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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
後日談
204/206

後日談:案ずるより産むがやすし

 女神達が、ハデスを再建しようとする者達を癒すために作ったという『女神の湯』。

 その存在は、瞬く間に周辺国に広まった。神殿長達が、各神殿に連絡しているのだろう。今後は、ハデスを訪れる人が増える事が予想される。

 結果として宿を大急ぎで作る必要があったが、それは構わない。

 というのも、今まで『無限バスルーム』に来ていた面々の多くが『女神の湯』を利用するようになった。

 今も『無限バスルーム』を使っているのは、いつも俺と一緒に入浴する面々ぐらい。

 おかげでMPの負担は軽減されているので、宿を建てる方は大した負担にはならないのだ。


 しかし、それだけでは済まぬ者達もいた。


 ある日の入浴中、湯舟につかるサンドラとルミスの二人が揃ってため息をついていた。

 何事かとお湯をかき分け近付いて行く。するとそこには二人以外にセーラさんとリンの姿もあった。

「二人とも、どうしたんだ?」

「あ、トウヤさん。実はですね……」

 二人に代わって答えてくれたのはセーラさん。長い金髪をまとめているため、露わになっているうなじが目を惹く。

「『女神の湯』を目当てに集まる人って、主に神殿関係者になるじゃないですか」

「まぁ、そうじゃなくても相応に信仰心篤い人達でしょうね」

「そうなると、『光の女神巡礼団』も来るかもしれないので……」

「あ~……」

 『光の女神巡礼団』、略して『巡礼団』とだけ呼ばれる者達は、光の神殿もない小さな村々などを巡回して守る神殿騎士の部隊。言うなればパトロール隊である。

 サンドラ達は、元『巡礼団』の神殿騎士だった。春乃さんは旅立った当初、護衛として『巡礼団』の内の一部隊を連れていたのだ。

 しかし、アテナ・ポリスで光の司祭が絡んでいた事件に関わり、亜人を排斥していたという光の神殿の過去の所業を知って、別れる事になってしまった。

 その時に『巡礼団』を抜けて、春乃さんと共に行く事を選んだのがこの三人である。

「そうか、別れた『巡礼団』もハデスに来るのか」

「そうなのです!」

 分かってくれたかと身を乗り出して顔を近付けてくるサンドラ。

 湯浴み着を着ているとはいえ、北半球は割と無防備。視線が思わず谷間に吸い込まれ……掛けたので気合いで彼女の顔を見る。

「要するにアレだな、会うのが気まずいんだな?」

「はい、気まずいのはお互い様だと思いますが……」

 サンドラだけでなく、ルミスもコクコクと頷いた。すがるような目で。

 光の神殿の過去の所業を教えたのは俺だから。ちょっと責任を感じるな。

 一方リンはあっけらかんとしており、すすすっと近付いて来て、俺の腕に抱き着いてくる。

「気にする事ないですって。向こうだってこの期に及んで事を荒立てようとはしないでしょうし」

「そうですね。サンドラ達は『巡礼団』を辞めましたが、神殿騎士として『女神の勇者』の護衛は続けていましたから」

 セーラさんもリンに同意する。そもそも問題になっていないから、今も三人は神殿騎士なのだそうだ。

「つまり、気まずい以上の問題は無い?」

「それが一番の問題なんですよ~! 私は一番後輩だったから~!」

 ルミスが、俺の胸に飛び込んで泣きついてきた。

 ちなみに今の三人は、俺の直属神殿騎士だ。俺が女神信仰のトップという事になっているので、社長秘書みたいなものだろうか?

 『巡礼団』にしてみれば、辞めて行った三人がいつの間にか自分達よりはるかに上の立場になっていた事になる。しかもルミスは後輩。そりゃ気まずくもなるだろう。

「もし何かされたら、すぐに言ってくれよ? 俺は、全面的に三人の味方だから」

「うぅ、ありがとうございます……」

 ルミスがひしっとしがみついたまま、上目遣いでこちらを見つめてくる。

 サンドラもほっとした様子だ。よほど不安だったのだろう。


「う~ん、愛されてるなぁ」

 一方あっけらかんとしているリンは、抱き着いた俺の腕に頬ずりしてくる。

 悩まないのは良いが、念のために釘を刺しておこうか。

「愛は否定しないが、虎の威を借る狐にはなるなよ?」

 三人を守るが、三人から立場を笠に着てマウントを取るのは止めてほしい。

「分かってますって♪」

 その辺りは三人とも分かっているようで、元気の良いリンの返事に続き、サンドラとルミスもコクコクと頷いていた。

 その頬は少し赤い。愛を否定しなかったからか。

 そもそも、ずっと混浴しているのに否定する方がおかしいとも言えるが。

 というのも『女神の湯』ができて以来減っている『無限バスルーム』利用者。

 それでも混浴を続けているセーラ達は、周りから見れば負担を許容した上で混浴している。すなわち『無限バスルーム』の利用を許されているという事になるようだ。

「そこまで負担でもないんだけどな、『無限バスルーム』は」

「ゼロではないですよね? それでも、一緒に入ってくれている……」

 そう問い掛けているセーラさん。ちょっと頬が赤い。

 なんというか、周りから色々と言われてる事もあって、お互い意識するようになっているのは間違いない。

「ま、まぁ、それはこれまで通り。止めようとは思ってないから」

 俺も照れつつセーラの言葉を認めると、こちらを見ていたサンドラがフッと笑った。

「そう言われるならば、私としては、それに相応しくなるしかありませんな」

「わ、私もがんばります!」

 混浴するに相応しいとはどういう事なのか少々疑問であったが、とりあえず『巡礼団』との再会については前向きに取り組んでくれそうだ。

 それなら、上手く行けば何かご褒美を用意しなければいけないなと考えるのだった。



 なお後日、件の『巡礼団』に再会したところ、普通に謝ってきたそうだ。

 向こうも気にしていたらしく、春乃さんとセーラさんも含めて和解できたらしい。

 ご褒美は有りという事にして、ひとまずはめでたしめでたしである。

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― 新着の感想 ―
[一言] あの巡礼団は既に光の女神様の加護で賜ったシャンプーや石鹸の恩恵を知ってから喪失するという罰を食らってますからねぇw 後悔も反省もしてて初手陳謝なら改めて叩きたくなくなるのも道理ですな ………
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