表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界混浴物語  作者: 日々花長春
熱情の砂風呂
38/206

第35話 泉の賢者?

「うぉのれ、なんだこの水はあぁぁぁ!!」

 俺は急いで水を入れた洗面器を持って来て、ピチピチの金魚モドキな自称・賢者を指先で摘んで中に放り込んだ。

 そして自称・賢者の放った第一声が先程の叫びである。なんて失礼なヤツだ。

 自称・賢者――いや、もう金魚モドキで良い。何やらじたばたと蠢いているが、何がしたいのか分からない。

 流石に金魚の表情も読めないので、何を考えているのか分からなかった。

「こ、この水は、魔力が籠められている! 魔法が発動せん! 貴様、何をした!?」

「は? 何だそりゃ?」

 どうやら先程のじたばたは、また何か魔法を使おうとしていたらしい。

 もちろん、こちらも先程何かされそうになったばかりなので油断はしていなかったが、魔法が使えないと言うのは予想外だ。しかも俺の『無限バスルーム』の水が原因で。

「もしかして、『ギフト』で作られた水だから自然に存在する水とは違うんじゃない?」

「『ギフト』!? まさか貴様、異世界から召喚された勇者かッ!?」

 自信なさげに言うクレナの言葉に真っ先に反応したのは金魚モドキだった。

「そう言えば、初代聖王も異世界から召喚された勇者だったな。何か知っているのか?」

「ああ、それは正しい情報だ。そうか、異世界から召喚された……道理で……」

 しかも彼女の言葉が正しかったのか、何やら納得している様子だ。賢者を自称しているのは伊達ではないらしい。


 金魚モドキに聞いてもちゃんと答えてくれるか分からなかったので、俺はクレナの方に尋ねる事にする。

「どう言う事なんだ、クレナ」

「魔法って、自分のMP使って周りの精霊とかに干渉するものでしょ」

 俺は頷いた。それは分かる。

 神官魔法の場合は女神の祝福によって精霊に干渉するためのパスをもらっていると言えば分かりやすいだろうか。

 クレナの精霊魔法の場合は、女神の祝福以外の方法でパスを得ている状態だ。

 そしてリウムちゃんの水晶術は、精霊の代わりに特殊な水晶を通す事で、水晶を取り付けた道具に干渉する魔法らしい。

 サンドウォームとの戦いで鉛筆程度の銀の串を大きな槍に変化させたのも、MPを使って干渉した結果と言う訳だ。

 その水晶は精霊へのパスの代わりであるため、神官にも使える様に作った道具を「神具」と言うらしい。

 リウムちゃんも幾つか持って来ているそうなのだが、あの戦い以降雨季の『空白地帯』に入ってしまったため、まだ見せてもらう事が出来ずにいる。


 それはともかく、今は金魚モドキの話だ。

「でも、今のこいつはトウヤのMPで作られた水の中にいる。つまり、自分と周りの精霊の間にトウヤのMPがある状態なのよ」

「つまり、周りの精霊に干渉しようとしてもトウヤのMP製の水が邪魔している状態」

 ロニと並んで洗面器の前にしゃがみ金魚モドキを見ていたリウムちゃんが、俺の方を見上げながら説明を補足してくれた。

「『無限バスルーム』の水に、こう言う使い方があるとは……」

「魔法封じの水、ですか……」

 唸るルリトラ。周囲への干渉を防ぐ事が出来ると言う事はそう言う事になる。

 しかし、世の中そう甘くはないらしい。

「私の水晶術は防げない」

 リウムちゃんは、例の銀の串を一本手にして心なしか得意気な表情で胸を張った。

 水晶術の場合は直接手に持った状態で行使するため、俺の水の中でも魔法の発動を止める事は出来ないそうだ。

 魔法封じの水と言っても、封じられる魔法は限られていると言う事である。



「ぐぬぬ……貴様等、一体何故ここに来た? ここは不毛の地。何の用も無いヤツが来るところではないぞ?」

 自分の圧倒的な不利を悟ったのか、金魚モドキはおとなしくなった。態度が軟化したと言うには程遠いが。

「その前に聞きたいんだが、お前が五百年前に勇者を魔王の城に導いた賢者本人なのか?」

「いかにも! 敬え、小僧!」

 誰が敬うか。

「こっちも聞きたいんだけど、あんた水飲んだヤツを洗脳してどうしようって言うの?」

「決まっている! 『空白地帯』の外に帰してやるのだ! 全てを忘れさせてな!」

 前半は分からなくもないが、後半は聞き捨てならない。

「それはつまり、この『空白地帯』に隠している物があるって事だな」

「この者が勇者を導いた賢者だとすれば魔王の城が妥当なところでしょうな」

「この先、それしか無いもんね」

「つまりは『砂漠の王国』」

「ハデス・ポリスですねっ!」

 皆で一気に畳み掛けてみる。

 特にハデス・ポリスの名前まで出て来たのは予想外だったのだろう。金魚モドキも流石に驚きを隠せない様子だった。

 と言うか、驚いてる――で良いのだろうか。雰囲気から察するにそれっぽいのだが、金魚の驚く表情など初めて見たので断言は出来ない。


「フ、フハハハハ! その通り、わしは誰もハデス・ポリスに近付けぬために、ここで近付く者を洗脳して追い払っていたのだ!」

 なるほど、そう言う理由だったのか。

 ハデス・ポリスの名前を知っている事から考えるに、この金魚モドキは元々そこの住人か何かだったのかも知れない。

「近付くと何か不味いのか? こっちは復活する魔王を倒せと言って召喚されたが、その魔王が眠っているとか」

「それは無いわ。魔王の骸は生き残った魔将が持ち去ったって言われてるもの」

「ぬ、そうだったのか? 一体誰が?」

「そこまでは知らないわ。でも、これは有名な話よ?」

 その事は初代聖王伝説について調べていた事がある俺も知っていたが、どうやらこの金魚モドキは知らなかったらしい。情報を得る手段が無かったのかも知れない。

「……貴様等、財宝目当てか?」

「それも無いとは言わんが、こっちは魔王を倒せって召喚されたのに、その歴史そのものが捏造された形跡があるとなると、真相を知りたいって思うのは当然だろ」

「フム……」

 金魚モドキは洗面器の中でくるくると円を描く様に泳ぎ回っている。

 この姿だけを見るとなかなかに和む光景なのだが、こいつの場合は中身がアレだ。

「……よし、貴様等がどうしてもと言うなら、わしの知っている事を教えてやっても良い」

「条件付きか?」

「ウム、こちらの条件は一つ……わしもハデス・ポリスに連れて行く事だ」

「なるほど……」

 どうしてこの泉にいるのかは分からないが、金魚モドキの身体ではここから動く事もままならないだろう。

 だから、ハデス・ポリスに連れて行けと言う要求は理解出来ない事もない。

「トウヤ様、どうされますか?」

「そうだな……」

 とは言え、ここで甘い顔をする必要は無い。付け上がりそうだし。

 俺は努めて強気な態度を崩さずに言い放った。

「お前の出す情報次第だ。俺達は、お前の協力が無くとも『砂漠の王国』に行ける」

「なっ……! フッ……フフフッ! バカを言うな! 普通に砂漠に入ったところでハデス・ポリスに辿り着けるものか!」

「こいつ、やけに自信有りげね……」

 確かにクレナの言う通りだ。俺達がこのまま進んでも辿り着けない。その事に絶対の自信を持っている様に見える。

 これは何か秘密がある。俺はそう感じた。

 そして考えた。これまで得た情報から推理出来るものは何なのか。

「魔王が倒されてからの五百年、『砂漠の王国』を見付けた人はいないんだよな?」

「ええ、探そうとした人がどれだけいたかは分からないけど」

「存在自体も隠されていたら、お宝目当てのヤツも近付かないか」

「それでもたまに現れるのだよ! 欲深な者共が!!」

 興奮気味に捲し立てる金魚モドキ。そうか、興奮するとヒレがピンと張るのか。


「空から調べた水晶術師もいるらしいけど、『砂漠の王国』は影すらも見えなかったと聞いている」

「……本当に無いのかもな、『砂漠の王国』」

「トウヤさま!?」

 リウムちゃんの言葉を聞いて考え込み、俺はぽつりと言葉を漏らす。

 それを聞き逃さなかったロニは、悲鳴の様な声を上げた。

「いや、無いって言っても砂漠に無いって意味だ」

「どう言う事?」

 クレナが怪訝そうな表情で問い掛けてくる。

「ほら、トラノオ族の長老が地下に続く門を壊したって話をしていただろ?」

「ああ、魔族が出て来たから壊したとか言う」

「お前ら、あれを壊したのか!?」

 今度は金魚モドキが悲鳴の様な声を上げるが無視して話を進める。

「俺達もあの門が『砂漠の王国』に続いていると考えてそこを目指している訳だが、本当に砂漠の国に続いているのか?」

「た、確かに、我等の先祖も中に入って確かめた訳ではないでしょうが……」

 戸惑うルリトラ。しかし、それは俺が言いたいのとはちょっと違う。

「『砂漠の王国』って言われているが、本当に砂漠の上にあるのか?」

「それは行ってみない事には……」

「…………」

 クレナも戸惑う。

 金魚モドキの方は無言だ。反応を見たかったが、やはり金魚の表情はよく分からない。

「門の先は地下道だったって話だが、その先が砂漠の上に続いているとは限らない」

 仕方が無い。ここは少しカマを掛けてみる事にしよう。

「クレナ、ケレス・ポリスの神殿の書庫を覚えてるか?」

「え? ええ」

 二つの選択肢があるが、俺はより可能性が高いと思われる方を選んで話を進める。

「そこにあった本に書いてたんだ。『砂漠の王国』は、既に地中深くに沈んでるってな」

「バカな!? 貴様、どこまで知って!?」

「やっぱり沈んでたのか」

「……はっ!?」

 語るに落ちたとはこの事だ。俺は勝ち誇った笑みを浮かべながら金魚モドキを見た。

 水面から顔を出し、口をパクパクさせている。エサをねだっている様にも見える。

「地下都市……って事? そんな物が本当に存在するの?」

「いや、元々地上にあったのが沈んだ可能性が高い気がする」

 技術的に考えると、元々地下都市だったと考えるよりもそちらの可能性の方が高いと思う。

 そもそもこの『空白地帯』は自然にこんな環境になっている訳ではなく、中央で何かが起きてこうなった可能性が高い。

 北は山で途切れ、西は地割れ、南は海で止まり、障害物が何も無い東だけが大きく広がっていると言うのが状況証拠である。

 その中心にあると考えられるのが『砂漠の王国』なのだが、それだけの現象を起こしておきながら無事であるとは考えにくいんじゃないだろうか。


「ここからは俺の推測なんだが、『空白地帯』を作った現象って、初代聖王と魔王の戦いなんじゃないか?」

 それにより王国は崩壊し、地下に沈んでしまった。

 初代聖王――勇者と魔王のラストバトルだと考えると、それぐらい派手になるのも仕方がないと言うのは現代日本のRPGゲームに触れて育った人間ならではの発想だろうか。

 もしそうだとすれば、『砂漠の王国』の事をひた隠しにするのも納得出来る。周囲の被害が大き過ぎるのだ。

 そう考えると空から砂漠を見ても見付からない。今まで誰も見た事が無いと言うのも納得出来る気がする。

 これが正しかったら地下道が無事に『砂漠の王国』まで続いているかどうかと言う問題も考えられるが、こればかりは実際に行ってみない事には分からない。

「……有り得るわね」

 クレナ達も納得し、全員の視線が洗面器の中の金魚モドキに集まる。

 水面から顔を出し、口をパクパクさせていた金魚は、一旦水の中に潜りすいーっと円を描く様に泳ぐ。

 そして再び顔を出し、多分沈痛そうな面持ちで口を開いた。パクパクするのではなく喋るために。

「……ほぼ間違い無いと言っておこう」

 認めた。当時を知るであろう者が。

 おそらく神妙であろう表情で金魚モドキが俺に話掛けてくる。

「良いだろう。わしを連れて行け。近くの門まで案内してやる。そこが使えなかったら他の門の場所を教えてやろう」

 近くの門と言うのはトラノオ族の長老から教えてもらった門だろう。壊された事で使えなくなっている可能性も考えると、確かにその情報は有難い。

 俺は皆と顔を見合わせて相談する事にする。

「大丈夫かな?」

「この泉から離れても、トウヤさまの『無限バスルーム』があれば大丈夫ですよね?」

「問題は、奴が我々を騙そうとしていて先程の様に不意を打ってきた場合ですな」

 ロニは金魚モドキを泉から離して良いのかを心配し、ルリトラはまた騙そうとしているのではないかと心配している。

 どちらの意見にも一理あるだろう。

「ここから連れ出すのは問題無いだろう。水には困らないしな。ただ、念のため『無限バスルーム』の中には入れない様にしておこう」

「不意打ちの方も、トウヤの水の中に入れておけば魔法が使えないみたいだから問題無いと思うわ。ただ、水はこまめに新しい物に変えた方が良いでしょうね」

 クレナが言っているのは、『無限バスルーム』から出した水が、何時まで俺の魔力を保っているかどうかを気にしているのだろう。

 それは俺も分からないので、彼女の言う通り気を付けて頻繁に変えるしかない。

「問題なさそうだな」

「そうね。当時を知っていると言うのは、情報源としては貴重だし」

「あの身体では飛び掛かるのも難しいでしょうな。念のため、自分が警戒しておきましょう」

「洗面器で飼うんですね」

 金魚モドキを連れて行くと言う事で、俺達の意見はまとまった。

 その事を伝えようと振り返ると、相談に参加していなかったリウムちゃんが洗面器の前でしゃがんでいる。


「エサはパンで良い?」

「……まぁ、問題無いと思うぞ」

 彼女が気にしているのは、また別の事だったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ミミズみたいなタイプ虫っぽいアレの一般的なカタカナ表記は「ワーム」なので「ウォーム」だと暖かいになってしまう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ