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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
湾岸露天 古代海水の湯
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第71話 水着DEモンスターハント☆

 翌日一日を使って全ての魔水晶を起動させ、更に一日休息を取った後、俺達一行はネプトゥヌス・ポリス南方の海岸に赴いていた。

 この間買ってきた水着を着ているところは見せて貰えなかった。海に着いてからのお楽しみらしい。

 馬車を使う程の距離ではないので、歩きだ。片道二時間と言ったところだろう。

 こちらに召喚される前ならば、二時間も歩けと言われれば辟易していただろう。

 だが今は、何とも思わないどころか今日は潮風が心地良いと思えてしまうあたり、自分もこちらの世界に慣れてきたのだなと思う。

「ルリトラは大丈夫か?」

「この程度でしたら、まぁ。風が強い方がジメジメした感じが少なくて良いですな」

 この潮風のおかげで、ルリトラの体調も問題ないようだ。

 ちなみに彼は、潜水艦については「よく分からないが賛成」の立場らしい。船に蓋をした状態で旅ができるなら、それに越したことはないそうだ。

 クレナ達の方は、まだ理解できていないが興味津々と言ったところか。現代技術に近い『無限バスルーム』の恩恵に浴する身なので、反対する気にはなれないのだろう。

 そんな話をしながら、本当にどこにでもいるモンスター・スイープドッグを二度程撃退して目的の海岸の到着。

 ざっと見回してみたところ、岩が多めで海水浴には向いてなさそうな海岸だ。しかし、ノーチラス貝の住み処としては、この岩場が最適であるらしい。

「それじゃ、着替えて準備しましょうか」

「あ、俺の水着は買って……ないよな?」

「トウヤはこっち」

 早速着替えて準備しようとしたところで、自分の水着を買っていない事に気付いた。

 そこに声を掛けてきたのはマーク。

「……何これ?」

「あの船と(おにゃ)じ、ノーチラス貝で作ったブレストプレートだよ。海辺で『魔力喰い』はムチャだろ? だから、あの爺さんの工房で作らせてもらったんだ」

「にゃるほど」

「にゃ、言うにゃ」

 なんと、俺が魔水晶を起動させて休んでいる二日の間に、マークが超特急で海辺用の鎧を作ってくれていたらしい。

 俺とロンダランの話を横で聞いていて、全身金属のフルプレートアーマー『魔力喰い』で海に行くのは危ない事に気付いたそうだ。確かに沈むな、それは。

 と言う訳でマークが作ってくれたのが、表面に二枚貝のような波形デザインが施された純白のブレストプレートである。

 各部を特殊な銀で補強して防具としての性能を更に高め、両肩のパーツを同じく銀の鎖で結んで鎧としてまとめている。美術品としても通用しそうな逸品に仕上がっていた。

 臨時の鎧としては十分な性能がありそうだ。せっかくだから使わせてもらうとしよう。

「……お前、やっぱシャコバの息子だったんだなぁ」

「いやいやいや! それ、成形したのロンダランだから! 魔法でやってるから!」

 自分は各パーツをつなげて各部を金属で補強しただけで、だからこそ二日でできたのだと本人は言っているが、やっぱりシャコバ譲りのセンスがあると思うぞ、マーク。

 と言うか、何をそんなに嫌がっているんだろう。もしかしてクリッサが質実剛健デザインなパルドーの娘だからだろうか。あの子は、その辺気にしそうにないが。

 あと、これを成形したロンダランは貝デザインが好きなのだろうか。ネプトゥヌスに居を構えて研究しているのも、その辺りに理由があるのかも知れない。


 そして準備を終えた俺は、外に出て手頃な岩に腰掛けてクレナ達を待った。

 一緒に待つマークとルリトラはいつも通りの装備だ。

 小さな胸当を装備しているマークも、ドラゴンの骨製鎧を装備しているルリトラも、水辺ならばなんとかなるそうだ。

 しかし、それよりも重要なのは、クレナ達の水着姿である。クレナ達の艶姿である。

 いつもお風呂でそれ以上の姿を見ているのだから、何を今更と言ってしまえばそれまでだが、それはそれ、これはこれ。可愛らしく着飾った姿を見るのは別腹なのだ。

 南洋の海は暖かいのだろうか。潜水艦が完成してネプトゥヌスを旅立てば、まず竜尾半島に行く事になるだろう。きっとここより暑いに違いない。

 そうだ。今度皆で、新しい薄手の服を買いに行こう。その時は、こんな服を着てみて欲しいとリクエストしても良いだろうか。

「トウヤ様、クレナ達の準備が終わったようです」

 いい感じに妄想の翼を広げていると、ルリトラが肩を叩いて声を掛けてきた。

 ハッと我に返って扉の方に顔を向けると、丁度満面の笑顔で駆け寄って来たラクティが飛び付いてくる。

「トウヤさーん♪ どうですか? どうですか? 似合いますか?」

 胸に飛び込み、こちらを見上げてにへらと笑う彼女の表情は、どこか満足気で、得意気で、無邪気で、そして愛くるしい笑顔だ。 

 彼女の立場を考えれば当然の事なのだが、水着を着るのは初めてだったらしく、嬉しくてたまらないらしい。

 そんな彼女の水着はAライン。いわゆるワンピースドレス型の水着だ。色はブルー。慎ましやかな胸から下は、ふとももの辺りまで薄手のスカートがついている。

 水着を見せびらかしたいのか、少し離れてくるりんと踊るように回るラクティ。

 日の光の下で見ると、翻ったスカートに華奢な身体のラインが透けて見えた。

「よく似合ってるぞ、ラクティ」

「良かったぁ……」

 褒めてあげると、照れ臭そうに安堵の笑みを浮かべるラクティ。見ているだけで幸せな気分にさせてくる。

「ラクティ、帽子を忘れてますよ」

 後ろから近付いて来たロニが、ラクティに麦藁帽子を被せた。

 そんな彼女の水着は、ホワイトとピンクのストライプ柄のビキニ。下はホットパンツ型のいわゆるパンツタイプビキニだ。しっぽを通す穴はちゃんとあるらしい。

 活動的なデザインで、小麦色の肌をした彼女によく似合っている。

 ほっそりした手足に腰、そして小さいながらもしっかり存在感を示す胸に、ほどよくついた肉がホットパンツを盛り上げるお尻。

 いつものもっさり髪は、後ろで結わえて大きなポニーテールになっていて、こちらもまた水着と合わせて彼女によく似合っていた。

「ロニも可愛いぞ」

「あ、ありがとうございます!」

 花もほころぶような笑顔、いや、これは満開の笑顔だ。

 ロニもラクティと一緒になってはしゃぎ、ポニーテールがしっぽと一緒に揺れていた。

「…………」

 そしていつの間にやらリウムちゃんも無言で二人に混じっている。表情はあまり変わっていないが、楽しそうな雰囲気だ。

 そんな彼女は、胸元にボタンとラインの入ったライトブルーのタンキニにデニム調のパレオを巻いていた。一見余所行きの可愛らしい服に見えるが、れっきとした水着である。

 ココア色の髪と日に焼けた肌に、明るい色合いの水着がよく似合っていた。

 とは言えリウムちゃんの場合は、可愛い水着が嬉しいのではなく、皆と一緒にと言う方が嬉しいのだろう。意外と寂しがり屋さんである。

 とてとてとリウムちゃんが近付いて来て、金色の瞳で上目遣いをして、じっと俺を見詰める。それで彼女が何を言いたいのか、して欲しいのは、大体分かる。

「リウムちゃんも、よく似合ってる」

 そう言って頭をなでてやると、リウムちゃんはすぐさま踵を返してラクティ達のところに戻って行った。顔には出ていないが、あれは恥ずかしがっているな。

 そしてリウムちゃんは再び二人に混じってはしゃぎ出すのだが、その姿はこころなしか先程よりも嬉しそうに見えた。

「にゃにやってんだか……」

 それを見て呆れたような声を出すマーク。あの微笑ましさが分からないのか。

 一方ルリトラは腕を組んでうんうんと頷いている。こちらはもう父親目線だな。

 と言う訳で、マークにちょっと嫌がらせである。

「おっ、クリッサも似合ってるぞ」

「ありがとうございます~」

「にゃにゅ!?」

 「女性陣」が水着を買いに行った。その中には当然クリッサも入っていたのだ。

 彼女の真っ白な毛並みは、パステルグリーンのワンピース水着に包まれていた。落ち着いたおとなしめのデザインだが、胸元のリボンがオシャレである。

 見た目は二足歩行するネコのケトルトも、人間と同じような水着を着るんだな。

「変かにゃ?」

「い、いや、そんにゃことは……」

 焦ってる、焦ってる。マークにしてみれば憧れのお姉さんの水着姿だ、無理もない。


「あんたも何やってんのよ……」

 微笑ましい二人を見守っていると、クレナが呆れた様子で声を掛けてきたので、俺は二人の方を眺めたまま振り返らずに答える。

「応援?」

「……間違ってはいないわね」

 実際話を振らなかったら、マークは照れてそっぽを向いていただけだろうからな。

 さて、クレナはどんな水着を選んだのか。

 わくわくしながら振り返り、そして俺は動きを止めた。

「ク、クレナ……」

「なによ……じろじろ見ないでよ」

 まさかのホルターネックのビキニである。まさかそれをチョイスするとは。

 以前から自分の体型を気にする彼女に、俺は気にしない、ムチムチしてエロいと言っていたが、まさかそれが功を奏したと言うのか。

 色は黒に近いグレー、いわゆるチャコールグレーの水着が、白磁のように白い肌を持つ彼女によく似合っている。

 無言のまま視線を下に向けると、花柄のパレオから先日膝枕をしてもらったふとももが覗いていた。

「……私には何も言わないの?」

「あっ、えっと……可愛い! すごい可愛い! 似合ってる!」

 どこか拗ねたようなクレナの声にハッと顔を上げ、思い付くままに言葉を並び立てる。

 するとクレナはモジモジと恥ずかしそうに身体を隠そうとするが、胸元を隠そうとした腕のせいでかえって胸元の谷間を強調させていた。それは破壊力が高いぞ、クレナ。

 ルリトラ、ラクティ達を見る目と同じ目で見るな。クリッサ、「あらあら」って似合うな。そしてマーク、ここぞとばかりにニヤニヤするな。さっきの仕返しか。

「は、早くノーチラス貝を探すぞ!」

「はいはい。早く始めましょ」

 俺が全力で誤魔化し狩りを始める事にすると、クレナは仕方ないなぁと言いたげな優しい笑みで同意してくれた。なんだろう、この敗北感。


 それはともかく狩りである。

 ノーチラス貝は撒き餌で誘き寄せる事ができるらしい。ロンダランが調合した特別効果が高い撒き餌を事前に用意してもらっている。

「それじゃ、ルリトラとマークは俺と一緒に前に出るぞ」

「分かりました」

「腕がにゃるぜ!」

「クレナとリウムは魔法で後ろから攻撃」

「仕方ないわね、私の剣じゃ歯が立たないし」

「…………」

 リウムの方は無言でコクリと頷いてくれた。

 肌も露わな女性陣に怪我をさせる訳にはいかないので、当然の判断だ。

 ノーチラス貝は、その頑丈な貝殻は生半可な攻撃を弾き返してしまう。

 いかに元は五大魔将『闇の王子(ダークプリンス)』の物だったと言う業物の剣と言えど、クレナの腕では斬るのは難しいだろう。

 と言うか、あの剣。改めて考えて見ると、細身で片刃で日本刀っぽい。そもそもこの世界の剣とは扱い方が異なるのかも知れない。

 聞けばノーチラス貝は、頑丈ではあるがそれほど危険ではないらしいので、俺達が防具を身に着けているのも念のための意味合いが強い。

 せっかくなので、ここは男三人で前に出て、女性陣に良いところを見せるとしよう。

「と言う訳で、お前もがんばれよ、マーク」

「にゃにが!?」

 言わせるな、恥ずかし――くはないか。がんばれ、マーク。俺もがんばるから。

 貝殻は、マークが作ってくれた鎧のように魔法で成形する物なので、叩き割っても構わないとのこと。遠慮なく魔法の斧『三日月(クレセントムーン)』で叩き割ってやるとしよう。

「倒したノーチラス貝は、ロニが回収して行ってくれ。ラクティとクリッサで回収した獲物の処理を頼む」

「はい!」

「任せてください!」

「中身の方の処理ですね」

 ノーチラス貝の大きさは、大きい物は俺の腰ぐらいになるらしい。ロニ一人で運べない場合は、マークかクレナにも回収に回ってもらおう。

 モデルにしたと言うオウム貝型潜水艦の外見から、ノーチラス貝の中身はタコかイカのような軟体生物をイメージしていたが、その実態はヤドカリに近いモンスターらしい。

 ちなみに中身の方は、ネプトゥヌス・ポリスでは人気の食材なのだとか。

 どんな味なのか気になるが、数日こちらで狩りをする予定なので、今夜にでも味わう事ができるだろう。

 思い切り広範囲にバラ蒔く粉末状の撒き餌をルリトラに撒いてもらい、長時間に渡って少しずつ撒き続けるケースに入った撒き餌をセットする。

 ロンダランは技術に関しては信用できるので、あとはノーチラス貝が現れるのを信じて待つばかりだ。

「ホ、ホントに効果高いんですね~」

 真っ先に気付いたのはロニ。リュカオンの目がこちらに近付いて来る波飛沫を捉えた。

「もう来たのか。早いな」

 まぁ、待ち時間が長いと先程の話題が再燃しそうなので丁度良い。

 俺、ルリトラ、マークの三人は武器を構えて前に出て、クレナは手にした剣の切っ先を砂浜に突き刺し、いつでも魔法を撃てる態勢を取る。

「おっ、見えてきたぞ」

 しばし待つと俺の目にも水しぶきが見えてきた。ロンダラン製の撒き餌は、思っていた以上に効果が高いようだ。

「自分にも見えました……が」

 だが、様子がおかしい。

「にゃ、にゃあ、あれ……にゃんか……」

 どうして水しぶきが、かなり広範囲に広がっているのか。

 その謎は、それから十数秒程で解けることとなる。 

「効果有り過ぎだ、ロンダラン……!!」

 声を引きつらせてそう漏らす俺の目には、こちらに向かってきている百匹はくだらないであろうノーチラス貝の大群が映っていた。

活動報告の方でもお知らせしていますが


『異世界混浴物語 お風呂場の勇者』


3月25日に発売予定です。

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