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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
混迷の岩盤浴
59/206

外伝 春乃のティーパーティー

 人間、東雲春乃です。でも、勇者として成長していくにつれて、普通の人間である事に自信が持てなくなってきています。

 熊の獣人、カリストのディランさん。沼種であるマーシュ・リザードマンのスパーさん。そして種族も分からない銀髪の女性、メリスさん。

 こちらは私とセーラさんで彼等三人とテーブルを囲んで話し合うのですが、残念ながら和やかなお茶会と言う訳にはいかない様です。

 明るいスパーさんも、一見そうは見えませんがこちらを警戒している様に感じられます。

 人間に濡れ衣を着せられて犯罪者レイバーにされ掛けていたのですから、いきなり信用しろと言う方が無理があるかも知れません。

 青い肌をした巨人、キュクロプスのプラエちゃんは扉を潜れないので廊下からこちらを覗き込んでいます。ちょっと可愛いです。


 とにかく、どう言う経緯で捕まったかとかこちらの質問にはちゃんと答えてくれていますので、ひとまずこのまま話を進めていくとしましょう。

 ちなみにディランさん、スパーさん、メリスさんは酔いつぶれている間に、プラエちゃんはその三人が捕まってしまったので抵抗せずに捕まったそうです。

 意識が戻る前に『誓約紋』を掛けられてしまったため、逃げる事も出来なかったみたいですね。油断したと言ってました。

 こんなに強そうなディランさんをどうやって捕まえたのかと思っていましたが、そう言う理由があったのですね。

 『誓約紋』と言う魔法も、色々と条件が整わなければ使えないものだと聞いていましたが、それらをクリア出来るだけの組織力がバックにあったと言う事でしょう。


「翼のある亜人について知りませんか?」

 こちらとしては彼等とも仲良くしたいのですが、「本題は仲良くなってから」と言える様な雰囲気ではなかったので、私は率直に目的の質問を切り出しました。

「翼? いくつか心当たりはあるが」

 ディランさんが毛むくじゃらの腕を組み、瞑目したまま答えてくれました。

「昔、この辺りに住んでいたと聞いています」

「アテナに? そんなの聞いた事がないけど……」

 スパーさんが戸惑った表情で私とディランさんの顔を交互に見ています。

 三百年ほど前の話となると全く知らない人の方が多いのでしょうね。この世界には歴史の教科書がありませんし。

「……この辺に住んでたのはいつ頃の話?」

 メリスさんが尋ねてきました。私を見詰める灰色の瞳には、私を試す様な色が浮かんでいる気がします。

 傍目には優雅に微笑んでいる様に見えるこの人が一番手強いですね。でも、マントの下はほとんど下着なんですから、そんな座り方をしていると正面からは見えますよ。

「三百年前と聞いています」

「…………そう」

 今一瞬、メリスさんの表情に何か別の感情が混じった様な気がしましたが、すぐに消えて真顔になってしまいました。

 ディランさんが怪訝そうな表情で声を掛けます。

「メリス、何か知っているのか?」

「……昔、この辺にそう言う人達がいたって話は聞いた事があるけど、今も生きてるって話は聞いた事がないわね」

「そうですか……種族名はご存じですか?」

「…………それを知ってどうしようと?」

「会いに行きたいと考えています」

「どうして会いに行くのか、理由を聞いても良いかしら?」

「聞かなかった方が良かったと思う様な内容かも知れませんよ?」

「答えてくれないなら、私も教えないだけね」

「…………」

「…………」

 無言で見詰め合う私達。スパーさん、そんな怯えた顔しないでください。チラリと隣を見てみると、セーラさんも口元が引きつっています。

 困りました。私個人としてはそう不味い話だとは思わないのですが、どこまで話して良いか微妙なんですよね、この問題。

「仕方ないですね……耳を貸してください」

 小さくため息をついてそう言うと、メリスさんは右手をテーブルについて身を乗り出し、左手で髪をかき上げて髪に隠れた耳を見せてこちらに向けてきました。

 だから無防備だと。冬夜君には見せたくない光景ですね。

 それはともかく私は彼女の耳元でアテナ・ポリスの風の神殿が偽物であり、本物は翼を持つ亜人の下にある可能性が高いと囁きました。それ以外の事は伏せておきます。

 効果覿面ですね。メリスさんは目を見開き、ソファに腰を下ろした後も驚きの表情で私の方を見ています。

 当然の反応です。世間では風の女神信仰の総本山だと言われているアテナ・ポリスの風の神殿が実は偽物だと言うのですから。

 きっと彼女の頭の中では今、様々な事が渦巻いている事でしょう。

 でも謝りませんよ。私やセーラさんに比べたら序の口だと思いますし。

「あなた……その事をどこで?」

「ある程度は調べれば分かります。後は推理です」

 情報源を辿っていくと闇の女神に辿り着くのですが、流石にそれは言えませんね。

 メリスさんは驚愕ともう一つの何かを混ぜ合わせた様な表情で、黙ったまま私を見詰めています。セーラさん、ディランさん、スパーさんは緊張した面持ちで私達を見ていました。

 恐怖ですか、恐怖ですね、もう一つの何かと言うのは。私はそんなに怖いですか。

 好きでこんな風になったんじゃないんです。お爺様とお父様の教育の賜物なんです。

 プラエちゃんだけが何が起きているのか理解出来ていない様子で首を傾げながら私達の方を見ています。ホントに和みますね、この子は。

「……グラウピス」

 しばらくの沈黙の後、メリスさんは絞り出す様にその一言を発しました。

「グラウピス、ですか」

「ええ、三百年前くらいまでアテナ・ポリスに住んでいたのはグラウピスよ。さっきも言ったけど、この地を去った後の事は知らないわ」

 勘ですが、何か隠してそうな気がしますね。

 しかし、『グラウピス』と言う名には嘘は無さそうです。

 何とか情報を聞き出す事が出来ないか。そう考える私を横目にメリスさんは更に言葉を続けて来ました。

「そうね、グラウピスについてあと一つだけ情報があるわ」

「何でしょう?」

「まだ寝てる五人目の子、あの子にも翼があるけど、彼女はグラウピスじゃないわよ」

「……参考になります」

 きっと私が、翼があると言うだけで厳しく追及するかも知れないと思ったのでしょうね。

 五人目の人はメリスさん達とは面識がなかったとの事ですが、彼女のために釘を刺しておいたと言ったところでしょうか。

 悠然と微笑むメリスさん。最初の調子に戻りましたね。私としても睨まれたり怯えられたりするよりそっちの方が良いです。


 翼を持つ亜人・グラウピスについてはこれ以上聞くのは難しそうなので、四人の今後について話し合いました。

 ディランさんとメリスさんは元々それぞれ目的があって旅をしており、スパーさんはディランさんの相棒だったそうです。

 そして旅は道連れと言うか、人間の街を旅するのには人数が多い方が安全だとディランさん達の方からメリスさんに声を掛けて三人で旅をする様になったとか。

「プラエちゃんは?」

「気付けばいたのよ」

「えへへ~」

 扉の向こうのプラエちゃんがにへらと頬を緩めて笑います。

 そんなプラエちゃんはと言うと、メリスさん達三人が旅の途中ある森で野宿していた時、朝起きたら隣にいたそうです。

 当初は敵かと思ったそうですが、見ての通りの人畜無害な子だったため、近くに仲間がいる様子もなかったのでそのまま連れて来たらしいです。

 その話を聞いて隣のセーラさんが声を上げました。

「あ、四人一緒じゃないとダメってもしかして……」

「……分かる?」

 私も分かります。三人共プラエちゃんを一人に出来なかったんですね。だとすれば、最初に『四人一緒で』と強硬に主張した理由も分かります。

 私は彼女を騙してどうにかしようとか思いませんけど、彼等は呼び出された時点ではどう言う人が呼び出したのかも分かっていなかったでしょうし。

 一人で行かせたら何をされるか分からないと心配でならなかったのでしょう。

「とにかく、奪われた物について教えてください。取り戻すのは難しいでしょうが、元老院と光の神殿にはその倍額を支払ってもらいます」

「……そんなに貰っても良いのか?」

 私の言葉に反応したのは、瞑目していた目を片目だけ開いたディランさん。

 これはあれでしょうか。亜人相手にそこまでするのかみたいな疑問でしょうか。

「正直、貴方達にやった事に対してはまだ安いと思ってますよ? 既に犯罪者レイバーとして働かされている人達に関しては、それに加えて正当な労働報酬も払ってもらうつもりです」

「わお、過激♪」

 そう言ってスパーさんは大袈裟な仕草で肩をすくめます。当然の事ですがルリトラさんとは全然違うタイプですね。

「これのどこが過激なんですか。最低限これくらい出来なければ光の女神の信徒とか正義とか語らせませんよ。

 元老院だってそうです。このレイバー市場は元老院が運営していたのですから、一人の議員が不正を行っていたとしても、運営者として責任は果たしてもらいます。

 どうせ賄賂を受け取って不正を見逃していた人もいるでしょうし」

「……うん、やっぱり過激だよ、この子」

 どこか呆れた様子のスパーさん。その評価は不本意です。


 その後、彼等が奪われた物が何だったのかを聞き出しました。

 幸か不幸か彼等の持ち物はどこにでも売っている様な物ばかりだったので、そのままレイバー市場の金庫から市場価格の倍額の金貨を渡す事にします。

 彼等には彼等の目的がある様ですのでいつまでも引き止める訳にはいきませんし、そうやって話を付けたと言う実績があれば、元老院や光の神殿も文句を言いにくいでしょう。

 そこに五人目が目覚めたと連絡が入ったのでお茶会は終了。

 四人の事は巡礼団の人達に任せ、私とセーラさんはその人に会いに行く事にします。

 先に部屋を出たディランさん達に「ねぇねぇ、何のお話してたの~?」と尋ねる声が聞こえてきました。もしかして、私達の会話を理解していなかったのかも知れません。

 私達も廊下に出ると四つん這いのまま説明を受けているプラエちゃんが小さく手を振ってくれたので、私も同じ様に手を振り返しました。やっぱり見ていてなごみますね、あの子。



「あれ?」

 五人目の人はスタッフ用の休憩室を使って休んでいると聞いて訪ねたのですが、部屋に入っても姿が見えません。

「さっき返事がありましたよね?」

「そのはずなんですが……」

 もちろんノックをして、返事を聞いてから中に入りました。一緒に返事を聞いていたセーラさんも隣で首を傾げています。

 部屋の中はシンプルで、左側には簡素な二段ベッドが二つ。

 右側には何か布が掛かった物が置かれたテーブルがあり、四つの椅子が囲んでいます。

 あ、右奥の壁にはタンスが二つ並んでいますね。

 先程声が聞こえてきたので部屋の中にいるはずなのですが、どこかに隠れているのでしょうか。ベッドのシーツは膨らんでいませんので、そこにはいないと思います。

 ベッドの下、タンスの中と言うのも考えられますね。

「あの、ハルノ様」

「はい? 見付かりましたか?」

「見付かったと言うか、テーブルの上の布から声が……」

「えっ?」

 テーブルの上に視線を向けると、布が掛けられた物が。耳を近付けてみると、微かにですが確かに声が聞こえます。

 布をめくってみるとそこには鳥かごがあり、中にいる人とバッチリ目が合います。

「えぇっ!?」

 驚いて布の端を持ったまま後ずさってしまい、鳥かごの全貌が露わになりました。

 金色の金属製の鳥かご、おそらく真鍮ですね。結構大きめです。

 そして中にいるのは半ストゥートも無さそうな女の子でした。

 顔を近付けてよく見てみると、黒いボサボサ髪で鋭い目付きをしていて、小さな布切れだけを身体に巻いています。

 額から乳白色の二本の角を生やしていて、お尻から生えているのは毛に覆われていない黒い尻尾。先端が少し膨らんでいますね。

 あ、よく見ると髪から覗く耳も少し尖ってます。ユピテル・ポリスで見たエルフの子ほど長くはありませんが。

 そして背中からも一対の翼が生えているのですが、それがなんと鳥の物ではなくコウモリっぽい羽でした。

 なるほど、翼を持つ亜人と言っても鳥とは限らないんですね。もっともメリスさんの言葉を信用するなら彼女は『グラウピス』ではないそうですが。

 ちなみに布を被せていたのは、この部屋のカーテンは薄いため閉めても部屋が明るかったため、ここに運んだ巡礼団の人がゆっくり眠れる様に布を被せておいたからだそうです。


「え~っと……あなたのお名前は? あと、出来れば種族も」

「……デイジィ、インプよ」

 女の子は答えてくれましたが、ムスッとした表情でそっぽを向いたままです。

 何と言うか、身体は小さいですがプラエちゃんよりも大人びた雰囲気がある子ですね。

 インプと言うのがどう言うものなのか分からないのでセーラさんに尋ねてみたところ、こう見えてもれっきとした魔族の一種だと教えてくれました。

 多少魔法が使えるものの特に力はなく、ほとんど人里で見掛ける事もなく、時折現れて悪さをしても子供のいたずら程度なので積極的に討伐する対象にはなっていないとか。

 魔族……冬夜君からの情報でただの亜人の一種だと聞いているので、偏見を持たずに話したいところですね。

「大丈夫ですか? 『誓約紋』は既に解除されているはずですけど」

 セーラさんが顔を近付けてそう言うとデイジィはピクッと動かし、色々と身体を動かしながらひとつひとつ確認していく様に自分の身体を見始めます。

「マジだ!」

 嬉しそうに鳥かごの中でぴょんぴょんと飛び跳ねるデイジィ。

 この子も濡れ衣で捕まったと言う話ですし、喜ぶのも当然です。


「あのクソジジイ!

 まだ何もしてなかったのに、忍び込んだだけでこんなとこに閉じ込めてんじゃねーよ!

 バーカ! ヴァーカ!!」


 ……濡れ衣、なんですよね?


 私とセーラさんも名前を名乗り、デイジィから詳しい事情を話を聞いてみると、妙な事が分かりました。

 どうやら彼女はアテナ・ポリスのある屋敷に好奇心から忍び込んだのですが、そこで数人の男達の密談現場を目撃してしまった様です。

 忍び込んだ理由と言うのは、単にいたずらするためだったとか。

 何の罪もないとは言えないかも知れませんが、書類上は「盗賊」ではなく「山賊」になっていると言う事は、屋敷に忍び込まれた事も公にされたくない理由があるのでしょうね。

 屋敷の場所は分かりましたので、後でしかるべき所に報告しておきましょう。


「デイジィ、捕まる際に何か取られたりしましたか?」

「え? 別に? 服くらい?」

「では、どこか行く宛は? 何か目的があって旅をしていたのですか?」

「特にないな~」

 デイジィは鳥かごの中であぐらをかきながら、セーラさんの質問に答えています。

 どうやら元々宛もなく、好奇心の赴くままにふらふらと旅をしていた様ですね。

 さて、困りました。

 彼女をこのまま解放してあげるのは簡単なのですが、アテナ・ポリスはしばらくの間、この不正問題を片付けるためにピリピリムードになってしまうでしょう。

 デイジィが解放された後どこかで騒ぎを起こせば、些細な事でも捕まって今度こそ本当に犯罪者レイバーにされかねません。


 やはりここは私が保護する方向で進めた方が良さそうですね。少なくともアテナ・ポリスを離れるまでは。

「デイジィ、もう少し話を聞きたいのですが、私が泊まっている家に来ませんか?」

「……美味しいのあるか?」

「帰りに買っていきましょうか、果物とかどうです?」

「オッケー! 行ってやるよ!」

 あっさり承諾してくれるデイジィ。鳥かごの扉を開けると、彼女はふわっと飛び立って私の肩の上にちょこんと腰掛けました。

 小人が肩に座っています。先程私の倍近くありそうな巨人を見てきたところですが、これはこれで別の驚きと言うか感動がありますね。

「……あ」

 デイジィの姿を見ていた私はふとある事に気付き、セーラさんに問い掛けます。

「……あの、セーラさん。念のために確認しておきたいんですけど、『女神の勇者』がインプを連れていると不味いとか……ないですよね?」

「その、世間体は、ちょっと……」

 セーラさんは言葉を濁しました。

 やはりそうなりますか。魔族の一種みたいですから仕方がないでしょう。

「デイジィ、アテナ・ポリスを出るまで鳥かごに入っていてもらえますか?」

「運んでくれるんなら良いけど、揺らすなよ?」

「気を付けます」

 帰りに果物を買う時は、デイジィに好きなのを選ばせてあげましょう。



 その後、「監査員」を名乗る人達がやって来たので巡礼団は調査を引き継いで引き上げる事になりました。

 監査員と言うのは元老院や衛視などが正しく仕事をしているかを監視し、不正を行った際には調査する人達だそうです。

 もっとも、私達は引き下がりますが重要な証拠は写した物を私達も持ち帰りますよ。

 それに加えて被害者への補償として奪われた物の被害額を倍にして返し、既に働かされている人達には正当な報酬を求める事を『女神の勇者』として告げてきました。

 写しに間違いが無い事もその場で確認します。光の女神に仕える神官・セーラさん立ち会いですので、誤魔化しは効きませんよ。

 監査員の人達はあまり良い顔をしませんでしたが、こちらもその点については譲るつもりはありません。

「その鳥かごは?」

「『山賊』と言う濡れ衣で捕らえられていたインプです。また街中で騒ぎを起こしても不味いので一旦こちらで保護して街の外に連れて行きます」

「は、はぁ……」

 何か言いたげですね。インプなのが気になっているのでしょう。

 ですから私は「大丈夫ですよ」とだけ言っておきました。実際、この街を出て鳥かごから出しても私の目が届く内は悪さなんてさせませんよ。


 そして私達がレイバー市場の外に出ると――


「あ、ハルノちゃ~ん」

「プラエちゃん!?」


――先に出ていった巡礼団の皆さんと一緒に何故かプラエちゃんが待っていました。ルビアさん達に囲まれて体育座りしています。

 私は彼女の側に駆け寄り、努めて優しく声を掛けます。やっぱり子供に話し掛けるみたいになってしまいますね。

「プラエちゃん、どうしたの?」

「ん~っとねぇ、あたしもハルノちゃんと一緒に行く~」

「……えっ?」

 どう言う事ですか。ディランさん、スパーさんは、メリスさんは一体どこに。

「なにこれ~、可愛い~♪」

「うわ、デカっ! ちょっ、こっち来んな!」

 プラエちゃんが私の持つ鳥かごに気付き、中を覗き込みます。デイジィは突然現れた彼女の大きさに驚いてますね。文字通り巨人と小人です。

 一方私は呆然とした表情になっていたでしょう。ルビアさんの方に顔を向けると、彼女は恐縮した様子で一枚の手紙を渡してきました。

 彼等の手紙でしょうか、読んでみるとこんな事が書かれてました。



 プラエがあなたに付いて行くと言ったので置いて行きます。

 仲良くしてあげてください。

                          メリス



「……えっ?」

 何ですか、これ。どうしてこんなにあっさりと。

 朝起きたら隣にいて、周りに仲間がいなさそうだから連れて来たとは聞いていましたが。

「それと、これを……。彼女の分だそうです」

 ルビアさんが差し出して来た布袋には金貨が入っていました。奪われた荷物の分のお金、その内のプラエちゃんの分と言う事なのでしょう。

「三人は?」

「荷物を買い直しに行くと、もう」

 三人は既にいなくなっていました。えっと、私が彼女の次の保護者と言う事でしょうか。

 ディランさんとメリスさんは何か目的があると言う話でしたが、プラエちゃんにも何かあると言うのでしょうか。

「その、どうして私と一緒に?」

「一緒に行きたいから~♪」

「そう、ですか……」

 それは目的――ではないですよね、やっぱり。

 いえ、懐かれるのは本当に嬉しいんですけど。

「え、え~っと、よろしくお願いします」

「よろしく~……セーラちゃん、だよね?」

「ええ、そうですよ。プラエさん」

 にこやかに挨拶するセーラさん。彼女も戸惑っている様子ですが、受け容れないと言う選択肢はなさそうです。

 そうですよね。メリスさん達は既にいませんし、彼女を一人放っておくのは心配です。

 と言うか、メリスさん達もきっと私達が断らないと信じて彼女を残して行ったのだと思います。多分。


 まぁ、私としてもプラエちゃんが亜人である事は気になりませんし、良い子そうなので仲間にするのはやぶさかではありません。むしろ大歓迎です。

 何故一緒に行きたくなったのかはよく分かりませんが、このまま一緒にナーサさんの所に連れて行く事にしましょう。

「ねぇねぇ、ハルノちゃ~ん」

「何ですか、プラエちゃん」

「あのね、えとね、ハルノちゃんといっしょに行きたい所があるの~」

「行きたい所? どこですか?」

 プラエちゃんが行きたい所。

 デイジィみたいに果物屋さんとか、お花畑みたいな所でしょうか。

「呼んでるの、ハルノちゃんを」

「呼んでる……? 誰がですか?」


「風の女神さま~」


「…………えっ?」

 小さくそう呟いた時の私は、驚き過ぎて目をパチクリさせていた事でしょう。

 『グラウピス』の名前の由来は「グラウコーピス・アテーネー(輝く瞳を持った者、灰色・青い瞳を持った者)」と「グラウクス(フクロウ)」です。

 古代アテナイのテトラドラクマ貨は、表にアテナの顔、裏にフクロウ、オリーブ、三日月が描かれていました。

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