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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
神泉七女神の湯
185/206

第176話 ハケン(聖職者)の品格

 さて、ヘパイストスとの通信だが、まずヘパイストス王に伝わるまでに半日。

 情報を共有しながら連携する利点はすぐに理解してもらえたようだが、細かい所を詰めるのに更に七回ほど通信でやり取りをする事になった。

 なお三回目から、神官達が通信の神具を『無限バスルーム』に持ち込んできたので、扉を潜ってすぐのところに置いてもらっている。

 向こうでもしっかり検討とかしているようで、返事がくるまで一時間とかはざらだったため、当然一日では終わっていない。

「あ、これはそのまま持って行ってもらっても構いませんので」

 そのため通信している間に、セーラさんの方の話は終わったらしい。通信の神具の持ち出しは、問題無いとの事だ。

 それにしても俺達の使っていた神具と比べてかなり大きいな。

 形状も含めると銀行のキャッシュディスペンサーが一番近いだろうか。

 違いは複数の相手と通信できるだけのはずだが、ここまでサイズが変わるのか。リウムちゃんがこれを持ったら飛ぶ事もできないだろう。

 確かにこれは持ち運ぶには不便だな。『無限バスルーム』が無ければ、馬車が必要になるだろう。これまで誰も戦争に使おうと考えなかったというのも理解できる。

 というか、すまない。俺達が使っている神具のサイズをイメージして提案していた。

 最終的には「便利そうだが、想像がつかない。とりあえずやってみよう」という事になり、ヘパイストス側も、通信の神具を持って行く事に了承してくれたので良しとしよう。

 実は出陣間近で、タイミングとしてはギリギリだったらしい。


 ちなみに使用に関してはセーラさん達がいるので問題無い……が、神殿側から神殿騎士六人、神官二人が派遣される事になった。

「これから遠征軍の中枢に殴り込みに行くって分かってますよね?」

「私もそう言ったのですが、それなら尚更勇者様を守らねばならないと……」

 セーラさんも反対したが、押し切られてしまったらしい。多いと目立ち、かえって危険だと、ここまで減らすのが精一杯だったそうだ。

 なお当初の予定では神殿長さんが自ら同行すると言っていたとか。これには隣で聞いていた春乃さんも苦笑いである。

 そうか、危険だからこそ派遣してくるのか。俺達が神殿側の『女神の勇者』だから。

「その、実はですね、その八人の方は、ハデスに六女神の神殿を集めた際に、光の神殿に赴任する候補となる方達でして……」

「ああ、そういう……」

 そちらに向けての顔合わせという意味もあるのか。そういう事ならば、こちらも受け入れるしかあるまい。

 ならば今晩バーベキューでもして、ルリトラ達も一緒に顔合わせしておこうか。ハデスに行けば、トラノオ族もいるからな。

「亜人と一緒は無理というのであれば、無理しないでいいと伝えておいてください」

「……分かりました、伝えておきます」

 実際、そこで無理をされても不幸だからな、お互いに。

 結論から言ってしまうと、この件についてトラノオ族はまったく問題にならなかった。

 というのも今回来た八人は、皆ユピテルにいた頃のルリトラを知っていたのだ。神殿側も、そこはしっかりした人を選んでくれたようだ。

 ただ、魔族の雪菜と、インプのデイジィ、そして闇エルフのブラムスとメム、そして何より『不死鳥』の存在が少々問題だったようだ。

 ルリトラは平気になったのだから慣れれば大丈夫だとは思うのだが、それこそ俺自身が言った通り、無理をする必要は無い。時間を掛けて慣れてもらう訳にもいかないしな。

 結局、八人中三人が同行を拒んだそうだ。トラノオ族に関しては覚悟していたが、それ以外は考えていなかったといったところか。

 なお、減る分には構わないだろうと思っていたら、翌日には神殿長さんの詫びと共に三人増えて八人に戻っていた。

 最終的に神殿騎士は男四人、女二人の六人。神官は男女一人ずつの二人。合わせて八人が同行する事となった。

「その、大丈夫なんですか? 無理しなくてもいいんですよ?」

「問題無いのです、教義的には……」

「教義?」

 詳しく聞いてみると、光の女神信仰の教義には『邪悪なるもの』という言葉があり、これをどう解釈するかについてはいまだに統一見解が出てないらしい。

「かつての戦いで魔王側についた種族を『邪悪なるもの』だとする見解が根強く……」

「ああ……」

 なるほど、それでロニとプラエちゃんは問題にならなかったのか。

 おそらく、その頃に出た見解のひとつがそのまま一定の支持を得ながらずっと残っているのだろうな。当の魔王は商売の方に軸足を移す気満々みたいだけど。

 もし魔族は邪悪なるものとか言って攻撃してきたら、全力で雪菜を守るぞ、俺は。

 今回神殿長さんも、ルリトラへの反応を見て亜人でも問題は無いという者を揃えてくれていた。そこにまさかの魔族、インプ、闇エルフが来てしまったという事か。

 特にブラムス、メムは、城での戦いでは水路側に行っていて目立たず、神殿に来るとすぐに『無限バスルーム』に引っ込んでしまったため、知らなかった人も多かったようだ。

 そのため神殿長さんは改めて確認を取って追加の三人を揃えたそうだ。

「他の五人も無理してません?」

「それは大丈夫です」

 まぁ、その件については信仰に関わっている事だし、信者でもない俺から口出しする事ではないか。

 ちなみにこの件について夢の中で光の女神に尋ねたところ、「種族単位で善悪を決めるな」という極めて常識的な返答をいただいてしまった。そりゃそうだ。

 翌日、それを神殿長さんにも伝えたところ、ものすごく複雑そうな顔をしていたのはいうまでもない。


 ちなみにこの『邪悪なるもの』の見解について、セーラさん達にも尋ねてみた。

「やはり犯罪者、悪人の事ではないでしょうか?」

「人に危害を加えるモンスターですね」

 前者がセーラさんとリン、後者がサンドラとルミスだ。

 それを聞いてなんとなくだが、初代聖王と魔王の戦いの真相を知ったセーラさんが、大きなショックを受けていた理由が分かったような気がした。

 ハデス側の商売に対抗できなかったユピテルを始めとする周辺国が、武力でハデスを打倒しようとしたところから始まっていたというのが真相だったあの戦い。

 彼女の見解だとユピテル、ひいては光の神殿側が『邪悪なるもの』になってしまったのではないだろうか。

「いや、私とは関係無いし?」

 リンの方はこんな感じに割り切っていたので、性格の問題もあるとは思うが。

 それにしても、六女神の神殿を集めたら、この手の問題が起きる可能性があるという事か。色々と考えさせられる話である。



 少し時間は前後し、六回目の通信を終えて返事を待っている頃。具体的には通信した時にはもう夜で、翌朝まだ返事が来てないと確認した頃。城の方から呼び出しがあった。

 あちらも『無限バスルーム』の事は分かっているため春乃さんだけで良いとの事だったので、俺は留守番で春乃さんを送り出す。

 サポートとしてクレナとセーラさん、護衛としてルリトラも一緒に行ってもらった。

 当然城での話は王女率いるユピテル軍を出陣させる件、そして王子の処分についてだ。

 といっても既に決まった事の発表だけで大して時間は掛からなかったようで、春乃さん達は昼前には帰ってきた。

 こちらも七回目の通信は最終確認だけで話し合いは終わっていたので、昼食がてら話を聞くとしよう。

「まず、王子についてなのですが……」

「どうなった?」

「王位継承権の凍結と、無期限の謹慎処分だそうです」

「剥奪ではなく凍結か」

「王女が出陣する件もありますし、無暗に剥奪はできないのでしょう」

「戦場では何があるか分からないという事か。王子派が戦場で王女の命狙ったりとか?」

「残ってるんですかね? 今の状況で、洗脳されてなくてもそこまでする人」

「……いなさそうだな」

 むしろ洗脳されたままの人の方が危なそうかもしれないが、そういう人達も今は遠征軍の方にいるだろう。

「あと、王女から聞いた話によると、王子の方もそれどころじゃないみたいですよ」

「何かあったのか?」

「なまじ記憶が残っているものだから、ショックを受けて寝込んでいるそうです」

 王女によると、昨日の話し合いの場に出てきた時の王子は、青白い顔をして生きているのか死んでいるのかも分からないような有様だったらしい。

 聖王に向かって伏して謝罪した時は、本当に倒れてしまったのではないかと聖王が腰を浮かし、王女と周りの者達も思わず駆け寄ったとか。

「謹慎というより入院っぽいですよ。あ、自宅療養かしら?」

 病院が無いからな。他に候補があるとすれば神殿だが、今は俺達がいるし。

 そういう事ならば、おとなしく謹慎というか療養していてもらおう。

「その王女の出陣については、前もって聞いていた通りでしたね」

「通信の神具は?」

「その場では発表されませんでしたが、後で確認したところ持っていくそうです」

 使用のために宮廷司祭を連れて行くらしい。そういえばコスモスパーティにも神南さんパーティにも神官はいなかったな。

「既にアキレスさんが準備を進めていて、あちらは三日程で出陣できるそうです。私達はどうしますか?」

「そうだな、明日で食料の補給も済みそうだし、明後日の朝に出発しようか」

 連携のための情報を得るためにも、俺達は先に行かねばならない。トラノオ族の力を借りれば、進軍速度の差もあって一日でもかなり先行できるだろう。

「よし、これ食べたら出発の準備を始めようか」

「そうですね。王女の方にも連絡を入れます」

「私も、同行する皆さんに伝えてきます」

「連絡は二人に任せた」

 各所への連絡は、春乃さんとセーラさんに任せておけば大丈夫だろう。

 他にも色々とやる事はあるが、時間の余裕が無いという程ではない。ひとつずつ済ませていく事にしよう。

 今回のタイトルの元ネタは、ドラマ『ハケンの品格』です。

 4月から続編の放送が始まるそうです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 光の女神的には、邪悪なるものをそれぞれが見定めることができるようになるのを信者たちに期待して、そういう教義を残したってところでしょうか。どんな種族にも、人間にさえも、善なるものと邪悪な…
[一言] 種族間の根強い偏見とか誤解とかは そう簡単に解けるもんでもないんだから 迂闊にほいほい外側の人材を入れるもんじゃ 無いと思うのだが……大丈夫か?
2020/03/30 08:46 退会済み
管理
[一言] 王子は不憫だが、有力な王位継承者が精神干渉能力者に迂闊に接触してしまったのが大きな間違いだからなぁ。運がないとはいえ、ミスにはなるわな。 あ、主人公が油断と慢心をしとる。 今までの思想と歴…
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