間を逃してはならない。『三日月(クレセントムーン)』を持つ手に力を込めて茂みから飛び出そうとした瞬間――無数の投げ槍がモンスター達の先頭集団に襲い掛かった。

「……えっ?」

 もちろん俺達ではない。槍は俺達の反対側から飛んできた。誰かが、俺達とまったく同じタイミングで攻撃を仕掛けたのだ。

 モンスター達は不意を突かれて混乱している。

「なにごとだぁ!?」

 フードが声を張り上げると、向こうの茂みの中から一つの人影が姿を現した。

「この時を待ってたわ……島が混乱して、あなたの監視が緩むのをね……」

「き、貴様は……!?」

 そこに浮かんでいたのは、大きく翼を広げて銀の髪をなびかせる少女。そう、俺の妹・雪菜の姿があった。

 そして雪菜はフードをビシッと指差し、力強くこう宣言する。

「たとえ監視されてても……そいつをブッ飛ばしちゃえば問題ないよねっ!」

 かくん、と俺の顎が落ちる。周囲の仲間も多かれ少なかれ似たような表情だ。

「ああ、元気になったんだな、雪菜。お兄ちゃんはうれしいよ……」

「しっかりしなさい、トウヤ! 気持ちは分かるけど、気を確かに持って!」

 どうやら転生した俺の妹は、俺の想像以上にたくましくなっていたらしい。

※ 妹はモンスターではありません。


今回のタイトルの元ネタは『ポートピア連続殺人事件』です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ