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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
神泉七女神の湯
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第163話 番兵君、不幸!

 城を出た俺達は、フード付きマントのおかげか聖王について誰にも見咎められる事もなく町を進んで行く。

 しかし魔法で眠らせていた番兵が、すぐに目を覚ました。

 騒がれると面倒な事になるのでもう一度眠らせようとしたが、彼もこのまま王女のところに付いて行くと言い出した。

「王子殿下が支配する城から、王女殿下の密使が、聖王陛下を拉致……厄介事に巻き込まれた……よりによって俺が当番の日にやらなくても……」

 何やらぶつぶつ言っているが、納得したというか諦めたようなので、このままおとなしく付いて来てもらおう。


 その後は何事も無く、王女の待つテントまでたどり着く事ができた。

 テントの周りには町の人達が集まっているが、こちらがぐったりした男を背負っているのを見て、更に番兵も一緒である事に気付き、慌てた様子で道を開けてくれる。

 そのままテントに入ると、王女は俺が人を背負っているのを見て駆け寄ってきた。この状況で連れてくるのは聖王しかいないと判断したのだろう。

「城を出る際に聖王陛下に気付いたので、そのまま連れてきました」

「ああ、なるほど」

「あの、この人は番兵としては持ち場を離れてしまった事になりますが、聖王を守ろうとした結果なので、この件で罰するとかは勘弁してあげてくださいね」

「…………今、水路は?」

「大地の『精霊召喚』で塞いでいます」

「……そういう魔法は効かないはずなんですけどね」

 そう言われても、実際できてしまったのだから仕方がない。

 王女はしばし考え込んでいたが、顔を上げ、番兵に向かって口を開く。

「まぁ、いいでしょう。この件であなたが処罰される事はありません」

 そう言われて番兵は露骨にホッとした様子だった。

「ですが、このまま帰す訳にはいきません。最後まで付き合ってもらいますよ」

 しかし、直後にガックリと肩を落とした。

「では、下がりなさい」

「は、はい! …………貧乏くじだ」

 後半は小声でぼそっとつぶやいていたが、近くにいたからか聞こえていた。でも、聞かなかった事にしておこう。

 番兵はそのままテントから出て行ったので、改めて王女に聖王の顔を見せる。

 すると王女は声を上げそうになったが、慌てて口を押える。テントの周りの人達に聞かれてはまずいと思ったのだろう。

 改めて近付いてきた王女は小さく声を掛けるが、当然聖王の反応は無い。

 薬に関してはブラムスに説明してもらおう。といっても、アレスでも基本的に王家が管理しているものらしいので、そこまで詳しくは無いそうだが。

 コスモスがテーブルに毛布を被せて簡易ベッドを作ってくれたので、聖王をその上に寝かせておく。

「……その薬は確かに、聖王家が管理しているものです。まさかお父様に使うとは……」

 基本的に犯罪者の中でも特に手が付けられない者限定で使うものであるためか、その国の治安を担う者が管理するのが通例らしい。

 ユピテルの場合は、それが聖王家という事なのだろう。そのため薬に関しては、王女の方が詳しい事を知っているようだ。

 王女曰くヘパイストスでは、王家ではなく炎の神殿が管理しているとの事。そういうのはあまり表沙汰にされる情報ではないのだろうが、国内の力関係が見えてくる。

 あの国はケトルトの鍛冶師達が一番強いが、鍛冶に打ち込めなくなるからという理由で人間に王家を任せている国らしいからな。

 もしかしたら薬の管理も押し付けたが、ものがものだけに王家の方が遠慮をして神殿に任せたのかもしれない。


 それはさておき、こうなってくると聖王を起こしたい。

 王女も俺達が城に行っている間交渉を続けていたらしいが、返事は無し。あちら側にまともに交渉する気が無いようだ。

 しかし、ここで聖王が出るとなると、向こうは無視する訳にはいかなくなる。形勢は一気にこちら側に傾くだろう。

 問題は、起こす事ができるかどうかだが……。

「この薬、どうにかできるんですか?」

「解毒剤も王家が管理していますが、流石に手元には……」

 やっぱりあるのか、解毒剤。ん、解毒……?

「やっぱり毒なんですか、これ。睡眠薬ではなく」

「冬夜君、冬夜君、薬も毒も表裏一体ですよ」

 春乃さんにツッコまれた。言われてみれば確かに、麻酔薬とか麻痺毒みたいなものか。

 いや、この場合は睡眠薬と昏睡毒とでも言うべきかもしれない。そんな毒があるとは聞いた事がないが、呪いに近いそうなので魔法等も絡んでいるのかもしれない。

「それなら『解毒』の魔法で治せます?」

「治せません」

 もしやと思って尋ねてみたが、あっさり否定されてしまった。

 使用目的が目的だけに、簡単に治せるようでは話にならないそうだ。

「『解毒』できない毒って、どういうものなんです?」

「薬の方にも強力な魔法が使われているため、単純に力が足りないのです」

 詳しくは教えてくれなかったが、使用直前に儀式を行い、数人掛かりで薬にMPを注ぎ込むらしい。その大量のMPが『解毒』も防いでしまうそうだ。

 つまりは一種の魔法薬という事か。それが解ける解毒剤の方も同様なのだろう。

「大量のMP……」

 クレナが、そう呟きながらこちらを見てきた。うん、俺も同じ事を考えた。

 ここに大量のMPを持った人が一人います。

「そのMPに勝てるなら『解毒』できます?」

「理論上は……どれ程なのです?」

 王女も察してくれたのか、確認してきた。魔法が効かないはずの水路を魔法で変形させてきた話をしたばかりなので、もしやと考えたのだろう。

「知識や技術はともかく、魔法の力ではサンピラカを超えているかも」

 聖ピラカは、初代聖王と共に戦ったという大神官である。

「……冗談にしては笑えませんよ?」

「冗談ではありませんよ。あくまで魔法の力だけですが」

 何柱の女神の祝福を授かれるかは当人の力量による。ほとんどの人は一柱、聖ピラカも五柱が限界だったそうだ。

 対する俺は女神姉妹と母である混沌の女神も合わせた七柱。単純な魔法の力では俺が上なのは間違いない。

 もっとも使える魔法の数や技術では勝てる気もしないが。

「失敗すると悪化するとかなら止めておきますが……」

「……いえ、失敗しても解毒できないだけですし、試してみましょう」

 そういう王女も半信半疑の様子だったが、試しても損は無いと判断したようだ。

 ならばと、俺も気合を入れて聖王の傍らに立つ。

「では、早速……『解毒』!」

 聖王の額に手を置き魔法を唱えると、強い光が放たれた。

 ドラゴンに掛けた時とは違う手応え。何やら抵抗感を覚える。なるほど、これが薬に込められたMP。これが『解毒』の魔法を防いでしまうのか。

 だが、この程度ならば大したものではない。これならば行ける。

 更にMPを込めていくと、フッと抵抗感が消えた。薬のMPを相殺できたようだ。

 後は聖王を昏睡させている薬を浄化するのみだ。ここでしくじる訳にはいかない。俺は込めるMPを加減しつつ、慎重に浄化を進めていった。



「む、ここは……」

「お父様!」

 そして聖王が目を覚ましたのは、魔法を掛け終えてから間もなくの事だった。

 そうすると、本当に薬だけで昏睡していたのか。恐ろしい効果である。

 抱き着く王女に戸惑いながらも、聖王は周りを見回す。俺達は少し離れて控え、視線が合った時には会釈しておく。

「ここはどこだ? 私は自室にいたはずだが」

 真っ直ぐにコスモスを見据えて尋ねる。やつれているが、その視線には力がある。

「えっ? あ~、お城の前に張られたテントです」

 コスモスはキョロキョロしていたが、やがて自分に向けられた問い掛けだと気付くと、しどろもどろになりつつも答えた。

 神南さんがいないと『聖王の勇者』はコスモスだけなのだ。ここは頑張ってくれ。

「城の前にテント? どうしてそんな所に……」

「それは入れてもらえないから?」

「フランチェリスをか? 誰だその不敬者は」

「フケイ!? え、え~っと……」

「王子ですよ。おそらく、陛下を薬で眠らせたのも」

 コスモスがそろそろ限界そうだったのでフォローしておく。

 すると聖王は黙り込んでしまった。「王子」と「薬」、どちらに反応したのかは分からないが、何か心当たりがあったのだろうか。

 ここは分かっている事を一通り説明しておこう。俺達が王女の密使として城に潜入して聖王を救出した事、昏睡は『解毒』の魔法で治した事。

「あの薬を魔法で解毒した? 信じられん!」

「お父様、それくらいで。本当の事ですから……」

 王女にたしなめられる聖王。聖王家が管理しているという解毒剤を密かに手に入れるよりは楽だと思う、多分。

 聖王はそのまま起き上がろうとしたが、足に力が入らなかったのか、そのまま倒れそうになってしまう。

 やつれていても大人の男性の身体、王女の小柄な身体では支えられない。慌てて助けようとしたが、その前にコスモスが助けに入った。

 聖王がいなくなった事がバレない内に行動したいが、休ませない事にはどうしようもなさそうだ。

「昏睡中は、何も食べていなかったという事ですよね? 王女様、まずは食事を……」

 その様子を見て、春乃さんが提案した。

「そうですね。お父様、ここで休んでいてください。テントの周りはリコット達が守っていますので」

「う、うむ、そうだな。ああ、酒も頼む。蒸留酒を」

「そんな体調で何を飲もうとしているのですか、お父様! ワインにしてください、すぐに用意させますから!」

 再び聖王をたしなめつつ、王女はすぐに親衛隊の隊員を使いに走らせた。

 そんな微笑ましい様子を見ながら、俺は王女にある提案をする。

「王女様、あの畳の部屋を使いましょう」

 畳の部屋とは、王女も使った闇の和室の事である。闇のギフトであり、疲労回復を促進する効果があるので、休むのならばあそこが一番良い。

「お願いできますか?」

「もちろんです。コスモス、一人で支えられるか?」

「ハッハッハッ、任せてくれたまえ!」

「待て、ここは城の前なのだろう? ここまで来て城に入らずに退く訳には……」

「お父様、大丈夫ですよ」

 王としての立場からか、ここから動く訳にはいかないと言う聖王。

 だが、安心してほしい。これから案内するのは『無限バスルーム』なのだから。

「では陛下、こちらへ……」

 そう言って俺は、テントの中で扉を開いた。

 今回のタイトルは、『RPGリプレイ ロードス島戦記III』の名ゼリフ「スパーク君、不幸!」です。

 でも、ある意味幸運のような気もします。

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