第183話 さらば異世界!中花律、ヨクジョウに死す!?
「おのれ! おのれ! ぅおのれえぇぇぇッ!!」
魂の咆哮、いや、慟哭と共に次々に繰り出される激しい攻撃。二人を突き放し、俺が前に出て全てを受け止める。
「どうして!! 私の!! 邪魔をするの!?」
お前がやり過ぎたからだよ。
MPが削られる感覚は今まで以上だが、怒りに任せた攻撃は、今までのような巧みさが感じられない。
「お前も!! あいつらも!! 私の王国には!! いらないのよ!!」
あいつら? 春乃さんへの敵意は分かるが、それ以外に……フランチェリス王女か。
中花さんは王子の心を我が物とした事で、事実上ユピテルを我が物にしていた。
だから王女が邪魔になったのだろう。聡明であり、勇者コスモスを味方にしている王女は、築き上げた自分の立場を、王国を奪い返しかねないと。
コスモスを誘拐したのも、その辺りに理由があったのかもしれない。
「偽魔王どいて! そいつ殺せない!!」
「誰が偽魔王だ!!」
更に激しくなる攻撃、強引に突破して春乃さんを狙うつもりか。あまりの勢いに側頭部にも何度か攻撃を食らった。兜を被り直していなければ危なかったな。
だが、それでも対応できる。足下が湯舟なため、今までのように動き回れないようだ。怒涛の攻撃も、一方向だけから来るのであれば、防げなくもない。
退いては駄目だ。湯舟から出てしまえば、あの動きも、睡眠誘導能力も復活する。
つまり、ここで決着を付けるしかない。
「まずは、その剣を止める!!」
勢いよく振り下ろされた剣を手で受け、すかさず両手で掴んで動かせないようにする。『魔力喰い』のおかげでMPは削られるが、斬れる事は無い。
剣を引き抜かれそうになるが、離さない。単純な力比べは不利と見たのか、中花さんは剣を手放し、腰に履いていたもう一振りの剣、ショートソードを抜いた。
そして再び繰り出される猛攻。一旦動きを止めた事で少し冷静になったようで、先程よりも速さと鋭さが増している。もう一度受け止めようとするが、追い付けない。
ここは『魔力喰い』の防御を信じ、強引に近付く。
「く、来るな……!」
何度も攻撃されるが、先程よりも軽く、『魔力喰い』の防御は崩せない。
中花さんはこちらをかわして湯舟から出たいようだが、そうはさせない。両手を大きく広げて、それを阻止する。やはりお湯によって動きにくくなっているようだ。
焦りからか、攻撃が少し単調になった。その隙は逃さない。
「そこだッ!!」
攻撃を受け止めるのではなく、迎え撃つ。
突き出された剣に合わせて拳を放つ。しかし、タイミングが遅れて外してしまった。
「まだだ! 『精霊召喚』ッ!!」
伸びた腕の手甲から伸びる鉤爪から光の精霊を召喚。精霊は中花さんの眼前で炸裂して強烈な光を放った。
「目がっ! 目があぁぁぁぁぁ!!」
俺はもう片方の腕でガードできたが、中花さんは間に合わなかったようだ。目を押さえて悶えている。
すかさず腕に手刀を叩き込むと、彼女は堪え切れずにショートソードを手放した。
すぐさま拾おうとしたが、それは一歩踏み出して身体で妨害。彼女は伸ばそうとしていた手をピタッと止めた。
こちらをじっと見て、反射的に数歩下がる。完全に見えなくなった訳ではなさそうだ。発動のスピード重視で光量が抑えられたためか。
「開け! 『異界の門』!!」
だが、今がチャンスだ。すかさず混沌の女神の神官魔法『異界の門』を発動。中花さんの真後ろ、お湯の中から青みがかったグレーの鳥居が姿を現す。
『無限バスルーム』と同じくサイズは自由なので、天井ギリギリのサイズだ。
「なっ……!?」
剣を拾おうとしていた彼女は、すぐさまそれに気付いたようで、驚きの声を上げた。
前方に俺、後方に謎の鳥居で、どちらを警戒すればいいかと戸惑っているようだが、まだ終わりではない。
お湯が滴る注連縄の下に人間大の渦が生まれ、その向こう側に日本の風景が映る。
下側が湯の中に入って流れて行くが、日本側に出ると同時に消えているようだ。ギフトにより生み出されたお湯だからか。
中花さんも流石にこれは予想外だったようで、ほんの僅かにこちらへの警戒が緩んだ。
「『水神の行進』ッ!!」
その瞬間、彼女からは俺の身体が大きくなったように見えただろう。
水上を滑走するこの魔法は、水中で使うと、水に弾かれて身体が浮上してしまう。
そのせいでバランスを崩してしまうが、構わない。そのまま前のめりに突進する。
彼女も咄嗟に避けようとするが、一瞬遅い。そのままの勢いで彼女の腰にしがみ付く。そして両腕を回してがっしりホールド。これで引き離す事はできない。
彼女は顔を引きつらせて悲鳴を上げそうだったが、それよりも早く俺の背後でお湯の大爆発が起こった。
ありったけの魔力を注ぎ込んだ全力全開の『水神の行進』。俺の身体は盛大な水飛沫を上げてロケットのように飛び出す。
「ちょっ、離っ……!?」
こちらの頭を押さえて抜け出そうとするが、もう遅い。滑走の勢いは止まらず、俺達はそのまま鳥居の渦を抜けて日本に突入した。
今回のタイトルの元ネタは『機動武闘伝Gガンダム』のタイトル「さらば師匠!マスター・アジア、暁に死す!」です。
「浴場」か「欲情」かは、皆様のご想像にお任せします。
今回は少し短めですが、区切りの良さの方を優先しました。ご了承ください。




