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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
神泉七女神の湯
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第165話 ノッキン・オン・キャッスル・ゲート

 愚痴って気が晴れたのか、王女はスッキリした顔で復活。

 聖王がお風呂から上がってきたようなので、俺は王女と一緒に事情を説明しに行く。

 といっても主に話すのは王女だ。聖王にとっては、同じ内容でも彼女が話した方が信じられるだろうからな。

 向かう先は二の丸大浴場のロビー。

「あ゛~~~~~……」

「あ゛~~~~~……」

 ロビーに入ってみると、並んだマッサージチェアに身を沈めて野太い声を上げる聖王とコスモスの姿があった。それを見た王女がピシっと固まった、ような気がした。

「すー……はー……お父様、よろしいでしょうか?」

 王女が大きく深呼吸をしてから、聖王に声を掛けた。心無しか強い口調だ。

「む、なんだ……?」

 マッサージされながらだったので、その声は振動で震えていた。王女から感じる圧が、少し増したような気がする。

 それでも王女は、聖王の前に立って現在の状況を説明。俺はその斜め後ろに控える。

 説明が始まると、聖王もマッサージチェアを止めて真剣な表情になった。

 王子に毒をもられていたと聞いた時は、聖王も流石にショックを受けたようだ。

 力無く顔を伏せる聖王を、元気付けるのはコスモス。本当に仲良くなったな。

 それはともかく、聖王は状況を理解してくれたようだ。

 だがここで、彼は怪訝そうな顔をしてこちらを見てくる。

「事情は分かったが、どうして『女神の勇者』と一緒に……?」

「ハッキリ答えますが、その分類はあくまでそちらの都合ですからね。正直我々には競い合う理由も、争い合う理由もありませんから」

「リツとは敵対しているようだが?」

「向こうが理由を作ってきた場合は別です」

「なるほど」

「ここには春乃さんもいますし、神南さんはアキレス将軍と町の方に行っていますから、五人中四人がこちらに揃っていますよ」

「……これは、フランチェリスを褒めるべきかな」

「お父様、その話は後程……」

 流石に恥ずかしかったのか、真っ赤な顔をした王女が止めに入ってきた。

 確かに、まだ神託の件や魔王については話していない。その辺りは城に入ってからだ。

「この服は、このまま人前に出ても良い物なのかな?」

 マッサージチェアから立ち上がった聖王が、浴衣を指差してそう尋ねてきた。

「故郷では、縁日等にそれを着て出歩いたりしますが、公的な場で使える訳では……」

「異界の服ならば、公的な場でも着ても良いという事にもできるぞ?」

 そんな簡単な話なのか。いや、葉っぱ一枚がフォーマルウェア扱いになっているのだ。それと比べれば大した事ないのかもしれないが。

「もしかして、気に入ったんですか? 俺としては、そんな堅苦しい服にはなってほしくないのですが……」

「ム、それもそうか。確かにそうだな」

「それはそのまま……。それと後程何着か献上させていただきます」

「これと同じ柄で頼む」

 かくいう聖王は、しっかり光の女神のシンボル柄の浴衣を選んでいた。せっかくなので十着ぐらい送っておこう。六女神の神殿の件では味方になってもらいたいからな。

 結局、聖王の服については王女が既に手配していたようだ。親衛隊にフィークス・ブランドまで買いに行かせていたらしい。

 普段のものと比べると何段か落ちるが、それでも最低限恥ずかしくないレベルだという装束一式が届けられたので、俺達は一旦退室する。

 食事に入浴と、聖王も十分かは分からないが休めたようだ。彼の準備が整えば、こちらも動く事になる。春乃さん達にも知らせ、準備を整えて待つとしよう。



 王子側の抵抗も予想されるため、こちらは当然完全武装である。

 魔法の鎧『魔力喰い』に身を包んでいると……王女の親衛隊員達から遠巻きにされてしまっている気がする。見た目が怖いから仕方がない。

 春乃さんとクレナは、ぴったり両隣に寄り添ってくれているからいいのだ。

 武器は魔法の斧『三日月』といきたいところだったが、流石に人間相手には強過ぎるという事で『星切』である。魔王の後継者の証みたいな刀である事は秘密だ。

 無駄な犠牲者を出さないよう、いざという時は峰打ちで攻撃しよう。

 一方聖王の方も正装に着替え、威厳のある姿となっていた。

 聖王、王女、コスモスの三人を先頭に、門の前に整列する王女親衛隊。神南さん達が兵を連れて戻ってきたので、俺達と彼等がその左右に並ぶ形だ。

 更にその周りには町の人達。遠巻きに見ている分には構わないから、それ以上は近付かないでくれよ。向こうの動き次第で危なくなるから。

 そして門の方では、守備兵達が何やらひそひそと囁き合っている。おそらく聖王の姿がこちらにある事に気付いたのだろう。

「そういえば守備兵、増やすかと思ったが……変わってない、よな?」

「はい、ずっと見ておりましたが、兵の数に変化はありません」

 ルリトラがハッキリと断言した。こちらが聖王を休ませている間、あちらは何も手を打たなかったというのか。

 いや、単に外に見える形で迎撃態勢を取るのを避けているかもしれない。町の人から見れば、王女に剣を向けようとしているようにしか見えないからな。

 となると、外から見えないだけで、門の向こうで待ち構えている可能性も考えられる。油断は禁物だ。皆にもそう伝えておこう。

 そんな中、リコットが一人門に近付き、手にした槍を高々と掲げた。

「聖王陛下の帰還である! 開門!」

 その言葉に騒めきだす守備兵達。彼等は王子の命令で門を閉じているのだろうが、王子と聖王の命令では、明らかに後者の方が重いのだ。

 だが、今玉座に座っているのは王子。そして彼等は、聖王が病床に臥せていると聞かされているのだろう。

 それにしても動きが無いな。開門するにしても、何かしらの反撃に出るにしても、そろそろ動いても良さそうなものだが。責任者が門にいなかったのだろうか。

「今ここにいる聖王陛下が、本物だと確信が持てないのかもしれませんね」

「それについては……トウヤのせいね」

 春乃さんとクレナが、そう言ってきた。

 ああ、そうか。騒ぎを起こさないどころか、全く見つからずに聖王を連れ出したから、まだ向こうが気付いていなかった可能性があるのか。

 もしかしたら、今城内では慌てて聖王の所在を確認しているのかもしれない。

 それは確かに俺のせいだ。すまない。心の中で謝っておく。

「まぁ、降伏する気が無ければ門は開かないわよ」

 そう言ってクレナは城を見上げていた。

 彼女の言う通りだろう。聖王がこちらについた以上、彼にはもう後が無い。

 そう、これは門を開けさせるためにやっているのではない。それを断らせて、王子を明確に、聖王に反逆させるためのものなのだ。


 それから待たされる事しばし、こちらで動いたのは隣のクレナだった。

「風よッ!!」

 『吉光』を抜き放ち放った精霊魔法が、リコットを狙っていた矢を弾き飛ばした。

 撃ったのは門の上の櫓にいた兵だ。クレナは門を見上げていたので、真っ先にその動きに気付いたのだろう。

 いきなり矢で攻撃してくるのも、想定されていた内のひとつ。抜かりは無い。

 決まりだ。王子は明確に聖王に敵対した。俺は走り出し、リコットの前に出て盾を構えた。その直後、櫓の兵達が次々に矢を放ってくる。

「大丈夫か!?」

「あ……はい!」

 リコットは槍を構えたまま呆気に取られていた。初撃への対処は、魔法で防ぐか彼女が槍で払うかの二つ。彼女自身、自力で切り抜けるつもりだったのだろう。

 そして追撃から守るのは、『魔力喰い』を装備した俺だ。無数の矢が降り注いでくるがダメージは一切無い。

「『無限弾丸』ォッ!!」

 その間にコスモスが、二丁拳銃を生み出して櫓の射手を倒していく。

 だが、向こうもやられっぱなしではない。櫓の兵は胸壁の向こう側に身を隠し、同時に音を立てて門が開いていく。

 門の向こうは大勢の兵。やはり兵を用意していたか。

 コスモスは櫓に向かって『無限弾丸』を乱射。リコットは王女と合流し、その場で聖王を守っている。

 代わりに前に立つのは、トラノオ族の戦士達と、神南さんが連れてきた兵達だ。

「うおりゃあぁぁぁッ!!」

 トラノオ族の方が先に来ると思っていたが、それよりも先に「紅い」砲弾が轟音と共に門に突っ込んだ。神南さんのショルダータックルだ。

 それだけで数人を軽く吹き飛ばした彼は、両肩から紅い光を陽炎のように立ち昇らせ、ドドドドと重低音を響かせている。

 怯む守備兵。だが、その隙を見逃してくれるほど甘い人じゃないぞ、神南さんは。

「せいやァッ!!」

 紅い弧を描く回し蹴りが、更に数人を弾き飛ばす。

 弾かれるように周りの兵が一斉に襲い掛かるが、神南さんはその全てを腕で、脚で、次々に打ち倒していった。

「あれが、神南さんのギフトか……!」

 訓練でも使用していなかったから初めて見た。話には聞いていたが、凄まじい。

 あれが魔将『百獣将軍』も倒した神南さんのギフト。己の力を『無限』に増幅する、ただそれだけのギフト。その名も『無限(アンリミテッド)エンジン』。

 それは紅い炎のようなオーラを身に纏わせ、本当にエンジンを動かしているような音と共に、神南さんに力を与えるのだ。

 ただし、その力によって受ける反動に対しては全くの無防備という、大きな欠陥も抱えているらしい。

 普通に激しい運動するだけでも筋肉痛になるというのに、ギフトによって『無限』に増幅された力を使えばどうなるのかは火を見るより明らかである。

 だから神南さんは、これまでの旅で鍛え続けてきたそうだ。ギフトの反動に耐えられる肉体を得るために。

 その結果魔将に勝利するまでに鍛え上げたのだから、凄まじいとしか言いようが無い。

 神南さんはそのまま城内に突入。中で待ち構えていた兵達を次々に薙ぎ倒している。

 そこにルリトラ達が突っ込み、門は完全にこちらの制圧下となった。

 そこに神南さんの兵が来て、町に被害が広がらないよう門の守りに就く。

「ハハハ! 負けないよ!!」

 そこに負けじと飛び込んでいくコスモス。味方は巻き込むなよ。

「冬夜君、私達は櫓を占拠します!」

 春乃さんも、セーラさん、サンドラ、リン、ルミスを連れて城内に入って行った。

「トウヤ、私は水路の方に回るわ。誰かが脱出しようとするかもしれない」

 そう言ってクレナは、ロニ、ブラムス、メムを連れて行った。

 確かにこの状況では、王子が脱出しようとするかもしれない。そちらも対処しておかなければならないだろう。そちらは彼女に任せておく。

「よし、俺達も行くぞ!」

 俺もプラエちゃん、リウムちゃん、雪菜、ラクティ、デイジィを連れて城に入る。

 俺達のやるべき事は一つ。聖王と王女を、無事に王子の下までたどり着かせるのだ。

 城内は既に乱戦になっていた。神南さんとコスモスが大暴れしているが、トラノオ族も負けていない。

「ドクトラはそのまま兵を制圧していってくれ! ルリトラは俺と一緒に!」

 大声を張り上げて、彼等に指示を出す。

「おう、任せておけぃ!!」

「一部隊、連れて行きます」

 ドクトラは大声で笑いながら返事と共に槍を振るい、ルリトラは四人の戦士を連れてこちらに駆け寄ってきた。

「俺達は謁見の間までのルートを確保する。行くぞ!」

「ハッ!」

「は~い!」

 後に続く聖王達の安全が確保できなければ意味が無いので、一気に突撃はしない。

 俺、ルリトラ、プラエちゃんが前に立って進んで行き、リウムちゃんと雪菜が魔法で援護。四人の戦士達で後衛のラクティ達を守りつつ周囲を制圧していく。

 後方は親衛隊に守られた聖王が付いて来ているので心配は無い。俺達は着実に、謁見の間へと近付いていった。

 今回のタイトルの元ネタは、1997年公開のドイツ映画『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』です。

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