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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
熱情の砂風呂
46/206

第43話 隠されたルーツ

「うぅ……」

 奇妙な夢から覚めると、すぐ側に心配そうな顔をして俺の顔を覗き込むロニとリウムちゃんの姿があった。

「クレナさまー! ルリトラー! トウヤさまが目を覚ましましたよー!」

 ロニはカスタード色の髪を振り乱しながらすぐさまクレナ達を呼び、リウムちゃんは本当に無事か確認したいのか、俺の頬をつんつんとつついてくる。

 彼女がずいっと顔を近付けてくると、垂れたココア色の髪が俺の頬をくすぐった。

「大丈夫?」

「……なんとかな」

 俺は傷の痛みを堪えながら身体を起こそうとすると、床に突いた手がズキッと痛んだ。

 ナイフを握った時の傷だ。砂利を固めた物がそのまま残っていたので、それを取り外し『癒しの光』で止血する。

 他にも手足に傷があるが、気になる程ではない。

 周りを見回してみると、キンギョが隠れていた武器庫の中の様だ。どうやら毛布などを持ち込んで休息出来る様にしたらしい。

 例の鼻につく腐った水の臭いも無い。クレナが風の精霊を使って換気してくれたのだろう。

 扉は閉じられており、ルリトラが斬った壁の所には、斬った本人が背を向けて座り外を見張っている。もっとも今は俺の事が気になるのか、振り返って中を覗き込んでいるが。

 ちなみに馬車は壁の穴から出てすぐの所にあるそうだ。


 外は明るい。まだ日が暮れていないか、時間が経過して既に夜が明けたかのどちらかだ。

 近付いて来たクレナの銀色の髪はぼさぼさになっている。これは夜が明けたと見るべきか。

「どれくらい眠ってた?」

「ほぼ一日よ」

 やはり後者だったらしい。昨日は髪の手入れをする暇も無かったのだろう。

「スープ、あっため直しますね」

 その言葉を聞いて思わず腹が鳴ってしまった。

 時間は昼の少し前ぐらいらしい。昨日の昼食後少ししてから魔王城に到着して探索を開始したので、昨日の夕食と今朝の朝食を抜いた事になる。

 周りを見てみると、『無限バスルーム』内に仕舞っていたはずの荷物が運び出されていた。

 あの時俺は『無限バスルーム』の扉を開いたまま倒れてしまったが、あれは使い続けるだけでもMPを消費し続けるため、実は常に負荷が掛かっている。

 クレナはその事を知っているので、中から毛布とかを出して扉を閉め、倉庫を休息場所にしたのだろう。

 俺がいつ目を覚ますか分からないのだ。俺が目を覚ますまで扉を開けない事を考えると、良い判断だったと言える。


「キンギョはどうなった?」

「残したまま閉めても良いか分からなかったから外に出したら、塵になって消えちゃったわ」

「完全に死んだって事か?」

「多分ね」

 俺の問い掛けに肩をすくめながら答えるクレナ。キンギョは完全に消滅した様だ。

「それよりトウヤの方は大丈夫なの?」

「あんまり良い状況ではなさそうだが、ひとまずはな」

 そう言って俺は立ち上がった。手足はちゃんと動く。問題は無い。

 あの奇妙な夢も正しい情報だと仮定すると、こうではないかと思うところもある。

 しかし現状では不確定な情報なため、詳しくは話さないでおく。


「一体どうなっているか、とりあえず開けてみるか」

 キンギョの呪いを受けたし、キンギョこと魔将『仮面の神官』を倒した事でレベルアップしたとも考えられる。

 前のままではあるまいと覚悟を決めて『無限バスルーム』を開けてみると、案の定様変わりした光景が俺の目に飛び込んで来た。

「……庭?」

「え? それにしちゃ狭くない?」

 そう、今までは扉を開けるとすぐに脱衣場だったと言うのに、扉と脱衣場の間に幅一メートル――この世界の単位で言うと一ストゥート程のスペースが出来ているのだ。

 扉から脱衣場に繋がっているであろう扉までには石畳の道があるが、それ以外は砂利が敷き詰められている。

 そして脱衣場への扉には群青ののれんが掛かっており、その中央には大きく「ゆ」と書かれていた。

 ちなみに神殿で使われている神聖文字を円状に変形させたデザインである。

 脱衣場の扉を開ける前に一ストゥートの空間の方を調べてみる。

 左右は壁だ。最初は前庭のようなものかとも思ったが、歩いていくと浴場をぐるりと砂利庭が取り巻くような構造になっているのがわかった。大きな部屋の中に建物がある感じだ。

 建物の方には窓があるが、中が暗いためよく見えない。

「庭って言うより通路ね、これは」

「狭い」

 俺の後を付いて来ているクレナとリウムちゃんも、どうしてこんなスペースがあるのか理解出来ずにいる様だ。

 湯気も漏れていないため、この環境ならルリトラも休めそうな気がするが、残念ながらこの狭さでは入るのも難しいだろう。

「まさか……」

 妙な変化だが、あの奇妙な夢と合わせて考えると一つの推論が成り立つ。

 あの夢は光の女神らしき女性が闇の女神らしき女性を責め、俺が苦しんでいるところに大地の女神らしき女性が近付いて来てその苦しみを取り除いてくれた。

 俺に与えられた『ギフト』は、言うなれば俺の中にある。もちろん物理的に俺の中に『無限バスルーム』がある訳ではないが。

 その箱型の建物の中にあるであろうバスルームは、光の女神の祝福とキンギョの呪いがぶつかり合っている状態だ。

 この足下の砂利は、言うなれば「大地」。大地の女神の祝福がバスルームを包み込む事で俺へのダメージを抑えている。そう考えると、あの夢の内容も納得出来そうな気がする。


「トウヤさまー……って、何ですかこれ!?」

 その時、スープの入ったカップを持ったロニが入って来た。俺はそれを受け取るとちびちび飲む。熱くて一気に飲む事は出来ないが、身体が温まる。

「問題はこの中だな」

「念のため私が開けるわ。トウヤしか回復魔法使えないし」

「……すまん、頼む」

 男としては「ここは俺が」と言いたいが、クレナの言っている事は正論である。

 これがゲームならば瀕死の状態でも生きてさえいれば回復魔法が使えるが、現実には魔法を使うためには集中出来るだけのコンディションが必要なのだ。

 よく見るとクレナとロニは手足に包帯を巻いている。俺が意識を失っていたため、キンギョとの戦いで負った傷を魔法で治す事が出来なかったのだろう。

「まずその怪我を治そうか?」

「大した事ないわよ。先に中を調べましょ。あなたに何かあったら傷も治せなくなるんだし」

「……分かった。中を一通り確認したらすぐに治すぞ」

「お願いね」

 ロニが俺の前に立って身構えながら、クレナが横から扉を開こうとする。

「あ、あれ? ちょっとこれドアノブが無いわよ? 押してもビクともしないし」

 初めて見るタイプの扉に戸惑いを見せるクレナ。そう言えばこの世界では見た事が無かったな、引き戸。

「……それは引き戸だ。横に引っ張るんだよ」

「え? ああ、こうするのね」

 頬を赤らめながらクレナが横に引くと、ガラガラと音を立てて扉が開いた。何と言うか懐かしさを感じる音だ。

 中で光と闇の戦いが繰り広げられていると言う事はなく一安心と言ったところだが、その構造は大きく様変わりしていた。

「また扉?」

「玄関が独立したみたいだな」

 外から見ると箱状の建物だったが、中はいくつかの部屋に分かれている。

 まず入ってすぐに玄関、更に引き戸があった。中の引き戸は格子状の磨りガラス張りで、向こう側が暗い事を窺わせる。

 中の扉も開いて中を覗き込んでみると、やはり薄暗い。ふと横を見ると扉のすぐ横の壁にある操作パネルの文字盤が薄らと光っていた。

 調べてみると、それは明かりのスイッチの様だ。以前からあった物だが、何やらスイッチが増えてランクアップしている。

 まず明かりを点けてみると、これまでより更に広くなった部屋があった。残っていた荷物の位置から元のサイズを考えるに、おおよそ倍ぐらいになっているのではないだろうか。

 左右には洗面台と洗濯機がある。建物の横幅に比べて玄関の幅が狭いと思っていたが、どうやらその足りない分が窪みになっていて、それら二つをそこに設置している様だ。

 そして向い側の壁には二つの扉がある。近付いてみると、左側が今まで通りのクローゼットタイプの扉で浴場に繋がっていた。

 扉を開いて中を見てみると、以前と変わらぬ檜風呂がある。

 では右側の扉はと言うと、なんとふすまだった。

 恐る恐る開いてみると、そこはなんと畳張りの部屋だった。八畳間で奥にもふすまがある。

 もしかしたら布団もあるかも知れない、そんな期待をしながらふすまを開けてみたが、残念ながら中には何も無かった。

 ふすまの収納スペースも合わせて檜風呂の浴場と同じぐらいの広さだろうか。

 部屋に入ったクレナ達も、初めてみる風景に戸惑い気味だ。

「なにこの部屋……」

「これも俺の世界の部屋だな。板の間の脱衣場や檜風呂と同じだ」

「お外みたいな匂いがしませんか?」

「この床……枯れ草で出来ている?」

「俺の世界の畳と同じだとすれば、イグサって植物で作られてるな」

 乾燥させているのであって、枯れているのではないと思う。

「なるほど、それでこんな匂いがするんですね」

 そう言ってすーっと大きく息を吸うロニ。彼女の言う通り、部屋の中は新しい畳の匂いがしている。どうやら彼女はこの匂いが気に入った様だ。

「なんと言うか……すごい技術で作られているわね」

 呆れた顔をしたクレナは、そこから先の言葉が続かなかった。

 彼女の考えは大体分かる。

 この世界の建物も色々とあるが、多くは土壁であり、高貴な身分の者となると石造り等の建物に住む様になってくる。

 木製の家に住むのは貧しい農民等だ。この世界で生まれ育った彼女達には、どうしてもそう言うイメージがあるのだろう。

 しかし緻密に編み込まれた畳を見れば、そんなレベルの代物ではない事は分かるのだろう。

 彼女の呆れは元来のイメージと、畳に用いられている優れた技術のちぐはぐさから来ていると考えられる。

「これは……興味深い……」

 そしてリウムちゃんはと言うと、畳の上に這いつくばり真剣な目で編み目を見詰めていた。


 突き出された小さなお尻をぺちんと叩きたくなる衝動に駆られつつ、俺は脱衣場に戻ってクレナ達の治療を行う事にした。

「リウムちゃんは怪我は無いか?」

「ない」

 援軍を呼びに行っていた彼女は怪我をしていない様なので、ひとまずリウムちゃんは畳の部屋に残しておく事にする。

 次に俺は『無限バスルーム』の外に顔を出し、ルリトラに声を掛けた。

「ルリトラの方は、怪我は無いか?」

「大丈夫です。問題ありません」

 彼の方も大丈夫そうだ。怪我をしているのはクレナとロニだけの様だ。俺の手足の傷は後回しにしてまずは彼女達を治すとしよう。

「今気付いたんだが、『癒しの光』って自分の背中は治療出来ないんだな」

「そのために上位の回復魔法があるんじゃないの?」

 背中に手が届かないから触れずに治療出来る上位の回復魔法を使う。

 理屈としては分からなくもないのだが、それで良いのだろうか。

「……まぁ、いいか。二人とも傷を見せてみろ」

「分かりました」

 そう言ってロニから率先して服を脱ぎ、下着姿になる。『癒しの光』は、直接触れなければ治療する事が出来ないからだ。

「傷はどこだ?」

「手足と……ロニは背中にもあるわ」

「クレナさま、胸の傷も治してもらわないと」

「そこは念入りに治すぞ」

 俺はカップのスープをぐいっと飲み干して気合いを入れた。

 下心ではない。クレナの胸に傷痕を残すなどあってはならないのだ。治療のために触れる事になるが、決して下心ではない。多分。




「手付きがいやらしかった」

「男だからな!」

 誤魔化したりはしない。

 それに治療に手は抜いていない。むしろ手に全神経を集中させていた。

 治療を終えて再び服を着たクレナはジト目で俺の事を見ているが、きっちり治療している事は分かっているのか、それ以上は何も言って来ない。

 実際のところ包帯を取ってみると、むっちりとたわわに実った胸の右側上部に一文字に付いた傷は思いの外深く、俺が治療しなければ傷痕が残っていただろう。

 ナイフが突き刺さりそうになったところで咄嗟に身体をひねって避けたが、避けきれずに負った傷らしい。

 避けていなければ胸に突き刺さっていたかも知れないと考えると不幸中の幸いである。

 手足の方にも深めの傷があったが、それらも全て傷痕一つ残さず治療した。

 魔法は問題なく使えている。いや、以前よりも力が増したかも知れない。

「広くなったのはキンギョを倒して強くなれたおかげだと思うが、それ以外は構造が変わって部屋が一つ増えたぐらいか」

「『タタミ』の部屋は寝室として使いましょ。これで荷物に囲まれながら眠らないで済むわ」

 ふすまが開いた和室の方を見てみると、リウムちゃんが楽しそうにごろごろしていた。

 彼女も畳の気持ち良さに目覚めたらしい。

 それを見てロニが目を輝かせていたので、行っておいでと言ってやる。

「何だったんだろうな、あいつが最後に使って来た呪いは」

「…………」

 無言のクレナ。どうかしたのかと彼女の方を見てみると、何故か襟を開いて胸元を曝け出していた。

「それは覗き込めと?」

「ち、違うわよ!」

 慌てて胸元を隠すクレナ。おそらく治療した胸を見ていたのだろう。

「ちゃんと治ってただろ?」

「ええ、ちゃんとね。トウヤ、あなた本当に何ともないの?」

 心配そうな面持ちで俺の顔を覗き込んで来るクレナ。襟を閉じていないので谷間が見える。

 俺の視線に気付いて頬を真っ赤にしたクレナは、こちらに背を向けて襟を正した。

 俺はその背中に向けて問い掛ける。

「あの呪い、何か心当たりあるのか?」

「多分だけど、闇の女神の祝福だと思う。あのタタミの部屋はそれで出来たんでしょうね」

 確かに、呪いで『無限バスルーム』が変化するとは考えにくい。何せこのギフトは光の女神の祝福なのだから。

 やはり、大地の女神の祝福で檜風呂になった様に、闇の女神の祝福で畳の部屋が出来たと見るべきだろう。

「祝福が呪いなのか?」

 「祝」と「呪」の字は似ているが、それは俺達の世界の漢字の話だ。

「魔族ってそうやって生まれるらしいわよ? 本当に何ともないの?」

 聞き捨てならない事を言いつつ再度問い掛けてくるクレナ。しかし、そう言われても本当に身体に異常は無いのだ。

「って、ちょっと待て。マジなのか? あいつは俺を魔族にしようとしたのか?」

「それなら『呪い』って言うのも理解出来るのよね……」

 沈痛な面持ちでクレナは言う。確証がある訳では無い様だ。

 キンギョのヤツ、俺の方が良い魔王になるとか言っていたが、あれは本気だったのか。

「魔族になるとどう言う変化が起きるんだ?」

「まず見た目から変わるわね。ちょっと脱いでみて」

「あ、ああ……」

 今度は俺が脱がされる番の様だ。ついでに俺の方も残った傷を治しておこう。

 自分で手足の傷を治しながらクレナにチェックしてもらう。自分で背中は見えないが、クレナによると傷は無いらしい。そして魔族への変化も無い様だ。

「ここも……大丈夫ね」

「……平気で見るな、お前」

「いつも見てるしね。お互い様でしょ?」

 どことは言わないが、強がるクレナの頬は紅潮している。口で言う程平気ではないらしい。


「本当にどこも変化してないわね……」

「実はだな――」

 俺は意識を失っている間に見た奇妙な夢について話した。

 もしかしたらあれは、女神の姿を借りた祝福のイメージだったのではないだろうか。

 つまり、俺の中で光と闇の祝福が争い、大地の祝福が俺にダメージがいかない様に守ってくれている。

「身体が変化していないのは、大地の女神の祝福のおかげって考えられないか?」

「まぁ、有り得なくはないわね」

 説明を聞いてクレナも一応は納得してくれた様だ。

「でも、姿が変わらないまま魔族になるって事もあるかも知れないわよ?」

「そんな事があるのか?」

「分からない……けど、人間とほとんど変わらない姿の魔族だって存在するかも知れないわ。心当たりがない訳じゃないし」

 そう言ってどこか遠い目をするクレナ。

 その顔を見て、俺はキンギョの言葉を思い出した。

 聞き辛い雰囲気だが、ここは思い切って尋ねてみる事にする。


「……あの剣と、『闇の王子(ダークプリンス)』と関係あるのか?」


 真っ直ぐにクレナの目を見て問い掛ける。

 そうキンギョは言っていた。クレナの精霊魔法の媒介になっている剣は、『闇の王子』の物だと。クレナ自身は元の持ち主を知らなかったらしいが。

 しばし無言で俺の目を見詰め返していたクレナだったが、やがて大きくため息をついて口を開いた。

「分かった。全部話すわ」

 俺は姿勢を正して聞く態勢に入る。

 ふと横を見ると、いつの間にか畳の部屋へのふすまが閉められていた。ロニが気を利かせたのだろうか。


「あの剣は元々、私のママが持っていた物なの」

「御先祖様か誰かが『闇の王子』から奪い取ったって事か?」

「本人からもらったってママは言ってたわね」

 その言葉を聞いて、俺は訝しげな表情になる。

 『闇の王子』が渡したと言う事だろうか。自分の剣を贈ったなんて、『闇の王子』は何を考えていたのやら。

 いや、クレナの母と『闇の王子』はどう言う関係だったと言うのだ。

「まさか……!」

「……ええ、あの剣はパパがママに贈った物。私はそう聞いているわ」

「って事は『闇の王子』がクレナの父親なのか?」

「それは分からないわ。ハッキリしているのは、会った事もない私のパパがあの剣をママに贈ったって事だけよ」

 そうか。あの剣がキンギョの言う通り本当に『闇の王子』の物だったとしても、クレナの母に贈ったのが本人とは限らない。

「年齢は偽って無いよな?」

「ないわよ。ちゃんと十五歳」

 魔王と共に『闇の王子』が召喚されてから五百年。『闇の王子』本人ではなくその子孫の可能性もあるし、その間に人手に渡った可能性も考えられる。

 つまり彼女は、人間と魔族の混血――いや、まだ分からない。例えば人間の誰かが『闇の王子』から剣を奪った可能性だってあるだろう。


「と言うかね。私はそれを確認するためにここまで来たのよ」

「自分の父親が何者なのかをか?」

 俺の問い掛けに、クレナは首を横に振った。

「それもあるけど、私が知りたかったのは……私が本当に魔族なのかどうかよ」

 なるほど、彼女の言う「人間とほとんど変わらない姿の魔族」の心当たりと言うのは彼女自身の事なのか。

 父親の正体が分からないから、彼女自身自分が人間なのか魔族なのか、それともハーフなのかが分からないのだ。

「ここに来れば何か分かると思ってたけど……どうやらハズレだったみたいね。振り出しに戻っちゃったわ」

 そう言って笑うクレナの顔は、どこか弱々しく、今にも泣き出しそうに見えた。

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