第51話 炎の女神さま本気出してみました(画像有)
ある意味悪夢の様な光景だ。
今、俺の目の前では神殿長を中心に五人の神官達が己の筋肉をひけらかしながら踊り狂っていた。もう一時間ぐらいは経っただろうか。
ほとばしる汗が『火の石』の光でキラキラ輝いているのが鬱陶しい。
これが炎の女神の祝福を授かるための儀式らしい。
炎の女神は情熱・熱狂の神でもあるらしく、その影響もあって儀式は激しい踊りを伴うものが多いとか。道理で踊り狂う神殿長達が揃ってマッチョな訳だ。
きっと彼等は炎の女神の神殿の精鋭達なのだろう。
と言うか、大地の女神の祝福を授かる儀式は、もっと落ち着いた雰囲気で神官長が祝詞をあげると言うものだったぞ。
光の女神の祝福は召喚された時点で授かっていたが、今は勇者コスモスと共に旅をしているはずの姫が召喚する際に踊ったりしたのだろうか。
それはともかくこの悪夢の様な踊り手達は、本来男女どちらでも構わないらしい。神殿長である必要もない様だ。
ただ、見ての通り『火の石』に囲まれた、じっとしているだけでも汗ばむ環境下で一時間以上踊り続けると言うこの儀式。
見ている方も相当だが踊る方は苦行と言っても良いレベルで過酷だ。
非常に名誉な事のため我こそがと名乗り出る者は多いそうだが、その過酷さに耐えられる者を選ぶとなるとおのずと男性が多くなってしまうとの事。
先代神殿長の頃はそれでもあえて女性の踊り手を選んでいたらしいので、神殿長の方針と言うのもあるのだろう。
この過酷な儀式に自ら臨む神殿長は、ある意味高潔な人物と言える。
俺の目の前で筋肉をてからせながら半裸で踊り続ける神殿長は赤い光に染まりながら白い歯をきらめかせ、思わず殴りたくなる様な爽やかな笑顔をしていた。
俺も暑さでイライラしているのかも知れない。
それから更に十分程神殿長達が踊り狂って、ようやく祝福の儀式は終了した。
暑さも辛かったが、それ以上に視覚的暴力によって精神的に疲れ切っていた俺は、フラフラした足取りで坑道の外に出てルリトラと合流する。
「……大丈夫ですか?」
声を掛けてきた彼が怪訝そうな表情をするのも仕方がない事だろう。
なにせ俺の後から出て来た神殿長達は、揃って一仕事を終えた晴れやかな笑みを浮かべていたのだから。
その後馬車に揺られて神殿に戻った俺は、VIPルームでクレナ達と合流した。
「な、なによ、いきなり……」
「いや、ちょっと癒されたくてな……」
出会い頭にクレナ、ロニ、リウムちゃん、ラクティと順々に抱き締めていく俺に、クレナは目を白黒させる。
俺の疲労困憊な様子に気付いたのか、彼女達は戸惑いながらもされるがままになっていた。リウムちゃんは自ら俺の背に手を回してひしっと抱き着いて来た。ああ、本当に癒される。
「……ああ、炎のお姉様のところの儀式って激しいですもんね」
炎の女神と姉妹であるラクティだけは俺の苦労を察してくれた様で、彼女の小さな身体を抱き締めていると、手を伸ばして俺の頭をよしよしと撫でてくれた。
俺もお返しに彼女の頭を撫でる。水も滴るばかりの黒髪は、絹糸の様にやわらかだ。
「はいはい、癒されたところでステータスカードを更新しに行くわよ」
そこにクレナが手を叩きながら声を掛けて来た。少し頬が膨れているのが可愛い。
実は彼女には、俺が祝福の儀式を行っている間に神殿の寄進を用意してもらっていた。
基本的に神殿に何かをしてもらう時は寄進をする必要がある。
ケレス・ポリスの二つの神殿でもそうだったし、ここでも滞在させてもらう事と祝福の儀式を執り行ってもらうために最初に神殿長に挨拶する際に金貨で寄進を行っている。
ステータスカードの更新を後回しにしたのは、カードに表記されるステータスはその時の体調も影響するため。
旅の疲れを癒す事もそうだが、炎の女神の祝福もステータスに影響するかも知れない事も考慮し、更新を一回で済ませるために後回しにしたのだ。
ちなみにクレナが用意した寄進の品は肉だった。
最初は果物にするつもりだったそうだが、神官にリサーチしたところ肉の方が喜ばれると言う話を聞いたらしい。
確かに彼等は果物をお上品に食べているより、丸焼きの肉にかぶり付いている方が似合いそうではある。
こちらでもマッチョが踊り出したらどうしようかと思っていたが、幸いステータスカード更新の儀式は他の神殿と変わらない簡単な物だった。
カードを更新してみると、ルリトラのレベルが30に上がっていた。一般人の限界とされているレベルだが、彼のレベルアップがここで終わるかは甚だ疑問である。
ステータスは全体的に微増と言ったところか。彼ぐらいに完成した戦士となると、ステータスそのものはさほど変わらないのだろう。
クレナは22、ロニも21に上がっていた。20を超えれば一流とされているので、元々20だったクレナに続いてロニも一流の仲間入りを果たした事になる。
ステータスの方はクレナは地下道を通るのに風の精霊を制御し続けたおかげかMPとMENが大きく伸び、ロニの方はTECの伸びが目立つ。
何故かと思ったが、TECは手先の器用さなどを表している。
彼女は旅の間料理や洗濯に勤しみ、倒したモンスターの解体なども率先して行い、何より洗濯機の操作などもしっかり覚えた。
そう考えるとロニのTECが伸びているのも当然なのかも知れない。
「それにしてもクレナのMPとMENは急成長だな」
「そう言う性格じゃないって知ってるけど、トウヤに言われると嫌味に聞こえるわ」
「あのな……」
クレナは怒っている訳ではないが、どこか呆れた表情をしていた。気持ちは分かる。
欄外まではみ出した俺のMPとMENに関しては、もはや言葉もない。
とりあえずレーダーチャート状の図の線の角度で前より伸びているだろうと言う事が辛うじて分かるだけだ。他も軒並み伸びているのだが、正直全然目立っていない。
こんな俺に急成長と言われたところで、クレナも素直には喜べないだろう。
そして俺のレベルはと言うと、なんと24まで上がっていた。前に更新した時はクレナより下だったので、『空白地帯』とハデス・ポリスの戦いで彼女を追い越した事になる。
俺達のレベルは、この世界に生きる全ての者が持つと言う祝福の力を倒した際に一部譲り受ける事で上がる物だ。
それはRPGで言うところの「経験値」と言い換えても良いだろう。
ルリトラが一しか上がっていないと言うのは分かる。元々のレベルが違うのだから。
しかし、一緒に旅をしてきたはずの俺とクレナ達でどうして差が出たのか。
確かに魔法を使った量ならば俺が断トツで一番だ。しかしそれはステータスの伸びに影響があってもレベルアップには繋がらない。
光の女神の祝福で成長が早いと言う話は聞いていたが、おそらく一番の理由は俺がキンギョにトドメを刺した事ではないだろうか。
「……追い抜かれた」
意外にも低いレベルだったのはリウムちゃん。彼女のレベルは15だった。
俺に追い抜かれたと言っているが、ケレス・ポリスで更新した時点で既に追い抜いていたのは秘密である。
ステータスもMPとMENはクレナより高く、TECもそれなりだが、HP、STR、VITは物凄く低いと言う極端なものだった。
一人でアテナからユピテル、そしてアテナから『空白地帯』の俺達の所まで旅をしてきたはずだが、それはレベルの高さには結び付いていない様だ。
あまり旅慣れている感じがしない事から察するに、おそらく彼女は飛翔盤などを駆使して危険を避けて旅をしてきたのではないだろうか。
俺達に対してはそうでもないが、元々彼女は興味のない事はスルーする子なのだ。
最後にラクティなのだが、彼女は旅の途中で出会い訳あって連れて行く事になった仲間で、まだステータスカードを持っていないと言う事にして新たに作ってもらった。
勇者の一人である中花律を追い掛けて仲間入りした、街道沿いの村の農業レイバーの男と同じ様な立場と言ったところか。
神官の方も特に疑っている様子は無かった。
結果はと言うと彼女のレベルは1。ステータスも一般人レベルだ。
当然の事だがこれは闇の女神としてのステータスではなく、封印を解いた際に生まれた仮初めの身体のステータスらしい。
正体を知られると不味いのでこれはこれで良いのだろう。
「侍女の服を用意した方が良いかもね」
カードの更新を終えて部屋に戻ると、クレナが開口一番にこんな事を言い出した。
詳しく話を聞いてみると、家族で旅をしていた旅人がモンスターや賊の類に襲われ、子供だけが命からがら逃げ延びて保護されると言うのはままある話らしい。
そう言った子供達が神殿に預けられる事も。
神官がどう見ても戦いに向いている様には見えないラクティの存在について特に怪しんでいなかった背景には、そんな事情があった様だ。
「もしかして、向こうはラクティを神殿に預けると思っているのか?」
「えぇっ!?」
俺がクレナに問い掛けると、隣に座っていたラクティが悲鳴の様な声を上げた。預けたりしないから涙目になるな。
ちなみにリウムちゃんは俺を挟んでラクティの反対側。クレナとロニがテーブルを挟んで向かい側に座っており、ルリトラは右斜め前の席だ。
元々備え付けられているのが長方形のテーブルと長いソファが二つなため、専用の椅子を使うルリトラがソファの無い場所に座り、この並びになる。
「このステータスを見た感じ、旅の仲間に加えるって感じでもないし」
「確かに素人……いや、その中でもかなり弱いですな」
クレナが持つステータスカードを覗き込んだルリトラは、顎に手を当て唸っている。
俺には基準がよく分からないが、ラクティの仮初めの身体は一般人の中でもかなりひ弱な部類に当たる様だ。
仮初めと言っても今この世界における彼女の身体はそれであるため、肉体的にはこれ以上の力を発揮するのは難しいらしい。
「ま、魔法が使えますよぅ! 闇の魔法ですよ! すごいんですよ!」
「ダメ、それは周りに報せる訳にはいかない」
ラクティがふにふにと反論するが、リウムちゃんがピシャッとダメ出しをする。
この手のスネに傷持つ旅人と言うのは珍しくないらしいが、俺の場合は『女神の勇者』として何かと注目される立場にあるため、ある程度は襟を正す必要が出てくる。
「だからさ、このステータスでも旅に同行させても不自然じゃない様に、雑用を任せる労働レイバーとして登録しておいたらどうかなって思うんだけど」
「私と同じ立場ですね」
胸を張って言うロニ。彼女はクレナのレイバーだ。
「そうすれば、皆さんと一緒にいられるんですね! トウヤさん、行きましょう! 今すぐ行きましょう!」
立ち上がって俺の手を引くラクティ。それで良いのか、闇の女神。
とは言え、それしか手が無いのは確かだ。
闇の魔法以外の魔法を覚えさせて新人の魔法使いとして連れて行くと言う方法も考えられるが、一般の手段で覚えられる魔法と言うのは神官魔法しかない。
しかし、闇の女神である彼女が他の女神の魔法を覚えられるとは思えない。
他の候補と言えばリウムちゃんの扱う「水晶術」、鍛冶師のパルドーが『魔力喰い』の鎧を鑑定した様な「職人魔法」と呼ばれる物がある。
しかし、どちらも弟子入りしてみっちり修行しなければ覚える事も出来ないので、今から弟子入りして覚えると言うのは現実的とは言い難い。
何よりリウムちゃん自身は、まだ人に教えられる立場ではない。
そしてクレナの「精霊魔法」や聖王家のみが使える「聖魔法」に至っては生まれ付いての資質がなければ覚える事も出来ない魔法だ。
やはりクレナの言う通りラクティを「雑用を任せる労働レイバー」と言う事にして連れて行くのが妥当であろう。
「フィークスの店で売ってるか?」
「大丈夫よ。基本的には旅装と変わらないんだし」
町で働く侍女達とは違うと言う事か。
ともかく、変態偉人の店には元々行く予定だったのだ。祝福の儀式もカードの更新も終わったので今から店に行ってみる事にする。
「手持ち、今どれぐらい残ってる?」
「寄進もしたからあんまり残ってないですよ」
財布の管理を任せているロニに問い掛けると、彼女は首を横に振って答えた。『無限バスルーム』内に仕舞ってある分を追加で出した方が良さそうだ。
俺は『無限バスルーム』の扉を出現させ、そのドアノブに手を伸ばしたところでピタリと動きを止めた。
「トウヤ様、どうされましたか?」
「扉、大きくないか?」
「そう言われてみれば縦も横も……」
ルリトラと比べてみるとよく分かる。今まで彼は少し屈まなければ扉を潜る事が出来なかった。しかし今は鎧を身に着け背筋を伸ばしたままでも悠々と扉を潜れそうだ。
「炎の女神の祝福を授かったから、この中もまた変わってるのかと思ったが……」
「扉からして変わってるわね」
呆れた顔をするクレナの隣でリウムちゃんも無言でコクコクと頷いている。
「ルリトラ、神殿の者が来たら応対を頼む」
「承知しました」
ここで躊躇していても仕方が無い。
見張りをルリトラに頼み、俺は思い切ってドアノブを手に取り扉を開いた。
重さは以前とさほど変わっていない様に感じられる。
「扉小さっ!」
中に入った直後に思わず声が出てしまった。
一瞬中の建物の扉が小さくなったのかと思ったが、よく見てみると単に扉までの距離が以前より離れているだけだ。
「これ、周囲の空間が倍以上になってませんか?」
扉から中を覗き込んでいるロニが言う。
確かに扉から建物まで、つまり外壁から建物まで三ストゥートはありそうだ。一ストゥートの通路を埋める勢いで並べていた武具の横にその倍近いスペースが出来ている。
「クレナ、左の方を見てきてくれるか?」
「分かったわ」
クレナとロニが左側を見に行く。俺はリウムちゃんとラクティを連れて右側だ。
「広いな……」
「武器が倒れてる」
「後で直すしかないな。抜き身の剣もある。ラクティ、足を引っ掛けるなよ」
「私だけ名指しですか!?」
「見ろ、リウムちゃんを」
「えっ?」
俺に言われてラクティが視線を向けた先には、『飛翔盤』に乗ってぷかぷかと浮かんでいるリウムちゃんの姿があった。これでは足を引っ掛けようが無い。
「うぅ~……」
ラクティは何か言いたげな様子だったが、黙って俺の背にしがみついた。
これならば倒れている武器を直しながら進めばラクティが怪我をする事はないだろう。
「はい」
「お、ありがとな」
突然背後から掛けられた声に振り向くと、いつの間にかリウムちゃんが俺のガントレットを持って来てくれていた。なるほど、これを着けていれば素手で刃物を触るより安全だ。
数本倒れた剣、槍を直し建物の側面に出ると、こちらもやはり幅三ストゥートの空間が続いている。更に進んで裏側に回ると、こちらもやはり幅三ストゥートだ。
そして建物自体も少し大きくなっている様だ。仕舞い込んでいた武器が途中から途切れている。左側に伸びているらしい。
「あの、多分この先は……」
「ん? どうしたラクティ」
「い、いえ……進めば分かります」
ラクティが頬を紅くして俺の背に隠れてしまったため、俺は首を傾げながら歩を進める。
「なるほど、こう言う事か……」
次の角まで辿り着いた所で彼女が言いたかった事が理解出来た。
なんと、建物の左側の空間は他の空間よりもさらに広く、倍の六ストゥート程の広さがあったのだ。これはちょっとした庭並の広さである。
しかも俺の位置から見れば正面、入り口から見て奥側の隅には祭壇があり、そこには大きな『火の石』が立っていた。
形そのものは祝福の儀式場で見た紅い水晶柱そのままなのだが、大きさが並ではない。俺の背よりも高いんじゃないだろうか。もはや『火の石』ではなく『火の柱』である。
「何なんだ、あれは」
「あうぅ……すいません。炎のお姉様、派手好きで……」
派手好きだからなのか。派手好きだから、あんな大きな祭壇が出来ているのか。
確かに光の女神や闇の女神、それに大地の女神の祝福とも違って自己主張が激し過ぎる。
「トウヤさま!」
その声に振り返るとクレナとロニが近付いて来た。
彼女達の方に視線を向けてみると建物の左側の全容が見えた。
幅六ストゥートの通路、いやこの広さなのだから庭と呼ぼう。
扉に近い側は凹んだ形になっており、と言うよりも今までの建物の奥部分が出っ張っている。おそらく新しい部屋ができたのだろう。
奥の祭壇以外は何もなく砂利、いや地面が広がっている。この地面はレムノス火山だ。祝福の儀式場で見た火山の地肌に近い。
そして通路に仕舞っていた武具は一部倒れたりしているが皆建物に沿って並んでいた。
新しく部屋が出来たであろう部分の建物の壁に扉があるのだが、武具で埋まってしまっている。中を確認するのは建物内からの方が良いだろう。
庭を見回しながらクレナが尋ねてくる。
「これが炎の女神の祝福の影響?」
「多分な。この地面は火山に近い」
「あの建物の出っ張ってる部分が影響してるのかしら?」
「炎の祭壇も近いし、そうなのかもな。あそこが炎の女神の祝福を授かって新しく出来た部屋だろう」
「炎のお姉様は、光のお姉様の次なんです」
俺の背中に隠れたままのラクティがおどおどと顔だけ覗かせながら言う。と言うか隠れてないで前に出て来い。
俺は振り返り彼女を抱き上げると俺の隣に移動させた。軽いものだ。
ラクティは驚いた様子だったが、再び俺の背には隠れずにひしっと腕にしがみついた。とりあえず一歩前進である。
「それはともかく、順番があるのか?」
「炎のお姉様は次女ですから、私達姉妹が並ぶ場合、光のお姉様の次は炎のお姉様が並ぶのが決まりなんです」
ラクティの話を聞いてロニとクレナが建物の出っ張った部分に視線を向ける。
「その順番に合わせてお風呂の隣に出来た新しい部屋があれですか?」
「多分、そうなんでしょうね。とりあえず外は確認し終わったし中を見てみましょうか」
そして俺達はクレナに促されて建物の中に入った。玄関等は以前と変わっていない。
変わっているのは、入って左手の奥に新たに扉が出来ている事だ。外側から見た建物が大きくなった部分である。
「炎の女神の祝福で生まれた部屋か」
「いきなり火を噴くとかないわよね?」
「い、いくら派手好きのお姉様でも…………ありませんよ?」
ラクティの声が上ずっている。自信を持って断言は出来ない様だ。
五人で互いに顔を見合わせる。皆無言だ。
「……皆、一応下がってろ」
結局俺は、四人を下がらせて一人で扉を開ける事にした。無論、火が噴き出して来ても当たらない様に立ち位置に気を付けながら。
「せーのっ!」
思い切って扉を開けてみるが火は噴き出して来ない。
恐る恐る中を覗き込み、俺は目を丸くした。
クレナ達も近付いて来て部屋の中を覗き込むが、皆これが何か分からない様子で首を傾げている。無理もあるまい。
「そ、そう来たか……」
力無く呟いた俺の視線の先には――プロが使うような広々としたキッチンが広がっていた。
おまけに流し場や調理台は大きな天然石の塊から削りだし磨き上げた、とてつもなく贅沢な代物。俺は知らなかったがこれは花崗岩、つまり火山で産出される石の一種らしい。




