第53話 異世界超偉人伝説
今回から本編を再開します。
みんな平等なんだ
人間だからとか、亜人だからとか
豊かだからとか、貧しいからとか
大きいからとか、小さいからとか
翼が生えてるからとか、尻尾が生えてるからとか
どの女神を信仰しているからとか、信仰していないからとか
そんな小さな理由でピッタリの下着を着けられないなんて
哀しい事があってはならないんだ
フィークス
やばい、ちょっと感動した。
ヘパイストス・ポリスのフィークスブランドの店にある、フィークス直筆の書が収められていると言う額縁を前に、俺は言葉を失い立ち尽くしている。
今「尊敬する歴史上の偉人は?」とか聞かれたら、変態偉人フィークスの名前を挙げてしまうかも知れない。
春乃さんから連絡を受け、フィークスブランドで巨人や小人の下着も作ってくれたと言う話を聞いた俺は、ちょっと興味を抱き変態偉人フィークスについて詳しく調べてみた。
どうやらフィークスと言う男はかなり長生きで、百歳近くまで生きた人らしい。
二百年程前に死んだと言う事は、生まれたのは三百年程前――すなわちアテナが乗っ取られた頃と言う事になる。
おそらく彼が生きた時代と言うのは、聖王家や光の女神の神殿が暗躍し、まだまだ亜人排斥の傾向が強かった頃だろう。
そんな時代だと言うのに、堂々と人間だろうが亜人だろうが構わないから皆ブラ着けろ、パンツ穿けと言ってのけたのだ、この変態は。
馬鹿げているかも知れないが、それって実は凄い事なんじゃないだろうか。
たとえば店頭にも飾っているローライズのパンツ。
あれも現代日本人の感覚で見ればデザインでああ言う形をしている様に見えるかも知れないが、元々はデザインは二の次だったらしい。
尻尾がある亜人のため「尻尾の邪魔にならないパンツ」と言う実用的な理由でデザインされ生み出された物だったとか。
改めて考えてみると、それも彼の偉業の一つだと言える。実際ロニも愛用しているので、変態偉人も本望であろう。
それでも葉っぱ一枚のフォーマルウェアは真似をする気にはなれないが。
俺達のパーティ一行がケトルトの鍛冶師であるパルドー・ポールの工房兼屋敷に転がり込んでから、既に半月程経過していた。
昨日、春乃さんからアテナ・ポリスから旅立ったと連絡があったところだ。
魔法の鎧『魔力喰い』の調整が、魔力を安定させるためにしばらく時間を置かなければならないそうなので、今日はその空き時間を利用して買い物に来ていた。
メインの買い物は、ラクティを労働レイバーとして見せかけるための侍女の服だ。
半月前に注文していたのだが、旅も出来る物となるとオーダーメイド、しかも何着も同時に注文したため、完成まで時間が掛かっていたのだ。
俺の方はと言うと、例の「布団」を注文するために職人達に直接どの様な物なのかを説明してきたところだ。
こればかりは俺自身が説明するしかないため、今日まで注文する事も出来なかった。
この世界には存在しない物なため説明が少し長くなってしまったが、ひとまずは職人の人達にもおおよそは伝わったと思う。
リウムちゃんだけが布団の説明に興味を持ってこちらに残っていたが、疲れてしまったのか今は隣のルリトラに背負われて静かに寝息を立てている。
見たところクレナ達の方はまだ終わってない様なので、店内の様子を眺めながら待たせてもらう事にする。
「しかし、ここの店は半分ぐらい子供服売り場みたいだな」
「小さいと言う事ですか? ケトルトが多いからでしょうな」
たとえばユピテル・ポリスのフィークスブランド。
あの街は様々な種類の亜人レイバー、任期を終えて市民階級を得た者が住んでいる都会であるためか、店内の通路がルリトラでも通れるぐらいに広かった。
逆にケレス・ポリスの店内は、周りが農地だらけのあの街はレイバーになろうとする亜人も避けるためか、通路は大型の亜人が通る事を想定していない広さだった。
そしてこのヘパイストス・ポリスの店内は、通路こそルリトラでも通れそうな広さだが、小柄なケトルトに合わせているのか、半分程の商品棚が低い物だった。
「これ、要するに客の半分ほどがケトルトって事なのかな?」
「かも知れませんな」
アテナ・ポリスではグラウピスと言う亜人が追い出されたそうだが、この街ではそんな事はなさそうだ。
後でパルドーさんとその友人シャコバさんに聞いた話なのだが、この国でも光の神殿が乗り込んで来てケトルトを排斥しようと言う動きがあったらしい。二百年程前の話だそうだ。
ところが、このヘパイストス・ポリスにはアテナ・ポリスとは決定的に違う点があった。
それはこの国は鉱山と鍛冶の国であり、何より優れた鍛冶師が偉いと言う点だ。
この国に乗り込んで来た光の神殿はケトルトを追い出そうとしたらしいが、対するケトルト達は「だったら、自分達より腕の良い鍛冶師を連れてくるにゃ」と返したそうだ。
これに光の神殿は応える事が出来なかったらしい。
炎の神官が腕の良い鍛冶師を紹介する際にわざわざ確認してでもケトルトを紹介した事からも分かる様に、人間の鍛冶師では到底ケトルトには及ばなかったのだ。
シャコバさん曰く、「火の石の扱いが違う」との事である。
その結果が今の炎の神殿と光の神殿の立場を決定付けたのだろう。この街に辿り着いた時の一人で出迎えに来た光の神官と、それを押しのけた三人の炎の神官の姿が思い出される。
ここまで来たら光の神殿も撤退すれば良いのにと思わなくもないが、そこはそれ。彼等には彼等の事情があるのだろう。
「お待たせしました」
そんな事を考えていると荷物を抱えたマークが声を掛けて来た。
茶トラのケトルト、マーク・リーマス。シャコバ・リーマスの息子だ。
今回はパルドーさんの娘である真っ白なケトルトのクリッサ・ポールと共に、俺達の買い物に同行していた。
彼の買い物は作業用の革手袋。彼等が使う物は、レムノス火山に住む「レッドリザード」と言うモンスターの皮を使った特別火に強い代物だ。
しかし、そんな特別製の手袋も神懸かった火力の前にはすぐに駄目になってしまう。
今日の買い物も、手持ちの革手袋が尽きてしまったための補給である。
「クリッサ達は?」
「まだ買い物中だ。まぁ、こう言う時は黙って待っとけ」
クリッサの方は、クレナ達の買い物に付き合っていた。
「向こうから呼ばれない限り、一緒に選べる物でもないしな」
「はぁ」
俺がクリッサの名前を呼ぶと、面白くなさそうに少し眉をひそめるマーク。
彼は十五歳なのだが、どうやらクリッサに淡い恋心を抱いているらしい。
ちなみにクリッサは十八歳、俺より一つ上だ。
パルドーさんとシャコバさんは昔から家族ぐるみで付き合いがあったと言う話なので、いわゆる「幼馴染みのお姉さん」と言うヤツなのだろう。
しかもクリッサはご近所でも評判の美少女だ。俺も彼女との仲は悪くはないので、彼が警戒するのも無理はないだろう。
だが安心しろ、マーク。確かに俺もクリッサは可愛いと思うが、彼女は猫の姿をしたケトルトだ。そこに恋愛感情を持ち込むつもりはない。
そんな俺の気持ちも露知らず、クリッサの前に現れた男に警戒心を露わにする青少年猫の姿は、彼も猫の姿をしているからかも知れないが、何とも微笑ましかった。
もっとも、彼にとっての一番の問題は、当のクリッサがマークの事を「幼馴染みの弟みたいなもの」としか見ていない事が明らかだと言う事かも知れないが。
まぁ、傍から見ている分には面白い二人である。
「お待たせしました~♪」
ようやく買い物を終えたらしいクレナ達がこちらに近付いてくる。先頭を駆けるのは侍女服姿のラクティだ。
「……ちょっと短くないか?」
いわゆる「メイド服」なのだが、スカートが短い気がする。
俺もメイド服に詳しい訳ではないが、確かユピテルの城で見た侍女達のスカートはもっと長かったはずだ。
何と言うか、メイドと言うより制服が可愛い店のウエイトレスの様に見える。
そこにクレナが追い付いて俺の疑問に答えてくれた。
「外で働く侍女ってこんなものよ?」
「そうなのか?」
「長いスカートだと、何かあった時とか走りにくいでしょ」
スカートが短めのメイド服は、本来城や屋敷の外に出て仕事をする侍女用の物らしい。
街中だからと言って安全とは限らないため、いざと言う時は走って逃げるぐらいはしなければならないためだ。
「だったら旅人用の服とかでも良いんじゃないのか?」
「侍女だって一目で分かるって言うのも大事なのよ。
それってつまり、偉い人のレイバーだって事だから」
「なるほど……」
その侍女に手を出すと、雇い主にケンカを売る事になりかねないと言う事か。
場合によってはそれが原因で危険を招く事もあるかも知れないが、往々にして危険を避けられる方が多いのだろう。
最近は遠出をする主人に付いて行くために、外向きのメイド服を更に丈夫にした物が作られているそうで、ラクティが着ているのはそのタイプの様だ。
「どうですか? 可愛いですか?」
ラクティがくるりんと回ると、その動きに合わせてスカートが軽やかにひるがえる。裾から覗くほっそりとしたしなやかな足は、純白のタイツに包まれていた。
腰まで覆うタイツは遠出用メイド服の特徴なのだそうだ。生足で旅をすると草などで怪我をしてしまう事があるので、こう言う備えは必要なのだろう。
「可愛いぞ、ラクティ!」
「わーい♪」
それはともかくとしてメイド服姿のラクティは可愛い。そう褒めると彼女は嬉しそうに俺に抱き着いてきた。
俺も成長して力が強くなったのか、その小柄な身体を楽々と受け止める事が出来る。
するとラクティはいつもと違って同じ視線の高さに俺の顔があるのが嬉しかったのか、満面の笑みで頬ずりをしてきた。
濃い藍色メイド服に白いフリル付きのエプロン。遠出用がこれで良いのかと思ったが、よくよく考えてみればクレナのサーコートもドレス調だった。
ロニによると素材が普通のエプロンとは異なるらしい。軽さよりも丈夫さを優先した物なのだそうだ。見た目はあまり変わらないが、よく見ると艶が違うとか。
闇の女神を侍女としても良いのかと言う気もするが、そこは本人が気にしていないので俺も気にしない事にしよう。
後はレイバー市場に行ってラクティを俺の労働レイバーとして登録すれば、彼女の身元については問題がなくなる。
見掛けを誤魔化すだけでも良いと言えば良いのだが、それが身分証明にもなるし、労働レイバーとして任期を満了すれば彼女も市民階級を得られるので登録しておく事にする。
「クレナ達の買い物は終わったのか?」
「今日はラクティのだけよ」
「私達はこの前買いましたから」
ラクティのメイド服を注文しに行った時か。あの時俺は、鎧の調整のために工房から出る事が出来なかった。
「仕立ててもらった服は、一通り試着してチェックしましたから大丈夫ですよ」
「さぁ、帰りましょ」
なるほど、時間が掛かっていたのは買い物ではなく服をチェックしていたからか。
職人の手で作ったオーダーメイドだからこそ、そう言うチェックも必要になるのだろう。
「ああ、ロニ。それは俺が持つから」
「え、トウヤさまに荷物を持たせる訳には……」
「男として、それぐらいはな」
「ならば自分が持ちましょう」
ロニが持っていた荷物を代わりに持とうとすると、リウムちゃんを背負ったままのルリトラが上から手を伸ばしてひょいと荷物を取ってしまった。
「従者の仕事、取ろうとするんじゃないの」
不意打ち気味の横槍に唖然としていると、クレナが俺の後頭部をぺちんと叩いてきた。
そこで俺ははたと気付いた。荷物持ちぐらいなら男の俺がやろうと思っていたのだが、今のあれは「ロニの主人」としての振る舞いではなかった。
以前注意されていたのだが、すっかり忘れてしまっていた。
「す、すまん、ロニ」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
ロニに謝ると、彼女は少し照れ臭そうにしながらも許してくれた。
思えばルリトラの横槍も、俺に対するフォローだったのだろう。
「ルリトラ、荷物を頼む」
「承知しました」
ここで俺が主人として取るべき態度はこうだ。
ルリトラに一声掛けると、彼は重々しく頷いてくれた。
「あの~……私の態度も不味かったですか?」
俺に抱き着いたままだったラクティが、おずおずとクレナに尋ねた。
「……トウヤが喜んでるなら良いと思うけど、人前じゃ控えなさい」
「分かりました、先生っ!」
答えてくれたクレナに対し、ビシッと手を上げて応えるラクティ。これでもれっきとした闇の女神である。
「マー君、持ってあげよっか?」
「……いらにゃい」
隣でクリッサが微笑みながらマークに声を掛けているが、彼は恥ずかしそうにプイッとそっぽを向いてしまった。
しかしクリッサは、そんな彼の態度にショックを受けた様子もなくクスクスと笑っている。きっといつもの事なのだろう。
と言うか、彼は「マー君」と呼ばれていたのか。
なんと言うか、普段から彼女に頭が上がらない姿がイメージ出来てしまうが、それは気のせいだと思ってあげたい。
労働レイバーとしての登録は思いの外あっさりと済んだ。
レイバー市場を介さない本人同士の契約なため、市場に支払うのは登録料だけで済む。
思わず笑いそうになったのは、玄関に入ってすぐの壁に「不正撲滅!!」とこの世界の文字で書かれた木製の看板が掛けられていた事だ。
どうもアテナ・ポリスの不正問題に光の神殿の司祭が関わっていたため、すぐにユピテルの大神殿にも報告が行ったらしい。
そこで全てのポリスの光の神殿に対して調査をするよう通達されたそうだ。
市場の人にそれとなく話を聞いてみたところ、犯罪者レイバーの過酷な仕事と言えば鉱山夫などだが、この国では需要が少なく不正をしても旨みは少なくやる者はいないとの事だった。
ちなみに、この国で需要があるのは第一にレムノス火山に出るモンスターから鉱山を守るための警備兵――戦闘レイバー。第二に家事を担当してくれる労働レイバーだそうだ。
おかげで警備兵の仕事を求めて来た亜人のレイバーも少なくないらしい。
ならば鉱山の鉱山夫は犯罪者レイバーではないのかと疑問に思い、その事についても尋ねてみたが、それについては市場の人ではなくマークが教えてくれた。
火の石掘りは鍛冶師見習いの最初の仕事で、火の石の善し悪しを見分ける目を養うためにはそこから始めなければならないそうだ。
本当に良い物を作りたければ、良質で大きな火の石を手に入れる事から始めなければならない。人間の鍛冶師はその辺が分かっていないと言うのはマークの弁である。
そのおかげかこの国では鉱山夫は「堅気の仕事」のイメージがあるらしく、わざわざ犯罪者レイバーを雇わなくても成り手がいるそうだ。
何より、レムノス火山は炎の女神を信仰する者達にとっての聖地。そんな場所で犯罪者を働かせるぐらいなら自分達がと言う者も少なからずいるらしい。
それにしても「旨みが少ない」と言うのは、単に「不正なんてする訳ありません!」と言われるだけより説得力がある様に感じられるのは俺だけだろうか。
こうして一通り用事を済ませた俺達はパルドーさんの屋敷に戻った。
表は普通の工房だが、裏に回ってみると結構立派な屋敷だ。この国における腕の良い鍛冶師の地位を窺わせる。
今日は火の石柱の祭壇を使わないので、魔法の復習と練習だ。
「……手伝う」
ずっとルリトラの背で寝ていたリウムちゃんが目を覚まして俺を手伝ってくれる。
俺はこの半月で新たに十以上の魔法を使える様になっていた。『大地の精霊召喚』を覚えるのに三日も掛かっていた事を考えると倍以上のスピードである。
「精霊召喚!」
その言葉と同時に突き出した指の先に現れる火球。俺が今召喚した炎の精霊だ。指先にチリチリと熱を感じるので、すぐに動かして距離を離す。
そして離れた先で俺の意志に合わせて次々に形を変えていく炎の精霊。聞いた話によると、炎の神官達はこれを球、矢、槍の形で放つらしい。
それぞれ『火球』、『火の矢』、『炎の槍』と言う名称で呼ばれて別の魔法の様に扱われているが、実は全て『炎の精霊召喚』の派生だ。
俺が使う場合は、MPを込めすぎると火力が強くなり過ぎるので注意が必要である。
と言うか、炎の神官魔法を練習すると言った時にパルドーさんが渡してくれたレッドリザードの革手袋が無ければ手を大火傷していただろう。
なお、革手袋はその一回で駄目になってしまった。それ以来は注ぎ込むMP量を調節する事で、二つ目の革手袋は今のところ無事である。
この他にもいくつかの光、大地の神官魔法を覚える事が出来た。
闇の神官魔法は今のところ上手く行っていない。ラクティ曰く、本来は魔族専用の魔法なので使えるとしても時間が掛かるだろうとの事だ。
いくら俺のMPとMENがステータスカードに収まらないと言っても、それだけでは教本を読むだけでここまでは行けなかっただろう。
ここまでスムーズに魔法を覚える事が出来たのには理由があるのだ。
その日の晩、俺は再び女神の夢を見ていた。
そう、あれから毎日女神が夢の中に現れている。
起きている時にラクティに聞いてみたが、どうしてこんな事になっているかは女神達にも分からないそうだ。
初代聖王の仲間だったと言う大神官。彼も五柱の女神の祝福を授かっていたが、それでもこんな事はなかったそうだ。
一応女神同士では意志疎通が出来ているらしく、この前光の女神が怒っていたのは、俺が光の神官魔法の修行をせず、大地の精霊召喚ばかり使っていたせいだと教えてくれた。
そんな状況で毎晩夢に現れる女神が何をするかと言うと、なんと俺に魔法を教えてくれていたりする。特に熱心なのが光の女神だ。
ここでは俺は身体を動かす事が出来ない。彼女達の言葉を聞く事も出来ない。
そんな状況でどうやって魔法を教えてもらっているのか。
現在光の女神は、クイズ番組などで見る様な大きなフリップを何枚も俺の前に並べている。その一枚一枚には魔法の使い方が図入りで詳細に解説されていた。
そう、女神達は俺が唯一有効に使える視覚で俺に魔法を教えているのだ。
そのフリップの図入り解説は明らかに神殿で貰った魔法の教本よりも分かりやすく書かれている。これこそが倍以上のスピードで魔法を覚えられている理由だった。
五柱の女神の祝福を授かっていた大神官と、一柱は総本山のものではないとは言え四柱の女神の祝福を授かっている俺。
二人の違いはカードに収まりきらないMPとMENしか思い当たらないらしく、俺にもっと魔法を使わせて成長させたい思惑があるらしい。
最近は火の石柱の祭壇のおかげでこれまで以上にMPを消費しているが、それはそれで気に入らないそうだ。光の女神が。
おかげで覚えた魔法も光の神官魔法が一番多かったりする。
しかし、どうして彼女はメガネを掛け、タイトスカートのスーツ姿なのだろうか。
今までは足首辺りまで隠すドレス姿だったので、スカートから伸びる生足が眩しい。
最初はきれいなブロンドの髪を後頭部でまとめた、いわゆる「ひっつめ髪」だった。
思っている事は伝わっているそうなのでそれでは髪が傷むと考えていると、翌日からはうなじ付近で括った一本結びになっていた。
しかも、炎の女神は赤いジャージ姿。ジャージの下はタンクトップっぽい。本人の雰囲気も相俟って竹刀を担ぐととても似合いそうだ。
何と言うか、彼女は親しみやすいタイプだ。俺が『炎の精霊召喚』を覚えた日などは、嬉しそうに俺の頭を撫で回してきた。
大地の女神は白いブラウスにタイトスカート、そしてこちらはストッキングも穿いている。更にその上に白衣を着ている。
こうして三人並ぶと正に学校の先生だ。
もっとも大地の女神は、その豊かに実り過ぎているそれがブラウスに収まりきらず、今にもはち切れてボタンが飛びそうな状態になっていた。
と言うか、隙間から谷間と下着が見えている。流石は豊穣を司る大地の女神である。
しかも、それを本人は全く気にしていない様子で、魔法を教えてもらう時は物凄い光景が目の前に広がるのだ。こんな保健の先生が学校にいたら大問題だろう。
起きている間にラクティに聞いたところ、どうやら俺のイメージ、それに彼女達のイメージが影響しているらしい。
なるほど、魔法を教わっている夢の中の状況を、俺は学校の様だと感じているのだろう。そう考えていると彼女達が先生の様な出で立ちになっているのも理解出来る。
だが、もしそうだとすれば――夢の中のラクティがランドセルを背負っていたのは、俺と彼女どちらのイメージなのだろうか。
俺は起きている間も、彼女にそれを確認する事が出来ずにいた。




