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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
神泉七女神の湯
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第185話 異世界の男/トーヤホージョー 勇者の帰還

 王女軍の行進で砂埃が舞う乾いた道。視界を遮るものは何も無く、遠くに山々と丘、そして空を流れる雲が見える。

 ヘパイストス軍と別れた王女軍は、そのままユピテルへの帰路についたのだが、俺達は請われてそれに同行していた。

「一緒だと、毎晩お風呂に入れますから♪」

 王女が『無限バスルーム』の快適さを忘れられなかったのかもしれない。

 シャコバとマークもヘパイストス軍と一緒に来ていたようで、こちらに合流している。

 他にも炎の神殿から神官二人と神殿騎士六人が同行者に加わっていた。ちなみに神官一人と神殿騎士四人がケトルトだ。

 今は中央の王女と共にいるので、周囲を警戒する必要が無い。おかげで行きと違い、ルリトラの背の上から景色を楽しむ余裕もあった。

 そんな感じに俺達は順調にゆったりと帰路を進んでいたのだが、その一方でアキレスが中心となって捕虜の尋問が進められていた。

 騎士、兵士のほとんどは茫然自失状態らしい。洗脳中の記憶は消えないそうなので、自分達が何をしてしまったのかを覚えているからだろう。

 洗脳が解けたら聖王家への反逆者になっていた。ショックを受けるのも無理は無い。

 数少ない神殿関係者の尋問はセーラさんとベテラン神殿騎士が立ち会ったのだが、例のエリート神官がいきなり罵倒を始め、尋問どころではなくなってしまったそうだ。

 これはセーラさんには聞かせられないと、ベテラン神殿騎士だけ参加してもらった。

 俺も気になったが、『無限バスルーム』を使用している間は動けないため不参加だ。

 その間俺は、ショックを受けたセーラさんを慰めていた。膝枕をして、頭を撫でて。

 後で話を聞いてみたところ、彼がいわゆる「光の女神至上主義者」である事が分かったらしい。要するに、かつて光の女神信仰以外を排除しようとしていた者達の同類である。

 彼自身も『無限の愛』の影響下にあったようだが、植え付けられた愛情が信仰心に変換されていたらしく、中花さんを光の女神の化身として崇めるようになっていたとか。

 そういえば春乃さんもアテナでは女神の化身みたいな扱いをされていたようだが、意外とよくある話なのだろうか?

 そんな彼は洗脳が解けても光の女神至上主義なのは変わらず、今も遠征軍でヘパイストス軍の背後を突けとか言っているらしい。あの国は炎の女神信仰が強いからだろう。

 その話を聞いて、もしやと思って確認してみたら案の定。テーバイの森の風の神殿攻めを主導したのも彼だったようだ。

「主導って……洗脳してた中花さんの方が、神官に操られてたのか?」

「あの神官は『愛する人のためになると思う事』をやっていたのでは?」

「……なるほど、それに乗せられたって事か」

 ベテラン騎士曰く、彼も聖王家に反逆してしまっている。しかも主犯に近いので、神殿としては下手に庇い立てなどはしないだろうとの事。妥当だと思う。

 こと反逆者の処分については俺達が口出しする事ではない。聖王家も甘い判断はしないだろうし、任せてしまっていいだろう。なにせ聖王家の威信が懸かっているのだから。

 そんな事よりも気になるのは、エリート神官が原因でハデスに六女神の神殿を集める件が止められたりしないかだ。

 こちらの件については王女とも話をしておく必要があるだろう。

 王女は毎晩『無限バスルーム』に泊まっているので、時間は作れるはずだ。


 なお、エリート神官の話を聞いた日の晩、夢の中で光の女神に「ああいうヤツが一番困る!」と愚痴られまくった。

 いつもは能天気な風の女神も、流石にこの件については真顔になるようで、ラクティ、大地の女神と一緒に宥めてフォローする事になった。

 いっそ光の神官魔法を使えなくするとかできないのかと尋ねてみたところ、まず神殿がどうするかを見届けなければならないので今は無理と返された。

 その荒れっぷりに、もしかして庇い立てしないだけでは駄目なのではないだろうかと感じた俺は、翌日その事をセーラさん達に伝えた。

 すると彼女は大慌てで神殿に使者を出しましょうと言い出した。放っておいたら、自ら馬に跨って走り出しかねない勢いだ。

 そうか、通信の神具を借りているから、今は向こうに通信できないのか。

 光の神殿は予言の件もあるので、これ以上女神の不興を買うのは避けたいのだろうな。

 とはいえ流石にセーラさんを一人で行かせるわけにはいかない。

 ここはすっかりトラノオ族ライダーが板についた若手神殿騎士に、護衛の戦士を三人付けて行ってもらおう。スピード的にも、それが一番速いはずである。



 若手神殿騎士出発から数日後、俺達は何事もなくユピテル・ポリスに到着した。

 王女の方も戦勝報告の使者を送っていたようで、門を潜ると大歓声が俺達を出迎える。

 通りに沿ってズラリと並ぶ大勢の人々。その間を馬上の親衛隊が旗を掲げながら進んで行く。その後ろに続くのは馬車に乗った王女だ。

 その後に神南さん達、遠征軍の兵達、最後に遠征軍ではないトラノオ族が続く。

 この後、先頭グループだけが謁見の間に入って、聖王への戦勝報告に参加するらしい。

 流石に、それに参加しない訳にはいかないので、後方のトラノオ族はドクトラに任せ、俺達は王女の馬車のすぐ後ろを歩いている。

 ルリトラだけは俺の前でグレイブを掲げて歩いてもらっている。その大きな後ろ姿は、どこか誇らしげに見えた。

 ちなみに『不死鳥』もラクティの従者のようなポジションで一緒に歩いている。

 流石にこちらは、フードを被り、顔はベールで隠してもらった。ミステリアスな雰囲気になり、本人は満足気であった。

 王女が手を振ったのか、前方で一際大きい歓声が上がる。

 町の人達にしてみれば、王女が帰還したと思ったら城で戦いが起きたり、何が起きているのかも分からず不安な日々を過ごしていただろうからな。

 この凱旋は、そんな日々の終わりを示してるのだ。皆の喜びもひとしおであろう。

 ポリス中から人が集まっているのではないかと思える人の数。門から城まで人の列が途切れる事はなかった。

 ちなみに王女に次いで注目を集めていたのは、プラエちゃんだったりする。メガサイズなので目立ったのだろう。

 おかげでその近くにいた『不死鳥』には、あまり注目が集まらなかったようだ。


 大歓声を浴びながら進み、入城する俺達。他の面々は中庭に残し、先頭グループだけ謁見の間に入った。

 戦勝報告をするのは、もちろんフランチェリス王女だ。王女の後ろに俺、春乃さん、コスモス、神南さんの四人が横一列に並び、それぞれの後ろに各パーティーが並ぶ。

 壁際には廷臣が並んでいる。既に勝利した事は知っているようで、皆の表情は明るい。

 そんな明るい雰囲気の中、王女が聖王の前に出て、一礼して報告を始める。

「お父様、ナカハナ・リツを討ち果たして参りました」

「うむ、大儀である」

 実際には日本に帰しただけなのだが、こちらでは討ったと処理される事になっている。日本に帰す事で『無限の愛』の効果が消えるからこそできた事だ。

 そのまま王女は、ヘパイストス軍とトラノオ族と協力した事など報告。

 戦いの経緯については、王女視点で見た全体の流れについて説明。

 俺達が中花さんを『無限バスルーム』内に連れ込んだ事などは隠し、魔法を使って奇襲を仕掛けて討ったと話していた。

 特に魔法を使った奇襲は今までに無い方法だったようで、聖王は興味深げな様子で何度も頷き、廷臣達も感嘆の声とため息をもらしている。

 なお、一連の報告の中にはヘパイストス軍、トラノオ族双方の進軍スピードについても含まれていた。ユピテルとしては無視できない情報だったのだろう。

「……報告は以上となります、お父様」

「ウム、立派に務めを果たしたようだな、フランチェリス」

 そう言う聖王の表情が、どこか複雑そうに見えたのは気のせいではあるまい。

 王女が功績を上げれば上げる程、王子の立場が悪くなるからな。王としてはともかく、父親としては素直に諸手を挙げて喜ぶ訳にもいかないのだろう。

 こちらからは背しか見えないが、王女も同じような表情をしているのかもしれない。

 とはいえ、こればかりはどうしようもあるまい。王女も王子を排除して……とかは考えてなさそうなので、穏便に解決できる事を祈るとしよう。

 今回のタイトルの元ネタは、ハヤカワ文庫より出版されている『海の男/ホーンブロワー』シリーズの『勇者の帰還』です。

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― 新着の感想 ―
[一言] …悲しい真相だなぁ。 エリート()神官が悪意を持ってないことも、光の女神がすぐに裁きを下せない理由でもあるんだろうな。悪意よりもタチの悪いのは、無邪気ってヤツか。
[一言] 王女にその気が無くとも王子の方が出家しそうな精神状態だからなぁ…
[一言] 王女が跡継ぐ気無くても 家臣が「あの王子駄目だ」とか思ったら 担ぎ出そうとするだろうしなあ
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