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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
湾岸露天 古代海水の湯
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第75話 星空のレストラン

おかげさまで、本日「異世界混浴物語1 お風呂場の勇者」が発売されました。


活動報告の方で色々とお知らせしておりますので、そちらもご覧ください。

「すごい……!」

 その光景を見て、俺は思わず感嘆の声をあげた。

 ここは『潮騒の乙女』亭のレストラン。なんとそのレストランは、ホテルの専用ビーチを利用した屋外レストランだった。砂浜にテーブルを並べ、盛大に篝火を焚いている。

 夜しか営業していないという話だったが、納得だ。何せこのビーチは、昼間は海水浴場になっているのだから。

 海の方に視線を向けてみると、満天の星が空を埋め尽くしていた。

 いや、空だけではない。夜の海という広大な黒いキャンバスに星空が映り込み、それが波の動きに合わせてきらめいており、まるで自分が星空の中に入り込んでしまったかのような錯覚を覚える。

「きれいですね……」

 隣のラクティが、見惚れた様子でため息をもらす。

 こういう場ではいつものメイド服はまずいという事で、フリフリの可愛らしい服に着替えた姿は、どこか良い所のお嬢さんのように見える。

 しかし、こう見えても彼女はれっきとした闇の女神。この美しい夜景に感じ入るものがあるのかも知れない。

 もっとも、闇の女神でなくてもこの夜景は見惚れてしまうだろう。俺達も飽きる事なく一面の星空を眺めていた。


 俺達もクレナの指示で着替えているが、そこまできっちりした格好はしていない。この辺りはお国柄もあるらしく、きっちりし過ぎるとここでは浮いてしまうとの事だ。

 確かに楽しそうな声が溢れかえっており、高級レストランというよりもパーティー会場を思わせる。

 ウェイターに席へと案内されて料理を注文。そして待つ事しばし、運ばれて来たのは魚介類をメインとしたたくさんの料理だった。

 正直海の幸ばかりだと思っていたが、意外と山の幸も多く、彩り豊かなものだ。

 ネプトゥヌスと言えば海をイメージしがちだが、国土のほとんどが鉤爪半島なため、実際には「海と山」の国なのである。

 美味しそうな匂いを感じながら、皆で両手を合わせて「いただきます」と言う。いつの間にかクレナ達にも浸透していたな、これ。

 この世界では、食事の前には女神に祈りを捧げるのが普通らしいが、ラクティをはじめとする女神姉妹達からお墨付きをいただいているので問題は無いだろう。

 というか、その祈りは元々モンスターを倒した時の祈りと同じような意味があるため、どちらかというと食べ物への感謝の気持ちを表すこちらの方が正しいらしい。

 この件は春乃さんにも伝えており、彼女達の方でも『光の女神巡礼団』と別れてからは「いただきます」を使っているそうだ。

 しかし、神殿関係者達にこれを伝えていいものかどうかは判断がつかない。

 俺だって習慣として言っている面が強く、食べ物への感謝の気持ちとか、深く考えた事は無いのだ。

 彼等も今更言われたって困るだろうし、やっぱり黙っているべきだろうか。

 うん、俺が気にする事ではないな。女神達も気にしていないようだったし。

 それはともかく、夕食である。

「ほぅ! これは美味いですな!」

 大きな魚の丸揚げにかぶりついたルリトラが声を上げた。

 頭と尾を手で持ってなんて行儀悪いぞ――と思ったが、周りを見てみると同じようにしている人もいた。周りの人達も特に咎めていない。

 というか、この料理注文している人多いな。

「クレナ、あれ問題ないのか?」

「ああ、手づかみ? 大丈夫よ。もちろん料理にもよるけど」

 そういうクレナも小振りの丸揚げを手に持っていた。

「いいのかなぁ……」

「……あなた、ユピテル貴族とかと食事した事ないの?」

「いや、俺最初から神殿にいたし」

「ああ、それで……」

「どういう事だ?」

 首を傾げて問い掛けると、クレナは苦笑いを浮かべながら教えてくれる。

「貴族の作法ってさ、ユピテルが基準になってるのよ。

 昔は、食事は『寝そべって』、『手づかみ』が基本だったらしいし」

「……そうなの? 手が汚れないか?」

「汚れた手を拭くための『食事服』ってのがあるのよ。本場のユピテルだと、今もしてるんじゃないかしら?」

 すごいな、ユピテル貴族。俺、城に行かなくて良かったかも。

「まぁ、こういう所で、こういう料理なら、手掴みぐらいはするんじゃない?」

「今までこういう所には近付かなかったから知らなかったが、結構ワイルドなんだな、貴族の作法って」

「昔はもっと凄くて、今聞いたら何ソレ? って思うのも多いらしいけどね」

 ゴメン、聞きたくない。

 コスモス達もこの宿に泊まっていたらしいが、フランチェリス王女達も、魚の丸揚げを手にしてかぶりついていたのだろうか。

 改めて周りを見てみると、皆着ている物こそ立派だが、皆賑やかに食事をしており、俺の目にはお上品さとは程遠い光景に見える。

 でも、ちょっと楽しそうだ。せっかくだから、俺も真似してみるとしよう。

 手頃なサイズの丸揚げを手に取りかぶりつくと、パリッという心地良い音と共に香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。

 そして、口の中にじわっと広がる脂。塩と香辛料が利いた味付けが魚の旨味を引き立てていた。なるほど、これは皆が注文する訳だ。

 ふと隣を見ると、リウムちゃんが小さな丸揚げを一心不乱に黙々と食べている。その姿はまるで子猫、いや、木の実を食べるリスのようだ。どうやら彼女も気に入ったらしい。

「もう、マー君ったら。そんにゃに慌てにゃくても料理は逃げにゃいわよ」

 見ればマークも丸揚げにかぶり付き、クリッサにたしなめられている。

 油断しているとすぐに無くなりそうだな。俺も負けてられないぞ。

「トウヤさ~ん、リウムちゃ~ん、お魚ばっかり食べてちゃダメですよ~」

 だが、丸揚げばかり食べていると、今度は俺達がラクティにたしなめられてしまった。栄養学的な意味で言っているのではないだろうな。

 だが確かに、魚ばかりではバランスが悪い。肉料理も食べるとしよう。

「出された料理は、全部食べないとダメです!」

 と思ったら、ロニがサラダを俺達の皿に入れてきた。

 リウムちゃんが哀しそうな目になってロニを見るが、彼女は怯まない。お世話好きの魂に火が付いたロニは強いのだ。

「まったくですな。トウヤ様、好き嫌いしていては私のように大きくなれませんぞ」

「いや、ルリトラほど大きくなるのは無理なんじゃないかな」

 巨体を支えられる椅子が無かったため、丈夫な樽を椅子代わりにしているルリトラ。彼ほどまでに大きくなるのは、流石に無理だろう。

「トウヤさん、こっちのお肉も美味しいですよ」

 せっかくなので、サラダの前にラクティが勧めてくれた肉料理をいただく事にする。流石にこれは素手ではなくフォークでだ。

 肉には爽やかな酸味のソースが掛けられている。このソースはフルーツを使っているようだ。肉汁溢れる良いお肉が、さっぱりと食べられる。

 そしてサラダは新鮮な野菜と海藻、その上にクリームチーズが乗せられている。

 たかがサラダとあなどるなかれ。その名も『悠久なるネプトゥヌス』、念のために断っておくが、サラダの名前である。

 聞けばポリス近郊の高原では酪農が盛んらしい。つまりこれは、海の幸と山の幸、このポリスで採れるもの全てを盛り込んだ料理と言えるのだ。

「でも、この丸揚げの方が美味しいよな」

「ん……」

 俺とリウムちゃんは顔を見合わせてそう言った。丸揚げにかぶり付きながら。骨までパリパリで美味しく食べられる。

 サラダも美味しいが、魚の丸揚げの方がもっと美味しい。それが全てであった。

 という訳で、大皿一つ分の丸揚げを追加注文する。

 するとウェイターが料理を持って来る際にこんな事を言ってきた。

「お客様、浴場のご予約がまだのようですが……」

「浴場の予約?」

 この宿では、そんなのがいるのか。『無限バスルーム』を使えば必要ないのだが。

「はい、当宿自慢の海水風呂です」

「海水風呂?」

「当宿の露天風呂は海辺にあり、湧き出るお湯が海水と混じり合って丁度良い湯加減となるのです。身体にも良いんですよ」

 にこやかな笑顔で売り込んでくるウェイター。これが営業スマイルというやつか。

 しかし、ここのお風呂は天然温泉なのか。ちょっと気になるな。

 皆の方を見てみると、やはりお風呂が苦手なルリトラ、マーク、クリッサの三人は興味無さげだったが、クレナ達の方は一様に興味を抱いたようだ。

 よし、たまには天然温泉に入ってみるか。

「その予約は今からでも取れるのかな?」

「もちろんでございます」

「それじゃ、お願いします。食事の後、一休みしてから入りますから」

「かしこまりました」

 ウェイターは一礼をして去って行った。

 それにしても海水風呂なんて初めてだな。楽しみだ。

「トウヤ、食べないの?」

「あ、食べる食べる」

 だが、その前に新しく来た料理に舌鼓を打つとしよう。

 いや、ホントに美味しいんだ、この丸揚げ。香辛料に秘密があるんだろうか。

「なぁ、ロニ。時間ができたら皆で買い物に行かないか?」

「私も考えてました。香辛料見に行きたいです」

 やっぱりロニも考えていたか。

 ロンダランに貝を届けて、船の建造については一段落ついた。後は完成を待つだけだ。

「買い物なら服をもう少し欲しいわね。特にラクティ」

「えっ、私ですか?」

「あのメイド服、旅用だから便利だけど、それだけじゃねぇ」

 元々服を持っていなかったのだから、クレナ達に比べて少ないのは仕方がない。

 よし、ラクティの服を買いに行くのも予定に入れておこう。

「そう言えば、船出したら馬車はどうするんですか?」

「荷馬車なら……買い手はいくらでもつく」

「『無限バスルーム』なら連れて行く事も可能でしょうね」

 そう言えば、船で旅立つなら荷馬車をどうするかの問題もあったか。それも考える必要があるな。

 そんな風に今後の予定を語り合いながら、俺達は夕食の時間を楽しむのだった。



 その後、夕食を終えた俺達は一旦部屋に戻った。

 海水風呂は一休みしてからという事になっているので、先にルリトラ達に水浴びを済ませてもらった。

 その間俺は、休憩がてら魔王城から持ち帰った本を読んでいる。

 何やらすごい魔法でも書かれているのではないかと期待していたが、残念ながらそんな事はなく、単に古い本がほとんどだった。

 闇の神官魔法の教本もあったが、これも当時はありふれたもので、特別な魔法が載っている訳ではないらしい。

 もっとも闇の女神信仰が廃れて五百年経った今だと、世界中に何冊残っているかは定かではなく、この教本も「禁呪の書」と呼ばれてしかるべきかも知れないが。

 とはいえ、それ以外の本も全て魔法の本棚に入れて保管されていたので、それなりに価値はあったのだろう。

 オークションに出せば、歴史的な価値も上乗せされて良い値が付いたかも知れない。

 しかし、読みもせずに売る気にはなれなくて、こうして空いている時間を使って、少しずつだが読み進めていた。


「ねぇ、トウヤの水着はどこ?」

「水着? 今日は使わなかったけど」

 実は俺も水着を用意していた。というか、クレナ達が適当に買って来てくれていた。

 予定通り海岸の方で一泊していたなら海で遊ぶために使っていただろうが、残念ながら今回はその機会が無かったのだ。

「水着なんかどうするんだ?」

「着るに決まってるじゃない」

「……お風呂で?」

「ああ、知らないのね。宿みたいな公共の場所の浴場だと、水着を着て入るのが普通よ」

「そういうものなのか……」

 日本でもスパリゾートなどでは水着を着ているし、同じようなものなのだろうか。

 そう言えば、神殿に泊まるか『無限バスルーム』を使ってばかりで、宿のお風呂や公衆浴場を使った事は無かったな。

「ていうか、予約してるんだよな?」

「宿の人に聞いたんですけど、いくつかの岩風呂があって、壁で仕切ってるそうですよ。宿からお風呂までの道もありますし、公共の場所と考えた方がいいと思います」

 ロニの説明を聞いて、俺はなるほどとうなずいた。

 まぁ、普段から使っている湯着が水着になるだけか。

 郷に入れば郷に従え。今夜は水着で海水風呂に入るとしよう。

「食事は寝そべって~」というのは、古代ローマの文化です。

他にも色々とあるのですが、ヤバそうな部分は端折っていますw


公共の浴場では水着というのは、現代における海外の温泉文化ですね。


こうして見るとちぐはぐな面がある世界ですが、元よりこの世界は『フィークス・ブランド』により女性下着の文化が1000年進んだ世界なのです。

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